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ヴリシア帝国


 スコープの向こう側にターゲットが見えるのを確認してから、俺はスコープから目を離し、俺から見てライフル本体の左側に装着されている狙撃補助観測レーダーのモニターに表示されている敵の数と、ターゲットとの距離を確認する。


 この狙撃補助観測レーダーは、敵との距離を敵の反応と共に表示してくれる優秀なレーダーだ。表示してくれる範囲は、装着した武器の射程距離と同じ距離になる。つまり、射程距離が2kmもあるこのロシア製アンチマテリアルライフルのOSV-96ならば、モニターに表示されるのは半径2kmということになるんだ。


 敵の数は20人。ターゲットの距離は2km。


 一撃で倒さなければならない。


 転生してからかなりステータスが高くなっているが、あの端末が転生者に与えてくれるステータスは攻撃力と防御力とスピードのみだ。スタミナや射撃の技術や剣術などは訓練して身に着けるしかない。


 久しぶりの遠距離狙撃だ。今まで狙撃した距離の中で一番離れていたのは1700mだから、この狙撃を成功させれば記録更新ということになる。


 照準を調整してからスコープを再び覗き込み、俺は深呼吸した。


 ターゲットは俺が狙撃しようとしていることに全く気付いていない。自分の屋敷の部屋の中で、ニヤニヤと笑いながらおそらく街で購入してきた奴隷に何か命令しているらしい。奴隷にされているのは、浅黒い肌を持つダークエルフの少女のようだ。


 少女が涙目になりながら少しずつ身に着けている服を脱ぎ始める。服を脱げと命令されたらしい。


 クソ野郎め―――。


 ターゲットが窓に背中を預けながら、少しずつ服を脱ぎ始めた少女を見ている。


 俺はその転生者からカーソルを少し左側にずらすと、愛用のアンチマテリアルライフルのトリガーを引いた。


 銃口に装着されたT字型のマズルブレーキが猛烈なマズルフラッシュを吹き上げ、その輝きを突き破って12.7mm弾が窓に向かって放たれる。照準を少し左にずらして放ったため、弾丸が飛んで行ったのはターゲットから少し左側だ。あのままでは、ターゲットではなく屋敷の壁に風穴を開けることになるだろう。


 すると、俺が放った弾丸が徐々に右側に曲がり始めた。壁に風穴を開ける筈だったその12.7mm弾は、俺が最初に照準を合わせていた窓の近くの転生者の方向へと曲がり始める。


 そして、その弾丸は屋敷の窓ガラスを簡単に貫通し、窓の奥で買ってきた奴隷の少女に服を脱ぐように命令していた転生者の背中を貫いた。


 粉々になったガラスの破片が舞う中に、木端微塵になった人体の残骸が飛び散った。猛烈な運動エネルギーを叩き込まれ、窓の向こうで転生者の肉体が引き裂かれる。


「――――これで53人目だ」


 今まで葬ってきた転生者の人数は、今の奴で53人目。俺は立ち上がってバイボットを折り畳むと、OSV-96を肩に担ぎながら端末を取り出す。


≪レベルが上がりました≫


 今の俺のレベルは187。もう俺の3つのステータスは全て20000を超えてしまっている。


 やっぱり、転生者を倒すとレベルが上がりやすいな。それにクズも消す事が出来る。


 俺はアンチマテリアルライフルを背中に背負うと、腰の後ろに下げていたSaritch308ARを取り出し、ナイフ形銃剣を展開してから屋敷に向かって走り始める。


 転生者は倒したから、次はあの奴隷を救出しなければならない。


 相手はあの転生者の手下だ。人数はたったの19人。簡単に殲滅できるだろう。


 漆黒のオーバーコートを身に纏った俺は、フードに飾られているハーピーの真紅の羽根を揺らしながら、屋敷に向かって疾走した。









 ため息をつきながら、俺はネイリンゲンの屋敷の周囲を取り囲んでいる塀をよじ登った。今の時刻は午前1時20分。もうギルドの仲間たちは眠ってしまっているだろう。玄関や裏口にも鍵がかかっているに違いない。


 でも、今日の施錠の当番だったカレンが屋敷の鍵を閉める前に、一ヵ所だけ鍵を開け直しておいた場所がある。


 俺はフードを取ってから3階にある自室の窓を見上げると、屋敷の壁に向かってゆっくり歩き、窓の縁を掴むと、そのまま3階の自室の窓を目指して屋敷の壁をよじ登り始めた。


 2階の窓の縁に足を置き、壁にある装飾をしっかりと掴んでよじ登る。そのまま掴んでいた装飾に足を乗せて3階の窓の縁を掴むと、登りながら俺は右手を窓に向かって伸ばし、窓を開けてから部屋の中に静かに入り込んだ。


 部屋の中のベッドでは、パジャマ姿のエミリアが静かに眠っていた。この部屋にはフィオナもいるんだけど、彼女は寝る時に実体化するのを止めて姿を消した状態で眠ってしまうため、部屋の中に彼女は見当たらない。


 あの転生者を狩るために、俺は屋敷からこっそり出て行ったんだ。


 制服の上着を脱いだ俺は、愛用の黒いオーバーコートをクローゼットの中にしまうと、自分の着換えを取り出して素早く着替えを済ませ、眠る時に使っているソファに向かう。


 ソファに横になるために腰を下ろした瞬間、俺の背後にあったベッドで眠っていたエミリアが、いきなりあくびをしながらゆっくり起き上がった。


「おう、エミリア」


「・・・・・・」


 彼女はベッドから立ち上がると、俺が腰を下ろしているソファのほうへとふらつきながらやって来る。


「力也ぁ・・・・・・どこに行ってたのだ・・・・・・?」


「ああ、ちょっと仕事が―――」


 彼女にも内緒で屋敷から出た筈なんだが、バレていたらしい。


「いなくなっちゃダメだぞ・・・・・・。寂しいじゃないか・・・・・・」


「エミリア・・・・・・うおっ!?」


 俺の近くまでふらつきながらやってきた彼女は眠そうな顔でそう言うと、いきなりソファに腰を下ろしていた俺に向かって倒れ込んできた!


 彼女をソファに叩き付けるわけにはいかないので、俺はパジャマ姿の何とか受け止める。でも、腰を下ろした状態で受け止めたからあっさりそのままエミリアと一緒にソファの上に倒れてしまう。


「お、おい。エミリア?」


「ん・・・・・・」


 しかも、エミリアは俺にのしかかったまま両手で抱き着いているようだ。


「は、離してくれないか・・・・・・?」


「やだぁ・・・・・・」


「ええッ!?」


 眠そうな声で言うエミリア。彼女はいつも凛々しいんだけど、今の彼女はまるで俺に甘えているようだった。


「力也がまたいなくなるかもしれないから・・・・・・離さない・・・・・・」


「いや、胸が・・・・・・」


「ん・・・・・・」


「おい、エミリア・・・・・・?」


 どうやらエミリアは俺をソファの上で抱きしめたまま眠ってしまったようだ。彼女の名前を呼んでみるんだけど、寝息しか聞こえない。


「おいおい・・・・・・」


 ため息をついて彼女に離れてもらうのを諦めると、俺は何とかこのまま眠ることにした。









「大仕事だぞ、みんな」


 会議室の大きなテーブルには、モリガンの制服を身に纏ったギルドの仲間たちが全員集合していた。1ヵ月前に傭兵見習いを卒業した信也も、まるで軍の指揮官のような黒い制服を着て会議室の席に腰を下ろしている。彼の隣に座っているのは、もちろんミラだった。


 今まで受けていた依頼は魔物の退治や山賊の殲滅などの小規模な依頼ばかりだったから全員ではなく2人や3人くらいで依頼に向かっていたんだけど、さっき屋敷の応接室へと案内したクライアントから引き受けることにした依頼は、間違いなく大仕事になるだろう。だから仲間たちを集めて作戦会議を開くことにしたんだ。


「ヴリシア帝国の帝都サン・クヴァントで、住民が吸血鬼に襲われる事件が何件も起きているらしい。探偵や騎士団も調査を開始しているらしいんだが、中には返り討ちにされた騎士もいるそうだ。帝国の騎士団や傭兵ギルドでも手におえないらしい」


「そこで俺たちに依頼が来たってわけか! 旦那ぁ。帝国でも俺たちは有名なんだな!」


 ヴリシア帝国は、西の方にある海の向こうにある巨大な島国だ。オルトバルカ王国の西にあるフランセン共和国からウィルバー海峡を船で超えれば、ヴリシア帝国に辿り着く事が出来る。


 ヴリシア帝国はオルトバルカ王国と同等の軍事力を持つ帝国で、この世界の列強の中の1つだ。特に海軍と魔術が発達しているらしい。


 その帝国でも、どうやらモリガンは有名になっているようだな。


「そうらしいな。―――というわけで、俺たちはこの依頼を引き受けるためヴリシア帝国まで移動する。まずはフランセン共和国まで移動して、そこから船に乗るぞ。出発は明日の朝だ。準備しておいてくれ。質問はあるか?」


「はい」


「何だ? 信也」

 

「吸血鬼との戦いを想定して武器を準備する必要がありそうなんだけど、やっぱり銀の弾丸を生産しておくべきかな?」


「そうだな。使う武器の弾丸は銀の弾丸に変更しておく。聖水はクライアントが用意してくれるらしいから、俺たちは銀の弾丸を全員分用意しておこう。他に質問は?」


 俺が仲間たちに問い掛けると、再び信也が静かに手を上げた。


「どうした?」


「フランセン共和国からは船を使うの?」


「ああ、そのつもりだ。何か提案でもあるのか?」


「うん。多分、こっちのほうがミラも喜ぶと思うよ」


 ミラも喜ぶ? どういうことだ?


 まさか端末で何か兵器を生産するつもりなのか? ミラが喜ぶということは戦車や装甲車でも生産するつもりなんだろうか。確かに水陸両用の装甲車ならば船に乗らずに帝国に到着することが可能だ。それに強力な機銃も装備されているから、魔物に襲撃されても簡単に撃退する事が出来る。


「装甲車でも作るつもりか?」


「いや、ヘリを生産しようと思って」


「へ、ヘリだと!?」


 ヘリで海を越えるつもりか!?


「信也。ヘリとは何だ?」


「えっと、俺たちの世界に存在した空を飛ぶ兵器だ」


「なに? 空を飛ぶことのできる兵器もあるのか!」


(すごい! 私、それも操縦してみたい!)


 そういえばこの世界での空中の戦力は騎士や魔術師を乗せた飛竜だけだ。それに、エミリア達にもヘリや戦闘機のことを教えていなかったな。


「じゃあ、信也。ミラにヘリの操縦を教えておいてくれ」


「分かった」


(やった! ありがとう、シン!)


「わっ!? ちょっと、ミラ!」


 ヘリの操縦士を任せられたミラが、嬉しそうに笑いながら隣の席の信也に抱き付く。彼女に抱き付かれて顔を真っ赤にしながら慌てる信也を睨みつけながら、カレンの隣の席でギュンターが「し、信也の奴・・・・・・!」と歯を噛み締めているのが見えた。


 







 端末で銀の弾丸を生産しながら、俺は仲間たちと共に屋敷の上空を飛び回る大型の戦闘ヘリを見上げていた。屋敷の上空を飛行しているのは、機首の下に大型のターレットを持つ丸いキャノピーの戦闘ヘリだった。機体の左右にある翼のような部分には、対戦車ミサイルやロケットランチャーが搭載されているのが見える。


 ウィルバー海峡を越えるために信也が用意したのは、なんと南アフリカ製戦闘ヘリのMi-24/35Mk.Ⅲスーパーハインドだった。強力な武装を搭載している上に、兵士を8人も乗せることが可能な戦闘ヘリだ。信也が用意した機体の塗装はブルーとグレーとホワイトの3色の迷彩模様となっている。


 操縦しているのはもちろんミラなんだろう。先ほどから何度も屋敷の上を旋回している。


『すごいです、力也さん! あんな兵器があったんですか!?』


「飛竜よりも小回りが利くみたいね・・・・・・」


 スーパーハインドを見上げながらフィオナとカレンが言う。


 速度では飛竜に少しだけ劣るかもしれないが、機動力と火力は確実にスーパーハインドの方が上回っている。ウィルバー海峡を横断している途中に魔物が襲撃してきても、搭載されている対戦車ミサイルとロケットランチャーの破壊力ならば蹴散らす事が出来るだろう。


 俺は銀の弾丸の生産を終えると、スーパーハインドを操縦するミラを見守っていた。

 



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