転生者と騎士が現代兵器で迎撃するとこうなる
夕日はもう沈んでいる。ネイリンゲンの外れにある俺たちの屋敷からは、街の灯りがよく見えた。街灯や家の壁に掛けられているランタンの灯りなんだろう。
カレンの護衛の男が彼女の屋敷まで兵士を呼びに行ってから1時間が経過している。彼女の予想だと、恐らくそろそろ屋敷に到着する頃らしい。つまり、護衛の男が兵士たちを連れて戻ってくるまであと約1時間かかるというわけだな。その間、俺たちは暗殺者からカレンを護衛する必要がある。
俺は端末で生産したクレイモア地雷を、まず屋敷の正面にある門の近くに設置することにした。しゃがんで地雷を草むらの中に隠した俺は、地雷から伸ばしたワイヤーを門の鉄柵に設置しておく。とりあえず、正面からの門から侵入してきた暗殺者のお出迎えはこいつにお願いしておこう。
「あと5個か」
ハンドガンやアサルトライフルを生産した場合、最初から装着されているマガジンと、再装填3回分の弾薬が用意されることになっている。グレネードランチャーやRPG-7も3回分の予備の弾薬があるんだけど、手榴弾や地雷はポイントを使って好きな数を生産できるようになっているらしい。
俺が生産したクレイモア地雷の数は6つ。あまり仕掛けすぎると、もし護衛の男が兵士たちを連れて帰ってきた時に彼らが地雷でふっとばされてしまう可能性がある。それに、できるならばあまりフィオナが住んでいたこの屋敷を壊したくなかった。
とりあえず、地雷は全部外に仕掛けておくことにしよう。仕掛け終わったら俺も屋敷の中に戻って、兵士たちがカレンを迎えに来るまで彼女を警備するつもりだ。
「………ここでいいか」
屋敷の裏口のところにも1つ。月明かりを屋敷が遮っているせいで裏口のあたりは真っ暗になっているから、もし暗殺者がここから屋敷に入ってこようとしても見つからない筈だ。あとは玄関のドアの近くにも仕掛けておこう。
裏口と玄関のドアの近くに仕掛けた俺は、残りの3つを仕掛けておく場所を考えながら、背負っていたOSV-96の狙撃補助観測レーダーで暗殺者が接近してきていないか確認しておく。
モニターにはまだ赤い点は表示されていない。つまり、まだ暗殺者たちは半径2km以内に侵入していないということだ。
モニターを折りたたんでライフルを背負った俺は、屋敷の北側にある木の陰にも1つ仕掛けておくと、その反対側の方にある草むらの中にもクレイモア地雷を1つ設置しておいた。あと1つはどこに仕掛けようかな?
片手に持ったクレイモア地雷を一旦地面の上に置くと、俺はもう一度アンチマテリアルライフルに装着した狙撃補助観測レーダーのモニターを確認しておくことにする。折りたたまれている銃身に装着されていたモニターを展開して見てみると、モニターの隅の方に赤い点が3つほど表示されていた。
ゆっくりと俺たちの方に接近してきている。どうやら馬に乗っているわけではないみたいだな。その3つの点の後ろから、更に暗殺者たちは接近してきているようで、段々と反応が増え始めた。
残ったクレイモア地雷を早く設置して、屋敷の中に戻った方が良さそうだな。俺は玄関のドアの近くに設置したクレイモア地雷のワイヤーの上を飛び越えると、ドアを開けて屋敷の中へと入り、玄関の中に最後のクレイモア地雷を設置してから階段を駆け上がっていった。
ランタンの灯りで照らされている階段を駆け上がった俺は、カレンとフィオナがいる筈の応接室のドアをノックしてから中へと足を踏み入れた。
「………暗殺者たちが接近しているみたいだ」
「来たのね………」
街で襲ってきた暗殺者はカレンを狙っていた。今屋敷に向かって接近してきている奴らの狙いも、間違いなく彼女だろう。
俺は端末を取り出してスチェッキンを1丁装備すると、それをカレンの傍らで浮かんでいるフィオナへと差し出す。彼女は生前に魔術の勉強をしていたらしいんだけど、その時勉強していたのは治療用の魔術だ。クガルプール要塞でジョシュアが俺にぶっ放してきたような魔術は使えないらしい。
「奴らはこの部屋に入れないつもりだ。でも、もし入ってきたら………頼む」
『はい、任せてください』
カレンは銃のことを知らない。それに、訓練は全く受けていない。彼女が扱いに慣れているのは弓矢なんだ。
ロシア製のマシンピストルをフィオナに渡した俺は、愛用の弓矢を手にしてソファに腰を下ろしているカレンに「大丈夫だ」と言ってから応接室を後にする。
俺がクレイモア地雷を仕掛けたのは、まず正面の門と裏口のところだ。窓から侵入された場合は回避されてしまうけど、他にも草むらの中や木の陰にも仕掛けてある。
それに、玄関の近くにもクレイモア地雷を仕掛けた。もしその地雷が回避されてしまっても、まだ玄関の中に最後の1つが設置されている。
俺は応接室のドアを閉めると、隣にある書斎のドアを開けた。書斎の中には前の持ち主が置いていった本が本棚に並んだままになっている。俺はここにある本を読んだことはないけど、エミリアやフィオナが暇潰しによく読んでいるらしい。
その書斎にある窓のところで、エミリアは漆黒のギルドの制服に身を包み、ロシア製のアサルトライフルを構えていた。セミロングの蒼い彼女の髪が、頭上の漆黒の軍帽から見えている。
「地雷の設置が終わったぞ」
「お疲れ様。どうする? 屋敷の中に誘い込むか?」
「いや、カレンを発見されるかもしれない。射程距離に入ったら攻撃して、兵士たちが来るまで時間を稼ごう」
「了解だ」
エミリアは軍帽をかぶり直すと、40mmグレネードランチャーが装着されたAEK-971の銃口を窓の外へと向け、銃の上に装着されたブースターとドットサイトを覗き込んだ。
彼女の隣で狙撃補助観測レーダーのモニターを確認した俺は、彼女が銃口を向けている方向から暗殺者たちが接近していることを確認すると、モニターを展開したままOSV-96を彼女の隣に立て掛ける。
これでモニターを確認しながら暗殺者たちを攻撃できる。俺はAN-94が2点バースト射撃に切り替えてあるか確認すると、もう1つの窓の近くへと移動して、そこから外を覗いた。
「………いたぞ。4人くらい門のほうから来る」
門にはクレイモア地雷が設置してある。門を開けて入って来ようとすれば、間違いなくクレイモア地雷の餌食になるだろう。
「よし、あの4人は任せてくれ。………裏口の方に7人ほど回り込んでいるぞ」
「分かった。そいつらは俺が仕留める。やつらが地雷に引っかかったら攻撃開始だ」
「了解。………力也、今回の相手は魔物じゃないぞ。大丈夫か?」
「対人戦ならクガルプール要塞でやってきたさ。大丈夫だ」
裏口から接近してくる奴らを狙撃するには、書斎の反対側にある空き部屋に行かないといけないな。俺はAN-94を持って立ち上がると、書斎の反対側にある空き部屋へと向かった。
何も置かれていない空き部屋へと入った俺は、そっと窓を開くと、ドットサイトを裏口の方へと向ける。裏口の近くには馬小屋があって、その馬小屋の壁には薪割りの時に使う台が立て掛けてある。
馬小屋の近くの塀のところから、昼間に水路の通りでカレンを狙った男と同じ服装の男が侵入して来るのが見えた。真っ黒な服に身を包んでいて、手にはナイフや剣を持っている。塀を乗り越えて侵入してきた暗殺者たちの最後尾にいた男はクロスボウを持っているようだ。
俺がクレイモア地雷を仕掛けたのは裏口のドアの近くだ。月明かりを屋敷が遮ってしまっているため、地雷が発見されることはないだろう。
エミリアには地雷を踏んだら攻撃開始って指示したけど、俺はもう攻撃を開始するべきなのかもしれない。彼女が見張っていた門のほうから侵入してくる敵は4人だし、書斎の窓から距離がある。でも俺が狙っている敵は数が多い。
最後尾のクロスボウを持っている男を狙おうとしたその時、門のほうから轟音が聞こえてきた。AEK-971のフルオート射撃ではないだろう。間違いなく、俺が門のところに仕掛けておいたクレイモア地雷だ。
どうやら俺が仕掛けておいた地雷はしっかり暗殺者たちをお出迎えしてくれたらしい。俺のいる空き部屋まで聞こえてきた暗殺者たちの絶叫がアサルトライフルのフルオート射撃の銃声で容赦なく砕かれていくのを聞きながら、俺もAN-94でクロスボウを持った暗殺者を狙い、トリガーを引いた。
正面から突入しようとした仲間の絶叫が聞こえた事で裏口から侵入しようとしていたやつらが警戒し始めたところに、俺のAN-94の2点バースト射撃が襲い掛かった。2発の弾丸に顔面を貫かれて死んだ暗殺者の傍らで、他の暗殺者たちが「待ち伏せだッ!!」と叫ぶ。
暗殺者たちが物陰に隠れようとする中、1人だけ馬小屋の陰から飛び出して、今俺にやられたやつが持っていたクロスボウを拾おうとしているのが見えた。俺はそいつにドットサイトを重ねると、その暗殺者の背中に2点バースト射撃を叩き込んでやる。クロスボウを拾う前に背中に2つの風穴を開けられ、屋敷の陰の中に崩れ落ちる暗殺者。
次はどいつを狙おうかと思っていると、物陰に隠れていた暗殺者たちが裏口のドアへと向けて走り出したのが見えた。あのまま物陰に隠れていてくれれば2点バースト射撃で次々に狙い撃ちにしてやったんだけどな。
でも、裏口にはクレイモア地雷があるぜ?
俺は立ち上がると、AN-94を2点バースト射撃からフルオート射撃へと切り替えながら廊下に向かって突っ走った。書斎の中からはまだ銃声が聞こえてくる。どうやらエミリアはまだ暗殺者たちを狙い撃ちにしているらしい。
俺は書斎のドアの前を通過すると、1階への階段を駆け下りた。
裏口から侵入しようとしている暗殺者の数は残り5人。もし裏口のクレイモア地雷から生き残って侵入してきたとしても、すぐに迎え撃つことができる。
「―――ギャアアアッ!!」
裏口のドアの向こう側から地雷が射出した鉄球の跳弾する音と暗殺者の絶叫が聞こえた。どうやら仕掛けておいたクレイモア地雷に出迎えてもらったらしい。
裏口から侵入してくる暗殺者たちを迎撃するためにAN-94を構えていると、書斎の方から聞こえていたAEK-971の銃声が止まった。侵入してくるやつらを1階で迎え撃とうとしているならば階段を駆け下りてくる音が聞こえるんだけど、エミリアがサーベルを引き抜いて階段を下りてくる様子はない。
つまり、門から侵入しようとしていたやつらは片付いたってことだな。
「あとはこいつらか………」
ゆっくりと裏口のドアが開き始める。木製のドアの外側には地雷の餌食になった暗殺者の返り血が付着していて、地雷から射出された鉄球がいくつかめり込んでいた。
そのドアノブを握っていた暗殺者の生き残りと、ドットサイトを覗いて銃口を向けていた俺の目が合った。
「ひっ………!」
「俺たちのギルドへようこそ」
トリガーを引こうとしていた俺は、まるで俺たちに依頼をしに来たクライアントに挨拶するような口調でそう言う。でも、それは口調だけだ。この暗殺者たちの目的はカレンを暗殺すること。容赦すれば俺たちのクライアントが殺されるかもしれないからな。
俺はドットサイトの向こうで怯える暗殺者の生き残りへと、AN-94のフルオート射撃をぶっ放した。




