わ
テレビの画面は相変わらず砂嵐のままだ。
ただ、ノイズに混じって確かに、いちの声が聞こえた。
「聞こえるんだね。よかった」
「いち、あなたはまだ何かしようっていうの?」
私はできる限り穏やかに訊ねた。大地さんが不思議そうに私を見つめているけれど、今はいちが優先だ。
「いち、伊織を傷つけたやつ、やっつけた。だから、今度は叶わなかった伊織の夢を、いちが代わりに叶えるの」
「夢?」
「うん」
ジシッ、ザザッ、とノイズが大きくなる。それに伴い、いちの声もだんだんと聞き取りにくくなっていく。
「い、のゆ、めは──なの。だから」
「いち、もう、やめて! どんな理由があっても、大切な人を奪われたとしても、人を殺してはいけないの! だから」
「もう、遅い」
説得を試みた私が更に言い募ろうとしたところで、最初電話を受けたときに聞いたような低く、底冷えする声が遮った。
「だっていちは"ツミタチノヒトカタ"だから」
「"ツミタチノヒトカタ"?」
いつかも聞いた、謎の言葉だ。
「"ツミタチノヒトカタ"は伊織がいちにつけてくれた、もう一つの、大事な名前。いち、さい、いお──れた、──だから」
次第にノイズに溶けていく声。しかし、最後の一言ははっきり聞こえた。
「いちは、守りたいだけ」
ザアァァッ
それを最後に、声は砂嵐に飲まれた。




