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転生者たちがお姫様を救出するとこうなる


 廊下の向こう側から足音が聞こえてきた瞬間、俺たちは咄嗟に近くにあった物陰に隠れた。SMGで射撃できるように準備しながら、暗視ゴーグルを装着した状態で薄暗い廊下の向こう側を見渡す。


 足音と共にかすかに聞こえてくる話声は、男性の声だった。おそらく2人か3人だろう。物陰に隠れたままエミリアに向かって頷いた俺は、ブースターをドットサイトの後ろに展開して前方からやってくる男たちを確認する。


 廊下はランタンが用意されていないため、窓の外にある街灯と月明かりに辛うじて照らされているような状態だった。俺たちが身に着けている制服は黒いから、暗視ゴーグルを持たない敵から見つかることはないだろう。だが、見つかれば人質が殺されてしまう可能性がある。


「・・・・・・2人だな。ガルちゃん、やれるか?」


「任せるのじゃ」


 俺の後ろに隠れていたガルちゃんは頷くと、訓練通りにSMGを構え、ドットサイトとブースターを覗き込む。


 そして、まず廊下の向こうからやってくる右側の男に照準を合わせ、.50AE弾を頭に叩き込んだ。暗視ゴーグルの向こう側で、強烈な弾丸に大穴を開けられた男が仰向けに崩れ落ちるのが見える。隣を歩いていた男はいきなり相棒が頭から血を流して倒れたのを見てかなり驚いていたようだけど、まるで狼狽する男を黙らせるかのように放たれた2発目の.50AE弾がその男の側頭部を穿ち、慌てふためく声をかき消した。


 正確な射撃だった。20m程度の距離だったけど、まだ数回の射撃訓練しかやっていないというのに、正確に頭を撃ち抜いたんだ。


 さすがエンシェントドラゴンだな。


「よくやった、ガルちゃん」


「当然じゃ。私は最古の竜じゃからのう」


 大きなベレー帽をかぶり直しながら胸を張るガルちゃん。俺は笑いながら廊下の向こうを見渡し、他に誰もやって来ないことを確認すると、エミリアに向かって頷いてから廊下を進み始めた。


 お姫様はどこだ? どこに囚われている・・・・・・?


 クライアントである国王からの情報だと、第一王女のシャルロット・アウリヤーグ・ド・オルトバルカは17歳の少女で、2年A組の生徒らしい。


 どうする? 彼女の教室を探してみるか?


「同志シンヤスキー、何か情報はないか?」


『さっきエリスさんたちが交戦した模様。生徒は教室に監禁されていたみたいだね』


「やっぱり教室か・・・・・・」


『あー、ちょっと待って』


 信也に礼を言ってから通信を終えようとしたその時、無線機からエリスの声が聞こえてきた。彼女たちはさっき敵と交戦していた筈だ。何か情報を得たのだろうか?


「どうした?」


『生徒の女の子に聞いたんだけど、シャルロット様は体育館に監禁されてるみたいよ』


 体育館だって? 教室じゃないのか?


「良くやった、エリス」


『えへへっ。まあね』


「よし、俺たちは体育館に向かう。エリスたちはそのまま教室に監禁されている生徒たちを助けてやってくれ」


 今回の依頼はお姫様を救出して武装勢力を殲滅する事だけど、彼女以外にも貴族の子供たちが人質にされている。彼らを死なせるわけにはいかない。お姫様を助けたとしても、敵は残った人質を使って来る筈だ。


 ここは二手に分かれよう。それに、上空には信也とミラが操るスーパーハインドが待機している。いざとなれば兵員室に人質を乗せて離脱することも可能だ。しかも、スーパーハインドは堅牢な装甲と強烈な重火器で守られている。


『了解。それじゃ――――』


「あ、エリス。女子生徒に手は出すなよ?」


 ここにいる生徒は全員貴族の子供たちだ。平民の子供はいない。


 俺がそう言った直後、無線機の向こうからギュンターの声が聞こえてきた。


『だ、旦那? も、もう遅いんだが・・・・・・』


「えっ?」


 もう遅い? どういうこと?


 ま、まさか・・・・・・もう手を出しちゃったの!?


「おい、エリス!?」


『さっき怯えてた女子生徒を抱き締めてたんだよ。そしたらその子が・・・・・・姐さんの事をお姉様って呼び始めちゃって・・・・・・』


『大丈夫、抱きしめてあげただけよ!』


 な、なんてことだ・・・・・・。


 俺は思わず左手で頭を押さえてしまった。俺の隣では、エミリアがため息をついてから「姉さん・・・・・・」と呟いている。


 もう犠牲者が出ているとは・・・・・・。エリス、お願いだからそれ以上手は出さないでください。ここにいる生徒はみんな貴族なんですよ? しかも王都に住んでいる有名に貴族ばかりなんですよ?


「フィオナ、もしエリスが女子に手を出しそうになったら金縛りを使っていいからな」


『わ、分かりました・・・・・・』


『り、力也くん!?』


 ため息をつきながら通信を終えた俺は、ちらりと窓の外を眺めた。窓の向こうには普通の学校よりも広いグラウンドがあり、その向こうには巨大な建物が鎮座している。あれが体育館だろうか?


 体育館に向かうには、校舎から渡り廊下を使って行くしかないようだ。グラウンドを進むのは、いくら黒い制服を着ていると言っても目立ってしまうだろう。


 やっぱり、校舎の中を進んだ方が良い。少々時間はかかるが、暗闇と遮蔽物が俺たちを守ってくれる筈だ。


「校舎の中を進む。目的地は体育館だ」


「分かった。ガルちゃん、はぐれるなよ」


「うむ。では行くぞ」


 先ほどガルちゃんが頭を撃ち抜いて倒した男たちの死体が倒れている廊下を通過し、先へと進んでいく。まず最初に体育館へと通じる渡り廊下に向かわなければならない。


 ブースターを元の位置に戻し、ドットサイトを覗き込みながら進んでいく。先程のように巡回している見張りもいるかもしれないが、殆どは教室に監禁している人質を監視している筈だ。


 エリスがこれ以上女子生徒に手を出さないように祈りながら進み、曲がり角の陰に隠れて廊下の向こうを確認する。廊下にはいくつかランタンが用意されているみたいで、先ほどの廊下よりも明るくなっている。暗視ゴーグルは覗かない方が良いかもしれない。


 暗視ゴーグルを外して廊下を確認してみると、見張りと思われる武装勢力の男が壁に寄りかかっているのが見えた。


 他に見張りはいないようだ。俺はすぐにドットサイトのカーソルを男の頭に合わせてトリガーを引き、彼の頭に50口径の弾丸で大穴を開けてやると、エミリアとガルちゃんを連れて死体が転がる廊下を進み始めた。


 やはり、見張りは殆ど人質の監視をしているらしい。何人か巡回している奴らもいるが、廊下の見張りは数人だけだ。しかもお姫様や貴族の子供を人質に取っているから、精鋭部隊は突入して来ないだろうと安心している。


 馬鹿だな。既にモリガンの傭兵が潜入しているというのに・・・・・・。


 薄暗い廊下に崩れ落ちた死体を一瞬だけ見下ろして嘲笑った俺は、仲間たちを引き連れて死体の隣を通過した。


 廊下の左側には教室がある。薄暗いからプレートに何て書いてあるかわからないが、窓の向こうにはビーカーや試験管が並んだ棚がある。理科室だろうか?


 理科室と思われる教室を通過すると、右側に2階への階段があった。体育館への渡り廊下は1階から行かなければならないため、2階に行く必要はない。でも、もしかすると巡回している見張りと鉢合わせになる恐れがあったため、俺は暗視ゴーグルを覗き込みながら銃口を階段へと向けた。


 俺が警戒している間に階段の前をエミリアとガルちゃんが通過する。安心した俺は銃口を下げ、廊下を進んでいく2人に合流した。


「広い建物じゃのう・・・・・・」


「そりゃ王都の学校だからな」


 俺が通っていた高校よりも広い。学校に通っていた時のことを思い出しながら歩いていると、長い廊下の先に渡り廊下への入口が見えた。


 あの渡り廊下を通過すれば体育館だ。お姫様はそこに囚われているに違いない。そう考えた瞬間、ヘリの兵員室で味わった緊張が再び俺に襲い掛かってきた。


 左手で冷や汗を拭い、静かに渡り廊下の入口へと近付いていく。そっと入り口のドアの窓から渡り廊下の向こうの様子を確認した俺は、舌打ちしてからドアの影に隠れた。


「くそったれ。見張りがいるぞ」


「人数は?」


「4人だ」


「――――ふむ、迂回は出来そうにないな」


 同じように窓の外を確認するエミリア。ガルちゃんも背伸びをして窓の外を確認し、SMGの準備をする。


 射撃で片付けるか? ・・・・・・いや、あの能力を試してみよう。


「エミリア、ちょっと持っててくれ」


「おい、力也?」


 俺は持っていたSaritch308SMGとホルスターの中のデザートイーグルをエミリアに手渡すと、頭に着けていた暗視ゴーグルを外し、腰に下げていたサラマンダーの頭骨で作った黒い仮面をかぶった。


 魔術を使えば、敵に魔術師がいた場合は感知されてしまう。だが、俺が端末で生産した十戒殲焔ツェーンゲボーテは魔術ではない。あれは端末で生産した俺の能力なんだ。だから、魔力は一切使わない。


 あの能力を使えば火達磨にされたような激痛に襲われるが、超高温の炎を自在に操れるようになる。


 仮面をかぶった俺を見たエミリアは、俺がそれを使うつもりなんだと察したらしい。俺の肩に手を置いて「無理はするんじゃないぞ」と言った彼女に頷くと、俺は十戒殲焔ツェーンゲボーテを発動させた。


 全身が炎に包まれる。火達磨にされる激痛に耐えながら、俺は鞘の中からスクリーミング・ガールを引き抜き、超高温が生み出した陽炎を纏いながらそっと入り口のドアを開けた。


 体育館の前にいる見張りの男たちは、俺に気付いていない。今までと同じように短剣や剣を腰に下げ、黙って突っ立っているだけだ。俺は隠れずに真っ直ぐに歩いているだけなのに、あの男たちはまだ気付いていない。


 すると、見張りの男の中の1人が「なあ、なんだか熱くないか?」と仲間に言い始めた。他の仲間たちも、服の袖で汗を拭いながら「ああ、確かにな。もう11月だぞ?」と言う。


 もう目の前にいるというのに、この男たちは俺に気付いていなかった。


 正確には、俺の姿が見えていないんだ。


 原因は、俺が纏っている陽炎だった。十戒殲焔ツェーンゲボーテは2000度までの温度の炎を操る事が出来る能力だ。だがその超高温の炎は攻撃以外にも利用する事が出来る。


 超高温の炎で陽炎を生み出し、俺はその陽炎を纏って姿を消したんだ。敵からすれば、目の前に陽炎があるようにしか見えないだろう。


 十戒殲焔ツェーンゲボーテの応用だ。この姿を消す能力は煉獄陽炎れんごくかげろうと呼ぶことにしよう。


 俺はスペツナズ・ナイフの刀身を少し伸ばしたような形状の短剣の鍔からスペツナズ・ナイフを分離させると、右手の短剣と左手のスペツナズ・ナイフを2人の見張りの喉元に同時に突き立てた。


「グエッ!?」


「グッ!?」


「お、おい、何が――――ギャッ!?」


 残った2人の見張りが大声を出す前に左足のブレードを展開し、左側にいた見張りの喉元へと、まるで回し蹴りをするかのように左足のブレードを叩き付ける。あっさりと喉を切り裂いたブレードを引き抜きつつ、コートの内側に隠していた尻尾を伸ばし、右側にいた見張りの喉にダガーのような鋭い尻尾の先端部を突き立てる。


 便利な尻尾だ。


 見張りの喉から強引に尻尾を引き抜いた俺は、煉獄陽炎を解除してスペツナズ・ナイフを短剣に再び装着してから鞘に戻し、かぶっていた仮面を外してから、入り口のドアの陰に隠れていた2人を手招きする。


「お主、どうやって姿を消したのだ?」


 SMGを抱えながらやってきたガルちゃんが、小声で俺に聞いてきた。


「陽炎を使ったんだよ」


「ふむ。面白い能力じゃのう」


「お前、そんな事が出来たのか・・・・・・」


「最近できるようになったんだ。炎は攻撃だけじゃないんだぜ」


 にやりと笑いながらエミリアに言った俺は、彼女に預けていたSaritch308SMGとデザートイーグルを返してもらってから、ちらりと夜空を見上げた。


 かすかに聞こえてくるのはスーパーハインドのローターの音だ。


「こちら力也。これより体育館に突入する」


『了解。気を付けて』


 信也に報告した俺は、静かに体育館の入口のドアを少しだけ開け、中の様子を確認した。随分と広い体育館の中には、何人も見張りの男たちがいる。装備は剣やサーベルばかりで、中にはハルバードを持っている奴もいる。ステージの方には杖を持った魔術師が2人立っているのが見える。その魔術師に見張られているのは――――豪華な装飾の付いた制服に身を包んだ、金髪の少女だった。手足を椅子に縛られているようだ。


 彼女が第一王女か? 他に人質と思われる生徒はいない。腰に下げていた双眼鏡で彼女の様子を確認してみたが、殴られたような痕は見当たらない。暴行は受けていないようだ。


「彼女がシャルロットか?」


「おそらくな。・・・・・・どうする?」


「ちょっと待て・・・・・・」


 見張りの人数は30人以上だ。しかもそのうち2人は魔術師か・・・・・・。


「スモークグレネードを使おう。3人で同時に投げ込むぞ。俺が救出に行くから、2人は援護を頼む」


「了解だ」


「うむ、分かったのじゃ」


 俺は端末を取り出してスモークグレネードを3つ生産し、生産したばかりのスモークグレネードを2人に渡すと、ガルちゃんにMG34も渡しておくことにした。彼女のお気に入りの汎用機関銃だ。


「頼むぜ、ガルちゃん」


「任せるのじゃ。私は最古の竜じゃからのう」


 少し大きめのベレー帽をかぶる彼女の頭を撫でた俺は、仲間たちに向かって頷くと、息を吐いてからスモークグレネードの安全ピンを引き抜いた。エミリアとガルちゃんも安全ピンを引き抜き、体育館の中に投げ入れる準備をする。


 体育館は広いから、出来るだけステージの方に投げ込むべきだろう。そうすれば王女を救出する難易度は下がるし、厄介な魔術師も始末できる筈だ。


 俺は左手で入り口のドアをもう少し開け、仲間たちと共にスモークグレネードを体育館の中に放り込んだ!


「ん? 何だ?」


「何の音だ?」


 放り込んだスモークグレネードはステージの方へと転がると、一気に真っ白な煙を放出し、体育館の中にいた武装勢力の男たちを白い煙で包み込んでしまう。


 俺はSMGの銃身の下に標準装備されている折り畳み式のフォアグリップを展開すると、銃を構えながら白い煙の中へと飛び込んだ。素早くセレクターレバーを操作してセミオート射撃からフルオート射撃に切り替え、白い煙の中で狼狽する男たちの頭や胴体へと.50AE弾を叩き込んでいく。


 煙の中で響き渡る仲間たちの断末魔で、やっと敵は敵襲だと気づいたらしい。剣を鞘から引き抜く音が周囲から聞こえるけど、突っ走りながら次々に50口径の弾丸で敵を穴だらけにしていく俺の位置は分からないらしい。


 このまま真っ直ぐ進めば、ステージがある筈だ。白い煙が体育館の中を包み込む前にステージの位置を覚えていた俺は、目の前で剣を引き抜き、狼狽している大男の背中に左足のブレードを叩き込んで真っ二つにした。返り血を浴びながら真っ二つになった男の死体を蹴飛ばし、更に前へと突っ走る。


「て、敵襲だ!」


「くそ、どこから来る!?」


 目の前にステージが見えた。ジャンプしてステージの上に着地した俺は、Saritch308SMGを右手だけで構えて右側の魔術師に銃口を向けつつ、左手を伸ばしてホルスターの中からデザートイーグルを引き抜き、左側に立っている魔術師へと銃口を向ける。


 そして、同時にSMGとハンドガンのトリガーを引いた。


 サプレッサーが装着されていなかったデザートイーグルが轟音を発する。白煙の中で猛烈なマズルフラッシュが煌めくと同時に、ブローバックしたハンドガンから空になった.50AE弾の薬莢が排出される。


 50口径の弾丸を顔面に喰らった魔術師は、顔面から血飛沫を噴き上げながら仰向けに倒れた。


「きゃあっ!!」


 その魔術師たちが監視していた金髪の少女が、鮮血を吹き上げながら崩れ落ちた男たちを見て悲鳴を上げる。俺は彼女が縛られている椅子に駆け寄ると、デザートイーグルを尻尾に持たせ、鞘から短剣を引き抜いて彼女の手足を縛っていた縄を切り裂いた。


「シャルロット様?」


「あ、あなたは・・・・・・!?」


「傭兵です。助けに来ました」


 縛られていた彼女を立たせた俺は、尻尾をコートの中に隠し、短剣を鞘に戻してから彼女の手を引いた。


 白煙が薄れ始める。ステージに向かって走りながら何人か始末したが、まだ見張りは20人ほど残っているだろう。


 だが、お姫様は救出したぞ。


「―――やれ、2人ともッ!」


「了解なのじゃ!」


「ああ!」


 薄れ始めた白煙の向こうから返事が聞こえてきた直後、白煙の向こうでマズルフラッシュが輝き、猛烈な銃声の群れが体育館の中に響き渡った。白煙を穿って飛来する無数の7.92mm弾の豪雨が、俺たちを追いかけようとしていた男たちの肉体を食い破る。


 次々に風穴を開けられて崩れ落ちていく男たち。俺はお姫様の手を引きながら片手でSMGを発砲し、俺たちにハルバードを振り下ろそうとしていた男の胸をズタズタにしてやると、右足で崩れ落ちる途中だった男を蹴り飛ばし、ガルちゃんがぶっ放している7.92mm弾の豪雨の真っ只中に放り込んでやった。


「な、何ですの!? あんな武器、見たことがありませんわ! あなたたち、もしかして・・・・・・!!」


「ええ、その通りです!」


「力也、こっちだ!」


 SMGをフルオートでぶっ放しながらエミリアが叫ぶ。俺はお姫様の手を引きながらエミリアたちと合流すると、姫様の手を離してドアの陰に隠れさせてから、俺もSMGで体育館の中に残っている男たちを薙ぎ払い始めた。だが、男たちは既にガルちゃんのMG34で殆ど穴だらけにされている。


 逃げようとしていた最後の1人がエミリアに蜂の巣にされ、仲間たちの死体の上に崩れ落ちた。エミリアは息を吐いてマガジンを取り外すと、予備のマガジンと交換してからコッキングレバーを引く。


 体育館の敵は全滅だ。こいつらが学園を占拠した武装勢力の主力部隊だったんだろう。あとは生き残りを殲滅して人質たちを救出すれば、この仕事は終わりだ。


「あなたたち・・・・・・モリガンの傭兵・・・・・・!?」


「ええ、そうです。国王陛下から貴女の救出を依頼されました」


 エミリアがお姫様に説明するのを聞きながら、無線で仲間にお姫様を救出したことを伝えようとしたその時、俺たちの背後から男の怒声が聞こえてきた。明らかに仲間の声ではない。


 俺は舌打ちしながらデザートイーグルをホルスターから引き抜き、その怒声を発した男へと向けた。他の教室を見張っていた奴がやってきたんだろうか。


「くそったれ! モリガンの傭兵が来やがった!」


「・・・・・・ん?」


 あれ? 何だかあの男は見覚えがあるぞ?


「なあ、力也。あいつは・・・・・・確か、デートに行った時に・・・・・・」


 デート? 王都に来た時か?


 あ、思い出したぞ。あの男は確か、俺たちがデートしていた時にレストランに入って来た強盗のリーダーだ。デートを邪魔されてムカついたから、義足のブレードで息子を真っ二つにしてやったんだ。


 俺はニヤニヤと笑いながら「おい、おっさん」と言うと、かぶっていたフードを外した。


 その男は剣を引き抜きながら俺たちを睨みつけていたんだが、俺の顔を見た瞬間、目を見開きながらぶるぶると震え始めた。どうやらおっさんも思い出したらしい。


「て、てめえ・・・・・・! あの時のガキか!? モリガンの傭兵だったのか!?」


「ああ、その通りだ」


「よ、よくも俺の息子を・・・・・・!!」


 お姫様がいるんだから、お姫様の前でそんなことを言うんじゃない。


 だが、相手は剣しか持っていないおっさん1人だけだ。俺たちは銃を持っているし、エミリアとガルちゃんもいる。負ける可能性はかなり低い。


「――――へえ、モリガンか。ということは、転生者ハンターが来ているな?」


 デザートイーグルをおっさんの頭に向けていると、今度はそのおっさんの後ろから少年の声が聞こえてきた。その少年の声を聴いたおっさんが、渡り廊下を歩いて来た少年に道を譲りながら「り、リーダー・・・・・・!」と言ったのが聞こえた。


 渡り廊下から歩いて来た少年は、腰に真っ黒な日本刀を下げていた。腰の後ろにはハンドガンのホルスターがある。服装は武装勢力の男たちが身に着けているような防具ではなく、目立たないような私服だった。


 まさか、転生者か?


「お前が転生者ハンターか。・・・・・・何人も転生者を狩り続けてきた猛者だと聞いている」


「・・・・・・そうか。俺も有名になったもんだ」


 今まで俺が戦ってきた転生者は、いつも俺を見下していた。自分の方がレベルが上だと思い込んだ上に、自分の持っている武器や能力ならば俺を簡単に倒せると考えていたような奴ばかりだったんだ。


 だが、こいつはどうやらそんな馬鹿共とは違うらしい。全く油断していない。


 逃げ切るという選択肢を捨てた俺は、デザートイーグルの照準をおっさんではなくその転生者へと向けた。


「待て、力也」


「エミリア?」


 トリガーを引こうとしていたその時、今度はエミリアが俺に自分のSMGを持たせてきた。そして背中の鞘から愛用のクレイモアを引き抜き、切っ先をその転生者へと向ける。


 まさか、転生者と戦うつもりか?


「私が相手をする。お前は見ていろ」


「無茶だ、エミリア。俺が――――」


「私にも転生者が倒せるのか、腕試しをしてみるだけだ」


「――――分かった。だが、無理はするなよ」


「心配するな。・・・・・・私は、お前の女だぞ?」


 彼女はそう言うと、クレイモアを構え、転生者に向かって走り始めた。


 


 

 

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