た
「婦警さん!」
そんな叫びとともに、駆け込んできた誰かが、倒れかかった私の体を支えてくれた。
「ごめんなさい、ありがとう……」
私はベッドに手をついて起き上がり、恩人を見た。
「あら? あなたは確か……つぐみさん?」
目の前にいたのは、制服姿の少女。坂垣さんの事件の第一発見者、つぐみさんだった。
「あ、覚えていてくださったんですね。ええと」
「安塔 枝祈よ」
つぐみさんが胸ポケットからメモ帳を取り出すのを見、安いに土へんの塔よ、と説明しながらふと振り返り、ちゃんと名乗っていなかったことを思い出す。
安塔さんですね、とつぐみさんは胸ポケットに差していたシャープペンシルでメモを取る。真面目な子のようだ。
「しきって不思議な名前ですね。どう書くんですか?」
「枝に祈る、よ。変な名前よね」
「そんなことありません。素敵な名前です。お正月のおみくじみたいです」
それは誉めているのだろうか。
「ほら、おみくじって凶とか出たとき、その凶運が現実にならないようにって、枝に結ぶじゃないですか」
メモ帳をぴらぴらと捲って、あるページで止めて見せる。今彼女が言ったとおりのことが書いてあった。
ああ、なるほど。確かにそれはその年の幸運を枝に祈る行為と言える。
そういえば、私の名前の由来はそこからだったっけ。
頭の中で話が横道に逸れそうになったところで、ふと、メモに気になる文字の羅列を発見する。
「つぐみさん、これは?」
私が指したのはおみくじ云々の次の行。
「細川さん 大切なもの 人形のいち」
明朝体のような読みやすい文字で、そんなことが書かれていた。
「あ、私、人と話したり、調べたりしたことをメモするのが癖で。お正月におみくじ引きに行って、大凶引いちゃった私に、偶然来ていた細川さんがおみくじのことを教えてくれたんですよ。それをきっかけに意気投合して、色々話したんです。この辺はそのときのメモですよ」
「細川さんって、細川 伊織さん?」
「はい」
思いがけない情報だ。つぐみさんに断り、メモ帳を見せてもらう。
「細川さんの家 交番近く お向かいに交番のおじさんが住んでいる。
いち 細川さんのおじいさんが作った市松人形 細川さんの宝物
細川さんのおみくじ 凶 苦難の年 挫けること勿れ 暗い顔をしたような……気のせい? 夢、追わざれば叶わず
細川さんの夢」
当たりだ。
私は続く一ページを捲った。




