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信也の試験


「へえ。鍛冶屋に行ってきたんだ」


「ああ。ちょっとエミリアの防具を受け取りにな」


 基本的に武器は転生者に与えられるあの端末で生産しているし、防具を身に付けずに今まで戦っていたため、俺は転生してから1回も鍛冶屋に足を踏み入れたことはなかった。


 さっきレベッカの店まで防具を受け取りに行った俺は、エミリアに受け取ってきた防具を渡した後、訓練を終えて休憩していた信也と2人で応接室で待機している。


 前に闘技場で戦った時に信也のレベルが上がっていたらしく、こいつの腰には新しい武器がぶら下っている。前までは南部大型自動拳銃だけだった筈なんだけど、腰に新たに下げられているのは南部小型自動拳銃ベビーナンブと軍刀を組み合わせたような奇妙な刀だった。


「『試製拳銃付軍刀』か。作ったのか?」


「うん。それと、これも」


 そう言いながら信也が高校の制服の内ポケットから取り出したのは、南部小型自動拳銃ベビーナンブだった。特にカスタマイズはされていないらしい。


 南部小型自動拳銃は、南部大型自動拳銃の8mm弾よりもさらに小型の7mm弾を使用する日本製のハンドガンだ。反動が小さいから、確かに信也には扱いやすいかもしれない。


「気に入ってるのか?」


 南部小型自動拳銃を内ポケットに戻す信也にそう言うと、信也は笑いながら「愛着があるんだ」と言った。


 そういえば、こいつが転生してから初めて作った銃は南部大型自動拳銃らしい。


「ところで、エミリアさんの防具ってどんな感じだったの?」


「籠手とか他の防具は問題なかったんだけど、胸当てだけ作ってもらったんだよ」


「え? 何で?」


「・・・・・・エミリアのおっぱいが大きかったから」


「・・・・・・」


 顔を赤くしながらメガネをかけ直す信也。俺は苦笑いしながら応接室のソファに背中を預け、端末の電源をつけて武器や能力を確認し始める。


「そういえば、ミラから種族について習ったか?」


「え? ああ、習ったよ」


「じゃあ、エルフとハイエルフの見分け方は?」


「えっと、ハイエルフの方がエルフよりも肌が白くて、耳が長いんだよね? それと耳が少しだけ上の方を向いているんだっけ?」


「正解」


 さすがだ。やっぱり勉強は得意なんだな。学校の成績もトップで、テストの点数はいつも100点だったらしい。


「どうしたの?」


「ああ。実は、その鍛冶屋の店主がハイエルフの女の子だったんだ。ミラと同い年くらいかな?」


 今の信也の年齢は17歳で、ミラの年齢は15歳だ。エルフとハイエルフとハーフエルフの寿命は人間よりも長いんだけど、ハーフエルフは人間との混血であるため、寿命の長さは遺伝で決まるらしい。


「そうだったんだ・・・・・・」


「おう。・・・・・・それと、エミリアがその店で売ってた短剣が気に入ったらしくてな。プレゼントしてあげたんだ」


「喜んでた?」


「ああ」


 俺はチンクエディアを受け取って嬉しそうにしていたエミリアの事を思い出しながらそう答えた。


「兄さんって、エミリアさんと仲がいいよね」


「まあな。一緒にラトーニウス王国から逃げて来たからな。・・・・・・お前だってミラと仲がいいじゃないか」


 信也が初めてこの世界で出会ったのはミラだったらしい。彼女が傭兵見習いを卒業するための依頼を受けていた最中に森の中で出会い、一緒にドラゴンを倒してから俺たちと合流したんだ。


 それから信也とミラはよく一緒にいるようになった。闘技場の戦いに出場した時も一緒だったし、信也にこの世界の事を教えてほしいとお願いした時、真っ先に彼のための講師に立候補したのはミラだった。


(失礼します)


「おう」


 応接室の中に静かにドアをノックする音と、ミラの可愛らしい声が響き渡った。音響魔術で擬似的に喋っているミラのあの声は、喋れなくなってしまう前の自分の声を再現しているらしい。


 俺が返事をすると、信也といつも一緒にいるハーフエルフの少女が応接室のドアを開け、部屋の中へと入ってきた。昨日までは高校の制服のような上着とミニスカートを着ていたんだけど、今の彼女の服は、まるで黒いチャイナドレスのような制服だった。袖は指先しか見えないほど長めになっていて、彼女が使うサウンド・クローを隠しておけるようになっている。同じく襟も長めになっていて、ボタンを全て閉めれば彼女が気にしている喉元の傷も隠せるようになっていた。襟の後ろにはフードまでついているようだ。


「フィオナちゃんに作ってもらったの?」


(うん。どう? 似合ってる?)


「ああ、似合ってるよ。・・・・・・と、とても可愛い・・・・・・」


(ほ、本当・・・・・・!?)


「う、うん・・・・・・」


 さっきからずっと信也の顔は赤いままだ。さっきメガネをかけなおした筈なのに、信也はまたメガネをかけ直すと、部屋の入口の近くで嬉しそうに笑っているミラを見つめながら微笑んでいる。


 ミラが身に着けているあの制服は新しい制服だ。暗殺や隠密行動を行う彼女のために、フィオナが制服をデザインし直してくれたんだろう。


 2人が話しているのを聞いていると、外の廊下の方から誰かが階段を上ってくるような音が聞こえた。でも、その階段を上る音はいつもと違うようだ。いつもならば階段を上ってくる音だけが聞こえる筈なんだけど、今日はその音以外に金属のような音も聞こえてくる。


 誰が上がってくるんだ? 


 階段を上り終えたらしく、そのいつもとは違う足音がゆっくりと応接室の方に近づいて来る。


「―――力也、いるか?」


「ああ。いるぞ」


 廊下の方から聞こえたのはエミリアの声だった。


 階段を上る音と一緒に聞こえたあの金属のような音は、もしかすると防具を装着した状態で上がってきたからあんな音が聞こえたのかもしれない。


 廊下から聞こえた彼女の声に返事をすると、いつもとは違う制服の上にレベッカの店から受け取ってきた防具を装着したエミリアが、少し恥ずかしそうにしながら応接室に入ってきた。


 彼女がいつも着ていた制服は黒い軍服のようなデザインで、頭の上には黒い軍帽をかぶっていたんだけど、俺の目の前にやってきたエミリアが身に着けている制服は、まるで黒いドレスのような制服だった。カレンの制服もドレスのようなデザインなんだけど、エミリアの制服には彼女のように紅色の装飾は全くついていない。


 その黒いドレスの上に、鍛冶屋から購入した防具を装着していた。騎士団が使用するような銀色の防具ではなく、制服と同じく黒い防具だ。防具は脛と胸と両手に装着しているだけで、それ以外の箇所には装備していない。腰には俺が端末で生産した軍刀と、昨日彼女にプレゼントしたチンクエディアが下げられている。


 オルトバルカ王国の騎士団に所属する女性の騎士は、このようにドレスのような制服の上に手足などの一部に防具を装着して戦うらしい。


「おお、似合ってるぞ」


「そ、そうか・・・・・・!」


 恥ずかしそうにしていたエミリアが、昨日俺からプレゼントをもらった時のように嬉しそうに笑いながら顔を上げる。彼女に笑顔で見つめられて、今度は俺も信也と同じように顔を赤くしてしまった。









 照準器の向こう側に浮遊するすべての赤い魔法陣に風穴が開いているのを確認した僕は、コントロール用の蒼い魔法陣に手をかざしてから訓練の終了と書かれているメニューをタッチし、ため息をつきながら生産したばかりの南部小型自動拳銃ベビーナンブを内ポケットに戻した。


 南部小型自動拳銃は南部大型自動拳銃の8mm弾よりもさらに小型の7mm弾を使用するため、南部大型自動拳銃よりもさらに反動が小さい。サイズも更に小さいため、内ポケットに隠し持つのには最適だった。


 僕がさっきまで挑戦していたのは、射撃訓練のレベル3だった。得点は76点だ。射撃訓練を合格するには、訓練レベルの場合は80点以上を取らなければならない。実戦レベルならば90点以上で合格する事が出来るんだけど、一番高い難易度のレベル10は100点を取らなければ合格することは出来ない。


「まだレベル3はクリアできないか・・・・・・」


 もう一度ため息をつき、僕は踵を返して1階に上るための階段を上り始める。


 階段を上がっていくと、地下室を照らし出していたランタンの橙色の明かりが、徐々に夕日の橙色の光に変わっていくのが分かった。射撃訓練を何度も繰り返しているうちにかなり時間が経ってしまったらしい。


 僕は火薬の臭いを纏いながら階段を上り終えると、自室に戻ってシャワーを浴びてから休むことにした。


 転生する前に着ていた高校の制服には、すっかり火薬の臭いが染み付いてしまっている。普通の高校生の制服には絶対に染み付くことのない臭いだ。


 自室に向かうために階段を上ろうとしていると、裏口のドアが開き、そのドアの向こうから漆黒のレイピアとマンゴーシュの収まった鞘を腰に下げたカレンさんが屋敷の中へと戻ってきた。裏庭で剣術の訓練をしていたようだ。


「お疲れ様です」


「ええ、お疲れ様。・・・・・・あ、信也君」


「はい?」


 カレンさんに呼び止められ、僕は後ろを振り向いた。


「力也が部屋で呼んでたわよ」


「兄さんが?」


「ええ。きっと依頼の話じゃないかしら?」


 依頼の話? 僕も実戦に連れていくっていう事なんだろうか? でも、僕はまだ闘技場の戦いと森の中でドラゴンと戦った事しかない。それ以外の戦いは全部訓練だ。


「依頼ですか?」


「きっとね。信也君は訓練を頑張ってるし、かなり強くなってるから、そろそろ傭兵見習いを卒業させようとしてるんじゃないの?」


 もう僕を傭兵見習いから卒業させるつもりなんだろうか?


 ミラは傭兵見習いを卒業するのに2ヵ月もかかったらしい。でも、僕はまだこのギルドに入ってから1ヵ月しか訓練をしていない。まだ卒業させるのは早いんじゃないだろうか?


「分かりました。兄さんの部屋ですね?」


「ええ。頑張ってね」


 カレンさんは笑顔で僕にウインクすると、そのまま廊下を歩いて地下室の方へと行ってしまった。


 兄さんの部屋は、僕とミラの部屋と同じく3階にある。


 僕はメガネをかけ直すと、兄さんが僕を呼んだ理由を考えながら再び階段を上がり始めた。カレンさんが言っていたように、本当に僕を傭兵見習いから卒業させるつもりなのか? 


 3階へと到着した僕は、僕とミラの部屋がある左側の廊下ではなく、兄さんとエミリアさんとフィオナちゃんの部屋がある右側の廊下へと進んだ。兄さんの部屋のドアの前に立つと、ドアを静かにノックする。


「兄さん、呼んだ?」


「おう」


 部屋の中から兄さんの声が聞こえた。僕は部屋のドアを開けると、まだ僕から離れようとしない火薬の臭いと共に兄さんの部屋へと足を踏み入れる。


 兄さんは部屋の真ん中に置かれているソファに腰を下ろし、巨大なリボルバーの点検をしているようだった。兄さんが持っているあのリボルバーは、間違いなくオーストリア製のプファイファー・ツェリスカだ。スコープとバイボットが装着されている。


「実は、さっきネイリンゲンの市長から依頼を受けてな。北の森にある盗賊団のアジトを襲撃して、そいつらを壊滅させてほしいらしい」


「盗賊団?」


「ああ。最近そいつらがネイリンゲンを訪れる商人や観光客に襲い掛かって、困っているらしい」


 盗賊団ということは、相手は魔物ではない。人間だ。


 兄さんが受けた依頼は、人間と戦う依頼なんだ。


「―――この依頼に、お前も連れて行く」


「え?」


 リボルバーを点検しながら兄さんが言ったその言葉を聞いた瞬間、制服に染み付いている筈の火薬の臭いがしなくなったような気がした。まるでその言葉に火薬の臭いがすべて吹き飛ばされてしまったかのようだった。


「そろそろ傭兵見習いを卒業させようと思っててな―――」


「ちょっと待ってよ、兄さん」


 兄さんはリボルバーの点検を止めると、顔を上げて僕を見つめてきた。まるで闘技場でニーズヘッグを簡単に叩き潰してしまった時のような鋭い眼だ。目の前にいるのは僕の兄である筈なのに、僕はぞっとしてしまう。


 僕は冷や汗を左手で拭うと、兄さんに言った。


「それって――――その盗賊を殺すってこと・・・・・・?」


「そうだ」


 シリンダーに大きな.600ニトロエクスプレス弾を装填しながら、兄さんは僕の質問に答えた。


「俺たちの敵は、魔物だけじゃないんだ」


 そういえば、僕が最初に兄さんと合流した時、兄さんは誰かを無事に始末したと言っていた。あの時も誰かを殺してきたんだろうか?


「30分後に出発する。メンバーは俺とお前の2人だ。武器とエリクサーを準備しておけよ」


「・・・・・・分かった」


 僕は踵を返し、兄さんの部屋を後にする。


 部屋のドアを閉めて廊下へと出た僕は、訓練を終えてからそのまま腰に下げていたホルスターの中の南部大型自動拳銃と、試製拳銃付軍刀を見下ろした。


 この武器を、魔物ではなく人間に向けなければならないようだ。


 僕は顔を上げると、橙色から赤黒い光に変貌した夕日を見つめ、自室へと向かって歩き出した。





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