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ギュンターからの依頼


 横になっていたソファからゆっくりと起き上がったハーフエルフの少年が、血だらけになったボロボロの袋を俺へと差し出してくる。彼の持つ袋の中にはぎっしりと銅貨が入っていた。


 袋の中に入っている銅貨は、全額俺たちを雇うための金らしい。つまり、俺たちに依頼をするという事なんだろう。


「・・・・・・俺たちの町を占領している兵士たちを倒して、俺の仲間たちと妹を助けてほしいんだ」


「占領? 誰が占領してるんだ?」


「分からない。人間の兵士たちだ。あいつらは俺たちを奴隷にしてるんだ。反乱を起こしても返り討ちにされるから、手も足も出ない・・・・・・!」


 ハーフエルフの少年が、俺に差し出しているボロボロの袋を睨みつけながら左手を握りしめ始めた。


「頼む・・・・・・!」


「―――分かったよ」


 つまり、彼らの町を占領している人間の兵士たちを殲滅すれば、彼らは奴隷扱いされることはなくなるんだな。俺は差し出した袋を睨みつけている彼から銅貨がぎっしり入った袋を受け取ると、その袋をテーブルの上に置き、彼の顔を見つめながら頷いた。


 きっと彼は、俺たちを雇って仲間たちと妹を助けるために町から逃げ出して来たんだろう。あんなに傷だらけだったのは、占領している兵士たちや魔物たちと戦ったからに違いない。仲間たちと妹のために町から逃げ出してきた彼の依頼を断るわけにはいかなかった。


「ひ、引き受けてくれるのか・・・・・・!?」


「当たり前だろ。安心してくれ」


「あ、ありがとう・・・・・・!」


「気にするなよ」


 俺は微笑みながら椅子をテーブルの近くに持って来ると、テーブルの上にある彼の持っていたでっかい包丁を退けてからクッキーの乗った皿を彼の方へと近づけ、椅子に腰を下ろした。


「俺は速河力也。このギルドのメンバーだ。よろしくな」


「俺はギュンター。ハーフエルフだ。よろしく」


 さっきまで傷だらけだったギュンターは、微笑みながら俺に右手を差し出してくる。俺は「任せろ」と言いながら、俺の手より少し大きいギュンターの手を握り返した。








 ギュンターが住んでいた町は、オルトバルカ王国の東側のほうにある湿地帯の中心にあるらしい。この国は東に海が広がっているんだけど、海へと向かう人はその湿地帯を迂回して東部へと向かうらしい。沼だらけの湿地帯を荷馬車で通過するのは難しいし、魔王が倒される前から凶暴な魔物が何種類も生息している危険地帯だ。そこの魔物たちが魔王が倒された影響で更に狂暴化しているため、湿地帯を迂回するとしても護衛の兵士がいなければ危険らしい。


 彼はあのでっかい包丁一本で、その凶暴な魔物の群れと人間の兵士たちを突破してここまでたどり着いたらしい。だからあんなに傷だらけだったんだな。


「かなり距離があるな・・・・・・」


 応接室のテーブルの上に広げられたオルトバルカ王国の地図を眺めながら、俺は呟いた。ネイリンゲンからギュンターの町までは、以前に俺とエミリアがナバウレアから逃げて来た時以上に離れている。馬で移動したとしても、途中で宿屋に宿泊するか、野宿しなければならないだろう。


 それに戦場は間違いなく湿地帯になる。相手は凶暴な魔物と人間の兵士だ。


「今すぐには行けないな。準備しないと。・・・・・・問題ないか?」


「ああ。気にしないでくれ」


 俺の隣で地図を睨みつけながら頷くギュンター。彼が着ているのはここに来るまで来ていたボロボロの服ではなく、俺が転生した時に身に着けていた黒いパーカーとジーンズだ。


「ねえ、ギュンター。敵兵の人数は何人くらいなの?」


「分からねえ・・・・・・。でも、町の周囲を警備していた兵士たちでも50人はいたぞ」


「町の規模は?」


「このネイリンゲンよりは小さいな」


 ネイリンゲンより小さい町を、50人も兵士が警備しているのか。


 俺たちがギュンターから受けた依頼は、彼の住んでいた町を占領している人間の兵士たちを殲滅し、彼の仲間たちと妹を救出することだ。その町がある湿地帯までかなり離れているし、今までの依頼とは異なる戦い方をしなければならない。


 まず、弾薬の問題だ。湿地帯の魔物は元から凶暴で、魔王が倒された影響で更に狂暴化している。アラクネみたいに銃弾を弾くような魔物が生息しているかもしれないけど、銃があれば問題はないだろう。でも、俺たちが倒すべきなのは湿地帯の魔物たちではなく、その奥にある街を占領している人間たちだ。俺の端末が用意してくれる弾薬は再装填リロード3回分しかないのだから、できるだけ魔物とは戦わずに湿地帯を突破しなければならない。


 それに、ギュンターの仲間たちはまだ町の中に残っている。もし俺たちがそのまま攻撃を仕掛ければ、彼らはギュンターの仲間たちや妹を人質に取るかもしれない。


 つまり、魔物たちとの戦闘を避けて湿地帯を突破した後は、町を警備している兵士たちに気づかれないようにしなければならない。今回の作戦で使う銃にはサプレッサーを装着するべきだろう。


 今まで俺たちは市街地や森の中で戦っていたから、湿地で戦うのは初めてだ。大丈夫だろうか?


 じっとテーブルの上の地図を見つめていると、腕を組んだままエミリアが「力也、どうする?」と聞いてきた。


「まず、湿地帯との魔物とは戦わずに町へと向かおう。その後は敵兵に気づかれないようにするぞ」


「そうだな。―――ところで、ギュンターはどうするのだ?」


「え?」


 エミリアが、俺の隣で地図を見ていたギュンターに問い掛けた。


「彼も連れていくのだろう? 彼も戦わせるのか?」


「ああ」


 俺は彼にも戦ってもらうつもりだが、いくらギュンターが包丁一本でここまでたどり着いたとしても、また包丁一本で戦わせるわけにはいかない。彼にも銃を使って戦ってもらうつもりだ。


「ギュンター、ちょっと地下室まで来てくれるか?」


「おう」


 踵を返して応接室のドアを開けた俺は、ギュンターと共に射撃訓練場になっている地下室へと向かって歩き出した。







「おりゃああああああああああああああああああッ!!!」


 ギュンターの雄叫びが、凄まじい銃声の群れと床に次々に転がる空の薬莢の音と混ざり合い、地下の射撃訓練場の中で反響を繰り返して大暴れしていた。彼の目の前に並んでいた筈の木製の的たちは無数の弾丸たちに食い破られ、もう既に跡形もなくなっている。


 彼が雄叫びを上げながらぶっ放しているのは、さっき俺の端末で生産した銃だ。彼と射撃訓練をしてから俺の端末を貸して、使ってみたい武器を生産していいぞって言ったんだけど、ギュンターが生産したのは何とロシア製の汎用機関銃のPKP。銃身の下に俺のOSV-96と同じくRPG-7を装着し、銃口の左右にはバイボットの代わりに水平に折り畳み式のスパイク型銃剣を装備している。展開するとまるで二又槍のようだ。銃の上にはドットサイトは装備せず、代わりに対空照準器を装備している。


 それと同じカスタマイズをしたPKPをもう1丁生産し、ギュンターは何と2丁の汎用機関銃を雄叫びを上げながら的に向かって乱射していた。彼の足元には2丁のPKPから次々に排出される空の薬莢が転がっている。


 100発の弾丸が連なるベルトがPKPの中へと吸い込まれていき、銃口で煌めき続けていたマズルフラッシュが消え去る。2丁分のPKPの猛烈な銃声は、まだ反響を繰り返していた。


「・・・・・・すげえな、この銃。気に入った!」


「・・・・・・なあ、ギュンター」


「何だ?」


 フルオート射撃を終えた2丁のPKPを肩に担ぎながら、ギュンターがくるりと俺の方を振り向く。


「今回の作戦は隠密行動だぜ?」


 確かに2丁の汎用機関銃から次々に放たれる7.62mm弾と、銃身の下に装着されたロケットランチャーの火力は圧倒的だろうけど、今回は湿地帯の魔物と戦わないようにして弾薬を温存し、町に到着したら敵に見つからないようにしないといけない。ギュンターの仲間や妹を人質に取られたら厄介だからな。


 だから彼の2丁の汎用機関銃が今のようなフルオート射撃をぶっ放す事が出来るのは、敵を殲滅する時だ。


「分かってるさ」


 100発分のベルトを撃ち尽くしたPKPを壁に立てかけると、ギュンターはさっき射撃訓練の時に使っていたハンドガンのMP443をホルスターから引き抜いた。彼が取り出したハンドガンには、サプレッサーとドットサイトとライトが装着されている。


「隠密行動の時は、こいつを使う」


「そうしてくれ。さっきみたいに連射するのは敵を殲滅する時だぞ」


「任せろ。・・・・・・ところで力也、他の美少女たちは何をしてるんだ?」


「エミリアとカレンは草原で距離の長い武器の射撃訓練。フィオナは制服作りだ」


「制服作り? その黒い制服で行くんじゃないのか?」


「いや、迷彩模様の制服を作ってもらってる」


 湿地帯の町での隠密行動だから、この黒い制服よりも迷彩模様の制服の方がいいだろう。それに、俺は前に端末で生産したギリースーツも着用するつもりだ。


 フィオナには、ギュンターの分の制服もお願いしている。


「せっかく作ったのになぁ・・・・・・」


「ん? あの的って手作りだったのか?」


「ああ」


 薪を取りに森に行った時に拾った太い枝で作ったり、商人から木材を購入して作った5つの的たちは、床の上に転がる200発分の空の薬莢の向こうで木端微塵にされていた。


 まだ予備の的は3つくらいあるけど、また作っておかないといけないな。


 俺も射撃訓練をしておこうかと思ってホルスターのレイジングブルへと手を伸ばしたその時、1階へと続く階段から、真っ白なワンピースを身に纏ったフィオナがやってきた。


『2人とも、そろそろ晩ご飯ですよ』


「おお、フィオナ。制服は?」


『あとちょっとで完成します』


「フィオナの分もか?」


『はい。私の分も作ってますよ』


 前に王都の下水で戦った時、1回だけ俺と同じ黒いオーバーコートを身に纏っていたけど、フィオナはいつも白いワンピース姿だ。でも、彼女は自分の分の迷彩模様の制服も作っているらしい。


 とりあえず、床の空の薬莢は夕飯を食べ終えてから片付けておこう。俺はギュンターを連れて階段を上ると、3人でキッチンへと向かった。




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― 新着の感想 ―
[一言] いつも思うけど、依頼内容や報酬を確認しないで依頼を受けるけどリーダーがそんなんでいいんだろうか?
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