る
まだ、いちが捕まっていない。
いや、人形を逮捕なんてできないけれど、あの子を捕まえておかないと、またあんな事件が起こってしまう。そんな思いが拭えないのだ。
「七瀬、私、行かなくちゃ」
「え? 枝祈? 行くって、どこに?」
「あの子を、見つけなくちゃ」
私はぎしぎしと軋む体を気に留めず、ベッド脇へと足を下ろす。
「駄目だよ、枝祈! 安静に」
「私が行かなきゃならないの!!」
「枝祈!」
だって、私しか知らない。
事件が起こってから、彼女はいつも私に電話を寄越した。犯行予告のように。
あるいは、救いを求めていたのだ。「わたしをとめて」と。
なら、その声を聞いた私が、私が行かなくちゃ。
院内用のスリッパを履き、立ち上がろうとした私を七瀬が肩を掴んで止める。
「枝祈」
「七瀬、離して」
「嫌だ」
手を振り払おうと振り向いて、止まった。
七瀬の目には涙が湛えられていた。
「嫌だよ。なんで行くんだよ? なんでそこまで人形に感情移入してるのさ? 枝祈までボクの前からいなくならないでよ」
紡ぎ出された言葉に一瞬引っ掛かりを感じたけれど、七瀬の嗚咽にそれは掻き消される。
「七瀬……」
「枝祈、枝祈ぃっ!!」
泣き濡れた顔を私の病衣を引き、そこに埋める。震える肩にそっと手を添えた。
先の言葉に引っ掛かりがあろうと、この涙に嘘はないと、感じられた。




