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転生者たちが学園に突入するとこうなる


 兵員室のハッチの向こうから微かに聞こえるメインローターの音を聞きながら、俺は今回の依頼でのメインアームとなるSaritch308SMGの点検を始めた。このSMGサブマシンガンはモリガンで採用しているSaritch308から派生したSMGで、デザートイーグルで使用される.50AE弾を使用する破壊力が非常に高い銃だ。依頼を受けた直後に仲間たちに試し撃ちをしてみたんだが、銃身をSaritch308PDWよりも切り詰めて軽量化しているため、反動が非常に大きかった。そのため、銃身の下にはMP7のような折り畳み式のフォアグリップを標準装備している。


 仲間たちはこの獰猛なSMGのキャリングハンドルの上に、ドットサイトとブースターを装着している。中にはホロサイトを装着しているメンバーもいた。


 ホルスターの中に納まっているサイドアームは、このSMGと同じ弾薬を使用するデザートイーグルだ。


「それにしても、すごいことをする武装勢力もいるのね・・・・・・」


 俺の向かいの席でSaritch308DMRの暗視スコープの点検をしながらカレンが呟く。俺は頷きながら、ホルスターの中からデザートイーグルを取り出して点検を始めた。


 俺たちが引き受けた依頼は、予想通りの大仕事だった。なんと、貴族たちが通う王立ラガヴァンビウス学園が、武装勢力に占拠されてしまったらしい。しかもそこにはオルトバルカ王国の第一王女も通っていたため、他の貴族の子供たちと一緒に人質にされてしまっている。


 国王から依頼されたのは、第一王女シャルロット・アウリヤーグ・ド・オルトバルカの救出と武装勢力の殲滅だ。もちろん、他の貴族の子供たちも救出しなければならない。


 学園は精鋭部隊が包囲しているらしいんだが、第一王女や貴族の子供たちが人質に取られているため、迂闊に突入できない状態になっているらしい。確かに、国王の娘を人質に取られれば精鋭部隊でも突入するのは難しいだろう。


「なんだか俺たちも有名になってきたな、旦那! 国王からの依頼だぜ!?」


「そうりゃそうだが、失敗できねえぞ。もしお姫様が死んでしまったら大問題だ」


 人質は第一王女と王都の貴族の息子たちだ。武装勢力は皆殺しにしてもかまわないが、人質は1人も死なせてはならない。今までは敵の殲滅ばかりだったから気楽だったけど、今回は人質も守らなければならない。俺はSMGの銃口にサプレッサーを装着しながら深呼吸すると、内ポケットの中にしまっている赤黒い懐中時計をポケットの中で握りしめた。


 エミリアにデートの時にプレゼントしてもらった大切な懐中時計だ。


 何とか緊張をかき消してから窓の外を見ると、兵員室の窓の外には王都の夜景が広がっていた。機械が存在しない世界の夜景は、俺たちの住んでいた世界の夜景よりも幻想的な光に見える。もう少しその光を眺めていたかったけど、スピーカーから『そろそろ降下地点です』と信也の声が聞こえてきて、兵員室のハッチが開いた。


「それじゃ、行ってくるわね」


 そう言いながらカレンが座席から立ち上がり、マークスマンライフルを背負いながらハッチの方へと歩いていく。


 彼女には学園から400mくらい離れた建物の上に降下してもらい、マークスマンライフルの狙撃で援護してもらう予定だ。高度を落とし始めたスーパーハインドから飛び降りようとしているカレンに向かって、ギュンターが心配そうに言う。


「おい、1人で大丈夫かよ? 俺も一緒に行こうか?」


 彼女をからかっているわけではない。ギュンターは本当にカレンを心配しているんだ。


「あら、私は領主の娘よ? 護衛を引き連れる必要がないように鍛えたつもりなんだけど。・・・・・・それに、私の任務は狙撃よ? 護衛は必要ないわ」


「で、でも・・・・・・」


「ふふっ。心配してくれてありがと。・・・・・・私は大丈夫だから、ギュンターはしっかりやって来なさい」


 カレンは微笑みながらそう言うと、席から立ち上がりかけていたギュンターに向かってウインクし、兵員室のハッチから建物の屋上に飛び降りていった。


「失敗したら許さないんだからねっ!」


 閉じ始めた兵員室のハッチの向こうから、メインローターの音と共にカレンのそんな声が聞こえてきた。やがてハッチが閉じ、メインローターの音が一気に小さくなる。


 ギュンターは少し顔を赤くしながら拳を握りしめると、窓の外を見つめながら「・・・・・・任せろよ」と呟いた。


 俺はにやりと笑うと、カレンが座っていた席の隣に腰を下ろしたギュンターをからかってやることにした。


「お、ギュンターの初恋か?」


「は、はぁッ!? 旦那ぁ、何言ってんだよ!?」


「あらあら、ギュンターくんはカレンちゃんが好きなのね?」


「姐さんまで・・・・・・」


『お兄ちゃん、おめでとう!』


「ミラぁ!?」


 兵員室に乗り込んでいた仲間たちが笑い出す。これで緊張をかき消すことは出来た筈だ。


 今回の依頼では人質も守らなければならない。でもそれ以外はいつも通りだ。いつも通りに銃を装備し、敵を蹂躙する。


 ただ、今回は隠密行動をしなければならない。いくら銃を持っていると言っても、相手は貴族の子供たちや第一王女を人質に取っている。


 しかし、今は夜だ。しかもモリガンの制服は黒いから、夜間での隠密行動にはもってこいだ。さらに、こっちは暗闇の中でも敵を発見できるように、ヘッドマウント型の暗視ゴーグルを装備している。


 松明やランタンを持って明かりを発しなくても、暗闇の中で敵を探す事が出来る便利な装備だ。機械が存在しないこの異世界でこんな芸当が出来るのは魔術だけだけど、もし敵に魔術師がいた場合は放出している魔力を感知されている可能性がある。でも、この暗視ゴーグルがあれば敵に感知されずに暗闇の中で敵を探す事が可能だった。


 まるで特殊部隊だな。そんなことを考えながら暗視スコープの点検を終えると、スピーカーから再び『降下地点です。準備をお願いします』と信也の声が聞こえてきた。


 再び兵員室のハッチが開き始める。メインローターの轟音と冷たい風が流れ込んでくる向こうに見えてきたのは、俺たちが住んでいる屋敷の7倍ほどの大きさの豪華な建物だった。


 王立ラガヴァンビウス学園だ。ここで第一王女たちが人質に取られている。


「――――よし、行くぞ。作戦開始」


 座席から立ち上がり、兵員室のハッチから学園の屋根の上に飛び降りる。他のメンバーたちも下りて来たのを確認した俺は、上昇して行くスーパーハインドを見上げながら暗視スコープを覗き込んだ。


 突入するメンバーは6人だ。カレンには建物の上で狙撃してもらう予定だし、信也たちには上空からサポートをしてもらうことになっている。


「メンバーを分けるか」


「うむ、そうするべきだろうな。思ったよりも広い場所だ」


 迅速に人質を救出し、武装勢力を殲滅する必要がある。だからこのまま6人で一緒に行動するよりも、3人ずつのチームに分けて索敵した方が良いだろう。


 戦力を考えると、俺とエミリアとガルちゃんが一緒に行動して、エリスとギュンターとフィオナを一緒に行動させるべきだろう。ガルちゃんは人間の姿になって実戦に参加するのは今回が初めてだから俺とエミリアでカバーしなければならない。それにエリスは騎士団に所属していた頃に中隊を指揮していた経験があるらしいから、もう1人の指揮官には適任だろう。


「よし、俺とエミリアとガルゴニスで西側から侵入する。エリス。ギュンターとフィオナを連れて東側から侵入してくれ」


「え・・・・・・!? 力也くんと離れ離れになるの!?」


「おいおい・・・・・・」


 仕方がないな。


 俺は暗視スコープを外すと、前にガルちゃんを襲おうとしていた彼女を止めた時のように、右手で彼女の頬に触れながら微笑んだ。


「じゃあ、依頼が終わって屋敷に戻ったら何でも言うことを聞いてやる」


「ほ、本当・・・・・・!?」


「ああ」


「えへへっ。・・・・・・じゃあ、頑張るわね! ―――さあ、行くわよッ!」


 にっこりと笑ってから踵を返し、SMGを構えて屋根の上を走っていくエリス。彼女の後ろをついて行くギュンターとフィオナに手を振ってから、俺はため息をついた。


 何でも言うことを聞いてやるって言ってしまった・・・・・・。拙いぞ。もしかしたらガルちゃんを襲わせてと言い出すかもしれない。でも、前に俺が浮気はしないでくれって言ったから、ガルちゃんを襲う可能性は低いだろう。・・・・・・もしかしたら俺が襲われるかもしれない。


「つ、辛い・・・・・・」


「力也・・・・・・」


 俺はエミリアの顔を見ながら苦笑いすると、暗視ゴーグルを覗き込んで屋根の上を走り始めた。









「えへへっ」


 私は屋敷に戻った時のことを考えながら、静かに窓を開けて廊下へと足を踏み入れた。廊下は壁にかけられているランタンのせいで橙色の光に照らされているから、暗視ゴーグルは使わない方が良いかもしれない。


 廊下に敵がいないことを確認した私は、窓の外で提起している2人に向かって親指を立てながら歩き出した。SMGの銃身の下に折り畳まれているフォアグリップを展開し、セレクターレバーをフルオート射撃からセミオート射撃に切り替えておく。


 廊下の曲がり角に隠れながら角の向こうを確認し、誰もいないことを確認してから歩き始める。人質はどこにいるのかしら? この学園の生徒の人数はかなり多いから、一か所に集めるのは難しいでしょうね。教室に監禁しているのかしら?


『こちらカレン。エリスさん、聞こえる?』


「ええ、聞こえるわ。どうしたの?」


『その先にある教室に人質を確認しました。人数は30人前後。見張りの男は6人ですね』


「あら、見張りが少ないわね。巡回中かしら?」


 30人も人質がいるのに見張りがたったの6人ですって? 随分と少ないわね。そんな少人数で人質を30人も見張れるわけがないじゃない。


『突入しますか?』


「当たり前よ。フィオナちゃん、実体化を解除して教室の中の確認を」


『りょ、了解っ』


 実体化を解除して透明になったフィオナちゃんが、壁をすり抜けて教室の中の様子を確認しに行く。私はギュンターくんを連れて教室の近くまで移動してから、フィオナちゃんが戻ってくるのを待つことにした。


 フィオナちゃんが入っていった教室のプレートには、2年D組と書かれていたわ。


『確認しました。窓側に3人いて、残りの3人は教室の真ん中と廊下側にいます』


「分かったわ。――――カレンちゃん、狙撃で窓際の3人を片付けられるかしら?」


『任せてください。他の3人はお願いします』


「了解。では、突入準備を」


 王都の精鋭部隊に所属していた頃はよく部隊の指揮を執っていたわ。私は精鋭部隊の隊員の中で最年少だったから、プライドの高い隊員は私の命令を全く聞いてくれなかったけどね。まあ、そんなお馬鹿さんたちは中隊長の権限で別の中隊長に押し付けてあげたけど。


 ギュンターくんとフィオナちゃんが突入の準備を終えたのを確認した私は、SMGの準備をしながらそっと教室のドアに手をかけた。豪華な装飾がたくさんついたドアだけど、いくらするのかしら? 


「3、2、1・・・・・・GO!」


 私が指示を出したと同時に、教室の中から窓ガラスが割れる音が聞こえた。その直後に私たちは教室のドアを開き、部屋の中に突入しながらSMGの照準を男たちへと向ける。


 カレンちゃんが放ったマークスマンライフルの狙撃は、正確に窓際に立っていた男の頭を撃ち抜いていたわ。いきなり頭を弾丸で抉られて崩れ落ちる仲間を見て狼狽する男の頭にも7.62弾が突き刺さり、砕け散った頭蓋骨と肉片が装飾の付いた壁を汚していく。


 いきなり突入してきた私たちを見て驚く男たち。私は男が絶叫するよりも先にホロサイトのカーソルを男の頭に合わせると、セミオート射撃に切り替えていたトリガーを引いたわ。


 サプレッサーのおかげで銃声は全く聞こえない。聞こえてきたのは、絶叫するために開けていた口の中に.50AE弾を叩き込まれた男の呻き声だった。


 ギュンターくんとフィオナちゃんの弾丸に頭を貫かれ、教室の真ん中にいた男と廊下側に立っていた男が崩れ落ちる。残っていた窓際の男も、後頭部に7.62mm弾を叩き込まれ、鮮血を吹き上げながらうつ伏せに崩れ落ちた。


「―――クリア」


 教室の中にいた武装勢力の男たちは全滅したようね。私は銃を下ろしながら、教室の中にいた人質たちの様子を確認することにした。


 生徒たちは怯えていたけど、痛めつけられた子はいないみたい。


「あ、あの、もしかして・・・・・・モリガンの傭兵ですか・・・・・・?」


「え?」


 生徒たちの様子を確認していると、豪華な制服に身を包んだ女子生徒が震えながら私に尋ねてきたわ。あら、可愛い子ね。胸も大きいし。襲いたいところだけど、力也くんに浮気するなって言われたから諦めるわ。


 それに、依頼が終われば力也くんを襲えるかもしれないし。


「ええ、そうよ。あなたたちを助けに来たの。・・・・・・ところで、シャルロット様はどこにいるか知らない?」


「シャルロット様は・・・・・・きっと体育館よ」


「体育館?」


「ええ。さっき武装勢力の男たちが体育館に連れて行くのを見たの」


 どうやら一番重要な人質は体育館に監禁しているみたいね。もしかしたら、教室に見張りが少なかったのは、体育館のシャルロット様を見張るためなのかしら?


「ありがと。あとはお姉さんたちに任せなさい」


 私は微笑みながらそう言うと、怯えているその女子生徒を優しく抱きしめた。


 

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