突入
敵の塹壕が、炎に包まれていた。
先ほどまで必死に俺たちを機関銃で狙っていた射手たちは、自分たちが掘った穴の中で火達磨になり、絶叫しながらのたうち回っている。
バンザイアタックを仕掛けてきた兵士たちは既に全滅した。塹壕も海兵隊の火炎放射器で焼き払われており、先ほどから敵兵たちの絶叫が銃声の代わりに響き渡っている。
中には彼らに止めを刺してやる優しい隊員もいるが、殆どの隊員は冷たい目つきで、火達磨になりながら絶叫する敵兵を見下ろしていた。
ネイリンゲンで、俺たちは大切なものを失い過ぎた。友人や肉親を失った者もいるし、恋人を失った者もいる。そして、四肢を失った者もいる。俺たちから奪ったのはこいつらだ。勇者のバカげた計画に従った、この愚かな転生者共だ。
だから苦しめ。苦しんで死ね。海兵隊員たちはそう思っているに違いない。
火達磨になりながら塹壕から這い上がろうとする敵兵を再び炎の中に蹴落とした俺は、ため息をついてからアサルトライフルの残弾を確認することにした。
俺がいつも使うSaritch308ARのマガジンは、既に4つも使ってしまっていた。今装着しているこのマガジンが、この7.62mm弾を使用するアサルトライフルの最後のマガジンだった。
「・・・・・・みんな、弾薬は大丈夫か?」
俺の声を聞いた隊員たちが、弾薬の残りを確認し始める。ここまで何とか短時間で突破できたが、みんなかなり撃ちまくった筈だ。先ほどのバンザイアタックを退けていた際に、中にはサイドアームのコルトM1911A1で応戦する隊員もいたほどだ。
「私はそろそろ弾切れしそうだわ」
「うむ、私もだ。これが最後のマガジンだ・・・・・・」
「分かった。ならば・・・・・・ほら、こいつを使え」
端末を取り出し、2人が装備しているM16A4を装備から解除。ついでに俺のアサルトライフルも装備から解除しておく。そして素早く端末の画面をタッチしてアサルトライフルにカスタマイズを済ませると、装備したばかりのそれを2人に手渡した。
俺が2人に渡したライフルは、ドイツ製アサルトライフルのXM8。様々なタイプがある汎用性の高いアサルトライフルで、M16A4と同じく5.56mm弾を使用する。
エリスとエミリアに渡したのは、XM8のカービン型だ。2人はよく接近戦をするし、これから俺たちが突入しようとしているのは敵のミサイルサイロ。つまり、室内戦になる。銃身が短い方が室内での銃撃戦でも扱いやすいため、ちょうどいいだろう。
ちなみに、2人のライフルのカスタマイズは先ほどまで使っていたM16A4と全く同じだ。
俺もXM8に装備を変更したんだが、俺のはカービン型ではなく、マークスマンライフル型のシャープシューター。そのため2人のXM8よりも銃身が長く、キャリングハンドルの上にはスコープが搭載されている。銃身の下にはSaritch308ARと同じくポンプアクション式グレネードランチャーのGM-94が装備されており、長くなった銃身の右側には、ナイフ形ではなくスパイク型の銃剣が折り畳まれた状態で装着されている。
装備を切り替えるのならば今のうちだ。この先に進めば、敵の数は更に増えるだろう。激戦の最中に端末を取り出し、武器を変更している余裕などない。
「・・・・・・子供たちは、心配してるかな」
シャープシューターの点検をしていると、俺の後ろでXM8の銃身の下に取り付けられているM26MASSのマガジンの点検をしていたエミリアがそう呟いた。
もう俺たちは、子供を持つ親なんだ。母親として、やっぱり王都に残して来た子供たちが心配なんだろう。
「大丈夫だよ。・・・・・・俺たちの子供だぜ?」
絶対零度の異名を持つ母親と、そのクローンとして生み出された凄腕の剣士の母親と、転生者である上にサラマンダーの血を併せ持つ怪物父親から生まれた特別な子供たちだ。それに、ラウラとタクヤはまだまだ幼いけれど、母親譲りの強靭な心を持っている。
心配しているかもしれないだろうが、きっとこの戦いが終わるまで我慢してくれる筈だ。
「そうよ、エミリア。2人とも我慢強いんだから」
「・・・・・・そうだな」
マガジンを装着し、エミリアが前を向く。
「行こう。――――早く、この戦いを終わらせよう」
「おう!」
「ええ!」
「よし、前進する。各員、戦闘態勢!」
燃え盛る塹壕の中からは、もう火達磨になっている敵兵の絶叫は聞こえなくなっていた。
塹壕を迂回して先へと向かう。航空部隊が派手に爆撃してくれたおかげで、巨大な木々は薙ぎ倒されているから見晴らしはよくなっている。これならば敵も奇襲を仕掛けるのは難しい筈だ。
「旦那っ」
「おう、無事だったか」
ライフルを構えながら焼け焦げた倒木を踏み越えていると、俺の後ろから野太い声が聞こえてきた。倒木から飛び降りて後ろを振り向いてみると、M249パラトルーパーを肩に担ぎながらギュンターがこっちへと走って来るのが見えた。どうやらあのデカいガトリング砲は撃ち尽くしてしまったらしく、巨大な弾薬タンクも背負っていない。
こいつはかなりタフな奴だから、銃弾を喰らったとしてもくたばることはないだろう。あのレリエル・クロフォードに風穴を開けられても生還した男なんだからな。もしかしたら、アンチマテリアルライフルの直撃にも耐えてしまうかもしれない。
「旦那こそ、無事でよかったぜ」
「当たり前だ。妻の前で死ぬわけにはいかないだろ」
「それはそうだな」
「お前もだ。死ぬんじゃないぞ」
「分かってるって」
ギュンターは笑いながらそう言うと、迷彩服のポケットの中から何かを取り出した。どうやら髪留めのようだ。ギュンターはいつも短髪だから髪留めを使うことはないだろうし、その髪留めには蒼い花のような飾りがついている。明らかに女性用の髪留めだ。
おそらく、その髪留めはカレンの髪留めだろう。戦場から夫が必ず生きて帰ってくるようにとお守りとして彼に渡したに違いない。
カレンは気の強い女性だ。だが、所属を差別するようなことはしないし、絶対に誰かを見捨てるようなことはしない。おそらくモリガンのメンバーの中で一番リーダーにふさわしいのは、俺ではなく彼女だったのではないだろうか?
妻からのお守りを大切そうに握りしめたギュンターは、その髪留めを再び迷彩服のポケットに戻した。
「・・・・・・予定だと、明日娘が生まれるんだ」
「本当か?」
「ああ」
「めでたいじゃないか。じゃあ、明日からはお前もパパになるってわけだ」
ニヤニヤ笑いながらギュンターのがっちりした肩を叩く。いつも風呂場を覗いてカレンにお仕置きされていたような男も、ついに彼女と結ばれて、父親になるんだ。
どんな娘が生まれるんだろうな? もしかしたらカレンみたいなしっかり者になるかもしれない。
「――――俺も、死ぬわけにはいかん」
その通りだ。この戦いが終わったら、領主として働く妻を支え、ギュンターは父親として娘を育てなければならない。
親は、子供を守るための盾と剣だ。ここで死ぬということは、子供に盾と剣を持たせずに敵の目の前に放り出すのと同じだ。
だから、死ぬことは許されない。もちろん、勇者に敗北するわけにもいかない。
やがて、焼き払われたジャングルが段々と斜面になってきた。相変わらず草原は真っ黒に焦げ、ここに生えていた筈の木々も黒焦げの倒木と化している。稀にその倒木の中に敵の対空兵器の残骸と敵の死体が混じっているんだが、殺風景なことに変わりはない。
俺はギュンターの肩をもう一度叩いてから、隊列の先頭に戻ることにした。隊列の前の方ではいつの間にか海兵隊員たちが戦車を端末で装備し、隊列の先頭を進んでいる。
隊列の先頭を進んでいるのは、ドイツ製主力戦車のレオパルト2A6。隣の隊列の先頭には、アメリカのM1エイブラムスもいる。
先ほどの塹壕を突破する際に隊員たちが何名もやられてしまったため、その戦車の周囲をアサルトライフルを構えながら進む兵士たちの人数は、上陸した時よりも減ってしまっていた。強襲揚陸艦のウェルドッグの中で、心配そうな表情をしていた若い兵士や、おそらく恋人から渡されたお守りを大切そうに眺めていた俺と同い年くらいの転生者の兵士の顔が見当たらない。戦車に乗っているのか、それとももう戦死してしまったのかもしれない。
焦げた倒木をキャタピラで派手に踏み潰しながら斜面を登っていく戦車の周りを進んでいると、俺の隣で迷彩服とベレー帽を身に着けた白髪の少女が実体化したのが見えた。いつも真っ白なワンピースを身に着けているから、迷彩服を身に着けている姿は何だか違和感を感じてしまう。やっぱり、この幽霊の少女に一番似合うのは、豪華なドレスよりもあの白いシンプルなワンピースなのかもしれない。
「フィオナか。負傷者は?」
『治療は終わりました。でも、何名かは手足を失っていて・・・・・・』
「そうか・・・・・・」
手足を失った場合は、俺と同じように魔物の素材を使って義手や義足を移植するか、そのまま移植せずに生活するしかない。もし移植した場合は、俺のように体が変異してしまう可能性がある。
『とりあえず、負傷兵はヘリに乗せてエンタープライズまで送り返しています』
「了解だ。負傷者が出たら頼んだぞ」
『はい。無茶はしないでくださいね』
そう言って微笑むフィオナ。俺は小さな彼女の頭の上に手を乗せて優しく撫でると、にやりと笑いながら「当たり前だろ?」と呟いた。
この戦いが終わって王都に戻ったら、子供たちを狩りに連れて行く約束をしているんだ。いつまでも7年前のように無茶をするわけにはいかない。
再び前を振り向いた直後、斜面の向こうで轟音が響き渡った。何の音だろうかという疑問が完全に組み上がるよりも先に、その轟音によって押し出された巨大な砲弾が、俺たちの隣の隊列の先頭を進んでいたM1エイブラムスの正面装甲を直撃する。凄まじい金属音を響かせ、無数のマズルフラッシュをかき集めたかのような火花を散らして何とかその飛来した物体を弾き飛ばしたエイブラムス。俺はぎょっとしながら銃口を斜面の先へと向け、マークスマンライフル用のスコープを覗き込んだ。
その斜面に鎮座していたのは、敵の戦車部隊のようだった。迷彩模様に塗装されたがっしりした車体の上には、エイブラムスやレオパルトのような巨大な砲塔ではなく、円盤状の砲塔が搭載されている。その砲塔から突き出ている長い砲身は、おそらく51口径125mm滑腔砲の砲身だろう。車体や砲塔の正面には爆発反応装甲をぎっしりと装着している。
ロシアの最新型主力戦車のT-90だ。斜面の上にそのT-90が10両以上も配置され、こちらに砲口を向けている!
「敵の戦車だッ!」
そう叫びながら、俺は仲間たちを連れて戦車の近くから離れた。
敵の戦車の周囲には、無数の敵兵がいる。先ほどの塹壕を守っていた兵士たちよりも明らかに人数が多い。これほど多くの兵士が守っているということは、ミサイルサイロへの入口がこの近くにあるに違いない。
倒木の陰に隠れ、シャープシューターで敵兵の頭を狙撃しつつ、俺は入口らしき場所が無いか探した。もし入口があるのならば、歩兵を集中攻撃して何とか突破し、ミサイルサイロの内部へと侵入するべきだ。そうすれば戦車は施設の中までは追いかけて来れないし、ここで敵の戦車部隊を殲滅する手間が省ける。
敵が核ミサイルの発射準備をしているというのならば、一刻も早く施設に突入し、発射を阻止しなければならない。
どこだ? 入口はあるのか?
仲間を銃撃していたLMGの射手をヘッドショットで片付けてから再び入口を探し始める。
すると、真っ黒に焦げた大地の中に、不自然な金属の壁が見えた。オリーブグリーンに塗装してあったため、もし航空部隊が爆撃でジャングルを焼き払っていなかったら見落としていたことだろう。
分厚い巨大な壁で閉ざされているが、その金属の壁は、明らかに地下へと下りるための入り口だった。戦車も出入りできるような広さだったのは計算外だったが、あれがミサイルサイロへの入口に違いない。
「エミリア、ミサイルサイロへの入口を発見したぞ!」
「本当か!?」
「ああ!」
敵兵の群れへと銃撃をお見舞いしながら、俺は隣に隠れていたエミリアに地下への入口を発見したことを報告した。
「何とか敵兵に攻撃を集中させよう!」
「だが、あの防壁はどうするのだ!?」
かなり分厚い防壁だ。戦車砲の集中砲火でも撃ち破ることは出来ないだろうし、C4爆弾で爆破したとしても、あの防壁を破壊することは出来ないだろう。
だが、あの分厚い防壁を破壊して内部へと侵入する方法はある。
俺はライフルから手を離して端末を操作し、久しぶりにあの巨大なパイルバンカーを装備した。
7年前にガルゴニスに戦いを挑んだ際に、エリスに切り札として装備させた最強のパイルバンカー。1度使用したら再装填は不可能である上に、射程距離はたったの10cmという使い辛い代物だ。だが、戦艦大和の装甲に大穴を開けて一撃で撃沈できるほどの威力を持つ、ロンギヌスの槍だ。
これを妻に託すのは7年ぶりだな。
「エリス、こいつであの防壁を打ち破ってくれ。援護する」
「了解。お姉さんがあの壁を吹き飛ばしてあげるっ」
XM8で応戦していたエリスに向かって、俺は戦車砲の砲弾のような太い杭と発射装置を組み合わせたような奇妙なパイルバンカーを放り投げた。10kgくらいの重さがあるそのパイルバンカーをエリスは片手でキャッチすると、利き腕である左腕でカービンの射撃を続行しつつ、右腕にパイルバンカーを装着する。
彼女が準備を終えたのを確認した俺は、耳に装着している無線機に片手を当てた。
「李風、聞こえるか!?」
『は、聞こえます!』
「ミサイルサイロへの入口を発見した! 今から俺の妻がパイルバンカーで吹っ飛ばす! 突入準備だ!」
『了解! 各部隊、敵の歩兵に攻撃を集中させろ! 同志エリスがミサイルサイロへの入口を破壊したら、戦車を無視して突入する!』
だが、あの入口は戦車も通り抜けられるほどの広さであるため、敵の戦車が追撃してくる可能性がある。防壁を破壊した後は、素早く突入しなければならないだろう。
マガジンを交換してコッキングレバーを引いたエリスが頷く。俺も彼女に向かって頷いてから、フルオート射撃で応戦しているエミリアの肩を叩くと、スパイク型銃剣を展開して倒木の陰から飛び出した。
やっぱり頭に生えているこの角は目立つのか、機関銃の掃射が俺の足元に次々に命中する。何発も7.62mm弾や5.56mm弾が俺の身体を掠め、足元に転がっている倒木や木の破片に風穴を開けていく。
走りながら俺はトリガーを連続で3回引いた。1発目は戦車の上で機関銃を乱射していた敵兵の胸に命中し、2発目は戦車の近くで手榴弾を取り出していた敵兵の頭に命中。3発目の6.8mm弾は、戦車の陰に隠れていた兵士が担いでいたRPG-7の弾頭に命中した。
敵兵が担いでいたロケットランチャーが爆発し、T-90の後部で火柱が吹き上がる。真っ黒に焼き払われたジャングルを一瞬だけ真っ赤に染めた火柱はすぐに黒煙に変貌し、蒼空を黒く染めた。
俺の隣を走りながら5.56mm弾のフルオート射撃を敵兵に叩き込むエミリア。続けざまにアサルトライフルを持つ敵兵を撃破し、敵の戦車の周囲を風穴を開けられた敵兵で埋め尽くす。
その時、まだ健在な敵の戦車の長い砲身がエミリアの方を向いた。俺はその戦車方が火を噴くよりも先に全力で突っ走り、その戦車の砲身の真下へと向かうと、左足の義足のブレードを展開しながら思い切りジャンプしつつ、左足を思い切り砲身に向かって蹴り上げた。
赤黒いブレードが堅牢な戦車砲の砲身に食い込み、一瞬だけ火花を散らして両断してしまう。長い砲身が切断されている間に、今度はエミリアがジャンプして戦車の砲塔の上に着地すると、キューポラのハッチを開き、腰に下げていたソ連製対戦車手榴弾のRKG-3の安全ピンを引き抜いてから車内へと投げ込んだ。
車内で爆発した対戦車手榴弾の爆風は、中に乗っていた乗組員を容赦なく叩き潰し、エミリアに向かって放たれる筈だった砲弾を誘爆させた。砲身に装填されていた砲弾の爆発によって砲身の付け根から火柱が吹き上がり、円盤状の砲塔が車体の上から転がり落ちる。
俺とエミリアに銃口を向けてくる敵兵たち。その後ろを、フルオート射撃で敵兵を次々に倒しながらエリスが防壁に向かって突進していく。
彼女に気が付いた敵兵が慌てて振り向きながら銃口を彼女へと向けるが、そいつがエリスに向かってトリガーを引くよりも、俺がホルスターの中からプファイファー・ツェリスカを素早く引き抜き、早撃ちでそいつの後頭部に.600ニトロエクスプレス弾をお見舞いする方が早かった。後頭部を叩き割られた敵兵は焦げた真っ黒な大地の上に真っ赤な肉片を舞いい散らしながら、うつ伏せに崩れ落ちる。
「エミリア、暴れるぞ!」
「ああ!」
エリスが防壁を吹っ飛ばすまで、俺たちが彼女を援護する。
久しぶりに、夫婦で暴れ回ろうじゃないか。
シャープシューターを腰に下げ、仕込み杖の柄を握る。そのまま柄を捻って杖を2本に分離させ、ボタンを押して漆黒の刀身を出現させた俺は、俺の後ろでクレイモアを引き抜いたエミリアをちらりと見てから――――2人で同時に、敵兵の群れへと襲い掛かった。
いきなり突撃してきた俺たちを見て慌てふためく敵兵たち。何人かはアサルトライフルで反撃してきたが、俺とエミリアは容易くその弾丸を剣で弾き飛ばして彼らに接近すると、大剣と仕込み杖の剣で同時に敵兵の胴体へと刀身を叩き付けた。
腹の辺りから真っ二つにされて崩れ落ちる敵兵。その敵兵を仕留めたエミリアは、大剣を構えながら別の敵兵へと襲い掛かっていく。
俺も別の獲物を狙うことにした。ターゲットは、エリスを狙おうとしている敵兵だ。
両手の剣を逆手持ちにし、敵の背後から飛び掛かると、その敵兵の首筋に向かって逆手持ちにしている仕込み杖の剣を突き立てる。右手に持っていた方の剣を強引に引き抜き、敵兵のヘルメットに突き立てた俺は、後ろを振り返ると同時に左手の剣を引き抜き、背後から俺を銃剣で貫こうとしていた敵兵の額へと向かって剣を放り投げていた。
「がっ・・・・・・!?」
額に剣を突き刺されて絶命する敵兵。俺は右手の剣を敵兵の脳天から引き抜くと、血まみれの剣で敵兵の弾丸を弾きながら左手をプファイファー・ツェリスカのグリップへと伸ばし、またしても早撃ちで敵兵を仕留めた。
早撃ちを終えた大型リボルバーを再びホルスターへと戻し、倒れた敵兵の頭に未だに突き刺さっていた仕込み杖を引き抜く。左手の剣を逆手持ちにしてから敵に向かって斬り込み、エミリアに向かって銃弾をぶっ放していた敵兵の背中を左右の剣で何度も斬りつけた俺は、その死体をエミリアに向かって銃剣を突き刺そうとしていた敵兵に向かって蹴飛ばし、その敵兵に仲間の死体を代わりに貫かせる。
その敵兵は大慌てで銃剣を引き抜こうとするが、銃剣が仲間の死体から離れるよりも先に、エミリアの振り払ったクレイモアの強烈な剣戟が、その死体もろとも敵兵の首を刎ね飛ばしていた。
「昔もこうやって戦ったよなぁ!」
「2人で逃げてる時か!?」
「ああ! ほら、森の中で狼の群れと戦ったじゃないか!!」
ジョシュアの元からエミリアを連れ去り、一緒に逃げていた時のことだ。オルトバルカ王国へと向かうために森の中を逃げている最中に、俺たちは無数の狼の群れと戦った事があった。
あの時も、こうやって2人で無数の狼を相手に奮戦したんだ。
「懐かしいな! 7年前か!!」
「ああ!!」
エミリアが腰のホルスターからPP-2000を引き抜き、フルオート射撃で俺の背後にいた敵兵たちを薙ぎ倒す。
俺は別の戦車の砲塔の上で機関銃をこっちに向けてきた敵兵に向かって両手の剣を投擲すると、腰のホルスターからプファイファー・ツェリスカを2丁引き抜き、銃剣を構えて突っ込んできた敵兵の頭に銃口を押し付けてからトリガーを引いた。
頭を粉々にされて崩れ落ちる敵兵。俺はその敵兵がかぶっていたヘルメットを蹴飛ばし、背後の敵兵の顔面に叩き込んだ。いきなり血まみれのヘルメットを頭に叩き込まれた敵兵が体勢を崩している間に、今度はエミリアがSMGの銃口をその敵兵に向ける。フルオート射撃を敵兵の胴体に叩き込んで穴だらけにすると、彼女もクレイモアを背中の鞘に戻し、もう片方の手でSMGを引き抜いた。
俺たちの周囲にはまだ無数の敵兵がいる。だが、敵兵たちはたった2人で奮戦している俺たちを恐れているようだった。
だが、俺たちは容赦しない。俺はプファイファー・ツェリスカのファニング・ショットで敵兵を次々に撃ち抜き、エミリアは両手のSMGのフルオート射撃で敵兵を薙ぎ倒す。
弾切れになったプファイファー・ツェリスカのシリンダーの中からでっかい薬莢を抜き取りながら、俺は尻尾と左足のブレードで応戦。エミリアの持つPP-2000のほうが弾数が多いため、彼女はまだ射撃を継続している。
.600ニトロエクスプレス弾の再装填を終えた俺がトリガーを引こうとしたその時、敵兵の群れを単独で突破していったエリスの方から、戦車砲よりも大きな爆音が聞こえてきた。爆音の中に混じっているのは、予想以上の破壊力を叩き付けられて吹き飛ばされるあの防壁の断末魔だった。
ロンギヌスの槍が、ついにあの防壁に撃ち込まれたらしい。120mmのパイルバンカーを至近距離で叩き込まれた防壁には、確かに大穴が開いていた。
あれくらいならば戦車は通り抜けられないだろう。
「よし、突入するぞ!」
俺たちの後ろで援護射撃をしていた海兵隊員たちが、戦車への応戦を仲間の戦車に任せて突撃を開始する。だが、まだ敵の戦車の周囲には敵の兵士が残っている。このまま全員で突撃した場合、背後から敵の残存部隊に攻撃される可能性がある。
「旦那ぁ、ここは俺たちに任せてくれッ!」
すると、ギュンターがエリスが開けてくれた防壁の近くでLMGを乱射しながら叫んだ。彼以外にも彼の傍らでM16A4やM16A2で応戦する海兵隊の隊員がいる。どうやら彼らがここで敵を食い止めてくれるらしいが、大丈夫だろうか? 敵の残存部隊を食い止めるには兵士の数があまりにも少なすぎるような気がする。
「無茶するんじゃねえぞ!!」
「当たり前だ! 旦那、戻ったら酒でも飲もうぜッ!!」
「おう! 俺が奢ってやる! ――――頼んだぞッ!!」
「任せろッ!!」
だが、ギュンターならば大丈夫だろう。あいつはレリエルに風穴を開けられても生還できるほどタフな男だ。
だが、無茶はするなよ。お前は明日から父親になるんだからな・・・・・・!
数名の海兵隊員と共に残った彼をちらりと見た俺は、仲間たちと共に敵基地の奥へと向かって走り出した。