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エミリアが魔物の群れに斬り込むとこうなる

 力也が言っていた通り、30体もの魔物の群れの中に、フランツさんを助けに森の中へと向かった時に見た黒と紫の気色悪い模様の外殻が蠢いているのが見えた。アサルトライフルの弾丸を弾いた外殻で頭以外を覆われているアラクネだ。


 私が持っている武器はペレット・サーベルとスチェッキンとAN-94の3つ。AN-94には40mmグレネードランチャーが装着されているが、アラクネの外殻を破壊できる可能性がある武器は、恐らくそのグレネードランチャーと、ペレット・サーベルに装着できるライフルグレネードくらいだろう。


 だが、私はカレンを援護しつつアラクネ以外の魔物を倒していればいい。あの厄介な魔物を倒すのは、12.7mm弾を放つアンチマテリアルライフルを持っている彼なのだから。


 唾のところにある散弾射出用の撃鉄ハンマーを親指で静かに押し上げ、私は鞘からペレット・サーベルの漆黒の刀身を引き抜く。力也があの便利な端末で作ってくれたこの剣には、グリップの中に1発だけ小型の散弾を仕込んである。他にも、銃口にライフルグレネードを装着することによって、そのライフルグレネードを射出することもできる。私が引き抜いたペレット・サーベルの銃口には、すでにライフルグレネードが装着されていた。


 いつでも魔物の群れへと斬り込める状態だった。


「!」


 突然、30体もの魔物の群れの中で蠢いていたアラクネに、廃墟の中から飛来してきた1発のロケット弾が突き刺さった。アサルトライフルの弾丸を弾いた外殻に亀裂を生みだし、そのままアラクネの近くにいた数体のゴブリンを巻き込んで大爆発を起こす。


 アラクネのような硬い外殻を持たないゴブリンが、アラクネを粉々に吹っ飛ばした爆風を浴びてバラバラになる。吹き出した鮮血が一瞬で爆炎に飲み込まれ、村の廃墟の中に響き渡った爆音が、魔物たちの呻き声を押し潰した。


「何よ、今の攻撃は!?」


「力也の攻撃だ! カレン、援護は頼むぞ!」


 私は左手で頭上の軍帽を押さえながら、ロケット弾の攻撃を受けた魔物の群れの中へと走り出した。


 今の攻撃は、力也のアンチマテリアルライフルに装着されたロケットランチャーの攻撃だろう。彼のOSV-96は銃身の下にRPG-7を装着しているだけでなく、銃身の脇に狙撃補助観測レーダーを装備している。魔物の数が30体だと分かったのも、彼の狙撃補助観測レーダーのおかげだった。


「分かってるわよ! 私だって魔物を倒すんだからッ!!」


 草原ではまったく魔物を倒せていなかったからな。私は走りながらサーベルを振り上げると、私に背を向けていたゴブリンへと漆黒の刃を振り下ろした。前に使っていた剣よりも切れ味のいいペレット・サーベルの刀身がゴブリンの肉体を簡単に両断し、鮮血で地面を汚した。


 そのまま振り下ろした剣を左斜め上に振り上げ、剣を振り下ろした直後の私に飛び掛かろうとしていた狼の首を切り落とすと、ライフルグレネードの装着された銃口を、私の方を振り向こうとしていたゴーレムへと向けた。


 発射スイッチを押し、私はグリップに装着されたライフルグレネードを放った。アラクネの外殻を破壊できるほどの破壊力を持ったグレネードが、こちらを振り返ろうとしていたゴーレムの頬に着弾する。そのまま頬を突き破り、私の放ったライフルグレネードはゴーレムの口の中で爆発した。


 岩のような外殻と肉片が飛び散る。ライフルグレネードの爆発はゴーレムの頭だけでなく胸元まで抉り取った。


「!」


 背後から狼が襲い掛かろうとしていたらしいが、私が振り返った瞬間にその狼の頭に矢が突き刺さっていた。飛び掛かりかけていた狼はそのまま吹き飛ばされ、頭を貫通しかけていた矢の先端部がボロボロの家の壁に突き刺さる。


「どう?」


「さすがだ!」


 矢を放ってくれたカレンに言うと、私は先ほど頭と胸元をライフルグレネードで吹っ飛ばされたゴーレムの死体へと向けて走り出した。ゴーレムの死体へと向かう私に呻き声を発しながら両手を伸ばしてきたゾンビの顔面にグリップの中に仕込まれた小型の散弾を叩き込み、私はグリップの中から空の薬莢を排出しながら胸元まで爆発で抉り取られた死体の上に飛び乗った。


 そのまま仰向けに倒れたゴーレムの巨体の上を突っ走り、爆発で抉り取られているところでジャンプ。空中で薬莢を排出したハッチから散弾を装填し、私を巨大な腕で掴もうとしていたゴーレムの顔面へとペレット・サーベルの銃口を向ける。


 さっきはゾンビの顔面を一撃で粉砕した小型の散弾だが、さすがにゴーレムの顔面を同じ様に粉砕するのは不可能だ。でも、私はグリップのスイッチを押し、ゴーレムの顔面に小型の散弾を叩き込んだ。


 散弾が何発か、ゴーレムの岩のような外殻を突き破ったようだ。ゴーレムの顔面が散弾によって引き裂かれ、外殻の表面が真っ赤に濡れる。


 私は左手を軍帽から離すと、両手でサーベルのグリップを握った。そのまま顔面を散弾で引き裂かれたゴーレムへとサーベルの切っ先を向けて飛び掛かる。


 漆黒の刃の切っ先が、一瞬だけ火花を散らしてからゴーレムの額へと突き刺さった。外殻を突き破ったサーベルを引き抜いた私は、再び軍帽を左手で押さえながら地面に着地すると、両手で額を押さえながら絶叫するゴーレムから離れる。


 すぐにまたライフルグレネードを装着して止めを刺そうと、腰に下げてあるライフルグレネードの砲弾に手を伸ばしたが―――廃墟から放たれた1発の12.7mm弾が、私の代わりにゴーレムに止めを刺した。


 アラクネの外殻を簡単に貫通してしまう弾丸がゴーレムの胸元に飛び込んだのだ。岩のような外殻に亀裂が広がり、アンチマテリアルライフルから放たれた弾丸がゴーレムの胸に大穴を開けて貫通していく。更にその弾丸は、ゴーレムの背後で私を狙って糸を飛ばそうとしていたアラクネにも襲い掛かった。ゴーレムの胸を食い破った弾丸が、今度はアラクネの外殻を木っ端微塵に粉砕し、アラクネの下半身を消し飛ばす。


 呻き声を上げながらびくりと痙攣を続けているアラクネの上半身にスチェッキンの弾丸を撃ち込んで止めを刺した私は、力也のアンチマテリアルライフルとカレンの弓矢で次々に倒されていく魔物の群れへと向かって斬り込んでいった。







「………よし、これでアラクネは全滅だな」


 ゴーレムを貫通した弾丸がアラクネの下半身を消し飛ばしたのをスコープで確認した俺は、マガジンに残っていた2発の12.7mm弾をゴーレムへとお見舞いしてやると、OSV-96のマガジンを取り外し、板が剥がれかけている床の上に置いておいたマガジンを手に取った。


 マガジンをアンチマテリアルライフルに装着し、銃身の下に装着されているRPG-7にも新しいロケット弾を装填する。もうアラクネはあの群れの中にはいないから、あとはゴーレムを狙って狙撃するか、魔物が集まっているところにロケットランチャーを叩き込んでやるつもりだ。


 俺はスコープから目を離してエミリアとカレンとフィオナの位置を確認する。エミリアはペレット・サーベルとスチェッキンを使いこなして次々にゴブリンやゾンビを倒しているし、カレンもエミリアに接近しようとしている狼を弓矢で射抜いているみたいだ。


 俺は狙撃補助観測レーダーをちらりと見る。やや大きめの赤い点はゴーレムの反応なんだが、その点の数はあと2つになっていた。俺もさっきアラクネもろとも倒したけど、エミリアが次々にゴーレムを倒したせいだろうな。


 今回はエミリアが一番魔物を多く倒してるだろう。彼女はあまり射撃は得意ではないけど、騎士団で身に着けた剣術がある。多分、俺とエミリアが接近戦だけで戦ったら互角になるだろう。


「―――負けてられないな」


 カーソルをゴーレムへと合わせ、俺はトリガーを引いた。


 猛烈なマズルフラッシュと共に銃口から放たれた弾丸が、回転しながらゴーレムの巨体へと襲い掛かっていく。岩のような外殻のせいで高い防御力を持っているように見えるゴーレムが、1発の12.7mm弾で簡単に砕かれるのを見た俺は、すぐにスコープのカーソルを別の魔物へと向けた。


 さっきアラクネもろとも倒したゴーレムや、以前にバレットM82A3で倒したゴーレムと同じだ。弾丸があの外殻を簡単に破壊してしまうから、止めを刺す必要はない。


 エミリアから逃げようとしていたゴブリンたちにスコープを向け、俺は左手をRPG-7のグリップへと伸ばすと、ロケットランチャーのトリガーを引く。


 ロケット弾が地面に着弾し、アラクネとその近くにいた魔物を木っ端微塵に粉砕した爆発が再び魔物たちを飲み込んだ。真っ赤な爆炎と爆風の嵐がゴブリンの肉体を焼き尽くし、爆風がゾンビや狼の手足を引き千切る。


「……あと5体か」


 俺はちらりと生き残った魔物たちへと突っ込んでいくエミリアを見た。魔物たちにサーベルとマシンピストルで接近戦を挑んだ彼女を間違ってアンチマテリアルライフルで撃ってしまわないように、俺はOSV-96のトリガーから指を離した。頭にかぶっていたフードを取ると、静かに板が剥がれかけている床から起き上がり、背中に背負う時のようにOSV-96を2つに折り畳む。


 狙撃補助観測レーダーのモニターだけは展開しておいた俺は、廃墟の中であぐらをかくと、黙ってモニターを見つめていた。


 俺がアンチマテリアルライフルを折り畳んであぐらをかいている間に、5体の魔物の反応が2体に減っている。


 そして、残った2つの赤い点が同時に消滅した。


「………おいおい」


 モニターに反応がなくなっていることを確認すると、俺は狙撃補助観測レーダーも折り畳んでライフルを背中に背負った。廃墟の埃と木の臭いと、外で全滅した魔物たちの血の臭いが混ざり合う。


 俺は壁の大穴からエミリアたちに向かって大きく手を振ると、魔物たちを狙撃していたこの廃墟を離れ、彼女たちを合流するために外へと向かった。


 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] くっころ女騎士はないなーと思ってましたが安定の殺戮でしたね。
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