か
「枝祈ちゃん、今の声は一体、何だったんだ?」
大地さんの問いに振り向くと、彼は砂嵐の画面に釘付けになっていた。
どうやら、いちの声は大地さんにも聞こえていたらしい。
「今のがいちです。市松人形のいち。皆さんに探してもらっている人形です」
「動く上に喋るのか。七瀬ちゃんが泣いて喜びそうなオカルトぶりだな」
それは確かにそうなのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「大地さん、今日は来てくれてありがとうございました。でも、急いで戻ってください」
「んん?」
私の言葉に大地さんの眉がぴくりと跳ねる。
そういえば、まだいちからの電話──今回の場合は交信? ──の意味について説明していなかった。
「いちからこうして連絡があると、事件が起こっているんです。伊織さんのときも、新田さんのときも、箕舟高校のときも。偶然にしては、できすぎているんです。だから、行ってください」
「ん、わかった」
大地さんは立ち上がり、早足で扉の方へ歩いていく。出ていく寸前で一度立ち止まり、私に振り向く。
「枝祈ちゃん。何が起こっても、今は安静だからな?」
私はつきん、と胸が痛んだ。
「はい」
そう、今は動いても足手まとい。大地さんはそこまでは言っていないけれど、完治していない怪我をおしていちの捜索に参加しても、そう、足手まといなのだ。
昨日、七瀬に泣かれたばかりで、今も大地さんに釘を刺された。だから、無理に動くことなんてできない。
頭ではわかっている。でも、どうしようもなく、悔しい……
私は大地さんの背を見送ると、冷蔵庫からレジ袋ごとしまった紅茶プリンを取り出し、食べた。
テレビのノイズもそのままに、ほんのり渋くて甘いそれを、喉の奥に流し込んだ。




