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レリエルの猛攻


「ぐっ・・・・・・」


 目を開けてみると、僕の体にキャノピーの破片がいくつも刺さっているのが見えた。額や両手にも破片が刺さっていて、目の前にあった筈のターレットを操作するためのレバーはへし折れている。墜落した時の衝撃で破壊されたターレットのモニターは真っ暗になっていた。


 割れたキャノピーの向こうに見えるのはレンガ造りの建物の壁だ。どうやらホワイト・クロックの壁面に激突しながら墜落したこのヘリは、そのまま建物の屋根の上に落下した後に大通りの方へと滑り落ち、目の前にあった建物の壁に激突したようだ。


 方に刺さっていた大きなガラスの破片を引き抜きながら、僕はゆっくりと後ろの座席を振り向く。僕の後ろには、一緒にこのスーパーハインドを操縦していたミラがいる筈だ。僕はガラスの破片が突き刺さるだけで済んでいるけど、彼女は墜落する前にレリエルの槍で胸を貫かれてしまっている。早くこの墜落したヘリから彼女を連れて脱出し、彼女にエリクサーを飲ませなければならない。フィオナちゃんが作ってくれたヒーリング・エリクサーならば、一口で胸の傷を塞ぐ事が出来る筈だ。


「み、ミラ・・・・・・大丈夫・・・・・・?」


(う・・・・・・・・・)


「ミラ・・・・・・!」


 後ろの席に座っていたミラの体にも、ガラスの破片がいくつも突き刺さっていた。しかも、刺さっている破片はロングソードのように大きい。僕よりも重傷じゃないか!


 僕は自分の座席から立ち上がると、コクピットで呻き声を上げているミラに向かって手を伸ばし、彼女を何とかコクピットから引っ張り出し始めた。


 体中から血を流している彼女を抱きかかえ、僕はそのまま大通りの隅まで彼女を連れて行くと、露店の影に彼女をそっと座らせる。


「ミラ・・・・・・」


(し、シン・・・・・・)


 でも、彼女にエリクサーを飲ませる前に、まずあの大きな破片を引き抜かなければならない。僕は亀裂の入った愛用のメガネを外すと、ミラの腹に突き刺さっている大きなガラスの破片を握る。


(お、お願い・・・・・・)


「う、うん・・・・・・。いくよ・・・・・・!」


 ポケットからヒーリング・エリクサーとブラッド・エリクサーの瓶を取り出し、その瓶をミラの傍らに置いた僕は、もう一度ガラスの破片を握り直してから少しずつその破片を引き抜き始める。


 ミラは呻き声を上げながら、右手で僕の制服を思い切り握りしめた。


 早くこの破片を引き抜いて、彼女にエリクサーを飲ませてあげなければならない。僕は両目を瞑りながら呻き声を上げるミラに「頑張れ・・・・・・!」と呟くと、冷や汗を流しながら破片を引き抜き続ける。


 破片が段々細くなってきている。もうゆっくり引き抜く必要はないだろう。僕は彼女の血で真っ赤になったガラスの破片を一気に引き抜くと、その破片を放り投げてから急いでエリクサーの瓶を拾い上げ、蓋を外してから彼女の口に近づけた。


「ミラ、もう大丈夫だよ」


(シン・・・・・・。あ、ありがと・・・・・・)


 ミラはゆっくりと僕からエリクサーの瓶を受け取ると、中に入っているピンク色の液体を口の中へと流し込む。今度は僕からブラッド・エリクサーの瓶も受け取り、同じように口へと流し込んだ。


 普通のエリクサーよりも強力なフィオナちゃんのエリクサーは、一口飲むだけで傷口を塞ぐ事が出来る。既にレリエルに槍で貫かれた胸の傷とガラスの破片が刺さっていた腹の傷は、ゆっくりと塞がり始めていた。


 傷と一緒に激痛も段々と消え始めているらしい。ミラの呻き声も聞こえなくなっていく。


 何とか彼女の傷を塞ぐ事が出来たようだ。僕は冷や汗を血まみれになってしまった制服の袖で拭い去ると、腕に刺さっていたガラスの小さな破片を引き抜く。


「あれが伝説の吸血鬼の力なのか・・・・・・・・・」


 露店の影に座らせているミラの頭を優しく撫でながら、僕は銃声が聞こえてくるホワイト・クロックを見上げた。巨大な白い時計塔の壁面には亀裂や穴がいくつも開いている。


 まだ兄さんたちはレリエルと戦っているんだろう。兄さんとエミリアさんはモリガンのメンバーの中でも一番強いんだけど、レリエルはあの2人よりも強いのかもしれない。


(シン)


「大丈夫?」


(うん。シンのおかげでもう大丈夫だよ)


 彼女の傷はもう完全に塞がっているようだった。ミラはゆっくり立ち上がると、僕と一緒にホワイト・クロックの方向を睨みつける。


「何とか援護できないかな・・・・・・」


 でも、相手はスーパーハインドを簡単に撃墜してしまうような怪物だ。また端末で戦闘ヘリを生産しても、間違いなくあの槍で撃墜されてしまう。


 兄さんたちを援護するには、あの槍で貫かれないような防御力か、レリエルの攻撃を回避できるような機動力を持った上で攻撃力の高い兵器を使わなければならない。戦闘機の機動力ならばレリエルの攻撃を回避できるけど、戦闘機を使うには滑走路が必要だ。帝都には大通りがいくつもあるけど、露店が邪魔になっている上に滑走路よりも狭いから、ここから戦闘機を飛ばそうとすれば離陸する前に左右の建物に翼をもぎ取られてしまうだろう。


「・・・・・・ミラ」


(どうしたの?)


「兄さんたちを援護しよう」


(どうやって?)


 僕の方を振り向いてから首を傾げるミラ。僕はニヤリと笑いながら、彼女の瞳を見つめていた。









 小太刀を壁面から引き抜いた俺は、背中にナパーム・モルフォたちを止まらせてから炎を噴射させると、さっき宮殿からホワイト・クロックの最上階へと戻ってきた時のように火の粉をまき散らしながら舞い上がり、塔の上の方から槍を持って襲いかかってきたレリエルを迎え撃つ。


 レリエルの背中から生えているのは巨大な漆黒の蝙蝠のような翼だった。アリアと同じ形状の翼を出現させたレリエルは、アンチマテリアルソードを構えながら上昇する俺に向かって、落下しながらブラック・ファングの先端部を突き出してくる。


「うぉぉぉぉぉッ!!」


 ブラック・ファングにアンチマテリアルソードの刀身を叩き付けて横に受け流し、左手に持っていた漆黒の水平二連ソードオフ・ショットガンの銃口をレリエルの下顎に向けた俺は、至近距離で銀の散弾をレリエルの頭に叩き込んだ。散弾の群れはレリエルの下顎と喉元を抉り取ったけど、人間にとっての致命傷ではこいつを倒すことは出来ない。吸血鬼にとっての致命傷を与えなければ、この伝説の吸血鬼を倒すことは出来ないんだ。


 でも、レリエルとアリアは心臓を銀の弾丸で撃ち抜いてもすぐに再生してしまう。紫外線を放つ特殊なライトで照らしながら銀で攻撃しても、身体能力と再生能力が少しだけ低下する程度だ。


 やはり、レリエルはすぐに散弾で抉られた傷を再生させると、弾き飛ばされた槍をすぐに引き戻し、再び槍の先端部を俺に向けてくる。俺は再びアンチマテリアルソードで槍を殴りつけ、今度はレリエルの胸に向かってショットガンの引き金を引く。


 銀の散弾がレリエルの心臓を食い破る。空中で8ゲージの銀の散弾を叩き込まれたレリエルはよろめき、そのままホワイト・クロックの壁面に近づいていく。


 俺はショットガンを素早く胸のホルスターに戻すと、アンチマテリアルソードのキャリングハンドルを左手で握り、トリガーを引く準備をしながらレリエルに向かって斬りかかる!


「む・・・・・・」


 レリエルへと一気に接近し、俺はトリガーを引きながら刀身を思い切り振り下ろした。薬室の中の12.7mm弾が爆発し、刀身の峰の部分に刻まれたスリットから爆風が噴射される。両腕が爆風を噴射した刀身に引っ張られ、レリエルへと向かっていく。


 でも――――なんと、レリエルはその一撃を右側に躱していた!


「!?」


「ふん」


 爆風の熱を剣戟の通り抜けた後に残しながら、レリエルを一刀両断するはずだった刀身の切っ先が少しだけホワイト・クロックの壁面を削る。目の前で舞い上がったのは彼の血飛沫ではなく、ホワイト・クロックの白いレンガの破片だった。


 アンチマテリアルライフル並みの運動エネルギーで敵を斬りつけることのできる刀の一撃を躱したということは、この吸血鬼は至近距離で放たれたアンチマテリアルライフルの弾丸を躱したということだ。


「いい腕だ。他の人間よりも手強い」


 左手の拳を俺に向けながら、攻撃を回避したレリエルが呟く。


「だが、まだ私には勝てん」


 今まで何人も挑んで来た人間を返り討ちにした伝説の吸血鬼はニヤリと笑うと、その左手の拳を突き出し、攻撃を空振りした直後の俺の脇腹に叩き込んだ。そのまま拳を引き戻さず、レリエルは更に拳を押し込むと、後方に吹き飛ばされそうになっていた俺を強引にホワイト・クロックの壁面に叩き付けた。


 真っ白なレンガで造られた壁に俺の背中が叩き付けられ、無数の白い破片が舞い上がる。口から血を吐き出しながら壁から離れようとした瞬間、目の前まで飛んできたレリエルが、もう一度左手の拳を俺の腹に向かって叩き込んできた!


「がぁッ・・・・・・!!」


「力也ッ! フィオナ、早くヒールを!!」


 片手で壁に突き刺したバスタードソードの柄を握り、もう片方の手でSaritch308ARの照準をレリエルに向けているエミリアが下で叫んだのが聞こえる。


 レリエルの拳が俺の腹にめり込んだ瞬間、俺は再び血を吐きながらホワイト・クロックの壁面を突き破り、塔の内部まで吹っ飛ばされていた。更にそのまま柱を粉砕して反対側の壁を突き破り、塔の外へと吹っ飛ばされていく。


 背中に背負っていたOSV-96の狙撃補助観測レーダーのモニターが、壁を突き破った瞬間にもぎ取られ、レンガの破片と共に真下に向かって落ちて行った。


 レリエルに吹っ飛ばされた俺がホワイト・クロックに開けた風穴は徐々に大きくなり、壁面にいくつも亀裂を生み出していく。やがてその亀裂のせいで壁のレンガが崩れ始め、真っ白な時計塔が揺れたのが見えた。


 俺が突き抜けてきた風穴から上の部分が、レリエルのいた方向に倒壊しようとしているようだ。レンガの砕け散る音を響かせながら、レリエルが帝都を壊滅させた頃から建っている巨大な時計塔が崩れ落ちていく。


 ナパーム・モルフォたちに炎を噴射させようとしたその時、レリエルのいた方向に倒壊しようとしていたホワイト・クロックが止まったかと思うと、まるで何かに押し返されたかのように元の位置に戻ってから、今度は俺のいる方向に向かって倒れてくるのが見えた。


 まるで巨大な大剣のように、ホワイト・クロックが俺に向かって振り下ろされて来る。おそらく、反対側からレリエルが押し返したんだろう。


「くそ・・・・・・!!」


 6匹のうち2匹を俺の目の前に呼び出すと、俺は左手を頭上から振り下ろされて来る時計塔に向かって突き出す。


 すると、その2匹のナパーム・モルフォは羽根を広げながら俺の手の平の前にやってきて、無数の火の粉を散らしながら巨大な炎で形成された砲身を形成した。


 俺も、端末で必殺技をいくつか生産していたんだ。今から繰り出すのは、ナパーム・モルフォを使用した俺の必殺技だった。


「―――88mm業火砲(アハト・アハト)!!」


 ナパーム・モルフォたちが撒き散らしていた火の粉が砲口に吸い込まれていき、砲身の中で炎の弾丸を形成する。そしてその形成された炎の弾丸に向かって、砲身の中で羽根を広げていた2匹の炎の蝶が突進していった。


 ナパーム・モルフォが砲弾に触れた瞬間、炎の砲身からマグマのような砲弾が放たれた。まるで戦車の主砲のような轟音を響かせ、炎の砲弾が倒壊して来るホワイト・クロックの壁面に突き刺さった。


 砲弾が命中した瞬間、白い時計塔の壁面が燃え上がった。壁面をそのまま融解させながら壁を突き破った砲弾は、塔の窓から無数の炎を吹き出させながら時計塔の部屋の中で大爆発を引き起こし、俺に向かって倒れてきたホワイト・クロックを粉々に粉砕した。


 エミリアがぶら下っていたのは倒壊した部分よりも下だったから、彼女は無事だろう。俺は炎の弾丸をぶっ放した直後のナパーム・モルフォを再び背中に呼び戻すと、燃え上がる時計塔の残骸の中を突き抜けていく。


 その時だった。燃え上がりながら落下して来る残骸の向こうに、ブラック・ファングよりも長い何かを持ったレリエルが見えたんだ。


 なんと、レリエルが持っていたのは巨大な時計の針だった。おそらく俺に破壊されたホワイト・クロックの時計の部分から持ってきたんだろう。レリエルはその巨大な時計の針の先端部を俺に向けると、燃え上がる残骸の中を上昇していく俺を見下ろしながらニヤリと笑った。


「貴様のような人間と戦えて楽しいぞ」


 左手で腰の鞘から小太刀を引き抜きながら、俺はレリエルに向かって上昇していく。


 あいつはあの針を俺に向かって投げてくるつもりだ。でも、ナパーム・モルフォをジェットエンジン代わりにした状態の機動力ならば、簡単に躱す事が出来るだろう。


 そう思ったその時、俺はさっきの一撃で時計塔を粉砕したせいで、レリエルが放り投げようとしている時計の針が回避できなくなってしまった事に気が付いた。


 帝都の市街地に向かって落下していく残骸たちが俺を囲んでいるせいで、攻撃を避けられなくなっているんだ。


 強引に躱そうとすれば落下していく巨大な残骸に叩き潰される羽目になる。つまり、レリエルの次の攻撃を回避することは出来ない。


 ナパーム・モルフォで迎撃するには、さっきみたいに炎で砲身を形成してから攻撃を放つ必要があるだろう。アンチマテリアルライフルやロケットランチャーならば迎撃できるかもしれないけど、アンチマテリアルライフルは背中に折り畳まれているから発射するには銃身を展開しないといけないし、さっき壁に叩き付けられた時に損傷しているかもしれない。つまり、迎撃することも出来なかった。


「さらばだ、人間」


「くそ・・・・・・!」


 そして、レリエルが俺に向かって巨大な時計の針を放り投げた。ホワイト・クロックの巨大な時計についていた黄金の針が、燃え上がりながら落ちてくる残骸たちと共に俺に向かって落下して来る!


 俺は回避するために横に跳ぼうとしたけど、残骸のせいで回避することは出来なかった。


 アンチマテリアルソードで両断しようと思った瞬間、その黄金の時計の針の先端が、さっきレリエルに殴られた部分に突き刺さった。


 激痛が俺の体を砕いていく。巨大な時計の針に腹を貫かれ、無数の巨大な残骸に激突しながら、俺は真下にある巨大な橋に向かって落下していく。


「エミリア・・・・・・」


 炎に包まれた無数の残骸と共に落下しながら、俺は彼女の名前を呼んだ。









「り、力也・・・・・・!!」


 レリエルが放り投げた巨大な時計の針に腹を貫かれ、力也が真下にある橋に向かって落下していくのが見える。


 最初にあの太った転生者と戦った時、力也はフィオナの力を借りて私たちの所に戻ってきてくれた。でも、私たちがこの帝都で戦っているのは転生者ではない。今まで何人も格上の転生者を葬ってきた力也を倒してしまう、最強の吸血鬼なんだ。


『そんな・・・・・・! り、力也さんが・・・・・・!!』


「レリエル・・・・・・!!」


 よくも力也を!!


 私は背中から蝙蝠のような翼を生やし、残骸たちと共に落下していく力也を見下ろしているレリエルを睨みつけた。


「フィオナ。私に力を貸してくれるか・・・・・・!?」


『え?』


 太った転生者に宇宙まで吹き飛ばされてから戻ってきた力也は、フィオナの力を借りた状態で戻ってきて、あの転生者を倒した。もしかしたら、私も力也のようにフィオナから力を借りる事が出来るかもしれない。


「頼む・・・・・・!」


『分かりました』


 フィオナは私の目の前にやって来ると、私の瞳を見つめながら言った。


『一緒に戦いましょう、エミリアさん!』


「ああ! フィオナ、力を貸してくれ!」


『はい!』


 私は左手で壁に突き刺したバスタードソードの柄を握ったまま、右手でフィオナの小さな右手を握りしめた。




いつかティーガーも出したいです(笑)

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