最低な能力
「これが勇者の切り札か・・・・・・」
死体たちが流す血で真っ赤に汚れた床を踏みつけながら、私は目の前のモニターの向こうに見える巨大な金属の柱を見上げた。
それは、ただの金属の柱などではない。強力なエンジンを搭載し、たった1発だけで大都市をネイリンゲンのように焼け野原にしてしまう恐ろしい兵器。この世界に決して存在する筈のなかったこの兵器を持ち込んだのは、かつて私たちを利用していたあの男だ。
奴はこれを使って、この世界を支配しようとしている。転生者たちが世界を支配するようになれば、この世界の人々は全員彼らの奴隷にされてしまうだろう。この世界は、あらゆる街で見かけてきた奴隷の市場へと変貌してしまうのだ。
強力な力を持つ転生者による世界の統治。それが、勇者の計画。
如月さんは、あの雪山に搬入される核弾頭を見つめながら、反旗を翻すべきだったと何度も悔しそうに呟いていた。だが、彼だけの責任ではない。私も副司令官として、もっと彼の背中を押していればよかったのだ。反乱を起こし、あの勇者を討ち取るべきだと。
だが、私も奴の力に屈してしまっていた。我らの戦力では勇者には敵わないと、勝手に屈服して彼らに利用されてしまっていた。
しかし、モリガンの傭兵たちが私たちを解放してくれた。
「李風さん、制御装置を発見しました。もう発射体勢に入っていますが・・・・・・」
「よし、ハッキングを。発射準備を中断して、ミサイルの発射を阻止するんだ」
「はっ!」
私に敬礼をしてから、部屋の中に鎮座する巨大なコンソールをタッチし始める部下たち。ここで制御装置のハッキングに成功し、ミサイルの発射を阻止すれば、あとは全ての戦力を敵の殲滅と勇者の撃破に向ける事ができるようになる。
奮戦しているモリガンの傭兵たちを救うためにも、何とかミサイルの発射を中止させなければならない。
今頃、同志ハヤカワたちは勇者と戦いを始めていることだろう。勇者は最強の転生者だ。一刻も早く作業を終わらせ、彼らを支援しなければ。
そう思いながらモニターの向こうの核ミサイルの巨体を見上げていると、背後から室内に飛び込んできた1発の弾丸が、私の頭のすぐ近くを掠め、モニターの画面を粉々に砕いてしまった。
弾け飛んだ小さなガラス片が顔に突き刺さる痛みを押し返すように「敵襲だッ!!」と部下たちに向かって叫んだ私は、急いで制御室の入口の陰に隠れ、愛用の95式自動歩槍を構えた。
キャリングハンドルの上のホロサイトを覗き込み、銃口を通路の方へと向ける。どうやら他の場所を警備していた兵士たちが、制御室を制圧されたことに気が付いて奪還しに来たらしい。
「踏ん張れ! ここを死守するぞ!」
ここを奪還されたら、核ミサイルの発射阻止という目的が潰えてしまう。つまり、2発目の核ミサイルがこの世界に向かって放たれることになる!
もう核を撃たせてなるものか。なんとしても、核ミサイルは撃たせないッ!
同志ハヤカワは死ぬなと演説で言っていたが、ここは必ず守り切らなければならないのだ。
「コンタクトォッ!!」
そう叫びながら、私はアサルトライフルのトリガーを引いた。
確かにスコープのカーソルの向こうには、天城の顔があった筈だった。だが、トリガーを引いてスコープのレンズの向こうで輝いたマズルフラッシュが直後には、そこに天城の顔は見当たらなかった。
凄まじい速度で移動したというわけではないだろう。まるでいきなり消滅してしまったかのように、スコープの向こうから天城がいなくなっていたんだ。
「なに・・・・・・?」
馬鹿な。
スコープから目を離しながら、俺は広間の中を見渡した。転生者はレベルが上がれば、攻撃力と防御力とスピードの3つのステータスが上昇していく。レベルが高い転生者ならば、本気を出せば戦闘機並みの速度で突っ走ることも可能だ。
だが、明らかにこれはその速度を超えている。まさか、さっきの転生者たちのように透明になったのか? そう思った俺はちらりと仲間たちの方を振り向いてみるが、3人とも首を横に振っていた。
先ほど敵の奇襲に気付いたエミリアでも、今の動きは見えなかったらしい。
「――――遅すぎるよ」
「なっ!?」
天城の声が聞こえてきたのは、広間の左側の方だった。
反撃されるのではないかと警戒しながら大慌てでシャープシューターの銃口を向けると、腕を組んだ天城が壁に寄りかかりながら、俺たちの事を嘲笑っていた。
どういうことだ? 一瞬で移動したということか?
だが、弾丸を回避した上にあんなところまで移動できるわけがないだろう。明らかに50m以上は移動したということになるぞ・・・・・・!?
「力也、あれは転生者のスピードなのか・・・・・・?」
「いや、あれは・・・・・・なんだか違うぞ」
あれは転生者の動きではないような気がする。転生者のレベルがどこまで上がるのかは不明だが、仮に勇者のレベルが1000を超えていたとしても、弾丸を回避した上にあんなに移動するのはありえない。
ならば、端末で何か能力を生産したのか? だが、高速移動ができるようになる能力はあるが、高速移動とは言ってもせいぜい自分のスピードのステータスの1.5倍程度だった筈だ。スキルでスピードのステータスを底上げした上で高速移動の能力を装備したとしても、あんな速度を出すことは不可能だ。
あれは高速移動ではないのか?
「なかなか速いのね・・・・・・。でも、フルオート射撃は避け切れるかしら!?」
XM8を構えたエリスが、そう言った直後にトリガーを引く。どうやってあんなに移動したのかは不明だが、マークスマンライフルのセミオート射撃よりも、カービンのフルオート射撃の方が回避は難しい。もしかすると今度は被弾してくれるかもしれないと思いながら、俺もスコープを覗き込み、今度こそ勇者の顔面にシャープシューターの6.8mm弾をお見舞いするためにトリガーを引く。
エミリアとフィオナも、XM8とP90で同時に射撃を開始した。マークスマンライフルを装備している俺を除く3人のフルオート射撃ならば、全て回避するのは不可能だろう。被弾して体勢を崩したところに、彼女たちの弾丸よりも口径のでかい俺の6.8mm弾をプレゼントしてあげよう。
そう思いながら俺はマズルフラッシュの向こうで勇者を食い破るために突進していく獰猛な弾丸たちを見守っていた。
天城の奴は壁に寄りかかったまま腕を組み、ニヤニヤ笑いながら俺たちの方を眺めたままだ。またさっきみたいに回避しようとするのならば、動き出す直前に狙撃して、5.56mm弾の嵐の中に叩き落としてやるまでだ。
さあ、避けてみろ!!
「――――ハハハッ」
ゆっくりと天城が壁から背中を離す。真っ白なマントを揺らしながら腕を組むのを止めるが、もう5.56mm弾は直撃寸前だ。もう回避は出来ないだろう。
6.8mm弾で追撃してやろうとトリガーを引きかけたその時だった。
――――無数の5.56mm弾の目の前から、真っ白な制服とマントを身に着けた憎たらしい勇者の姿がいきなり消えていたんだ。
「――――は?」
エリスやエミリアたちがぶっ放した無数の5.56mm弾は天城の肉体をズタズタにすることはなく、殺風景な灰色の壁面やモニターを代わりに食い破り、無数の破片を綺麗な床の上にまき散らすだけだった。
穴だらけになった壁を見た俺は、思わず「消えた・・・・・・?」と呟いていた。
今のは、明らかに高速移動などではなかった。俺が弾丸をぶっ放したわけではなかったため、今度は先ほどよりもよく見えたんだ。
無数の弾丸が着弾する寸前で、確かに天城は消えていた。
「馬鹿な・・・・・・消えただと!?」
『な、何も見えませんでしたっ!』
どういうことだ? あんな能力は見たことが無いぞ!?
「――――だから、遅すぎるよ」
「!!」
今度は俺たちの後ろの方から天城の声が聞こえてきた。ライフルを構えたまま後ろを振り返ると、先ほどまであの穴だらけにされた壁の前に立っていた筈の勇者が、俺たちが入って来た入り口の近くに立っていたんだ。
ありえない。あんなスピードで移動できるわけがない。
「君は第二の魔王になりかねない危険人物だと思ってたんだけどねぇ・・・・・・」
残念そうにため息をつく天城。奴はため息をつきながら右手に持っていたバスタードソードの切っ先を俺へと向けると――――再び姿を消し、いきなり俺の目の前に姿を現した!
「!?」
「――――期待外れだよ。ただの雑魚じゃん」
いきなり距離を詰められるとは思っていなかった。いや、あんな速度で移動できるような相手なのだからいきなり接近してくる可能性があると警戒するべきだったのかもしれない。でも、警戒したとしても弾丸を回避した上に50m以上も一瞬で移動できるような速度を持つ相手の動きに反応し、攻撃を躱す事ができるわけがない。
狙撃するつもりでマークスマンライフルを持っていた俺は、いきなり目の前に現れた勇者の姿に驚きながらも、咄嗟にシャープシューターを投げ捨てて腰から仕込み杖を取り出していた。
分離させて刀身を展開する余裕はない。杖の状態のまま両手で持って柄を突き出す。勇者は剣を振り下ろしてきたが、マークスマンラフルの銃剣で応戦しようとはせず、咄嗟に銃を投げ捨てて接近戦に切り替えたおかげで、勇者の一撃をガードする事には成功した。
だが、奴の剣戟の重さは予想以上だった。重戦車がのしかかってきたのではないかと思ってしまうほどの重さの剣戟が、凄まじい速度で振り下ろされてきたんだ。その剣戟の速度は明らかにエミリアやエリス以上。もしかしたら俺よりも速いかもしれない。
「くっ・・・・・・!」
「あらら、ガードしたのか」
「ダーリン!」
カービンに装着されているナイフ形銃剣を突き出し、俺が剣を受け止めている間に攻撃しようとするエリス。勇者は俺に剣を押し付けている最中だが、剣を握っている手は右手の身。盾を装備した左手は開いている。盾でガードされる可能性があるが、エリスが銃剣での刺突を仕掛けたのは勇者から見て右側。盾でガードできる範囲ではない。
それにしても、片手でこの剣戟かよ・・・・・・! 両手で剣を振り下ろされたら、もしかしたらガードできないかもしれないぞ!?
だが、俺の中の憎しみは、実力差に屈したわけではない。もしエリスの攻撃が受け流されてしまったのならば、すぐに勇者に蹴りを叩き込んで体勢を崩し、そのまま義足のブレードで斬りつけてやるつもりだ。
ピエールやサラの仇だ。お前は必ず討ち取る!
「はぁっ!」
「うるさいなぁ」
勇者はめんどくさそうに言いながら、なんと一瞬でバスタードソードの柄から右手を離して左手で掴み、そのまま俺へと剣を押し込み続けると、右手でエリスのカービンを横へと受け流し、そのまま右手でエリスの首を掴んだ。
どちらの手がこいつの利き手なのかは不明だが、剣を押し込もうとする力は全く変わらない。
「え、エリスぅっ!!」
「この女、お前の奥さん? なかなか美人だね」
「ぐっ・・・・・・がぁ・・・・・・!!」
「よし、お前をぶっ殺したら俺の奴隷にしよう」
ふざけんなよ・・・・・・! 俺の妻は渡さねえッ!!
先端部がダガーのようになっている尻尾を天城へと向けるが、その尻尾を突き出す前に天城は右手でエリスの身体を持ち上げると、ニヤニヤ笑いながら彼女を壁に向かって放り投げた。
「エリスッ・・・・・・!!」
天城に放り投げられたエリスはコンクリートの壁に背中を叩き付けられると、口から血を吐き出しながらうつ伏せに崩れ落ちた。彼女は何とか手を伸ばしてカービンを拾い上げ、コンクリートの壁に勢いよく叩き付けられたにもかかわらず立ち上がろうとしているけど、かなりダメージを負ってしまったらしく、立ち上がることに失敗して今度は床に身体を叩き付けてしまう。
よくも俺の妻を・・・・・・!
「天城ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」
「やかましいよ」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
嘲笑いながら剣を仕込んで来る天城を睨みつけながら、俺は尻尾を突き出した。もしこの尻尾を受け止めたのならば、そのまま仕込み杖で反撃してやる!
天城は尻尾で攻撃されたのが予想外だったらしく、少しだけ驚いたようだけど、そぐに俺の事を嘲笑い始めると、盾を構えて俺の尻尾を弾き飛ばした。弾丸が跳弾したような音が広間に響き渡り、盾の表面で煌めいた火花たちが床へと落ちていく。
だが、盾でガードするために一瞬だけ天城の力が抜けた。俺は何とか天城の剣を押し返すが、すぐにまた剣を振り下ろしてくるに違いない。仕込み杖を分離させて刀身を展開している余裕はなかった。
俺はそのまま杖の柄を握ると、ドラゴンの頭を模した装飾がついている杖をハンマーのように振り回した。刀身が仕込んであるとはいえ、重量は騎士団で採用されているハンマー以下だ。転生者がこれを使って敵を殴りつけたとしても、その殺傷力はたかが知れている。
それでも、俺はドラゴンの頭を模した装飾の部分で、思い切り天城の頬を殴りつけた。漆黒の装飾が天城の頬にめり込み、奴の顔から神経を逆なでするような嘲笑をかき消してしまう。
憎しみを込めて杖で殴りつけた俺は、そのまま杖を振り払ってからもう一度天城の頭を杖で殴りつけた。俺から見て右側から左側へと振り払われた杖がまたしても天城の顔面を直撃する。
そしてそのまま杖を振り払い、俺は反時計回りに回転しながら左足のブレードを展開し、奴の首を狙って義足を蹴り上げた。
こいつは俺よりも防御力が高いだろう。だが、本気で攻撃を叩き込めば両断できる筈だ。
だが、この義足のブレードは天城の首には命中しなかった。どうやら杖で殴りつけられた直後にまた姿を消して別の場所に移動していたらしく、獲物に逃げられてしまった俺は義足のブレードを空振りする羽目になってしまった。
「ちっ」
天城の舌打ちが聞こえる。俺の攻撃を2発も喰らって腹を立てているらしい。
調子に乗るからだよ、ガキ。
そう言ってやりたかったが、あいつは片手の腕力で俺を押し込んでしまうほどの力を持っている。俺は何も言わずに奴を睨みつけながら杖の柄を捻って2つに分離させ、両刃の刀身を展開すると、姿勢を低くしてから天城に向かって突っ込んでいった。
「エミリア! フィオナ! エリスを頼む!」
「力也、無茶をするなッ!!」
確かに無茶かもしれないが、ダメージを受けたエリスをフィオナが治療している間は2人とも動けなくなってしまう。天城が彼女を達を狙い始めた場合に備えて、2人を俺かエミリアが護衛しなければならない。
だから俺は、護衛をエミリアに任せることにした。
出来るならばダメージを与える。可能ならば、あの姿を消して一瞬で移動する能力を見破ってやるさ。
左手の剣を逆手持ちに構えながら天城に接近した俺は、右手の剣を突き出してから、まるで殴りつけるように左手の逆手持ちの剣を振り払った。だが、天城は俺の剣戟が身体にめり込む直前にまたしても姿を消し、俺から距離を取ってしまう。
くそ、あの能力は何なんだ!?
天城は俺を嘲笑うのを止めると、右手に持っていたバスタードソードをいきなり腰の鞘に納めた。左手の盾も投げ捨てると、今度はその両腕を腰の後ろのホルスターへと突っ込み、その中に納まっていた拳銃を引き抜いた。
ホルスターの中から姿を現したのは、木製のグリップとがっちりした6発入りのシリンダーを持つリボルバーだった。おそらくあのリボルバーは、イタリア製リボルバーのマテバ6ウニカだろう。銃身の長さは2丁とも8インチほどで、シリンダーも若干大型化しているようだ。
天城は無表情でマテバ6ウニカのトリガーを引いた。マズルフラッシュと銃声の大きさは、明らかに普通のマグナム弾ではない。おそらくあのシリンダーの中に装填されている弾丸は.44マグナム弾ではなく、破壊力が非常に大きい.454カスール弾だ!
仕込み杖の剣を振り回し、放たれた.454カスール弾を弾き飛ばす。戦闘中に破損するのを防ぐため、装備している武器の強度はアップグレードで強化しているようにしているから、連続で放たれる.454カスール弾を弾いている仕込み杖の刀身にはまだ傷はついていない。
マテバ6ウニカのシリンダーに装填できる弾丸の数は6発。今のところ4発ずつ弾いたから、奴のリボルバーはあと2発ずつで弾切れする。弾切れしたら、あいつが武器を持ち替えている間にこっちも.600ニトロエクスプレス弾で応戦してやろう。
あいつの速度は恐ろしいが、俺は早撃ちを何度も練習してきたからな。あの謎の高速移動で逃げる前に、顔面に大口径の弾丸を叩き込んでやるぜ。
またしても剣で弾丸を弾き飛ばす。あと1発だ。
そして、天城のリボルバーから最後の弾丸が放たれた直後、俺は弾丸を弾くために剣を振るうのを止め、ホルスターからプファイファー・ツェリスカを引き抜こうとする。
だが、早撃ちで.600ニトロエクスプレス弾を叩き込もうとしていた俺を迎え撃ったのは、神経を逆なでするような天城の嘲笑だった。
何で笑っているんだと思った瞬間、俺の耳にまた銃声が飛び込んできた。
銃声を発したのは俺のプファイファー・ツェリスカではない。早撃ちは得意だが、まだこの得物はホルスターから引き抜いてはいない。
なんと、銃声を発したのは弾切れになった筈の天城のリボルバーだった!!
「なっ・・・・・・!?」
馬鹿な! 確かに6発撃っただろ!?
まさか、カスタマイズでシリンダーに装填できる弾丸の数を増やしていたのか? そう思いながら大慌てでリボルバーのグリップから手を離し、仕込み杖の剣で7発目の.454カスール弾を叩き落とす。
今度こそ弾切れだろうと思っていると、なんと天城のマテバ6ウニカは8発目の弾丸を銃口からぶっ放してきた。
そのまま、まるでアサルトライフルのフルオート射撃のように凄まじい勢いで.454カスール弾が放たれる。俺はとっくに弾切れしている筈のリボルバーから放たれるありえないフルオート射撃を仕込み杖の剣で必死に弾き飛ばしながら、天城の顔を睨みつけていた。
どういうことだ? こんなカスタマイズは出来ない筈だぞ? こいつ、チートでも使ってるんじゃないのか!?
「お前さぁ、ゲームやったことはあるよね?」
両手のリボルバーで.454カスール弾のフルオート射撃を続けながら天城が言う。
「さっきからありえない能力ばかり使ってるけど、実はこの能力は端末の能力じゃないんだぜ」
「何だって!?」
端末の能力じゃない? じゃあ、何の能力なんだ? 魔術でも使ってるというのか? それとも、こいつも俺みたいに体の一部が変異しているのか?
「ゲームやったことがあるんだったら、チートって単語は聞いたことあるよな?」
チート? ああ、チートを使ってる奴と何度かゲームをやってる最中に出会った事があるさ。リョウと一緒にオンラインゲームをプレイしていた時に何度もチートを使っているクソ野郎と出会った。その度に2人でその馬鹿をブラックリストに登録して隔離してたけどな。
まさか、本当にチートを使ってやがるのか?
「俺が使ってるこの能力は、チートなんだよ」
楽しそうに笑いながらそう言う天城。俺は奴を睨みつけながら、仕込み杖から展開した刀身で.454カスール弾のフルオート射撃を弾き飛ばし続ける。
「レベルやステータスも全部カンストしてるし、銃の弾薬も減ることが無い! しかもさっきみたいな瞬間移動までできるんだぜ!?」
「クソ野郎が・・・・・・! チートなんか使ってんじゃねえよッ!!」
「ハッハッハッハッハッ! 真面目にプレイしているようなプレイヤーじゃ、チート使ってるプレイヤーには勝てねえんだよッ!!」
腹が立つな・・・・・・!
こんな奴にみんな殺されちまったのかよ・・・・・・!!
「力也ッ!!」
「!!」
何とかしてこの.454カスール弾のフルオート射撃から脱出しなければと思っていると、エリスを助け起こしたエミリアが、治療を終えたばかりのエリスをフィオナに任せて、銃身の下のM26MASSから12ゲージの散弾をぶっ放しながら援護に来てくれた。
天城は右手に持っていたリボルバーの銃口をエミリアの方に向けるが、そのおかげで俺に襲い掛かっていた弾丸の数が半減する。
俺は両手の仕込み杖で弾丸を弾き飛ばしながら前進すると、エミリアに向かってトリガーを引こうとしていた天城の首筋に向かって、仕込み杖の剣を思い切り振り下ろした!
「!」
だが、漆黒の刀身は先端部がほんの少しだけ天城の首筋の皮膚を切り裂いただけで、天城の奴はまたチートを使って瞬間移動をして距離を取ってしまう。
忌々しい能力だ・・・・・・。ふざけやがって。
「力也、無事か!?」
「ああ」
「奴の能力は!?」
「・・・・・・最低な能力だったよ」
魔王を倒して世界を救った実力者だと思っていたんだが、あいつはただのクソ野郎だった。もはや勇者ではない。そして、プレイヤーですらない。
チートばかり使う、ただのクズだった。
「いくぞ、エミリア」
「ああ・・・・・・!」
俺の隣に立っているエミリアも、武器をカービンから背中のバスタードソードに切り替える。彼女も奴に接近戦を挑むつもりらしい。
俺とエミリアは剣を構えると、相変わらず嘲笑を続けるクズへと向かって突っ込んでいった。