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転生者が大気圏に生身で突入するとこうなる


 俺の目の前で、再びフィオナが真っ白な光になって消えてしまった。でも、またいなくなってしまったわけではないようだ。さっき俺を励ましてくれた彼女は消えていない。きっと俺の近くにいて、力を貸してくれる。


 俺はフィオナの左手を握っていた左手を握りしめると、俺が吹っ飛ばされてきた地球を睨みつけた。


 今すぐ、あの湿地帯の館に戻って仲間たちのために戦わなければならない。相手は俺よりもレベルが高い転生者だ。間違いなく、俺の仲間たちではあいつを倒すことができないだろう。


 だから、俺が行くしかないんだ。


 俺は生き残ったナパーム・モルフォたちを全部召喚すると、そいつらを俺の背中に止まらせる。こいつらは炎の弾丸を撃ち出すだけではなく、火炎放射器のように炎を吐き出すこともできるんだ。炎を自由自在に操る事が出来る蝶たちだからな。


 こいつらにジェットエンジンのように炎を吐き出させて、俺は地球へと戻ることにしたんだ。


 俺の背中に止まった蝶たちが一斉に炎を拭き始め、段々と俺の体が地球へと近付いていく。地球へ向かって段々加速していきながら、俺は左手を動かし、腰の鞘の中から93式対物刀を引き抜いた。鞘の中から姿を現した刃は、俺よりもはるかにステータスが高いあのオタクと戦ったというのに、全く傷がない。これならばまだ使えるぞ。


 背中のナパーム・モルフォを1匹だけ俺の目の前に連れてくると、俺は刀を持った左手を地球へと向かって伸ばし、その切っ先の上に呼び出したナパーム・モルフォを止まらせた。


 宇宙空間に吹っ飛ばされた状態で再び地球へと戻るということは、大気圏に突入する必要があるということだ。このまま突っ込めば、オタクと再び戦う前に燃え尽きる羽目になるからな。


 ナパーム・モルフォが止まった刀の切っ先が段々赤くなっていく。刀の上に止まったナパーム・モルフォが、高熱の中で火の粉を散らしながら真っ赤な翼を広げた。


 ナバウレアからエミリアを連れて逃げた時、俺はバレットM82A3の銃身の下に取り付けた小型のTOWで空を飛んで逃げ、もう二度とやりたくないって思ったけど、生身での大気圏突入ももう二度とやりたくない。切っ先に止まったナパーム・モルフォに周囲の高熱と炎を吸収してもらいながら、俺は思った。


 俺の右肩に突き刺さっていたポリアフの氷が、どろりと溶けて高熱の中へと消えていく。


 このままならば問題なく大気圏に突入できそうだけど、どこに降り立てばいい? あの湿地帯の屋敷はどこだ? このまま地上に降下すれば、全く違う場所についてしまう。


 館が燃えていた筈なんだけど、まだ大気圏に突入し終えていない状況では燃え上がる館なんて全く見えない。それに、もしかするとポリアフの氷で火事になっていた館の炎は消されてしまっているかもしれない。


 何ということだ。このままでは、エミリアたちを助ける事が出来ない!


「・・・・・・・・・?」


 その時だった。真っ赤な炎と高熱の中から、まるで子守唄を歌う少女の歌声が聞こえて来たんだ。


 フィオナの声ではないようだ。誰が歌ってるんだろうか? 幻聴ではないみたいだ。


 俺を包み込んでいた高熱と炎が段々消えていく。その高熱と炎に耐えきった切っ先の上のナパーム・モルフォが、火の粉を散らしながら舞い上がり、俺の背中で炎を噴射している仲間たちの所へと戻っていく。


 俺は空気を吸い込みながら、優しい子守唄を聞いていた。


「フィオナ・・・・・・」


 いつの間にか、俺の右隣を真っ白なワンピースに身を包んだ少女が飛んでいた。微笑みを浮かべながら地上を見つめる彼女の長い白髪とワンピースが、まるで真っ白な鳥の翼のように広がっている。


 風の音の中でも、子守唄ははっきりと聞こえた。どうやらフィオナにもこの子守唄は聞こえているらしい。


 彼女の名を呼ぶと、フィオナは微笑みながら俺の顔を見て、地上を指差した。


「あそこだ・・・・・・!」


 彼女が指差した先で、小さな炎が見えた。間違いなくあれは湿地帯の館が燃え上っている炎だ。それに、この子守唄もあの燃え上がる館の方向から聞こえている気がする。


 さっき宇宙空間で、一緒に戦おうと言ったフィオナが、俺に仲間たちの居場所を教えてくれたんだ。彼女は俺を庇って消えてしまったけど―――まだ一緒に戦ってくれる!


 俺は隣を飛んでいるフィオナの蒼い瞳を見つめながら頷くと、子守唄に導かれながら、93式対物刀の切っ先を燃え上がる館へと向けた。背中のナパーム・モルフォたちに炎を噴射する方向を変更させ、降り立つ方向を修正しながら、俺は地上へと向かって叫ぶ。


「いくぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」


 絶対に、あのブタ野郎をぶっ殺す!


 いつの間にか、俺の隣を飛んでいたフィオナは消えてしまっていた。








「ねえ、何あれ・・・・・・?」


 突然、カレンが空を指差しながらそう言った。私の右腕を掴んでいた子の転生者も、フィオナが作ってくれた私のお気に入りの軍帽を踏みつけるのをやめ、大剣の柄を握りながら空を見上げる。


 私も、涙を拭かずにそのまま空を見上げた。


「何だ・・・・・・?」


 転生者が呟いたのが聞こえた。


 湿地帯の空を覆っていた真っ白な雲に、まるで何かに突き破られたかのような大穴が開いていたのだ。そしてその大穴の中心に、真っ赤な点が1つだけ見える。おそらく、あの赤い点が雲を突き破ったのだろう。


 よく見ると、その赤い点は背後から炎を吹き上げているのが見えた。まるでミサイルのようだ。


 先ほどから聞こえているこの子守唄に呼ばれているのだろうか? おそらく、あの赤い点は炎を吹き上げながらここに向かっている。


 ニヤニヤと笑いながら私の軍帽を踏みつけていた転生者は、笑うのをやめてその赤い点を見つめていた。私たちや力也を相手にしていた時は私たちを見下していたのだが、今のこの男はこちらに向かっている赤い点を見つめたままだった。


 その時、雲を突き破った真っ赤なその点が、突然真っ白な炎を吹き上げたのが見えた。まるでフィオナが力也を庇って消えてしまった時に発していた光のようだ。


 そして、そのこちらに向かってくる白い点の背後に広がっていた大穴の開いた雲が、まるで火をつけられた綿のように突然燃え上がり始めた。いたる所から火柱を吹き上げ、空に浮かぶ炎の塊と化していく。


 まるで大空が、炎に支配されたかのようだった。


「ま、まさか・・・・・・他の転生者か?」


 大剣の柄を握りながら、このブタのような転生者が怯えている。


 確かに、あの雲を焼き払ってこちらに向かっているあの白い点の正体は転生者かもしれない。しかも、間違いなくこの男よりも格上だろう。


 私たちは皆殺しにされてしまうのだろうか? それとも、奴隷にされてしまうのだろうか?


「力也・・・・・・・・・」


 できるならば、また彼に会いたかったな。


 許婚の元から私を連れ出してくれた転生者の少年の事を思い浮かべながら、私は左手で涙をぬぐった。


「あ、あれ・・・・・・まさか、力也じゃない!?」


「はぁっ!?」


「え・・・・・・?」


「ば、馬鹿なッ!?」


 あの白い点へとマークスマンライフルを向けていたカレンが、スコープから目を離して叫んだのが聞こえた。


 どういうことだ? あの白い点が力也だというのか? でも、あいつはこのブタのような転生者よりもレベルが低かったんだぞ? しかも、あいつは宇宙空間まで飛ばされてしまっている。どうやって戻ってきたというのだ?


 私はそう思ったが、すぐに力也に会いたいという気持ちが、その疑問たちを一瞬ですべて消し飛ばしてしまった。


 あの白い炎を纏っているのが、力也なのか?


 あんな重傷を負って宇宙まで吹き飛ばされたというのに、私たちのために戻ってきてくれたのか?


「力也・・・・・・!」


 もう一度、私は涙をぬぐった。


 彼に、私の泣いている顔は見せたくなかったのだ。


「力也ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 私はこちらに向かっている力也に向かって叫んでいた。








 空からこっちに向かってくる力也は、まるでミラが歌っている子守唄に導かれているかのようだった。宇宙空間からまた戻ってきたとしても、またここまで戻ってこれるはずがない。燃え上がっている館を目印にするわけにもいかないだろう。


 俺はもう一度、隣で空を見上げているミラを見つめた。相変わらず彼女は口を全く動かしていない。でも、この歌声は間違いなくミラの歌声だ。二度と聞けなくなった筈の、最愛の妹の肉声だった。


「まさか、魔力を放出して・・・・・・?」


「え?」


 空を見上げていたカレンが、ミラの顔を見下ろしながら呟いた。


「昔に廃れてしまった魔術に、魔力を放出して空気を振動させて音を出す魔術があったらしいの。エルフたちは、大昔にその魔術をよく使ってたって・・・・・・・・・」


 確かに、俺の母さんはエルフだ。でも、母さんがそんな魔術を使ったところを全く見たことがない。それに、ミラも今まで全くそんな魔術を使ったことはなかった。


 まさか、あのブタ野郎に喉を潰されて囚われていた間、独学でそんな廃れた魔術を練習していたのか? 母さんが歌っていた子守唄を守るために。


 その子守唄が、力也を導く灯になっていた。


 真っ白な炎を身に纏い、背中からも真っ白な炎を吹き上げて地上へと落下してくる力也。ブタ野郎はエミリアの右手を離すと、大剣を構え、突っ込んでくる力也を睨みつける。


「なんだ、さっきの雑魚か」


 まだ力也を見下しているようだ。でも―――足がちょっと震えてるぜ?


 それはそうだろう。あいつは奴隷の俺の依頼を報酬の金額が全く足りないにもかかわらず引き受け、俺の仲間たちと妹を助け出してくれた。俺たちにとってあいつは灯だ。でもその灯は、ブタ野郎を焼き尽くす獰猛な烈火でもある。


「撃ち落してやる。―――ポリアフ」


 大剣の切っ先を力也へと向けながらブタ野郎は言うと、傍らに蒼いマントを纏ったポリアフを召喚し、そのポリアフに無数の氷の槍を召喚させた。


 力也に重傷を負わせ、フィオナちゃんを一撃で消滅させた氷の斬撃よりもサイズが大きい! あいつ、力也を雑魚って言ってたが、もう見下してないんだ! 


「死ねぇッ!」


 ポリアフが無表情で氷の杖を振るい、召喚した無数の氷の槍を燃え上がる空へと向かって放った。


 力也が持っていたアンチマテリアルライフルよりもでかい氷の槍が、真っ白な炎を纏って下りてくる力也へと向かっていく。でも、力也は回避しようとしない。フィオナちゃんの仇を取るために突っ込んだ時のように、真っ直ぐにブタ野郎へと向かって突っ込んでいく。


 あの時みたいに少しだけ回避するのか? それとも、身に纏っている白い炎で防ぐのか? でも、もし後者の方法で防ごうとしてるんだったら無茶だぜ。あの白い烈火でも、瞬時にあんなでかい氷の槍を溶かしきれるわけがない。


「!」


「なっ!?」


 その時、力也に向かっていた無数の氷の槍たちが一斉に曲がり、次々に燃え上がる空へと消えて行った。


 力也は何もしていない。左手に持った刀で弾いたわけではないし、あの白い炎も全く使っていなかった。ただ刀を構えて槍の中へと突っ込んでいっただけだ。


「あれは・・・・・・!」


 ブタ野郎へと向かっていく力也の目の前に、真っ白なワンピースに身を包んだ白髪の幼い少女の姿が見えたような気がした。間違いなく、彼女は力也をブタ野郎の攻撃から庇って消えてしまったフィオナちゃんだ。消えてしまった筈の彼女が、力也を守るように両手を広げていたのが見えたんだ。


 消えてしまっても、彼女は力也のことを守っているんだ。


「ば、馬鹿な!? こ、この僕の攻撃が逸れた!? あ、あり得ない! 僕はレベル45だぞ!?」


 汗を浮かべながらブタ野郎が焦り始める。ブタ野郎はポリアフに命令し、次々に氷の槍をマシンガンのように連射させ始めるけど、その巨大な氷の槍たちは、全部さっき逸らされた氷の槍たちと同じように、1本も力也には命中せず、力也の纏う白い炎の熱で溶かされながら真っ赤に燃える空へと消え去っていく。


 そんな攻撃が当たるわけないだろ。あいつは、フィオナちゃんが守ってるんだ。


 ブタ野郎が「う、嘘だ! あいつはたったレベル23の雑魚の筈だ!」と叫びながら氷の槍を連射するけど、やっぱり1発も命中しない。


 力也、負けるなよ? フィオナちゃんも一緒なんだぜ!?


「やっちまえ、力也ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 俺も、エミリアと同じようにあいつに向かって叫んでいた。









 次々と向かってくる氷の槍たちが逸れて、燃え上がる雲へと消えていく。俺はいつの間にか真っ白に変色した93式対物刀のグリップを握りしめながら、俺を必死に撃ち落そうとしているブタ野郎の顔を睨みつけていた。


 いつの間にか、俺の身に着けている制服の色も変わっていた。モスグリーンとブラウンの迷彩模様の制服が返り血を浴びた状態だった筈なんだけど、変色した刀と同じように真っ白になっている。それに、何故か俺の髪も伸びているようだった。黒髪の短髪だった筈なんだけど、いつの間にかフィオナと同じように白い長髪になっている。フィオナから力を借りたせいなんだろうか?


 俺の目の前で、次々に氷の槍たちが逸れていく。この氷の槍たちが俺に命中しないのは、きっとフィオナのおかげだ。彼女が、俺の事を守ってくれているんだ。


 ならば、俺はあのブタ野郎を倒して、彼女の仇を取らなければならない。彼女を殺したのはあいつなんだ。


 ブタ野郎が俺を氷の槍で撃ち落すのを諦めたらしく、大剣を構えて俺を斬りつけようとしているのが見える。刃の表面は俺を宇宙空間まで吹っ飛ばした時のように氷に覆われていて、無数の氷の棘が生えていた。


 おそらく、さっき俺を宇宙空間まで吹っ飛ばした攻撃と同じ攻撃を放とうとしているんだろう。あれに命中してしまったら、また俺は宇宙空間まで吹っ飛ばされてしまうに違いない。


 俺はさっき刀の切っ先に止まらせ、大気圏に突入する際に高熱と炎を吸収させていたナパーム・モルフォに、その吸収していた高熱と炎も噴射するように命令することにした。


 俺の背中から吹き上がっていた真っ白な炎が、真っ白な火柱へと変貌した。猛烈な白い烈火を引き連れながら俺は更に加速し、ブタ野郎へと大気圏に突入した時以上の速度で突っ込んでいく。


「ひ、ひぃっ!」


 ブタ野郎が怯え、逃げようとするのが見える。


 おい、俺はお前の格下の転生者だぞ? 格上の転生者が、レベルが下の転生者から逃げるんじゃねえよ。


 俺は高熱と真っ白な烈火を引き連れて、逃げようとしたブタ野郎へと左手の白い刀を突き込んだ。


 もう、ステータスは関係なかった。大気圏に突入した時以上の速度で刀を向けて突っ込んだんだ。さっき戦っていた時は全く切れなかったこのブタ野郎の脂肪だらけの右肩を、俺の持つ白い刀は簡単に貫通していたんだ。


 真っ白な火の粉が舞う。刀身から白い炎が吹き上がり、そのまま刀が突き刺さっているブタ野郎の右肩の傷口へと進んでいくと、ブタ野郎の体へと燃え広がり始めた。


「ギャアアアアアアアッ! い、痛てぇぇぇぇぇぇぇぇっ! がぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


「―――よう、ブタ野郎」


 俺はブタ野郎の絶叫を聞きながら言うと、ニヤリと笑った。


 

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