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転生者が下水に逃げ込むとこうなる


 5.45mm弾のフルオート射撃が、屋根の上から短剣を振りかざして襲い掛かってきた暗殺者の胴体をズタズタに千切り取った。何発も弾丸を叩き込まれたその暗殺者は、まるで弾丸たちに押し戻されたかのように鮮血と肉片をまき散らしながら吹っ飛んでいく。


 今の暗殺者に叩き込んだ射撃で、装着していたマガジンが空になってしまった。まだAEK-971のマガジンは3つ残っているが、暗殺者たちの増援をまだ2人しか倒していない。フィオナも力也が残してくれた1匹のナパーム・モルフォに援護してもらいながらP90で奮戦しているが、彼女の役割は私たちやカレンが負傷した際に治療用の魔術で治療することだ。それに彼女は力也から訓練を受けているが、地下室での訓練で使用したのはマシンピストルのスチェッキンだけであり、訓練を受けた回数も私より少ない。


 炎の弾丸をフルオート射撃のように撃ちまくるナパーム・モルフォが屋根の上で弓矢を構えている暗殺者を火達磨にしているうちに、私は腰からAEK-971のマガジンを取り出して空のマガジンを取り外し、再装填リロードを済ませる。


「死ねッ!」


「ッ!」


 両刃の剣を振り上げながら暗殺者が接近してくる。私はAEK-971のナイフ形銃剣で暗殺者の振り下ろした剣を受け止めるとそのまま銃剣で剣を押し返し、暗殺者が体勢を崩した瞬間に、私は再装填リロードしたばかりのAEK-971のフルオート射撃をがら空きになっている暗殺者の胴体へと叩き込んだ。


 7発も5.45mm弾を叩き込まれた暗殺者が、口から血を吐き出しながら崩れ落ちる。


『エミリアさん、屋根の上に!』


「分かってる!」


 私の右側にあるレンガ造りの建物の屋根の上で、3人の暗殺者たちが私とフィオナにクロスボウを向けている。もし矢を撃たれても銃剣やサーベルで叩き落とすことはできるが、先に攻撃して倒した方がいいだろう。


 左手をAEK-971の銃身の下に装着されている40mmグレネードランチャーのトリガーへと伸ばすと、私は屋根の上の暗殺者たちを睨みつけながらトリガーを引いた。


 ランチャーから撃ち出された40mmグレネード弾がレンガ造りの建物の屋根へと突き刺さる。爆風が着弾した場所の近くに立っていた暗殺者の肉体を木端微塵に粉砕し、グレネード弾の餌食になった暗殺者の鮮血を蒸発させた爆炎が、左右で逃げようとしていた暗殺者たちに襲い掛かった。


 爆風と爆炎に飲み込まれ、バラバラになった暗殺者たちの肉体が屋根の下へと落ちていく。私はランチャーに40mmグレネード弾を装填すると、まだ屋根の上に暗殺者がいないか確認した。


「!」


 グレネード弾が3人の暗殺者を吹き飛ばした黒煙の向こうで、黒い服を身に着けた人影が屋根の上を走っていくのが見えた。短剣や剣で私たちに襲い掛かろうとしている暗殺者たちと同じ恰好の男たちだ。また暗殺者たちの増援が来たのだろうか?


 だが、その屋根の上を走っている暗殺者たちは私たちの方へと向かって来ない。先ほど力也がカレンを連れて走って行った方向へと向かって、屋根の上を移動している。


 まさか、あの増援は力也たちを狙っているのか!?


「フィオナ、力也と合流しろ!」


『えっ!?』


「こいつらの増援が、カレンと力也を狙っているッ!」


 フィオナは生前に治療用の魔術を勉強していたため、もし暗殺者の攻撃で負傷してもすぐに治療してもらうことができる。ならば、彼女はカレンと力也のところへと向かうべきだ。


 フルオート射撃で接近してきた暗殺者を穴だらけにし、左から飛び掛かってきた暗殺者を銃床で殴りつけてから喉元にナイフ形銃剣を突き刺した私は、腰から残りのP90のマガジンをフィオナに投げ渡した。


「行けぇっ!」


『は、はいっ!』


 火の粉を散らしながら炎の弾丸を放つナパーム・モルフォを引き連れ、P90を抱えたフィオナが力也の逃げて行った路地の方へと向かって飛んでいく。


 真っ白なワンピース姿の彼女を見送ると、私は暗殺者たちを睨みつけ、AEK-971の銃口を彼らへと向けた。







 梯子を下り切った俺は、腰のホルスターからスコープが装着されたレイジングブルを引き抜き、下水の中を見渡してから、梯子の上にあるマンホールの傍らで俺を見下ろしているカレンに「いいぞ」と言った。


 あのまま大通りや路地を逃げていると、また弓矢やクロスボウで屋根の上から攻撃されるかもしれない。だが、下水の中ならば屋根の上から矢で撃たれることはない。


 マンホールの蓋を閉めてからカレンが梯子を下りてくる間、俺はポケットから端末を取り出して背中に背負っていたチェイタックM200の装備を解除した。代わりに腰の後ろに下げていたAN-94を背中に背負い、頭にかぶっていた黒いフードを外す。


「悪いな、カレン」


「気にしないで」


 梯子から下水の通路に降り立った彼女に謝った俺は、もう一度下水の中にリボルバーを向けながら周囲を確認しておくことにした。


 真ん中に水路があり、左右に通路がある。壁や天井にはランタンがかけられているから、下水の中は橙色の光に包まれていた。暗視スコープでも端末で生産して装備しようと思ってたんだけど、暗視スコープがなくても問題なさそうだ。悪臭は耐えることにしよう。


 通路の上に崩れていた木箱の山を退かそうと思った俺は、この世界にやってきた時に一番最初に生産したリボルバーをホルスターに戻してから、木箱を掴むために屈み込む。屈んだ瞬間にさっき暗殺者に矢で撃たれた右足の傷口が痛み始めたけど、俺は黙って邪魔な木箱を持ち上げ、壁の方に置いてから再び下水の奥へと歩き出すために右足を踏み出した。


「………?」


「り、力也!?」


 その時、俺の右足が急に痙攣を始めた。力が抜けたせいで俺はそのまま壁の方へと倒れてしまい、右肩を壁に打ち付ける。


 おかしいぞ。出血し過ぎたんだろうか? でも、地下に入ってくる前にカレンに魔術で止血してもらったし、傷口もふさがっている筈だ。


 壁の近くに置かれていた木箱の上に右手を置き、俺は再び立ち上がろうとするけど―――やっぱり右足に力が入らない。痙攣も止まっていなかった。


「まさか………あの矢に毒が……!?」


「そ、そんな………!」


 おそらく、俺の右足に突き刺さったあの矢に毒が塗ってあったんだろう。俺は壁に右手を当てながら前へと進むけど、全く力が入らなくなった右足を床に着ける度に転びそうになってしまう。


「し、しっかりしなさいよ!」


「すまん………」


 転びそうになった俺を支えてくれたカレンが、俺に肩を貸してくれる。


 その時、俺たちが下水に下りてきた梯子の上からレンガと金属製のマンホールの蓋が擦れる音が聞こえてきた。誰かがマンホールを開けたらしい。


「カレン、俺の事は気にするな。………お前だけでも逃げてくれ」


「何言ってるのよ………?」


 多分、今マンホールの蓋を開けたのは暗殺者たちだろう。エミリアとフィオナは今頃会場の前で、まだ暗殺者たちと戦っている筈だ。それに、さっき屋根の上から矢を撃ってきた暗殺者がいたということは、エミリアたちとは戦わずに俺たちを追跡してきた暗殺者がいたということになる。


 俺はレイジングブルのグリップをぎゅっと握りながら、梯子の上から下水の中に入り込んでくる明るい光へとスコープのカーソルを向けた。


 スコープのカーソルの向こうに、梯子の上から黒い服を身に着けた人影が飛び降りてくる。エミリアならば頭に漆黒の軍帽をかぶり、腰にペレット・サーベルの鞘を下げている筈なんだけど、梯子のところに飛び降りてきた人影の服装は、俺が会場へと向かって屋根の上を走りながら追撃していた暗殺者の服装と全く同じだった。


 俺はその暗殺者が立ち上がる前に、レイジングブルのトリガーを引いた。


 下水の中に強烈な銃声が反響し、その轟音の先頭を突っ走るマグナム弾がフードの中の暗殺者の首を貫いた。下水の壁が鮮血で赤く汚れ、首に風穴を開けられた暗殺者が血飛沫を上げながら水路の中へとゆっくり倒れていく。


「ここにいたぞ!」


「気を付けろ!」


「拙い………! カレン、逃げろ!」


 もう一発マグナム弾をぶっ放し、梯子の上から飛び降りてきたばかりの暗殺者に風穴を開けてやると、俺は肩を貸してくれているカレンに叫んだ。


「ダメよ。力也も連れて逃げるわ」


「何言ってるんだ……! 俺の依頼はお前を守ることなんだぞ………!?」


「あんたが受けたのは依頼なんでしょ? ………私が力也を置いていかないのは、依頼じゃないわ」


 カレンは俺の瞳を見つめながら、俺が右手で持っているレイジングブルへと自分の手を伸ばすと、暗殺者が飛び降りてきていた梯子のところに向けていたレイジングブルをそっと奪い取り、グリップを握りながら銃口を梯子の方へと向けた。


 まさか、レイジングブルで暗殺者を倒すつもりか!?


 カレンは銃を撃ったことがない筈だ。見様見真似で撃つつもりなんだろうか?


「ラトーニウス王国から逃げて来たとはいえ、力也は私の領地に住む民なの。だから、領主の娘として――――民は見捨てないッ!!」


 スコープを覗き込みながら、カレンが暗殺者へとマグナム弾をぶっ放した。


 マグナム弾が暗殺者の顔面を抉り、仰向けに倒れた暗殺者の血飛沫と肉片が水路の中へと落ちていく。


「くっ……! 反動が………!」


 彼女が使い慣れている弓矢には反動がないが、銃には反動があるんだ。


 俺は右手で端末を取り出し、武器と能力の生産でスモークグレネードを生産すると、端末をポケットに戻してから安全ピンを引き抜き、暗殺者の死体が転がっている梯子の近くへと放り投げた。


「優しいお嬢様だな………。なら、俺もお前を守る」


「力也………」


「逃げるぞ。あと、レイジングブルを返してくれ」


 彼女からレイジングブルを返してもらった俺は、ナパーム・モルフォを5匹召喚すると、カレンに肩を貸してもらいながら下水の通路の奥へと向かってゆっくりと歩き出した。


 


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