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 私は、しばらく休むことにした。

 いちの捜索は七瀬や部長など、箕舟駅前交番のメンバーでやってくれるそうだ。

 参加できないのは残念だけど、全身打撲の影響でまともに動けないのも事実。せっかく仲間が動いてくれるのだから、信じよう。

 交番メンバーだけで捜索するのにも理由がある。

 世間ではこの一連の事件は連続不審死として扱われているからだ。明らかに自殺の伊織さんの件は例外だが、殺人の線が濃いとして、本庁が発表した。

 普通に考えて、一体の人形の仕業だなんて、非現実的すぎる。そんなことを聞いたら、怪しげな宗教団体が騒ぎ出すに違いない。

 さすがに、箕舟高校で多くの生徒と教師に目撃された人形の情報をないがしろにはできないらしい。けれども、おおっぴらに動きたくもない。

 そんな本庁の思惑もあり、箕舟駅前交番にお鉢が回ったという背景がある。

 動けない私にとっては好都合だ。七瀬から状況を聞き出せるのだから。

 あとは新たな犠牲者が出ないことを祈るばかりだ。


 私が目を覚ました翌日。病室に客人があった。

「よっ、枝祈ちゃん!」

「大地さん」

 片手を上げて私の名をちゃん付けで呼んだのは菅野すがの 大地だいちさん。箕舟駅前交番勤務のもう一人の先輩だ。フランクな性格で箕舟交番のメンバーの中では一番街の人に慕われている。

「怪我はどうだい?」

「残念ながら、まだあまり動けません。すみません、人形捜索に参加できなくて」

「いいよ、いいよ。枝祈ちゃんはこの件の全ての現場を見たって聞いたよ。あの日、クーラーガンガンの和室で昼寝してたオレが今度は動く番さ」

 大地さんはベッド脇の丸椅子を引き出し、座りながら、空いた手で私の肩をぽんぽんと叩いた。

「あんま一人で背負い込むなよ。オレも七瀬ちゃんもいる。宮さんは……オカルトかってうんざりしてたがあれでも上司さ」

「部長の部分要ります?」

 部長の反応はある意味予想どおりではあったが。

 あはは! と大地さんは快活に笑うと、持っていたコンビニのレジ袋を私の前に出す。じゃん、という口での効果音付きだ。

「というわけで、ほい、お見舞い。紅茶プリンだ」

「なんて斜め上なものを……でも、ありがとうございます」

 受け取り、ベッドの反対脇にある小さい冷蔵庫にしまった。

「お、テレビあんじゃん」

 大地さんは冷蔵庫の上に置かれた十二インチほどの小型テレビに目をつけた。

「テレビあんのになんで点けないんだ? 退屈だろう」

「そうですか?」

 ずっと考え事をしていたから、無音状態でもあまり気にならなかった。

 それに、娯楽に触れる気にはなれなかった。休むことにはしたけれど、一連の事件やいちのことは簡単に頭から離れてくれない。

「そういうのがいけないんだよ。ほら、テレビは何も娯楽番組ばかりやってるわけじゃないんだ。今回の件はもうニュースになってる。そこから状況を把握することだってできるんだぜ?」

 はっとした。そうだ。ニュースなら、最新とまではいかなくとも、ある程度新しい情報が得られる。それに、他者の視点から見た事件を知ることもできるのだ。

 どうやらいちのことにとらわれすぎて、視野が狭くなっていたようだ。それではいけない、と頭を振る。

「ありがとうございます。早速かけてみましょうか」

 私はリモコンを手に取り、電源を入れた。

 ブン……と鈍い音を放ち、画面が仄かに明らむ。

「チャンネル、六な。そこなら今、地方ニュースのはずだ」

 私は頷きながらボタンを──間違えて下の九を押してしまった。

 画面はザアァァッ、と灰色の砂嵐に。

「おい、何やってんだ?」

「すみません、押し間違えました」

 すぐに正しいチャンネルに変えようとしたとき。

「……ね……」

「!!」

 ノイズに混じり、聞こえた女の子の微かな声に固まる。

「ね、え? 聞こえる?」

 はっきりと聞こえた声に私は彼女の名を呼んだ。

「いち……!」



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