黒き棘と黒き槍
真っ暗な屋敷のような建物の庭で、2つの猛烈なマズルフラッシュが煌めいた。2丁のブローニングM2重機関銃から次々に放たれる12.7mm弾のフルオート射撃は、庭にある花壇や石造を抉り、ターレットの射撃を回避しようとしているアリアの肉体を引き千切っていく。
俺が持っている2丁のブローニングM2重機関銃は、出撃する前に旦那が用意してくれたものだった。ターレットに搭載されている重機関銃からセンサーを外して、その代わりにグリップと銃床を搭載してもらっている。
アンチマテリアルライフルのバレットM82A2と同じ12.7mm弾をフルオート射撃でぶっ放しているため、弾丸を喰らったアリアはその度に肉片と鮮血を吹き上げている。
彼女はまだ俺たちが設置したターレットを俺たちの仲間が射撃してると思い込んでいるらしい。でも、残念ながらこの建物にいるモリガンの戦力は俺とカレンだけだ。ちなみに、スーパーハインドを追いかけている時に彼女の片足を吹っ飛ばしたのはカレンの狙撃だった。
「どうした、アリアッ!?」
「うるさいわよ、ハーフエルフの分際でッ!!」
俺を睨みつけてくるアリア。彼女の両腕は既にターレットとカレンの狙撃で千切れ飛んでいた。でも、路地で戦った時のように彼女はきっと腕を再生させながら俺に襲い掛かって来る筈だ。
12.7mm弾にもぎ取られた断面から肉と骨を生やしながら、アリアは魔術の詠唱を始める。俺は両手のブローニングM2重機関銃で彼女に向かって集中砲火をお見舞いしたんだが、脇腹や再生している最中の腕を抉られても、アリアは詠唱を止めなかった。
「ダークネス・ニードルッ! 串刺しになりなさいッ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
アリアの周囲に無数の闇の棘が出現する。間違いなく召喚された闇の棘たちの数は50本以上だろう。まるでレイピアの刀身のような鋭い先端部は、全部俺の方を睨みつけている。
今度は俺に集中砲火かよ!
ブローニングM2重機関銃を手放して回避しても、何本かは間違いなく俺に突き刺さるだろう。エリクサーによる回復が必要になる筈だ。
だったら、全部叩き落としてやるぜ!
俺は重機関銃の銃口をアリアではなく、彼女が召喚したダークネス・ニードルたちに向けた。12.7mm弾のフルオート射撃とダークネス・ニードルの棘の群れが激突し、庭の芝生の上に金属片や闇の破片が降り注いでいく。
あの闇属性の魔術よりも、12.7mm弾のほうが破壊力があるようだ。棘に正面から襲い掛かった12.7mm弾は、闇の棘の切っ先をまるで粘土に金槌を振り下ろしたように叩き潰してから貫通していく。でも、中には棘を貫通してから砕け散ってしまう弾丸もあるようだ。
「ぐっ・・・・・・!」
次々に重機関銃で弾幕を張って棘を叩き落としていたんだが、1本だけ迎撃する事が出来なかった。俺の右肩に闇の棘の切っ先が食い込むが、俺はその棘を引き抜こうとはせず、トリガーを引きっ放しにしたまま銃口をアリアへと向けていた。
俺にダークネス・ニードルを迎撃させて再生するための時間を稼いだアリアが、両腕を再生させて俺に向かって突っ込んできていたんだ。
散々棘の群れを叩き落とした12.7mm弾の群れが、再び彼女に牙を剥く。でも、アリアは肩や頬を抉られても、そのままマズルフラッシュの向こう側から真っ直ぐに俺に向かって突っ込んでくる。
吸血鬼はプライドの高い種族だ。だから、自分たちが見下しているハーフエルフにやられるわけにはいかないんだろう。
でも、俺もやられるわけにはいかないんだ。
この建物の中でアンチマテリアルライフルのスコープを覗き込んでいるのは、差別されているハーフエルフの俺とミラを自分の民として受け入れてくれた優しい領主の娘なんだよ。他の領主だったら間違いなく俺たちを侮蔑してただろう。
でも、カレンは俺たちを受け入れてくれたんだ。
だから俺は、受け入れてくれた彼女を守る。彼女を守り切って、絶対に恩を返して見せる!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
12.7mm弾が、再び彼女の左腕を抉り取る。でも、アリアは腕を再生させながらまだ俺に向かって突っ込んで来ると、右腕で俺が彼女に向けていた重機関銃を殴りつけて照準をずらし、そのまま俺の懐に飛び込む。
そして、右腕の生えている長い爪を俺の心臓に向かって突き出して来た!
ハーフエルフは屈強な種族だが、心臓をあんなに長い爪で抉られれば即死してしまう。俺たちは吸血鬼のような再生能力を持っていないんだ。
俺はすぐに両手のブローニングM2重機関銃から手を離し、身体をずらした。アリアの爪は俺の心臓ではなく左肩に突き刺さる。
そのまま右の拳を、さっきの弾幕で抉られていたアリアの脇腹にある傷口に向かって思い切り叩き付けた。俺の拳が再生している途中だった傷口にめり込み、アリアが呻き声を上げる。
更に、左手で俺の右肩に突き刺さっているダークネス・ニードルを強引に引き抜いた俺は、脇腹の傷口から俺の拳を必死に引き抜こうとしているアリアの首筋に向かって、レイピアのような闇の棘を振り下ろした。
「ガッ・・・・・・!!」
「うぉぉぉぉぉッ!!」
呻き声を上げながら血を吐き出すアリア。俺は彼女の傷口から右手の拳を引き抜くと、彼女の血で真っ赤になった右手を背中へと伸ばし、背中に背負っていたショットガンのスパス12を引き抜いた。
旦那が用意してくれたスパス12には、ナイフ形銃剣とドットサイトが装着されている。銃剣は接近して来るアリアを迎え撃つために付けてくれたんだろう。
俺はドットサイトを覗き込むと、ポンプアクションからセミオートマチックに切り替え、アリアが再生している最中の脇腹の傷口に向かってチューブマガジンの中の散弾を連続で叩き込んだ。もちろん、この散弾も吸血鬼用に用意された銀の散弾だった。
再生しかけていた脇腹が吹き飛び、肋骨の破片が芝生の上に舞い散る。アリアはそのまま何歩か後ろに下がって花壇の陰に隠れようとしたけど、すぐに建物の2階でアンチマテリアルライフルを構えていたカレンの狙撃が、脇腹を再生させようとしていたアリアに襲い掛かった。
彼女の首に命中した12.7mm弾がアリアの頭と胸元を吹き飛ばす。そして、殆ど上半身を吹っ飛ばされたアリアに向かって、他のターレットたちの集中砲火が襲いかかる。
「ありがとな、カレン」
『無茶しないでよ?』
チューブマガジンに12ゲージの散弾を装填しながら、俺は援護してくれたカレンにそう言うと、再生を始めたアリアに向かってショットガンの銃口を向けた。
「兄さん、聞こえる!?」
『信也か!』
「今から支援を開始するよ!」
ターレットの照準を割れた窓の向こうに立っているレリエルに向けた僕は、後ろでスーパーハインドを操縦しているミラに「お願いね」と言うと、ライトに照らされているレリエルを睨みつける。
このスーパーハインドに搭載されているロケットランチャーと対戦車ミサイルには、水銀が入っている。爆発すると中に入っている水銀が爆風と一緒に敵に叩き付けられる仕組みになっているんだ。
今からその水銀が入っているミサイルとロケット弾を、全てレリエルに向かって叩き込むんだ。
窓の向こうで、兄さんたちが走り出したのが見えた。爆風に巻き込まれないためにレリエルから離れるつもりなんだろう。
『攻撃開始!』
『いくよッ!!』
僕はレリエルに向かって、ターレットに搭載されている23mm機関砲の発射スイッチを押した。キャノピーの向こうで漆黒の槍を持っていたレリエルが、たちまち銀の23mm弾の群れに粉砕され、木端微塵になる。
でも、彼は伝説の吸血鬼だ。かなり強力な再生能力を持っている。
もう肉片になってしまったレリエルに向かって、ミラは翼に搭載されているロケット弾と対戦車ミサイルを次々に放ち始める。再生しようとしていたレリエルは爆風と水銀に更に引き裂かれ、爆炎に飲み込まれてしまう。
対戦車ミサイルとロケット弾の爆炎が、ホワイト・クロックの最上階を包み込んだ。中で回転していた歯車たちを吹き飛ばした爆風が、他の窓から突き抜けていく。
(これなら―――)
爆炎を睨みつけていたミラが呟いたその時だった。今の爆発で壁が崩れ始めた最上階の部屋の中から、真っ黒な槍がいきなり伸びてきてキャノピーを貫き、僕の後ろに座っていたミラの胸を貫いたんだ。
「み、ミラぁっ!!」
(ぐ・・・・・・ああっ・・・・・・!)
コクピットで呻き声を上げるミラの方を振り向こうとした瞬間、彼女の胸を貫いていた黒い槍が縮み始め、目の前の爆炎の中から黒いコートを身に纏った男が襲いかかってきたのが見えた。
その男は、間違いなくさっき窓の向こうで僕たちを睨みつけていた吸血鬼の男だった。背中から生えているのは巨大な蝙蝠の翼だ。さっき僕たちを追いかけてきたアリアも、同じ形状の翼を生やしていたような気がする。
「うわぁっ!!」
槍を構えたレリエルはキャノピーの前まで接近してきた。僕は慌ててターレットの射撃で叩き落とそうとしたんだけど、ターレットが旋回し始めた瞬間にレリエルの蹴りがセンサーにめり込み、一撃でターレットを機関砲もろとも破壊してしまう。
そしてレリエルは左手の拳を、スーパーハインドのキャノピーに向かって叩き付けた。
彼のパンチがキャノピーを粉砕し、ガラスの破片が僕とミラに何本も突き刺さる。
「ぐっ・・・・・・!」
僕は右手を制服の内ポケットに伸ばすと、内ポケットの中に納めておいたワルサーP99を引き抜いた。ドットサイトと紫外線を放つ事が出来るライトを装着しているんだけど、ライトをつけている場合ではない。僕はドットサイトのカーソルを割れたキャノピーの向こうにいるレリエルに合わせると、叫びながらトリガーを引き続けた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
銀の9mm弾が何発もレリエルの頭に風穴を開ける。でも、レリエルはキャノピーから離れようとしない。ミラを貫いた槍を彼女の胸から引き抜き、今度は僕を貫こうとしてくる。
でも、僕はまだレリエルの頭に向かって9mm弾を撃ち続けていた。トリガーを引く度にワルサーP99が何度もブローバックを繰り返し、空になった薬莢を排出していく。
マガジンの中の弾丸を全てレリエルに撃ち込んだんだけど、レリエルは頭に風穴をいくつも開けられたまま、キャノピーの外から僕を睨みつけていた。
「・・・・・・!」
レリエルが僕に向かって黒い槍を突き出そうとした瞬間、僕の後ろの席からワイヤーの付いた鉤爪が放たれ、レリエルの左目の辺りに突き刺さった。
「サウンドクロー・・・・・・!?」
(シンは・・・・・・やらせないよ・・・・・・・・・!)
「ミラ!」
口から血を吐きながら、コクピットに座っていたミラがレリエルに向かってそう言った。
彼女がサウンドクローの爪を敵に突き立てたということは、ミラはすぐに音響魔術を発動させるつもりだ。僕はすぐにハンドガンから手を離し、両手で耳を塞ぎながら目を瞑った。
(響破・・・・・・・・・!)
「・・・・・・!?」
相手の脳に音響魔術で増幅した騒音を叩き付けて破壊する彼女の響破を喰らったレリエルは、両目や鼻の穴から血を吹き出しながらキャノピーから両手を離し、ホワイト・クロックの壁に叩き付けられてからそのまま地上へと向かって落下していく。
(や、やったぁ・・・・・・)
「ミラ、しっかり――――」
ヒーリング・エリクサーを飲めばあの傷を塞ぐことは出来る筈だ。僕は後ろの席のミラにエリクサーの瓶を渡そうとしたんだけど、ポケットから瓶を取り出そうとした瞬間、機体の上からメインローターがへし折れる音が聞こえてきた。
ホワイト・クロックの壁面に、スーパーハインドがぶつかっていたんだ。そのまま機体の胴体が壁に擦り付けられ、武装とライトを搭載していた翼がもぎ取られていく。
『おい、信也。応答――――』
無線機から兄さんの声が聞こえてくる。
キャノピーの外をちらりと見てみると、さっきの対戦車ミサイルとロケット弾の爆風に巻き込まれないように塔の外にジャンプした兄さんたちが、壁に剣を突き立ててぶら下がっているのが見えた。
高度がどんどん落ちていく。メインローターが折れているため、もうこのスーパーハインドは舞い上がる事が出来ない。
スーパーハインドはもう一度塔の壁面に激突すると、そのまま回転しながら市街地に向かって落下していく。
僕はもう動かなくなったターレットのレバーを握ると、目の前の市街地を睨みつけた。




