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 大地さんは観念したようだった。しかし、態度から軽薄さが抜けることはない。ひらひらと手を振って降参降参、と言いつつ、目線はしっかりといちを捉えている。

「そうだよ。そこの女の子が言うとおり、俺はその人形を利用しようとしました。ところでそれのどこに問題があるのかな?」

「はい?」

 さらりと放たれた問いに私は目を丸くする。大地さんは言い募った。

「枝祈ちゃん、よく考えてもみてよ。その市松人形は人を殺す人形だ。人殺しはいけないことだ。でも、人形だよ? 人形を裁く法なんてない。その人形に罪なんてかからないんだよ。わかる?」

 首を横に振る。全く意味がわからない。

「わからない? そうかあ。七瀬ちゃんも同じ答えだったなぁ。なんで君らにはわからないかなぁ、この人形の素晴らしさが。君の言うツミタチノヒトカタってのが同じ意味かわからないけど、罪人を狩る人形だよ? 罪っていっても色々あるわけだけど、そう、例えば君の言った"嘘つき"。あれだって充分な罪だ。今は詐欺なんかは裁けるけどさ、処される刑はそんな重くもない」

「それは大地さんの価値観でしょう?」

「そうかな?」

 首を傾げてみせる大地さんの目に湛えられた光を見て、私は七瀬が「駄目だ」と言った意味を知った。

「今回の細川 伊織さんの件のように、いじめを苦にして自殺を謀る子は年々増えている。遺された親御さんたちは我が子の死を果たしてただの自殺として受け止められるかな? いや、無理だね。けれど、いじめをした子供や、それを放置した教師、気づけなかった学校、そういったものたちが裁かれることはない。警察にすがったところで、学校はある種、隔離された空間だから、簡単に立ち入ることもできない。本当、報われないよ。

 それが、だよ? たった一つの人形だけで全てが報われる。素晴らしいことだと思わないかい? いや、素晴らしい。素晴らしいんだよ! 枝祈ちゃん」

 その目に宿っていたのは狂喜。語られる言葉の一つ一つにもそれが滲んでいる。

「俺たちが犯人捕らえようと躍起にならなくても、その人形が始末してくれる。殺すのは人じゃないから、犯人探しをする必要もない。こいつを利用すれば、俺たちが動かなくても、犯人は罰され、被害者は報われる。俺たちが動かなくても、だ」

 そこを強調するのか。──菅野 大地という男が透けて見えた。

 私はもう充分だ、と思ったけれど、言い足りないのか、大地さんは更に続ける。

「今回の一連の不審死事件はいい例だ。伊織ちゃんの無念にいちが答えて復讐を果たした。惨たらしい方法で。その上いちは伊織ちゃんだけじゃなく、これから失われるかもしれなかった人の復讐まで果たした。立派なツミタチノヒトカタだよ。その力を俺たちも借りたっていいだろう? 世のため人のために、さ?」

「……あなたに」

 低く、大地さんに応じた声は私の後ろからだった。

「あなたに、何がわかるっていうの……!?」

 静かな、けれど激しい怒りを湛えた瞳が大地さんを射抜いていた。

「あなたたちに、伊織の、いちの、一体何がわかるっていうのよぉっ!!?」

「詩織さん、いけない!!」

 振り向いて、私は声を上げた。

 私の前をすり抜けて、どこかに隠していたらしい鉈を掲げ、詩織さんが大地さんに突進していった。



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