25/47
ゐ
ひっ、とつぐみさんが声を上げる。彼女も気づいたのだろう。
市松人形が身の丈より大きな鉈を携えて現れたことに。
「風成先生、うし、ろ」
震える声でつぐみさんが指摘する。
「もう、遅い」
低い、地を這うような声が届く。
「う、うわああぁっ!?」
いちの姿に気づいた風成くんが悲鳴を上げ、
ばすんっ
それを断ち切るように、鉈が振り下ろされた。
聞きたくなかった。
「もう、遅い」
聞きたくなかった。その言葉だけは。
けれど、今、私は止めなかった。いちが彼を殺すのを、止めなかったのだ。
小さな女の子に、罪を重ねさせたくない。──なんて、偽善なんだろう。
私は、罪を着せてしまった。それどころか、自分の憎しみをあの子に託してしまった。
こんなだから、私はいつも間に合わない。
なんて、浅はかなんだろう。私の正義への意識は。
罪を断とうとする、意志は。
無力感に苛まれながら、私は七瀬を抱きしめたまま、倒れた風成くんの向こうでいちが血の涙を流すのを見、気を失った。




