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転生者が父親になるとこうなる

第十二章のエピローグです。

 妻たちが妊娠してから10ヵ月が経過した。いつもよりリも早く雪が降っていたというのに、外に積もっていた筈の雪はもう見当たらない。いつものように緑色の草原が広がり、暖かい風が街に流れ込んで来るだけだ。


 子供ができてから、俺は久しぶりにジャックさんが経営している不動産屋に足を運んだ。最初にあそこを訪れた時は一文無しだったんだけど、今はもう色んな仕事を引き受けるようになったから、財布の中は金貨や銀貨でいっぱいだ。貴族が済んでいるような豪華な屋敷を購入できるほどの金額だったんだけど、個人的には質素な感じの普通の家が欲しいと思っていた。


 そして俺は、街から少し離れた安全な森の中にある家をジャックさんから金貨4枚で購入した。


 街から離れた場所にある家を購入した理由は、もしかしたらモリガンの拠点として使っている屋敷が勇者たちに襲撃される可能性があるからだ。子供たちを襲撃される恐れのある屋敷で生活させるわけにはいかない。それに、屋敷の部屋ももう足りなくなっている。


 だから俺は街から離れた場所に家を購入した。もちろん、森の中には侵入者を排除するためにブローニングM2重機関銃やミニガンを搭載したドローンを巡回させているし、家の周囲にはターレットも展開している。


 それに、何故かガルちゃんも俺が購入した家に住み着いている。どうやら彼女は俺の事が気に入っているらしいんだが、なんで家までついてくるんだろうか? もし子供が生まれたら子守をしてくれるらしいけど・・・・・・。


 森の中に購入した家から出勤したばかりの俺は内ポケットから懐中時計を取り出した。4年前にエミリアとデートに行った時にプレゼントしてもらった大切な懐中時計だ。手入れは毎日やっているから、全く汚れていない。


 妻たちのお腹も順調に大きくなってきている。フィオナの予想では、そろそろ生まれるらしい。


 楽しみになってきた。どんな子供が生まれるんだろうか? 転生する前は結婚できなかったし、彼女もいなかったからなぁ・・・・・・。だから当然ながら子供はいなかった。


 ワクワクしながら裏庭に出て、物置の中にずらりと並んでいる薪を取り出す俺。近くに立て掛けてあるトマホークを拾い上げて柄を両手で握り、台の上に置いた薪に向かってトマホークを振り下ろす。


 本気で振り下ろすと台まで真っ二つになってしまうので、手加減して振り下ろした。トマホークはあっさりと薪にめり込み、台の上に乗っていた薪を真っ二つに叩き割ってしまう。


 最近はあまり魔物退治の依頼も来なくなったから、職場に出勤したとしてもやることは訓練や薪割りだ。それと、李風のギルドの工作員が持って来てくれる情報を信也たちと一緒にまとめる事くらいだ。


 情報収集開始から14ヵ月も経過している。でも、未だに勇者の居場所はどこなのか分からない。もし分かったとしても、まだ襲撃を仕掛けるわけにはいかないだろう。敵のレベルはおそらく1000以上。今の俺のレベルはまだ605だ。このまま襲撃を仕掛ければ、初めて転生者と戦った時の二の舞になるに違いない。


 最近では、李風のギルドでは戦力の増強のため、各地から転生者をスカウトしてメンバーを増やしているらしい。時々この屋敷に李風たちが訪れるので、その時は共同訓練を行うようにしている。


 薪をもう1つ拾い上げ、トマホークを振り上げようとしたその時だった。


「リキヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


「うおッ!? ガルちゃ―――――ギャッ!?」


 いきなり背後にあった裏庭の門が開いたかと思うと、その門の向こうから、俺と似たデザインの制服を身に纏った赤毛の幼女が、凄まじい勢いで俺に向かって飛び掛かってきた。俺は慌ててトマホークを放り投げて回避しようとするけど、ガルちゃんは普通の幼女ではない。外見は8歳くらいの幼い少女だけど、彼女の正体は伝説のエンシェントドラゴンなんだ。俺はガルちゃんのタックルを躱しきれずに、そのまま腹にガルちゃんのタックルを喰らって吹っ飛ばされてしまう。


 まるでドラゴンが突進してきたかのような衝撃だった。幼女のタックルで俺は裏口のドアの近くまで吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられてしまう。


 いきなり何でタックルするんだよ!?


「な、何すんだよ!? 仕事中だぞ!?」


「やかましいッ! 仕事なんぞやっとる場合かッ!!」


 息を切らしながら叫ぶガルちゃん。何があったんだろうか。


 するとガルちゃんは俺のすぐ目の前までやってくると、起き上がろうとしている俺の胸ぐらを掴んだ。


 21歳の男性が、8歳くらいの幼女に胸ぐらを掴まれている。


「生まれそうじゃ!」


「え? 生まれるって・・・・・・」


「お前の子供じゃッ! エリスとエミリアが苦しんでおる! 急いでフィオナを連れて来いッ!!」


 まさか、もう子供が生まれるのか!? しかも二人同時!?


 俺は大慌てで後ろにあった裏口のドアを開けた。そのまま屋敷の中へと突っ走り、階段を思い切り駆け上がる。今から射撃訓練に行くところだったのか、ハンドガンのホルスターを下げたギュンターが目を見開きながら「だ、旦那ぁ!?」と叫んでいたが、話している時間はない。すまない、ギュンター。


 階段を数秒で駆け上がり、俺はまるでアサルトライフルの3点バースト射撃のような速度でフィオナの研究室のドアをノックした。いつものノックの音ではないからびっくりしたのか、ドアの中から『ひぃッ!?』とフィオナの驚く声が聞こえてきた。


 俺はもう一度ドアに3点バーストノックを叩き込んでから、大慌てで研究室のドアを開ける。薄暗い研究室の中では、真っ白なワンピース姿のフィオナが、小さなメガネをかけて魔法陣が描かれた図面を凝視しているところだった。


『り、力也さん!?』


「フィオナ、大変だ!」


『ど、どうしたんですか!?』


「生まれそうなんだ!!」


『え? 生まれるって・・・・・・お子さんですか!?』


「ああ! 頼む、一緒に来てくれ!」


 フィオナが返事をする前に、俺は小さなメガネを外したばかりのフィオナの小さな手を引いて研究室から飛び出した。俺に引っ張られているフィオナの『にゃああああああああああああ!?』という絶叫を聞きながら、再び階段を数秒で駆け下りる。


 目の前の廊下には、まだギュンターがいた。どうやら今から地下の射撃訓練場に下りて行くところだったらしい。そんなにフィオナを連れてくるのが早かったかと思ういながら、俺はフィオナの手を引いて裏口へと向かう。


「あれ? ちょっと、旦那ぁ!?」


「すまん、フィオナを借りるぞ!」


『にゃああああああああああああ!!』


 再び裏口のドアを思い切り開けて裏庭へと飛び出し、目を回しているフィオナから手を離してから端末を取り出す。端末を素早く操作してバイクを装備した俺は、サイドカーにガルちゃんを乗せ、俺の後ろにまだ目を回しているフィオナを乗せてから、エンジンの音を響かせながら屋敷の裏庭から飛び出した。


「УРаааааааааааааааааааа(ウラァァァァァァァァァァァァ)!!」


 馬車がよく通る道の土を抉りながらドリフトし、そのまま森に向かってバイクを走らせる。目の前を走っていた荷馬車を追い越し、向かいから走ってくる馬車を回避して、ネイリンゲンから離れた場所にある俺の家へと向かう。


 そういえば、ガルちゃんはどうやってここまで来たんだろうか? まさか、走ってここまで来たのか?


 道を走っている最中に右へと曲がり、草原の上を森に向かって進んでいく。緑色の大地から突き出ている岩の上を飛び越え、草原にタイヤの跡を残しながら全速力で走り、そのまま森の中へと突入する。


 俺たちの家があるのはこの森の中だ。この森は数年前までは魔物が住み着いていたんだけど、騎士団の掃討作戦のおかげで魔物は全滅し、何もいない森になっている。


 巨大な木の幹に埋め尽くされた森の中に、レンガ造りの家が一軒だけ建っているのが見えた。俺はその家の近くにバイクを停めると、端末を取り出してバイクを装備している状態から解除し、後ろに乗っていたフィオナを連れて家の中へと駆け込んだ。


 玄関のドアを開けた瞬間、家の中から妻たちの苦しそうな呻き声が聞こえてきた。


「おい、エミリア! エリス!」


「り、力也・・・・・・うぐっ・・・・・・!」


「だっ、ダーリン・・・・・・!」


「フィオナ、頼む!」


『は、はい! 力也さん、急いでお湯を持って来てください!』


「了解ッ!」


『ガルちゃんは一緒に来てください!』


「了解なのじゃ!」


 俺はそのまま奥へと向かって突っ走り、台所へと向かう。


 井戸から汲み上げた水が溜まっている大きな桶の中から水を救い上げ、左手の部分だけ十戒殲焔ツェーンゲボーテを発動させて水を加熱する。


 頼む。無事に生まれてくれ・・・・・・!








 家の中に、産声が響き渡っていた。


 俺の目の前には、無事に出産を終えた2人の女性が、タオルに包まれている赤ん坊を抱きながら嬉しそうに微笑んでいる。その様子を見守りながら、俺は左手で額の冷や汗を拭い去った。


『無事に生まれましたよ、力也さん』


 同じように額の汗を拭い去りながら、フィオナが安心したように俺の傍らでそう言った。彼女の作業を手伝っていたガルちゃんは、楽しそうにエミリアが抱いている赤ん坊の顔を覗き込んでいる。


 エミリアの抱いている赤ちゃんが男の子で、エリスが抱いている赤ちゃんは女の子らしい。先に取り出したのはエリスの方の赤ちゃんだから、エリスの子供がお姉ちゃんで、エミリアの子供は弟ということになる。


 エリスが抱いている子供は赤毛の赤ん坊だった。髪の毛の色は俺と同じで、頭の左右からは変異した後の俺と同じようにほんの少しだけ2本の角が生えている。フィオナに聞いたんだが、尻尾も生えていたらしい。


 エミリアが抱いている子供は、母親と同じく蒼い髪の赤ん坊だった。こっちの子供も同じく髪の下から2本の角が生えているんだけど、角の色は姉や俺と違って蒼い。俺の角は先端部に行くにつれて溶鉱炉に放り込まれた金属のように赤くなっているんだけど、この男の子は角が蒼くて、先端部に行くにつれてサファイアのように透き通っている。やっぱりこの子供も、同じく尻尾が生えていたらしい。


「それにしても可愛らしいのう・・・・・・。こいつら、大きくなったらきっと立派なドラゴンになるぞ」


「ふふっ・・・・・・。何を言っているのだ。この子たちは・・・ドラゴンと人間の血を受け継いでいるんだぞ・・・・・・」


 息を切らしてそう言いながら微笑むエミリア。確かにこの子供たちはかなり特別な子供だ。サラマンダーの血も受け継いでいるし、転生者とこの世界の人間のハーフなんだ。この2人以外にそんな人間はいないだろう。


 無事に子供が生まれてくれたのは喜ばしいんだけど、2人の子供の角を見た途端、安心の中から少しずつ不安が滲み出し始めた。


 頭から角が生えている人間なんて存在しない。もしかしたらこの子供たちは、他の人々に気味悪がられてしまうかもしれない。


 この子たちがこんな身体で生まれてしまったのは、俺のせいだ。俺がサラマンダーの義足を移植して変異してしまったからこうなってしまった・・・・・・。


 あのまま義足を移植せずに傭兵を引退していれば、普通の子供として生まれる事ができたかもしれないのに・・・・・・。


 思わず俺は俯いてしまった。


「――――大丈夫よ、ダーリン」


「そうだぞ、力也」


「2人とも・・・・・・」


 抱いている自分たちの子供の頭を優しく撫でたエミリアとエリスが、優しい声で言った。きっと2人も俺と同じように不安なんだろう。もしかしたらこの子供たちが迫害されてしまうのではないかと心配しているに違いない。


 でも、2人は心配そうな顔を全くしていなかった。幸せそうに微笑んだまま、俯いている俺をじっと見つめている。


「私たちの子供だぞ?」


「そうよ。迫害なんかに負けるわけないじゃない」


「・・・・・・そうだな」


 そうだ。この子供たちは、俺たちの子供たちだ。迫害なんかに負けるわけがない。


 それに、俺たちはもう父親と母親だ。子供たちが迫害され、虐げられないように守らなければならない。


 何としても守ろう。そしてこの子供たちに、俺たちの遺志を受け継いでもらおう。


 大泣きする子供たちを見下ろしてから妻たちが頷く。俺も両手の拳を握りしめながら、2人を見つめて頷いた。




 

次回からいよいよ第十三章がスタートします。主に子育てと親になった力也たちの戦いです。

では、第十三章もよろしくお願いします!

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