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エピローグ2


 懐かしい場所に立っていた。


 スーパーの前に広がる広い駐車場には、車が1台しか停まっていない。暗闇の中の駐車場を照らし出すのは、近くの電柱に用意された小さな照明だけだ。


 何十台も車を止める事ができる広い駐車場をあんな小さな照明で照らしたとしても、駐車場は薄暗いままだ。この暗闇を照らすのは、小さな照明には荷が重すぎる。


 その薄暗い駐車場の中に、2人の男がいた。片方の男は痩せ細っていて、来ている服も薄汚れている。手にはナイフを持っているようだが、どうやらそのナイフは既に一仕事したらしい。銀色の刃には真っ赤な血が付着している。


 もう片方はがっしりした体格の男性で、仕事帰りなのかスーツに身を包んでいる。彼はアスファルトの上でうつ伏せになりながら、財布を奪って逃げだす男性を睨みつけ、彼を追いかけようと足掻き続けている。だが、腹を刺されて出血した状態で起き上がり、あの男を追う事ができないのは火を見るよりも明らかだ。


 その倒れている男性には、見覚えがあった。


 髪は黒く、頭から角は生えていない。


 あの男性は――――まだ怪物になる前の俺だ。


 彼はあのまま死に、異世界へと転生しようとしているのだ。


 ならば、俺が仇を取ってやろう。そう思いながらホルスターからプファイファー・ツェリスカを引き抜き、俺は道路の方へと逃げていく車上荒らしの男へと銃口を向ける。


 そして、車上荒らしの背中に照準を合わせ、レリエルに叩き込むはずだった銀の弾丸をぶっ放した。


 スコープのカーソルの向こうで、銀の.600ニトロエクスプレス弾を叩き込まれた男が、まるで爆発で吹っ飛ばされたかのように粉々に砕け散る。いつものように親指で撃鉄ハンマーを元の位置に戻した俺は、愛用の得物をホルスターの中へと戻すと、死にかけている過去の自分の傍らへと向かう。


「――――仇は取ってやったぞ」


 血を流しながら横になっている自分に言いながら、俺はここで死んだ時の事を思い出していた。確かあの時も、俺の目の前で車上荒らしがいきなり粉々になって、その直後に随分と低い男の声が聞こえてきたんだ。


 そうか。あの声は、未来の俺の声だったのか。


 俺の仇を取ってくれたのは、10年後の俺だったのか。


「だが、お前はもう助からん」


 これからこいつも異世界に転生し、またエミリアと出会うのだろうか。もし俺と同じように異世界で生きるのならば、レリエルと相討ちになるのではなく、家族の元へと生きて帰って欲しいものだ。


「いいか? 次に目を覚ましたら、ポケットの中身を確認してみろ。大切な物が入っている」


 この端末がなければ、異世界では生き残れない。


 俺はもう死んだ。役目は力也ガルゴニスが引き継いでくれたし、子供たちも彼が育て上げてくれる筈だ。


 それに、過去のの俺もこれから異世界へと向かう。もう死んでしまった俺は、彼らの戦いを見守るべきだ。


「―――――頑張れよ、力也」


 全てを受け継いだ親友に向かってそう言った俺は、踵を返して暗闇の中へと歩き出した。


 そろそろ眠ろう。――――俺はもう、死者なのだから。



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