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転生者が子供たちを助けに行くとこうなる

 何が起きたのか全然分からなかった。いきなり腕を引っ張られたかと思うと、大きな手で口を押えられて、そのまま知らない男の人たちにタクヤと一緒に連れ去られちゃったの。


 タクヤは連れ去られながら何かを道にばら撒いてたみたいなんだけど、パパたちはそれに気づいてくれるかな・・・・・・?


 怖いよぉ・・・・・・。


「へぇ。可愛らしいガキ共じゃねえか」


「ああ。こりゃ商人や貴族に高値で売れるぜ。最近は幼い子供が好きな貴族が多いからなぁ・・・・・・」


 私たち、どうなっちゃうんだろう・・・・・・?


 私の隣には、手足を縛られて猿ぐつわで口をふさがれたタクヤが座っている。タクヤも不安そうな顔をしてるけど、私の顔を見てから微笑んでくれた。


「でもよぉ、このまま売るのは勿体ないよなぁ」


「何言ってんだよ、このロリコン」


「だってさ、2人とも可愛いじゃん。特にこっちの髪が蒼い方は気が強そうでさぁ」


「おいおい、売り物にするんだからあまり汚すんじゃねえぞ?」


「はいはい」


 話をしていた男の人が部屋の中に入って来た。その男の人は私の隣に座っていたタクヤの服を掴んで立たせると、ニヤニヤと笑いながらタクヤを部屋の外へと連れて行こうとする。


 やだ・・・・・・タクヤを連れて行かないで・・・・・・!


「んーっ!!」


 叫ぼうとするんだけど、私も猿ぐつわで口をふさがれているから声が出せない。


 やだよ・・・・・・このままじゃ、タクヤが連れて行かれちゃう・・・・・・!


 パパ、早く助けに来て・・・・・・!








 大通りに落ちていた薬莢の列は、王都の西にあるスラムの方へと続いているようだった。既に俺たちは大通りを離れ、ボロボロの木造の建物が連なるスラムへと入り込んでしまっている。薄汚れた服に身を包んだスラムの住人たちが恨めしいような目つきで睨みつけてくるのを無視しながら進んだ俺は、舗装もされていない地面の上に落ちている薬莢を確認しながらスラムの奥へと進んでいく。


 くそ、誰が俺たちの子供たちをさらっていきやがったんだ? 前に新聞で読んだ奴らと同じ奴らなのか? それとも、俺たちに恨みを持っている奴らが人質にするためにさらって行ったのか?


 見つけたら殺してやる。命乞いしてきても関係ない。ナイフで切り刻んで挽肉みたいにぐちゃぐちゃにしてやる・・・・・・!


 地面に落ちている薬莢を辿り続けていると、その薬莢の列がついに途切れてしまった。途切れた列の先に鎮座しているのは、錆びついた鉄柵に囲まれた2階建ての廃墟だった。大きさは普通の家と変わらない。ここがスラムと化す前には普通の住民が住んでいたんだろう。すっかり掠れて読めなくなった表札に出迎えられた俺は、ガルちゃんとエリスの顔を見てから、端末を取り出して武器を装備し、2人に銃を渡す。


 俺が装備したのは、アメリカ製リボルバーのスタームルガー・スーパーブラックホーク。タクヤが射撃訓練の際に早撃ちをするのに使っているリボルバーと同じもので、強力な.44マグナム弾を使用するシングルアクション式のリボルバーだ。


 エリスには3点バースト射撃が可能なベレッタM93Rを渡し、ガルちゃんにはイスラエル製SMGのミニウージーを手渡しておく。咄嗟に生産したものであるため、全くカスタマイズはしていない。


 2人が安全装置セーフティを解除したのを確認した俺は、2人に向かって頷いてから静かに錆だらけの鉄柵を飛び越えた。約80kgくらいの体重がある俺が乗った瞬間、錆だらけの鉄柵が少しだけ軋んだ。


 だが、気付かれるほど大きな音ではない。一瞬だけどきりとした俺は、構わずにそのまま廃墟の敷地内へと3人で侵入し、入り口を探し始める。


 犯人が薬莢に気付いて片付けたような様子はないため、ここに子供たちが監禁されている可能性は高い。だが、どこに監禁されている? 大穴が開いているドアの方をちらりと見てみるが、1階には人がいる気配はない。それに1階の壁にはいくつも大穴が開いているから、場所によっては建物の中が丸見えだ。拉致した子供を監禁するような場所じゃない。


 監禁するのに使うとすれば、比較的穴が開いていない2階の方だろうか。


 エリスとガルゴニスも同じように考えたらしい。俺と同じく2階の方をじっと見つめていた2人が、俺の方を見てから頷いた。


 木箱の陰から立ち上がって移動する前に、俺はもう一度周囲を確認した。見張りは見当たらない。少なくとも犯人は大人数ではないということだ。1人から3人程度だろう。見張りをさせる人数はいないことは確かだ。


 タクヤが薬莢を道にばら撒いて場所を教えてくれなければ、俺たちの子供は今頃連れ去られて、誰かに売られるか、俺たちに脅迫する際の人質にでも使われていたことだろう。タクヤは悪ガキになるかもしれないが、賢い子供だ。さすがエミリアの子供だな。


 壁に開いた大穴から家の中に入ろうとしたその時だった。


 静かだったスラムの中に、この建物の2階から聞き慣れた轟音が響き渡ったんだ。猛烈な轟音が建物の中から飛び出してスラム中を駆け回り、残響へと成り果てていく。


「銃声・・・・・・!?」


「うそでしょ・・・・・・!?」


 馬鹿な。銃声・・・・・・?


 子供たちが銃を使うのは、射撃訓練か狩りに行く時だけだ。それ以外の時はまだ銃は渡さないようにしているし、勝手に持ち出されないように装備もちゃんと解除している。だから子供たちが銃を持っていたとは考えにくいし、第一子供たちは仕事が休みだったエリスと一緒に買い物をしている最中だったんだ。6歳の子供が護身用にと銃を持って行くわけがない。


 ならば、誰が銃を持っていた? 子供たちを誘拐したクソ野郎か?


 この世界には銃は存在しない。だが、銃声が聞こえてきたということは――――子供たちを誘拐した奴が、転生者だったという可能性がある。


 何故撃った? まさか、子供たちを―――――。


 嫌だ。それ以上は親として考えたくはない。


「やだ・・・・・・やだよぉ・・・・・・タクヤ、ラウラぁ・・・・・・!」


「エリス、しっかりしろ。・・・・・・きっとあいつらは無事だ」


 泣き崩れそうになる妻を励ました俺は、彼女とガルちゃんを連れて2階へと続く階段を探した。大穴が開いている床を飛び越え、2階へと続く階段を見つけた俺は、大慌てで2階へと向かって駆け上がり始めた。


 2階からは続けて銃声が聞こえてくる。だが、聞こえてくる断末魔は子供たちのものではなく、男性の断末魔だ。子供の声にしては低すぎる。


 くそったれ・・・・・・。子供たちは無事なのか!?


 腐食した床板が発する臭いの中を駆け上がり、2階の廊下へと辿り着いた俺たちは、そのまま銃声が聞こえてきた部屋の中へと突入しようと足を踏み出す。


 すると、部屋の中から響き渡ってくる男性の断末魔が段々とドアの方に近付いてきていることに気が付いた。激痛に握り潰されかけている男性が、必死に命乞いをしているようにも聞こえる。


 一体、部屋の中で何が起きている・・・・・・?


 おかしいと思った直後、いきなり部屋のドアが薄汚いシャツを着た大柄な男性の背中によって突き破られ、部屋の中に響き渡っていた男性の絶叫が廊下の方へと流れ出してきた。俺は咄嗟にその男性へと銃口を向けるが、部屋の中から吹っ飛ばされてきた男性の身体には、既に2つほど風穴が開いている。肩と太腿の辺りは風穴から流れ出た鮮血で真っ赤に染まっていた。


「え・・・・・・?」


 ゆっくりと銃を下げながらぎょっとするエリス。俺は銃を下ろさずに、黙ってその男性へと銃口を向け続ける。


「よくもラウラを・・・・・・!!」


「ま、待ってくれっ! お、俺が悪かった・・・・・・頼む、もうやめてくれよぉっ!!」


 必死に命乞いをする男。だが、それは銃を向けている俺たちに対してではなく、その男に風穴を開けた存在に対しての命乞いだった。


 何があったのかと考察し始める前に、男性に風穴を開けた存在が火薬の臭いを纏いながら部屋の中からゆっくりと姿を現す。血を流しながら廊下に倒れ込み、みっともなく命乞いをしている男性と比べるとあまりにも小柄な人影だった。まだ幼い顔つきは少女のようで、長めの蒼い髪をポニーテールにしているから女のようにも見えてしまう。


 その小さな人影が手にしているのは――――かつてドイツ軍が第二次世界大戦の際に使用していた、SMGのMP40だった。細長い銃身と長いマガジンが特徴的な旧式のSMGを握った小さな人影は、左手でSMGのマガジンを握り、真っ赤な瞳で睨みつけながら怒りと殺意で男を貫き続けている。


「なんじゃと・・・・・・?」


「た、タクヤ・・・・・・?」


 最愛の子供たちの片割れの姿を目の当たりにしてから、俺はやっと銃を下ろした。


 タクヤは6歳の子供とは思えないほど鋭く恐ろしい目つきで男を睨み続けていた。俺はスタームルガー・スーパーブラックホークを腰のホルスターに戻すと、首を横に振ってから息子の傍らへと歩き始める。


 まだ早いぞ、タクヤ。


 そう思いながら銃を構えるタクヤの近くへと立った俺は、素早く右足を振り上げてMP40の細い銃身を蹴り上げた。グリップとマガジンを握っている小さな手から、ドイツ製のSMGがくるくると回転しながら舞い上がる。


 タクヤは俺と同じく種族はキメラだ。普通の人間よりも身体能力は極めて高い。だが、キメラとはいえまだ6歳の子供だし、俺も彼と同じくキメラだ。身体能力の差は人間の大人と子供の差と変わらない。


 舞い上がったSMGをタクヤよりも先にキャッチした俺は、自分の父親がいつの間にか近くにいたことに気付いて驚く息子の顔を見下ろしながら言った。


「――――まだ、手にかけるな」


「あ・・・・・・お、お父さ―――――」


 キャッチしたMP40のセレクターレバーをフルオート射撃からセミオート射撃へと切り替えた俺は、グリップを右手で持つと、まるで片手でハンドガンをぶっ放すかのように銃口を男の息子へと向け、トリガーを引く。


 銃声に呑み込まれる男の絶叫。俺は絶叫する男を無視すると、いきなり俺が現れたことにまだ驚いているタクヤに問い掛ける。


「・・・・・・ラウラは?」


「部屋の中に・・・・・・」


 はっとした俺は、タクヤから奪ったMP40を構えたまま部屋の中を見渡した。相変わらず腐食した床の木が発する悪臭のする部屋の中には、同じように足や肩を9mm弾で撃ち抜かれた2人の男が、呻き声を上げながら倒れていた。その部屋の中央には、手足を縛られ、身に着けていた服を脱がされかけた状態のラウラが横になっているのが見えた。


 愛娘の姿を見た瞬間、今まで感じた激痛よりも凄まじい痛みに襲われたような気がした。もちろん、物理的な痛みではない。既に同じ痛みを10年前に味わっていた俺は、MP40を床に置き、ぶるぶると震える両手をそっと娘の小さな体へと伸ばす。


 あの時と同じ痛みだ。――――10年前に、エミリアがジョシュアに殺された時と同じ痛み。そして、フィオナが転生者に消滅させられた時と全く同じ痛みだった。


「ラウラ・・・・・・ラウラ・・・・・・?」


「パ・・・・・・パ・・・・・・・・・?」


 不安になりながら彼女の小さな体を揺すっていると、ラウラの目がそっと開いた。よく見ると、薄暗い部屋の中に横になっていた彼女の顔にも、殴られた跡と痣がある。タクヤと同じく、こいつらに暴行を受けたに違いない。


 だからタクヤは怒り狂ったのか。自分の大切な姉をこいつらに傷つけられたから、普段は大人しいこの少年は激昂したんだろう。


 懐からボウイナイフを取り出した俺は、鞘から引き抜いたそのナイフでラウラの手足を縛っていた縄を切り裂くと、脱がされかけていた服をちゃんと着させてから、まだぶるぶると震えている娘を抱き締める。


「助けに来たよ、ラウラ・・・・・・」


「パパ・・・・・・? パパぁっ!!」


「もう大丈夫だよ。ママとガルちゃんも一緒だ」


「うっ・・・うぅ・・・・・・」


 泣き始める娘の頭を優しく撫でていると、部屋の外にいたエリスに抱き締められていたタクヤが、エリスと一緒に部屋の中へとやって来た。大切な姉弟を傷つけられた怒りはまだ消えていないらしく、目つきは鋭いままだ。


 6歳の少年とは思えない目つきの息子を見つめていると、俺に抱き付きながら泣いていたラウラが、涙声で話し始めた。


「このおじさんたちね、タクヤをどこかに連れて行こうとしたの・・・・・・。でも、ラウラは口をふさがれてて・・・・・・。そしたらおじさんが怒って、ラウラを・・・・・・殴ってきたの・・・・・・」


「・・・・・・」


「とっても痛かったよぉ・・・・・・。そしてね、そのおじさんがラウラの服を脱がせようとしてきたの・・・・・・。タクヤが止めようとしてくれたんだけど、今度は・・・・・・ぐすっ、タクヤがぁ・・・・・・!」


「そっか・・・・・・」


 まだ6歳の子供になんということを・・・・・・!


 ラウラが泣き止むまで娘を抱き締めていた俺は、やっと泣き止んでくれたラウラから手を離すと、子供たちをエリスに任せることにした。


「ママぁっ!」


「ラウラ・・・・・・よかった・・・・・・!」


 涙を流しながら痣だらけの娘を抱き締めるエリス。再び泣き出すラウラを見守っていた俺は、今度はまだ呻き声を上げている男たちを睨みつけた。


 こいつらはもうタクヤに手足を撃ち抜かれて動ける状態ではない。十分痛めつけられている。だが、ラウラとタクヤはこいつらよりも辛い思いをしたんだ。


「エリス、ガルちゃん。子供たちを連れて外で待っててくれ」


「む? 何をするつもりじゃ?」


 ガルちゃんの質問に答える前に、俺は先ほど廊下で息子を撃ち抜かれた男の元へと向かった。その男は呻き声を上げながら、近づいてきた俺に必死に命乞いをするが、こいつを助けてやるつもりはない。


 男のシャツの襟を掴んだ俺は、下半身から血を流している男をずるずると部屋の中まで引きずって来ると、壁の方で呻き声を上げている仲間たちに向かって放り投げた。


「・・・・・・ちょっとこいつらに仕返しをね。外に出たら、子供たちには耳を塞ぐように言っておけよ」


 こいつらの絶叫だけでトラウマになるかもしれないからな。それに、子供たちに嫌われるのは嫌だし。


 にっこりと笑いながらそう言うと、ガルちゃんは苦笑いしてからタクヤを連れて廊下へと向かって歩き出した。娘を抱き締めていらエリスも、まだ腕にしがみついているラウラを連れて部屋を後にする。


 家族の足音が聞こえなくなってから、俺は床に転がっていたボウイナイフを拾い上げた。まだラウラを縛っていた縄を切っただけだから、漆黒の刀身は全く汚れていない。指先で刀身をなぞりながらにやりと笑うと、壁際で呻き声を上げていた男たちが一斉に目を見開いた。


「た、頼む・・・・・・! 許してくれぇ・・・・・・!!」


「もう二度と娘には手を出さないから・・・・・・なあ、頼む!」


「黙れ、ロリコン共め」


 許すわけがないだろうが。まだ6歳の子供を殴りやがって。


 子供たちを誘拐した男たちが、怯えながら俺を見上げている。彼らは何とか俺から逃げようと足掻いているようだが、手足を撃ち抜かれている上に、逃げるためには俺の後ろにある破壊されたドアから逃げ出さなければならない。


 全く動かなくなった手足で、俺から逃げられるわけがない。


 男たちに濃厚な恐怖を与えるために少しずつ距離を詰めていく。このままナイフを突き立てればこいつらに止めを刺せるだろうが、それですぐ終わってしまう。こいつらには最高の恐怖をじわじわと与えなければ。


「――――俺は昔、1人暮らしをしていてな。おかげで料理は色々と作れるようになった」


 もちろん、これは転生する前の話だ。今は妻たちや子供たちと一緒に幸せに暮らしている。


「得意な料理はハンバーグでな。今ではたまに家族に手料理を振る舞う事がある」


 ボウイナイフを指でなぞるのを止め、くるりと回転させてからグリップを握る。冷たい目で見降ろされた男たちが、一斉にぶるぶると震え始めた。


 もう、命乞いをする弱々しい声も聞こえてこない。子供たちはちゃんと耳を塞いでくれているだろうか?


「――――――もしよろしければ、今から実演しよう」


 当然ながら、使う肉はこいつらだが――――。








 いつの間にか、廃墟の外には黒い制服とシルクハットを身に着けた8名ほどの紳士たちが整列していた。手にしている杖は、おそらく内部に剣を仕込んだ仕込み杖だろう。横に一列に整列した彼らは、彼らを率いていた蒼い髪の女性が痣だらけの自分の子供を抱き締めて泣き崩れているのを見守っているようだ。


 ハンカチでボウイナイフの刀身にこびりついた鮮血と小さな肉片を拭き取った俺は、猛烈な血の臭いがするスーツに身を包んだまま顔をしかめた。


「エミリア」


「り、力也か・・・・・・」


 タクヤを抱き締めていたエミリアは、涙を制服で拭い去ってから顔を上げた。彼女も子供が心配だったんだろう。


「犯人は?」


「あの中だ。――――できれば見ない方が良い、トラウマになるぞ」


「む? トラウマ?」


 聞き返してきたエミリアに、俺はちらりとボウイナイフを少しだけ鞘から引き抜いてみせた。ハンカチでしっかりと拭き取ったつもりだったんだが、刀身にはまだ肉片と血が残っている。


 それを見て顔をしかめたエミリアは、頷いてから踵を返した。


「さあ、帰りましょう」


「うんっ!」


 子供たちが無事でよかった・・・・・・。


 そう思いながら、部下たちに指示を出すエミリアと手を繋いでいるタクヤを見下ろした。


 タクヤはあの時、俺が渡した覚えのないMP40を持って犯人たちの手足を撃ち抜いていた。あの銃声もMP40のものなんだろう。だが、俺は息子にあのSMGを渡した覚えはないし、買い物に持って行くわけもない。それに、子供たちが訓練で使った事がある銃はボルトアクション式のライフルや、M1ガーランドのようなセミオートマチック式のライフルだけだ。リボルバーやハンドガンも使った事はある筈だが、フルオート射撃が可能な銃を使わせた覚えはない。


 もしかしたら妻たちやガルちゃんが使い方を教えた可能性はあるかもしれないが、もし使いこなせていたとしても、あのMP40はどこから持ってきたのだろうか?


 そういえば、タクヤは初めて狩りに行った時、俺にライフルを持たせてくれと言ってきたことがある。俺は持たせるくらいならば問題ないだろうと思い、装填されていたライフル弾を全て取り出してからタクヤに持たせたんだが、あいつは空になったライフルを渡されてからすぐに、ライフルを構えていた。


 しかも、明らかに見様見真似ではない。既に構え方を知っていたかのような感じだった。


 まさか、あの子供は―――――。


 組み上がりかけた仮説を、すぐにそんなわけがないだろうという気持ちが否定する。だが、信じたくはないがおそらくこの仮説は的中する事だろう。

 

「タクヤ、家に帰ったら地下室に来なさい」


「え?」


「お話がある」


 確かめなければならない。


 この子が、本当に普通の子供なのか。


 この仮説が外れていることを祈りながら、俺はエミリアと手を繋ぎながら家へと帰っていく我が子を見送った。









 地下室のドアが、いつもより重くなったような感じがした。


 それはこの仮説のせいだろうか? この仮説が的中するかもしれないと不安になっているから、ドアが重く感じてしまったんだろうか?


「あ、お父さん」


 簡単に蹴破れそうな木製のドアの向こうには、やはりタクヤが待っていた。いつもならば今頃は子供たちが夢中に射撃訓練をしている筈なんだが、今日は静まり返っている。ラウラは今頃、エリスと一緒に眠っている筈だ。


 俺は端末を取り出して自衛隊で使用されている89式自動小銃を装備すると、そのアサルトライフルをタクヤに手渡す。タクヤは驚きながら89式自動小銃を受け取ると、銃を抱えたまま俺の顔を見上げてきた。


「そいつを構えて、セレクターレバーをセミオート射撃からフルオート射撃に切り替えてみろ」


「う、うん」


 SMGサブマシンガンを使っていたのならば、セレクターレバーの切り替えでセミオート射撃やフルオート射撃の切り替えが出来るというのは知っている筈だ。だが、普通のアサルトライフルのセレクターレバーはグリップの左側についているんだが、この89式自動小銃のセレクターレバーは右側に装備されている。


 切り替えてみろと言われたタクヤは、俺の顔をちらりと見てから、グリップの左側を見た。


「――――あれ?」


 目を見開きながら驚く息子の顔を見て、俺は苦笑した。


 あの89式自動小銃は、カスタマイズでセレクターレバーを右側から左側へと変更していたんだ。もし俺の仮説通りならば、タクヤは89式自動小銃のセレクターレバーが右側にあるということを知っている筈。だが、怪しまれないように知らないふりをするだろう。


 だから、裏をかいた。


 やはり、俺の仮説は的中していたようだ。


「――――タクヤ、正直に言え」


「え・・・・・・?」


 いつも息子に話しかける時のような声音ではなく、敵に向かって話す時のような冷たい声音に変えた俺は、腰のホルスターからプファイファー・ツェリスカを引き抜き、困惑しているタクヤの頭へと銃口を向けた。


「――――――お前は、本当に俺たちの子供か?」





仕返しのシーンも書こうと思ったのですが、グロすぎると思ったのでカットしました(笑)

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