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 ピルルルルル、ピルルルルル


 けたたましい電子音が急かすように鳴り響く。音の出所は、私のウエストポーチからだった。

 私は携帯電話を取り出しながら、詩織さんに視線で問う。どうぞ、と彼女は小さく頷いた。

 発信者は"公衆電話"だ。

 ボタンを押し、耳に当てる。

「はい、安塔です」

「枝祈!」

 聞き慣れた声。なんとなく発信者表示から相手は想像がついていたが、少し切羽詰まっているように聞こえる。

「七瀬? どうしたの?」

 私が答えると、七瀬は安堵のような溜め息を吐く。

「……何かあったの?」

 七瀬の反応に嫌な予感がする。七瀬は私の帰りを待つ間、大地さんと部長に連絡を取り、その思惑に近づこうとしていたはずだが。

「枝祈、あの二人は駄目かもしれない」

「駄目って、大地さんと部長が?」

 訊き返すと肯定が返ってくる。

 七瀬は補足した。

「あの二人はもう警官として狂ってる。だから枝祈は逃げて。つぐみちゃんと、あと多分もう一緒に詩織さんやいちもいるんだよね? 彼女たちも一緒に、逃げて」

「逃げる? どういうこと?」

 七瀬の言ったことがぐるぐると頭の中を巡り、混乱する。大地さんと部長が狂っているというのもかなり気になるが、七瀬の声の切迫感から逃げる方を優先すべきなのは伝わってきた。けれど、わけがわからない。

 ごめん、と七瀬は短く謝り、説明した。

「キミが出ていってからほどなくして、大地さんと部長がボクの見舞いにやってきたんだ。キミが病室にいないからボクに探りを入れてきた」

 七瀬の声から焦りが垣間見えるのだが、緊張しているのか所々で間を置く。息が荒い。私がそれについて問う前に七瀬は続けた。

「適当にごまかしたんだけど、何故か二人とも納得しなくて、ボクは嘘を吐き通したけど、二人は、キミを、探しに」

 言葉が途切れる。荒い呼吸音が続く。ただ事ではないという確信、焦りと不安が生まれる。

「七瀬? 七瀬! 大丈夫なの!?」

「だ、いじょ、ぶ」

 呼吸は荒いまま、七瀬がたどたどしく答える。全然大丈夫そうじゃない。けれど続いた七瀬の叫びに私は反論するのをやめた。

「枝祈と、いちは、見つかっちゃ、駄目!」

 その切実な叫びに肯定以外を返すことなどできなかった。私がわかったわ、と返すと、電話の向こうからがしゃん、と音がした。電話は繋がったままだ。ただ、七瀬の声が聞こえない。荒い息の音が少し遠くでする。

「七瀬、七瀬!?」

 名を呼んでも、答えがない。微かに聞こえた電話の向こうで、看護師らしき女性の声が大丈夫ですか? と言う声が聞こえた。その後に数人の駆け寄る足音。「申し訳ございませんが、お切りいたします」と声がして、有無を言わせず、切られてしまった。

 得られた情報があまりにも少なく、どうにも腑に落ちない部分があるが、逃げて、という七瀬の言葉をまずは信じよう。何があったかはわからないが、私たちが会ってはまずいような思惑が二人にはあるのかもしれない。

 物思いに耽りそうなのを頭を振って振り払い、詩織さんたちに説明する。

「病院にいる湊 七瀬からでした。ひとまず、場所を変えま」

「やあ、枝祈ちゃん、見つけたよ」

 私の言葉を遮って公園に入ってきた一人の青年。その後ろには小太りの中年男性もいた。

 大地さんと宮島部長だった。



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