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金縛り

「とりあえず、何もなかったな………」


 まあ、まだ昼間だしな。さすがにこんな時間から幽霊が出るわけないか。俺はサムホールストックのAN-94をキッチンの壁に立て掛けると、さっき持ってきた井戸の水で包丁と野菜を洗い始めた。


 一通り屋敷の中は見て来たんだが、あまり本格的に掃除する必要はなさそうだった。ベッドは綺麗なままだったし、床の上にも埃がなかった。一応こうやって水で包丁を洗ってはいるけど、刃が錆びついている様子もない。前に逃げ出したっていう人がちゃんと手入れしていたからなのかな?


「り、力也。私も手伝おうか?」


「いや、たまには俺が料理するよ。エミリアはそこで休んでてくれ」


「す、すまん………」


 幽霊がいなかったから少しは安心してくれたみたいだけど、エミリアはさっきからAN-94と聖水の入った瓶を手放そうとしない。俺の後ろにあるテーブルの真ん中に聖水の瓶を置き、AN-94の銃口をキッチンの出入り口に向けて警戒を続けている。


 幽霊に弾丸って通用するのか……? 聖水なら効くかもしれないけど。


 俺は包丁を洗うと、近くに置いてあった樽の中の野菜をいくつか取り出して洗い始める。


 そういえば、この屋敷には広い地下室があった。この屋敷を立てた人が何に使っていたのかは分からないけど、普通の地下室よりも圧倒的に広い。駐車場に使えそうなくらいだった。


 後で的でも作って、あそこを射撃訓練場にでも使わせてもらおうかな。エミリアにも銃のことを教えてあげないといけないし。それに、作ったばかりの武器の試し撃ちもできそうだ。


「……力也って料理できたのか?」


「ああ。1人暮らしだったからな」


「家族は?」


「ちゃんといるぞ。みんな元気だ」


 切ったキャベツをボウルの中に入れておき、今度は洗っておいたタマネギを包丁で切り始める。


 タマネギを切り終えた俺は、ニンジンをまな板の上に洗って置いておくと、マッチを手に取って釜の蓋を開け、中に薪が入っているのを確認してから火のついたマッチを放り込んだ。


「そろそろ銃は置いたら?」


「でも、幽霊が出てきたら………」


「幽霊に銃弾が通用すると思うか?」


「………ぐっ」


 多分、どれだけ撃っても幽霊の後ろにある壁に風穴を開けるだけになると思うぞ。


 俺はフライパンの上に切った野菜を乗せて釜の上に置くと、近くにあったお玉で野菜を炒め始めた。


 お昼のメニューは、野菜炒めとパンにするつもりだった。







 銃声が地下室の中に響き渡る。窓もない地下室だから、銃声が反響を繰り返して大暴れしていた。俺は傍らでAN-94をセミオート射撃から2点バースト射撃に切り替えて射撃するエミリアを見守りながら、端末で新しい武器の生産を行っていた。


 今のポイントは8070くらい残っているから、まだまだ武器を作ることができる。それに能力の方もな。ちなみに能力の方は、まだ最初に生産した剣士しか装備してない。


「お。OSV-96があるぞ」


 OSV-96は、ロシア製のアンチマテリアルライフルだ。バレットM82A3と同じく長距離を狙撃することができる破壊力の大きいセミオートマチック式のライフルで、2つに折り畳むことができる。


 俺はOSV-96を生産すると、俺の手作りのターゲットにエミリアが次々に2点バースト射撃を命中させているのを確認してから、俺はOSV-96のカスタマイズを開始した。


「………何でこれが装着できるんだよ」


 レーザーサイトとかバイボットとか色々カスタマイズできる項目の中に、何でロケットランチャーのRPG-7があるんだろうか。バレットM82A3にも対戦車ミサイルが装着できたんだけどさ、今度はロケットランチャーか。


 とりあえず作っておく。それと狙撃補助観測レーダーも生産してその2つを生産したばかりのOSV-96に装着すると、俺は早速それを装備してみた。


 大型のマズルブレーキとスコープが装着された漆黒のアンチマテリアルライフル。その銃身の脇には狙撃補助観測レーダーとモニターが装着されていて、銃身の下にはバイボットとロケットランチャーが搭載されている。


「どうだ、力也。結構当たったぞ?」


 撃ち尽くしたマガジンを新しいマガジンに交換したエミリアが、ライフルを右肩に担ぎ、左手を腰に当てて言う。彼女の前に用意しておいた人型の木の板は穴だらけになっていて、2点バースト射撃の集中砲火でも喰らったのか、首から上は千切れ飛んでいた。


 エミリア、ヘッドショットをいったい何発命中させたんだよ。


「今度は俺の番だな」


「おい、力也。それを使うのか?」


「ちょっと試し撃ちだよ。………耳塞いどけよ?」


 俺も一応耳栓をしておく。さすがに地下室でRPG-7をぶっ放したら生き埋めになってしまうので、ぶっ放すのは12.7mm弾だけにしておくけどな。


 エミリアが耳を塞いだのを確認した俺は、地下室の床に伏せてバイボットを展開し、スコープを覗き込んで30分前に作ったばかりのターゲットに狙いを定めた。


 自分の耳栓が外れてないか確認すると、俺はトリガーを引く。


「うわぁっ!?」


「きゃあっ!?」


 バレットM82A3と同じく猛烈な銃声が轟き、地下室の中で何度も反響を繰り返す。まるでアンチマテリアルライフルをフルオート射撃で連射したような轟音が何度も響く中で、スコープの向こうにあった的が粉々に砕け散る。


「す、凄い銃声だな………」


 弾丸と轟音を吐き出したばかりのOSV-96の銃床から静かに右肩を離し、耳栓を外しながら立ち上がった俺は、端末を取り出してからOSV-96の装備を解除する。


「エミリア、大丈夫か?」


「何とか………」


 片耳を押さえて頭を振りながら答えるエミリア。彼女にも耳栓を渡しておけばよかったな。


 俺は彼女に謝るために頭を下げようとした。その時、地下室から1階に上がっていくための階段の陰で―――白い何かが揺れたような気がした。


「?」


 壁に立て掛けておいた俺のAN-94を拾い上げると、サムホールストックに右肩を当てて構えながらゆっくりと階段の方へと歩いていく俺。エミリアが「どうした?」と聞いてきたけど、俺はエミリアの方を振り返ってからもう一度階段の方に視線を戻してゆっくりと近付いていく。


 エミリアも俺が何かを見つけたことに気が付いたらしく、銃床を折り畳んだAN-94にマガジンを装着して俺の後をついてきた。ちゃんと傍らに置いておいた聖水入りの瓶も持って、ライフルを構えながら俺の後ろをついてくる。


 今のは何だったんだ? 流れ落ちる冷や汗を左手で拭い去りながら、俺はゆっくりと階段の陰へと回り込む。確かさっき白い何かが見えたのはここだった筈なんだけど、階段の陰には何もない。ランタンの明かりを階段で遮られ、薄暗い闇があるだけだった。


「何を見たんだ?」


「いや、白い何かが見えたような気がしたんだけど…………」


「ま、まさかっ! ゆ、幽霊じゃないのか!?」


 またブルブル震え始めるエミリア。


 見間違いか? それとも本当に幽霊なのか? だって、まだ午後の2時くらいなんだぞ?


 俺は首を傾げながら立ち上がると、AN-94を背負って的の方へと歩き出した。とりあえず、あとは部屋に戻った方が良いかもしれない。エミリアも怖がってるしな。






 この屋敷は3階建てで、2階には応接室や書斎がある。俺たちが寝る部屋は、屋敷の3階のところにあった。


 綺麗なカーペットにベージュ色のソファが置かれ、部屋の窓側にはベッドが置かれている。壁には誰かの肖像画と時計が置かれていて、壁は真っ白だった。


 まるで貴族の屋敷に住んでいるようだった。幽霊が出るせいで買い手がいないってジャックさんは言ってたけど、もったいないだろ。


 でも、前の持ち主の人は逃げ出したんだよな。だから無料で買えたんだけど。


 最初に調べた時に知ったんだけど、この部屋と同じ部屋がこの隣にもあって、廊下の奥には何も置かれていない部屋が1つだけある。俺の部屋を出て左に曲がるとすぐにトイレがあって、トイレのドアの前を右に曲がると風呂があった。


「ところで、俺はこの部屋で寝るつもりなんだけど、エミリアはどうする?」


「えっ?」


 聖水の瓶を傍らに置きながら、ソファに腰を下ろして近くに置いてあった小説を読んでいたエミリアが、小説から俺へと視線を向けてきた。


「だって、一緒の部屋で寝るわけにはいかないだろ? 隣に空いてる部屋もあるし………」


「ま、待て力也。幽霊屋敷の中で別々の部屋に寝るというのは危険じゃないか?」


「いや、でも聖水あるだろ? それ持ってていいからさ」


「いや、そうしたら今度は力也が危ないじゃないか!」


「それはそうだけどさ………」


 エミリアは小説を置いて立ち上がると、カーペットの上に腰を下ろしている俺の方へと歩いてきた。


「それに、お前は私の事を貰ったのだろう?」


 俺に顔を近づけてそう言うエミリア。俺は顔を赤くしながら、彼女の瞳から目を逸らす。確かに俺はナバウレアでジョシュアと騎士たちの前で言ったよ。エミリアを貰うってさ。


「ならば別々の部屋じゃなくてもいいんじゃないか?」


「わ、分かったよ。………じゃあ、俺はソファで寝るから」


 さすがに同じベッドは拙いだろ。しかも部屋のベッドは1人用だし。


「どうしてだ? 力也もベッドで寝れば―――」


「お前、男と1人用のベッドで寝るつもりか?」


「いや、私は…………」


 俺から目を逸らしながら顔を赤くするエミリア。まさか、一緒のベッドで寝るつもりだったのか? 


 それはさすがに拙い。俺は顔を赤くしたままのエミリアに「ちょっと待ってろよ」と言うと、隣の部屋へと何か布団代わりになるものを探しに向かった。








 あの地下室で見た白い何かは何だったんだろうか? あの白い何かの正体について考えながらベッドで俺よりも先に眠ったエミリアの寝顔を見つめた俺は、彼女の枕元にそっと聖水の入った瓶を置くと、ソファの上に横になり、隣の部屋のベッドから持ってきた毛布をかぶった。


 今日は屋敷の調査と軽い掃除で終わったけど、明日からは傭兵ギルドの宣伝とかもしなくちゃいけないな。俺たちがこの屋敷を無料で購入したのは幽霊屋敷に住むためじゃないんだ。


 まず、ポスターとか看板も作らないといけないな。弾薬は半日くらいで補充されるから、とりあえずもし依頼が来たら報酬は日用品の購入に使おう。それに、食料も買っておかないとな。キッチンにある野菜も減ったし。


「………?」


 段々と眠くなり始めた時だった。寝返りをうとうとした俺は、自分の身体が全く動かないことに気が付いたんだ。


 これはまさか―――金縛りか!?


 両腕も両足も全く動かない。転生する前はこういう体験を一切したことがなかったんだが、まさか異世界で金縛りを体験することになるとは。少しだけそんなことを考えながら慌てて目を開けた俺は、一気に目を見開き、そのまま絶叫しそうになった。


 目の前に、真っ暗な部屋の中で揺れる白くて長い髪があった。地下室で見たあの白い何かはまさかこれだったのだろうか。冷や汗を浮かべながら目を動かした俺は、その白髪の持ち主と目が合った。


 白いワンピースを身に着けた小さい少女だった。明らかにエミリアよりも年下だろう。訓練を積んだ凛々しい顔つきの彼女と比べると幼い顔には何も表情を浮かべず、俺の上に乗った状態で俺の事を見つめている。


「………っ!?」


『………』


 まさか、この子がこの屋敷に出る幽霊なのか!?


 俺は全く身体が動かないまま、冷や汗を浮かべながら彼女の蒼い瞳を見つめていた。



 

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