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 ぴくり。今度は大地さんの眉が跳ねる。

「おいおい、枝祈ちゃん。何、俺たちのこと警戒してんの? 別に重要証拠品になるから渡してほしいって言ってるんだよ?」

「そうですか?」

 大地さんに問いかけたのは私ではなかった。

 私の傍らに来ていたつぐみさんが真っ直ぐ大地さんを見据えていた。その瞳には私に伊織さんのノートを見せたときと同じ、剣呑とした光が宿っていた。

「本当にそうですか? あなたたちはそうやってこの場を切り抜けて、自分の手中に収めた人形を利用しようとしているんじゃありませんか?」

 ずい、と私の一歩前に出、問い質す。

 つぐみさんの凛とした眼差しと言葉に含まれた棘に気圧されたのか、部長が目に見えて狼狽する。対照的に大地さんは落ち着いていて、余裕があるのか、口元に微笑みを湛えてつぐみさんに答える。

「何の根拠があってそんなことを?」

 静かに紡がれた問いにつぐみさんは一つ息を吐いた後、こう返す。

「私、聞いたんです。あなたたちが臨時に設営された簡易交番で"この市松人形は使えるかもしれない"と言葉を交わしていたのを」

 ぱっとつぐみさんは私に振り向き、続ける。

「安塔さんはそんな私の言葉を信じて、行動してくれました」

 つぐみさんは私を見た後、目配せする。自分の手に握りしめた携帯電話、私のウエストポーチの順。最後にもう一度私の方を見たが、目を合わせたわけではなく、少しずれたところを見ている。

 最後の目線の意味だけわからなかったが、ウエストポーチの中に手を忍ばせ、まさぐる。七瀬との通話を終え、しまったばかりの携帯電話はすぐに見つかり、私はひとまずそれを握った。

 一方、つぐみさんは自分の携帯を操作し、大地さんたちに突き出した。

 決定ボタンが押されたことで流れ始めたのは、音声。

 私ははっとし、携帯を操作、手探りながらも準備を終え、さりげなくウエストポーチから手を抜く。携帯は握りしめたままだ。


「……って考えると、あの市松人形、使えるんじゃないですか? 宮さん」


 つぐみさんの携帯から流れてきたのはノイズまじりの大地さんの声だ。宮島部長を"宮さん"と呼ぶのは大地さんくらいだ。


「しかしねぇ、菅野クン。利用するって言ったって、世間じゃ殺人だって騒ぎになる。そりゃ、人形の仕業だとしてもさ。そうなったとき、一体どうするつもりなんだい?」


 この声は部長だ。発言の内容は責任問題を危ぶんだもの……少々呆れる心地がした。


「簡単じゃないですか」


 大地さんが普段どおりの軽い口調で答える。


「上に教えりゃいいんですよ。きっと飛びつきますよ。法じゃ裁ききれない罪人を裁く道具を手に入れられるんですから」

「上層部にかい? まあ、確かに、上ならマスコミへの規制もかけられるし……うん、名案じゃないか! さすがだね、菅野クン!」

「やだなぁ、宮さん。褒めても何も出ないですよ」


 会話の内容にぞっとする。頭が理解を拒否しているが、二人が何を話しているかは想像がついた。

 沸々と怒りが込み上げてくる。

 そんな私の心境を代弁するようにつぐみさんが言い放った。

「以上が、私が先日聞いた内容です。この二人はいちが起こした一連の事件から、いちを"法で裁ききれない罪人を裁く道具"として利用するため、いちの存在を放置し、犠牲者を増やそうとしていたんです!!」



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