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転生者がガルちゃんと一緒に街に行くとこうなる


 僕の部屋には、ベッドが2つある。窓側にあるベッドが僕のベッドで、その隣にあるベッドはミラのためのベッドだ。ベッドの近くには本棚があって、僕たちが街で購入してきたマンガや小説がずらりと並んでいる。


 でも、ミラは基本的に自分のベッドを使うことはない。いつも寝る時は必ず僕のベッドに入り込んで来るんだ。


「う・・・・・・・・・」


 僕は瞼をこすりながら、僕のすぐ近くで寝息を立てるハーフエルフの少女の寝顔を見つめた。彼女はハーフエルフだけど、エルフの母親に似たせいなのか肌は白い。ギュンターさんはどうやら父親に似たみたいだね。


 出会ったばかりの頃は喉元の傷を気にしてよくマフラーで隠していたんだけど、今ではもう仲間の前では隠さなくなった。


 彼女の喉はある転生者に潰されてしまっているため、彼女はもう自分で喋る事が出来なくなってしまっている。普段彼女が喋っているのは、音響魔術という廃れてしまったエルフの魔術を応用しているんだ。


 かなり辛かっただろう。唯一の肉親と離れ離れにされ、薄暗い牢屋の中でほんの少ししか食事を与えられず、転生者に毎日虐げられていたんだから。彼女の喉の傷を見ると、僕はいつも牢屋の中で涙を流している彼女の姿を想像してしまう。


「・・・・・・」


 僕は横になったまま、僕の方に顔を向けて眠っている彼女の頭を撫でた。するとミラは眠りながら微笑み、気持ちよさそうに長い耳をぴくぴくと動かす。


 可愛いなぁ・・・・・・。


(んっ・・・・・・)


「ん?」


 しばらく彼女の頭を撫でていると、ミラがゆっくりと目を開けた。小さな口を開けてあくびをしてから、紅い瞳で僕の顔をじっと見つめてくる。


 彼女はまた耳をぴくりと動かすと、僕よりも小さな手で瞼をこすってから、その手を僕の方へと伸ばしてきた。そのまま両手を僕の背中に回すと、横になったまま僕に抱き付いてくる。


(シン、おはようっ)


「うん。おはよう、ミラ」


 前までは彼女に抱き付かれるだけで顔を真っ赤にしてたんだけど、もう慣れてしまった。しばらく僕の胸に顔を押し付けている彼女の頭を撫でていると、ミラは僕の胸から顔を離して僕の顔を見上げてくる。


(あのね、夢の中でシンにいっぱいなでなでしてもらったの!)


「はははっ。本当になでなでしてたよ?」


(うん! 夢じゃなかったよ。えへへっ)


 まだ少しだけ顔つきが幼い彼女を抱き締めてから、僕はベッドから起き上がろうとした。もう6時を過ぎている。そろそろ着替えを済ませて訓練に行くか、朝食を摂りに行かないといけない。


 でも、彼女から手を離して起き上がろうとした瞬間、僕はいきなり片手を掴まれて、再びベッドに倒れてしまった。僕の手を掴んでいたミラは僕が起き上がる前に僕の上に乗ると、再び僕の胸に顔を押し付けて耳をぴくぴくと動かし始める。


「ちょっと、ミラ?」


(ねえ、まだ行かないでよぉ)


「でも、みんな訓練を始めてるし・・・・・・」


(でも、私はシンともっと一緒にいたいのっ!)


「う・・・・・・。わ、分かったよ。もう少し部屋にいるから。ね?」


(うん、ありがとっ!)


 どうやら今日は朝食を摂る時間が遅くなりようだ。


 僕は苦笑いをしながら、ぎゅっと彼女の小さな体を抱き締めた。


 







『ふふっ。ガルちゃん、似合ってますよ』


「そ、そうかのう・・・・・・?」


 鏡の前に立つ赤毛の幼女が身に着けているのは、初めてあの姿になった時に身に着けていた赤いワンピースではなかった。


 まるで俺がいつも身に着けているコートを女性用にアレンジしたようなデザインになっている。ベルトのような装飾が多いせいで拘束具のように見えてしまうけど、彼女の体格に合わせてベルトが小さくなっているため、俺の制服と比べるとあまり拘束具のようには見えなくなっている。


 ガルちゃんはフィオナから渡された大きなベレー帽をかぶると、恥ずかしそうに顔を赤くしながら鏡の向こうの自分の姿をじっと見つめていた。あのベレー帽は彼女の頭の角を隠すためにフィオナが用意してくれたものなんだけど、少し大きいようだ。


「り、リキヤよ。似合っておるか?」


「ああ、似合ってるよ」


「う、うむ。・・・・・・それにしても、これが制服か・・・・・・」


 ガルちゃんは昨日から俺たちが来ている制服にも興味を持っていたようで、俺が部屋で脱いでから壁にかけていた制服の上着をじっと見つめていた。


 もう一度鏡を見てから制服の裾を掴むガルちゃん。彼女は大きなベレー帽をかぶり直すと、にやりと笑ってから俺の近くに戻ってきた。


『ふふっ。まるで親子みたいですね』


「おっ、親子!?」


 フィオナにそう言われた俺は、少しだけ顔を赤くしながらちらりと鏡を見た。確かに制服のデザインも似ているし、幼女の姿になったガルちゃんの顔つきは俺の顔に少しだけ似ている。でも、彼女の顔つきが俺に似ているのは俺の遺伝子情報を参考にしているからだ。


 俺は鏡から目を逸らすと、にこにこと笑いながら俺の顔を見上げているガルちゃんの顔を見下ろした。変異した後の俺の遺伝子情報を参考にしているため、彼女の瞳も炎のように赤い。


 とりあえず、訓練にでも行ってくるか。このままガルちゃんと一緒にいたらフィオナにからかわれそうだ。そう思った俺は苦笑いしながらフードをかぶり、ドアの方へと歩き出す。


 すると、俺がドアノブに手をかけるよりも早く、勝手にドアノブが回り始めた。開いたドアの向こうに立っていたのは、剣の素振りを終えて戻ってきたエミリアだった。


「おう、エミリア」


「ああ、力也か。ん? ガルちゃんの制服か?」


「うむ。フィオナが私のために作ってくれたのじゃ」


「はははっ。まるで親子みたいだな」


 おいおい、フィオナにも親子みたいだってさっきからかわれたばかりなんだぞ? そんなに親子に見えるのか?


 俺の隣で胸を張るガルちゃんを、エミリアは微笑みながら見下ろしている。


 彼女も少しからかってやろうと思った俺は、一瞬だけにやりと笑った。


「なら、彼女のママは誰なんだろうな? エミリアか?」


「なっ・・・・・・!? ま、ママだと・・・・・・!?」


 いきなり顔を真っ赤にして俺の顔を見上げるエミリア。ガルちゃんは彼女の顔を見上げながら首を傾げている。


 俺の冗談でいつもの凛々しさを完全に吹っ飛ばされたエミリアは、初めて俺と出会ったばかりの頃のように狼狽しながら、何度も「わ、私がママ・・・・・・!?」と連呼していた。


 最近は冷静な彼女ばかり見ているので、こんなに焦っている彼女を見るのは何だか懐かしいような気がする。そう言えば、最初に俺とナバウレアから逃げた時もこんなに顔を赤くしてたな。


『あ、力也さん。ピエールさんがエリクサーを持って来てほしいって言ってましたよ?』


「おう、分かった。届けに行ってくる」


 ピエールは、初めて俺たちが転生者と戦った際に出会った少年だ。その転生者の手下をやっていた奴なんだが、他の手下たちと違って気の弱い奴だったからあまり悪さはしていなかった。こっそりと自分たちの食糧庫から食料を持ち出して、お腹を空かせている子供たちに配っていたような優しい奴だ。


 今はあの街から連れ出したハーフエルフのサラと一緒に、ネイリンゲンで喫茶店を経営している。ネイリンゲンは傭兵ギルドの多い街だから客は傭兵ばかりらしい。


 それに、俺にいつも転生者の情報をくれるのはピエールだ。あいつにはいつも世話になっているから、恩を返さなくてはならない。


「わ、私も行くぞ」


「おう。じゃあ2人で――――ん?」


 エミリアと2人で行こうとしていると、俺の傍らにいたガルちゃんが俺の制服の裾をぐいぐいと引っ張り始めた。


「何だ?」


「私も行くのじゃ」


「じゃあ3人か」


『では、親子3人でお願いしますね』


「なぁッ!?」


「り、力也がパパ・・・・・・!?」


 くすくすと笑いながらまたからかってくるフィオナ。今度は俺までエミリアのように顔を赤くしてしまった。









 腰に短剣のスクリーミング・ガールを下げ、前までアンチマテリアルソード改と小太刀の鞘を下げていた腰の左側には大型リボルバーのプファイファー・ツェリスカの収まったホルスターを下げておく。強烈な.600ニトロエクスプレス弾を確実に叩き込めるように、プファイファー・ツェリスカの銃身の下にはスナイパーライフル用のバイボットを装備し、銃身の上にはスコープを装着している。そのため、まるで銃床を取り外したスナイパーライフルのような外見になってしまっているけど、このリボルバーの攻撃力は格上の転生者や吸血鬼との戦いで頼りになるだろう。


 もちろん、人間を相手にした場合でもこの破壊力は頼りになる。傭兵ギルドが並ぶ通りに丸腰で足を踏み入れない限りはネイリンゲンの街中で襲われる可能性はないんだけど、念のためだ。ここはもう俺の住んでいた世界ではない。魔術や魔物が存在する異世界なんだ。


 護身用に巨大なリボルバーと十手のような短剣を装備した俺は、モリガンの制服姿でエミリアとガルちゃんと一緒にピエールの喫茶店に向かっていた。俺が右手に持つ籠の中には、フィオナが作ってくれたヒーリング・エリクサーの瓶が5本ほど入っている。


 ピエールはハーフエルフの少女のサラと共に喫茶店を経営しながら、俺に転生者の情報を教えてくれる。転生者の情報を手に入れるために、なんと彼らの縄張りや拠点の近くまで潜入して情報を収集することもあるらしい。彼は優秀な工作員だけど、銃を持たない上に戦闘があまり得意じゃないピエールにとっては、フィオナのエリクサーは生命線だ。


「ほら、ガルちゃん。はぐれるなよ」


「む? エミリアよ、私はエンシェントドラゴンじゃぞ? はぐれるわけがないであろう」


「ふふふっ。そうだな」


 エミリアはそう言うと、俺の隣を歩いていたガルちゃんの小さな手を握った。まるで一緒に買い物に行く母親と娘のようだ。


 フィオナにからかわれたことを思い出してしまった俺は、少しだけ顔を赤くしてから空を見上げた。


 もう11月に入っている。今月の下旬からは、ネイリンゲンにも雪が降るらしい。薪はギュンターが森で拾ってきた分がまだまだあるからしばらく森に入る必要はなさそうだ。野菜や肉も買い込んでおいたから、問題はないだろう。


「ん?」


 考え事をしながら歩いていると、隣を歩いていたガルちゃんが小さな手で俺の左手を掴んできた。さっきははぐれるわけがないと言ってたんだけど、不安になったんだろうか?


 ちなみにネイリンゲンは田舎だから、街の中に入っても王都のように人混みがあるわけではない。だから仮にはぐれてしまったとしても、すぐに俺たちを見つけることは出来る筈だ。


「ふふっ。本当に親子みたいだな」


「あ、ああ」


 顔を赤くしながらガルちゃんを見下ろすと、ガルちゃんはニヤニヤと笑いながら俺の顔を見上げていた。


「顔が赤いぞ、パパ」


「ぱっ、パパって言うなよ・・・・・・」


 恥ずかしいだろうが。しかもエミリアまで顔を赤くしてるし。


 それにしても、なんでガルちゃんは幼女の姿になったんだろうか? 出来れば俺と同い年くらいの姿になってくれれば助かったんだけど、幼い外見になっている上に顔立ちが俺に少しだけ似ているから、本当に親子だと誤解されてしまいそうだ。


 ガルちゃんと手を繋ぎながら通りを右に曲がり、露店の前を通過する。ピエールの喫茶店があるのはこの通りの先だ。喫茶店の近くには傭兵ギルドの事務所が1軒だけある。その事務所を通過すれば、ピエールの喫茶店が見えて来る筈だ。


 手を繋いでいるガルちゃんがぶるぶると震えている。長い間火山に封印されていたから、寒いのが苦手になっているんだろう。早く喫茶店に向かわなければ、伝説のエンシェントドラゴンが風邪をひいてしまう。


 傭兵ギルドの事務所の前を通り過ぎると、目の前に喫茶店の看板が見えてきた。入口の扉にはOPENと書かれた札が掛けられている。


 俺は入り口のドアに手を伸ばしてドアを開けると、先にガルちゃんとエミリアを店の中に入れてからドアを閉めた。揺れるベルの音色を聴きながら後ろを振り返ると、カウンターの向こうでウェイトレスの格好をした浅黒い肌のハーフエルフの少女が、少し小さな声で「い、いらっしゃいませ」と言って俺たちを出迎えてくれた。


「よう、サラ。ピエールは?」


「い、いま、呼びます」


 彼女はガルちゃんを見てにっこりと笑ってから、奥で仕事をしているピエールを呼びに行った。


 サラは内向的なハーフエルフの少女だ。ミラと同い年で同じ所属ということで、彼女とは仲が良い。よく一緒に買い物に行く事もあるらしい。彼女もミラと同じ湿地帯の町出身で、ミラの喉を潰した転生者に奴隷扱いされていた過去を持つ。だから人間を恐れていたんだけど、あの時から優しくしてくれていたピエールには心を開いていたらしい。


 カウンターに籠を置いて待っていると、奥からタオルで手を拭きながら金髪の少年がやってきた。細身だけど優しそうな目つきの少年だ。


 彼がいつも俺に転生者の情報をくれるピエールだ。


「やあ、力也。それにエミリアさんも」


「久しぶりだな」


「元気か?」


「うん。いつも通りね。――――ところで、その子は?」


 タオルで手を拭き終えたピエールは、俺とエミリアと手を繋いでいるガルちゃんを見下ろし、目を見開いてから俺の顔を見つめてきた。


 ま、まさか誤解してる・・・・・・? ピエール、ガルちゃんは俺たちの娘じゃないぞ?


「ま、まさか・・・・・・こ、こっ、こ・・・・・・子供ぉッ!?」


「ち、違う! この子は・・・・・・俺の従妹だッ!」


 本当は最古の竜なんだけどね。でもこの幼女がガルゴニスだと言うわけにはいかないので、俺の従妹だということにしておこう。そうすれば顔つきが似ている理由も誤魔化せるし。


「なんだ、従妹かぁ。いつの間に結婚式を挙げたのかと思ったよ・・・・・・」


「け、結婚式ぃッ!?」


 今度はエミリアが狼狽する。彼女を落ち着かせようとエミリアの方を見た瞬間、思わずウエディングドレス姿のエミリアを想像してしまい、俺まで顔を赤くする羽目になってしまった。


 でも、俺まで狼狽するわけにはいかない。それにあまり狼狽すると角が伸びてしまう。


 俺はフードの上から頭の左側を触って角が伸びていないのを確認すると、カウンターの上に置いた籠の中からエリクサーの瓶を取り出して誤魔化す事にした。


 前まではエミリアに甘えられたり、エリスが一緒に風呂に入ってくる度によく角が伸びていたんだけど、最近は2人が風呂に入ってきたり、襲われない限りは伸びることはない。


 ちなみに戦闘中にキレた時は必ず伸びている。特に転生者との戦いでは、いつも角が伸びているんだ。


「ああ、フィオナちゃんのエリクサーだね? ありがとう」


「いや、気にするな。こっちこそ、いつも情報をありがとう。・・・・・・ところで、最近は何か情報はあるか?」


 俺は少しだけ笑いながら問い掛けた。するとピエールは「仕事熱心だねぇ」とからかいながらにやりと笑った。


「情報はないよ。最近は平和だ」


「それはいいな」


 俺は安心すると、カウンターから離れた。エリクサーの瓶を入れてきた空の籠を持って立ち去ろうとすると、いつの間にか店の奥に戻っていたサラが、甘い匂いのする何かが入った籠を持ってカウンターへと戻ってきた。


 何が入ってるんだろうか? バターとリンゴが混ざったような美味しそうな匂いだ。


「こ、これ、エリクサーのお返し・・・・・・です」


「お、アップルパイか。ありがと」


 サラのアップルパイはこの喫茶店の人気メニューだ。エリクサーを持って来ると、いつもサラはエリクサーのお返しにアップルパイをくれる。彼女のアップルパイはモリガンの仲間たちにも大好評だから、たくさんもらって持ち帰ってもすぐになくなってしまう。


 そういえば、前にアップルパイを貰って屋敷に戻った時に魔物退治の依頼が入って、退治に向かった俺だけアップルパイにありつけなかったんだよな。がっかりしてゴブリン共のせいだと呪いながら部屋に戻ったら、なんとエミリアが俺の分を取っておいてくれたんだ。


 あの時は滅茶苦茶嬉しかったよ。


「それじゃ、俺たちはそろそろ帰るぜ」


「うん。頑張れよ、2人とも」


「おう」


「ピエールこそ、無理をするんじゃないぞ」


 カウンターの向こうにいるピエールにそう言ってから、俺たちはピエールの喫茶店を後にする。ドアの向こうから流れ込んできた風は相変わらず冷たかったけど、やってきた時よりも寒くないような気がした。









 屋敷の前にずらりと並ぶ騎士たちの隊列を目の当たりにした瞬間、俺は思わずガルちゃんの手を離し、左手でホルスターからプファイファー・ツェリスカを引き抜きそうになった。もうあの隊列は.600ニトロエクスプレス弾の射程距離内だから、照準を合わせてトリガーを引けば金属製の防具もろとも騎士たちの肉体を木端微塵にできる筈だ。


 でも、俺はガルちゃんの手を離さなかった。もしかしたら彼らはクライアントかもしれない。それに襲撃されているならば仲間たちが応戦している筈だ。なのに、屋敷の方からは銃声が聞こえる筈だ。


 俺は深呼吸をしてから、2人を連れて屋敷の方へと向かった。


 よく見ると、騎士たちの身に着けている防具はオルトバルカ王国騎士団の防具だ。


「――――何か用ですか?」


 彼らの方に歩きながら尋ねると、屋敷の前に並んでいた騎士たちが俺たちの方を振り返った。幼い少女を連れているから傭兵とは思わなかったんだろうけど、身に着けているのは特徴的なモリガンの黒い制服だ。それに、フードには俺のトレードマークであるハーピーの真紅の羽根もある。


 俺がモリガンのリーダーだとすぐに気づいた騎士たちの中から、隊長と思われる男性が俺の方へと向かって歩きてきた。身に着けている防具は他の騎士たちの防具よりも豪華で、マントも身に着けている。腰に下げた剣も装飾だらけだ。


「君がモリガンのリーダーかね?」


「ええ、そうです」


「ふむ・・・・・・。まだ少年ではないか。本当にあのモリガンの傭兵なのか?」


 俺を見下ろしながら騎士団の隊長が言う。今の俺の姿は17歳の少年だから、本当にモリガンの傭兵なのかと疑うクライアントは多い。よくあることだ。


「本当ですよ」


 目を細めて隊長の顔を見上げながら、俺は腰のホルスターからプファイファー・ツェリスカを引き抜いた。モリガンはこの世界には存在しない銃を使って戦っている。だから、銃を見せてやれば信用してもらえるだろう。


 大型のリボルバーを見た隊長は俺がモリガンの傭兵だと信じてくれたのか、頷いてから「是非とも、諸君らに依頼したい」と低い声で言った。


 彼らの格好は明らかにネイリンゲンに駐留している騎士団や国境警備隊ではないだろう。おそらく、王都を防衛する騎士団の精鋭部隊だ。


 虎の子の精鋭部隊が依頼してくるということは、大仕事に違いない。


「――――国王陛下からの依頼である」


 ――――やっぱり、大仕事になりそうだ。





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