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フィオナがアンチマテリアルライフルで殲滅するとこうなる


 漆黒のオーバーコートを身に着けたフィオナが抱えているのは、ハンガリー製のアンチマテリアルライフルのゲパードM1だ。俺が使うOSV-96と同じく12.7mm弾を発射するボルトアクション式のアンチマテリアルライフルなんだけど、銃身の下には折り畳まれた鎌の刃が装着されている。鎌の刃で近距離でも戦うためなのか、バイボットは装着されていない。代わりに、スコープの左斜め上にキャリングハンドルが装備されていた。


 おそらくあの鎌の刃は、端末で武器をカスタマイズしようとすれば俺のOSV-96にも装着できるだろう。確かに彼女の持つゲパードM1は生産できるアンチマテリアルライフルの中にあったけど、俺は彼女にゲパードM1を生産して渡した覚えはないぞ?


 どうして彼女がアンチマテリアルライフルを持ってるんだ? ナパーム・モルフォの力を借りたって言ってたけど、ナパーム・モルフォは炎を操る蝶だ。俺の端末みたいに武器を生産することはできない筈だ。


 俺は残っているポイントを確認するために、ポケットから端末を取り出して電源をつけた。いつもなら『ステータス』と『武器と能力の生産』と『武器と能力の装備』の3つのメニューが表示されるんだけど、端末の画面に浮き上がっていたのはそのメニューではなく、『エラー』という青白い文字だった。


「え、エラー・・・・・・?」


 どういうことなんだ? メニューは表示されずに、画面の真ん中にエラーという文字が表示されているだけだ。


 フィオナはゲパードM1のキャリングハンドルを掴み、銃身の脇に用意されているホルダーから1発の弾丸を掴み取ると、さっき俺たちの前に立っていた暗殺者をバラバラにした際にぶっ放した弾丸の空の薬莢を取り出し、ホルダーから取り出した弾丸を装填する。


 彼女が装填した弾丸は、OSV-96のマガジンの中に納まっている12.7mm弾とは先端部の形状が違う弾丸だった。ランタンの光と木箱に燃え移った炎で下水の中は明るいんだけど、彼女が装填した弾丸はよく見えなかった。


 フィオナは左手でキャリングハンドルを掴み、右手でゲパードM1のトリガーを引いた。


「きゃっ!?」


 俺の傍らで、カレンが両耳を塞ぎながら叫び声を上げる。ゲパードM1の猛烈な銃声が、さっきフィオナがゲパードM1を撃った時のように反響を引き連れて暗殺者たちの方へと駆け抜けて行く。


 今の弾丸を放った時、フィオナはスコープを覗いていなかった。暗殺者たちとの距離は20mくらいだけど、命中するんだろうか?


 その時、左右の壁と天井から、まるで銃弾が命中して跳弾したような音が何度も聞こえ始めた。壁と天井の表面にいくつも傷がつき、汚水の流れる水路の水面に小さな水飛沫と波紋が出来上がる。


 フィオナが浮かんでいる場所と暗殺者たちの間にあったランタンが割れ、木箱がズタズタに砕かれていく。銃弾が命中して跳弾するようなその音は、段々と暗殺者たちの方へと近づいていく。


「・・・・・・・・・まさか、キャニスター弾をぶっ放したのか!?」


 彼女が暗殺者たちに向けて撃ったのは、普通の12.7mm弾ではない。俺が前にOSV-96をサムホールストックに改造した際に用意した、12.7mmキャニスター弾だ。


 彼女はそれを下水の通路の上でぶっ放したんだ。無数の散弾が壁や鉄柵に命中して跳弾していたから、命中したランタンが割れたのか!


 跳弾しながら暗殺者たちへと向かっていった散弾たちが、俺のナパーム・モルフォの焼夷弾の一斉射撃で足止めされていた暗殺者たちに襲い掛かった。ランタンを砕き、鉄柵や壁で跳弾した金属の群れの弾道は複雑で、剣で弾くことはできないだろう。まるで前後左右から機関銃の一斉射撃を叩き込まれたのと同じだった。


 跳弾するキャニスター弾の群れに襲われた暗殺者たちは、次々にズタズタにされていった。無数の散弾が鉄柵や天井で跳弾しながら襲い掛かってくるため、回避できる筈がない。燃え上がる木箱の傍らで次々にランタンのガラスが割れ、暗殺者たちがフィオナの放った1発のキャニスター弾によって引き裂かれていく。


 フィオナはすぐにキャニスター弾の空の薬莢を排出すると、今度は通常の12.7mm弾を装填し、左手をアンチマテリアルライフルのキャリングハンドルから放した。


『・・・・・・いくよ』


 ゲパードM1の銃身の下に搭載されていた漆黒の鎌の刃が展開する。フィオナは右手をグリップから放し、銃床の部分を掴むと、鎌の刃を展開したアンチマテリアルライフルを構え―――火の粉を背後に散らしながら、先ほどまで焼夷弾を放っていた5匹のナパーム・モルフォを引き連れ、残った暗殺者たちへと向かって突っ込んでいった。


「あれが、あの蝶の力なの・・・・・・・・・?」


「分からん・・・・・・」


 ナパーム・モルフォは炎で敵を攻撃できる蝶たちだから、他人に力を貸すような能力はない筈だ。それに、どうして俺の端末にはエラーと表示されているんだ?


 もう一度端末を取り出して画面を確認してみるけど、やっぱり画面には『エラー』と表示されているだけだった。


『はぁっ!』


「ギャアアアッ!」


 フィオナが振り下ろした鎌の刃が、短剣で彼女を迎え撃とうとしていた暗殺者の右肩に突き刺さった。彼女はそのまま刃を引いて暗殺者の右肩と胸を引き裂くと、フィオナの周囲を舞っていたナパーム・モルフォたちに炎の弾丸を掃射させ、左右で弓矢を持っていた暗殺者を火達磨にする。


 後ろを振り向き、襲い掛かってきた暗殺者を銃床で殴りつけたフィオナは、体勢を崩しながら水路の近くの鉄柵に叩き付けられた暗殺者の腹にゲパードM1の銃身の下に搭載された鎌の刃を突き立てた。そのままキャリングハンドルを左手で掴んで通路の反対側でクロスボウを撃とうとしていた暗殺者へ、鎌を死体に突き刺したまま銃口を向けた彼女は、トリガーを引いて12.7mm弾で鉄柵とその暗殺者を粉砕した。


 動かなくなった暗殺者の腹から鎌の刃を引き抜き、フィオナはアンチマテリアルライフルから空になった薬莢を排出する。


 燃え上がる木箱の近くや通路の上に、俺やフィオナが殺した暗殺者たちの死体が何人分も転がっていた。通路の上に焼死体や風穴を開けられた死体が転がり、汚水の流れる水路の中にも焦げた死体が浮かんでいる。


「全員倒したか・・・・・・」


 暗殺者たちを殲滅したフィオナが、鎌の刃を折り畳み、ゲパードM1を抱えながら俺たちの方へと戻ってくるのが見える。


 俺はカレンに肩を貸してもらいながら地上へと続く梯子の近くまで歩くと、梯子の傍らに腰を下ろした。








「よくお嬢様を守ってくれた。ありがとう、傭兵」


「この子のおかげだよ」


 俺は大通りの隅にある木箱の上に腰を下ろしながら、金貨の入った袋を持ってきてくれたカレンの護衛の男に言うと、俺の右足に両手を当てて治療用の魔術で暗殺者の矢に塗られていた毒を治療してくれているフィオナの頭を撫でた。


 フィオナはさっき俺たちを助けてくれた姿から、いつもの真っ白な姿へと戻っていた。彼女はあの時ゲパードを持っていたんだけど、どうやって持って来たんだろう? 俺は彼女にアンチマテリアルライフルを生産した覚えはないぞ?


『えへへっ』


 俺に撫でられながら笑うフィオナ。俺は彼女を撫でながらカレンの護衛の男から金貨の入った袋を受け取ると、彼女に治療してもらっている俺の近くで腕を組んで立っているエミリアに報酬の入った袋を手渡した。


「それにしても、凄い人数の暗殺者だったぞ?」


「ああ。騎士団も何人か倒したらしい」


 間違いなく100人以上襲撃してきたんじゃないだろうか。屋根の上で暗殺者たちを追撃した時も20人くらい射殺したからな。


『治療、終わりました』


「ありがとな、フィオナ。―――お。力が入るぞ」


 下水の中で暗殺者たちと戦っていた時はカレンに肩を貸してもらわなければ歩けなかったんだけど、フィオナのおかげで右足に力が入るようになっていた。俺は木箱から立ち上がって屈伸すると、もう一度俺の右足を治療してくれたフィオナの頭を撫でた。


『えへへっ。力也さんたちが無事でよかったですっ』


「心配したぞ、力也」


「すまないな。エミリアは大丈夫だったか?」


「ああ」


 お気に入りの漆黒の軍帽をかぶりなおしてから再び腕を組み、エミリアは頷く。


 大通りにはまだ住民や露店の店主たちは戻ってきていない。防具を身に着けた騎士団の騎士たちが整列し、会議に参加していた領主たちを護衛している。


 派手な装飾のついた服を身に着けた中年の男たちが護衛を引き連れて大通りを歩いていくのを眺めていると、数人の騎士を連れて歩いていく金髪の少女の姿が見えた。彼女は俺の方を見ると、微笑みながら俺たちの方へと向かって歩いて来る。


「力也、毒は大丈夫?」


「ああ。フィオナに治してもらったたよ。・・・・・・他の領主に死傷者は出てないんだろ?」


「ええ。領主はみんな無傷よ」


「ということは、負傷者は力也だけだな」


「おい、エミリア・・・・・・」


 確かにエミリアたちは無傷だ。俺は屋根の上に隠れてた暗殺者の矢を喰らってしまったから、負傷者は俺だけだ。


「うふふふっ。・・・・・・・・・さあ、戻るわよ」


「はい、お嬢様」


 レイピアを腰に下げた護衛の男がカレンと俺たちに頭を下げ、真っ赤なドレス姿のカレンを連れて護衛の兵士たちの隊列の方へと向かって歩き出す。カレンは俺たちに「それじゃ」と言いながら手を振ると、護衛の男の後についていく。


 俺は彼女に手を振りながら、下水の中で彼女が俺を見捨てないといったことを思い出した。


 下水の中の戦いで、毒のせいで歩けなくなった俺はカレンだけでも逃げろと言ったんだけど、彼女は俺を見捨てずに、俺からレイジングブルを奪い取って暗殺者を迎え撃ったんだ。


 俺とエミリアはラトーニウス王国から逃げて来た余所者だ。でも、カレンは俺を見捨てずに、暗殺者から守ろうとしていた。


 俺たちも彼女の領地に住む民なんだな。


 護衛の兵士たちを引き連れて大通りを歩いていくカレンに手を振ると、俺はゆっくりとエミリアたちの方を振り返った。


「―――帰ろうぜ」


「ああ」


『はいっ!』


 俺は踵を返すと、仲間たちと共に騎士たちが整列するラガヴァンビウスの大通りを歩き始めた。

 


 

 

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