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 いちが鉈を手にしてから、直後に起きた出来事は一瞬だった。

 いちは振り向きざまに目前まで来ていた宮島部長を鉈で払った。

 人形とは思えぬ速さと腕力に部長は成す術もなく、脛から血を噴き出しながら、どてっ、と尻餅をついた。

 いちは倒れた部長の体を駆け上り、薙ぐように鉈を振るった。

 部長は悲鳴を上げる間もなく、倒れた。

 数秒、沈黙が流れる。

 それが破られたのは、いちがゆらりと歩を進め始めたとき。

「て、てめえぇぇっ!!」

 聞いたことないほどの怒気を孕んだ声で大地さんが叫んだ。

「宮さんを、宮さんを殺ったなあっ!?」

 ──上司を殺されたことに怒っているのだろうか。それとも、共犯者を殺されたことに?

 私は何故だか、とても冷めた心地でそう思った。

 けれど、いけない、と頭を振る。いくら大地さんが狂っていたとしても、いちにこれ以上罪を重ねさせてはいけない!

「いち! 大地さん! やめて!!」

 二人の間に割って入る。いちを抱き止めようと腕を開いてしゃがんだ瞬間──


「安塔さん!!」

「邪魔だああぁぁっ!!」


 二つの声が間近でし、ざしゅ、という、刃物が何かに刺さる音。

 とさり、と後ろで誰かが倒れた。

 私はばっと振り向く。 するとそこにはナイフを振り下ろした格好で荒い息をする大地さんと首元を抉られた詩織さんの姿が。

「詩織、さん?」

 返事はない。

 けれど、彼女の唇が微かに動き、こう言った。


「私の罪は断たれたわ。だからどうか」


 詩織さんの瞳から光が失われていく。私は絶望に身を浸しながらも、最期のその言葉を読み取り、再びいちに振り向こうとした。

 けれど。


「ごめんね。もう遅い」


 いちの声が横をすり抜けて。

 とん、と彼女は私の肩で踏み切り、大地さんへ飛びかかった。



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