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転生者と最古の竜

やっぱりエリスは変態だなぁ・・・・・・。

「ほう、これに乗って帰るのかのう?」


「ああ、これだ。乗ってくれ」


「ふむ。本当に空を飛べるのかのう・・・・・・」


 そう言いながらスーパーハインドの兵員室に乗り込んでいく赤毛の幼女。頭の左右からは髪に隠れてしまう程度の短い真っ黒な角が生えていて、腰の後ろからは外殻に覆われた真っ黒な尻尾が伸びている。その角と尻尾の表面には、先ほどまで俺たちが戦っていた最古の竜の特徴が残っていた。


 ガルゴニスは最古の竜だから様々な事を知っているが、俺や信也が住んでいた世界で生み出されたこの現代兵器の事は知らない。ぶつぶつと言いながら兵員室の椅子に腰を下ろした彼女を見守っていると、カレンが俺の隣にやって来て、兵員室へと乗り込む前に小声で言った。


「あんたって凄いのね・・・・・・」


「そうか?」


「そうよ。ガルゴニスを仲間にしちゃうんですもの」


 今は幼女の姿だけどな。


 しかも俺の魔力に含まれていた遺伝子を参考にしたせいなのか、顔立ちが少しだけ俺に似ているような気がする。もし俺とエミリアやエリスが彼女を連れて街中を歩いたら、娘だと勘違いされるかもしれない。


 娘か・・・・・・。そういえば、前の世界では独身だったな。同僚とか友人の中には結婚した奴もいたけど、俺には彼女がいなかったからなぁ・・・・・・。


 どんな感じなんだろう?


「ところで旦那。クライアントには何て言うんだ? 仲間にしたって言うのか?」


「いや、封印したことにしておこう。報告の際はそう言っておいてくれ」


「はいよ」


 正直に仲間にしたと言うわけにはいかない。ガルゴニスは演劇の題材にされるほど有名なドラゴンだからな。それに彼女は、大昔の魔術をいくつも知っている。おそらくその中には、ミラの音響魔術のように廃れてしまった魔術もあるだろう。


 もしガルゴニスを仲間にしたと公表すれば、その知識を狙う者が現れるかもしれない。もしやってくれば返り討ちにするつもりだが、言わない方がいいだろう。


 俺はエリスが兵員室に乗り込む前にヘリに乗り込むと、ガルゴニスの隣の席に腰を下ろした。エリスが彼女の隣に乗ってしまったら襲ってしまうかもしれないからな。


 それにしても、なんでエリスはあんな変態になっちゃったんだろう。初めて会った時は冷酷だけどしっかりしたお姉さんだったのに・・・・・・。姉妹で仲良くなったのはいいんだが、女の子と俺を襲うのはやめてくれよ。


「ああん、力也くん! 何でガルちゃんの隣に座ってるのよぉッ!?」


「が、ガルちゃん!?」


「お前、隣に座ったら絶対襲うだろ!? ガルゴニスのためだよ!」


「襲わないわよ! ちょっと抱き締めるだけよ!!」


「嘘つくな!」


 絶対に抱き締めた後に襲うだろうが。やめてくれよ。見た目は幼女だけど中身は最古の竜なんだからな?


「うう・・・・・・わ、分かったわよぉ・・・・・・」


 涙目になりながら俺の隣に腰を下ろすエリス。どうやら諦めてくれたらしい。


 少しだけ安心した俺は、かぶっていた漆黒の頭骨の仮面を外し、フードも取ってため息をついた。俺の頭にもガルゴニスと同じように、髪に隠れてしまう程度の長さの角が生えている。


 ガルゴニスも同じように角と尻尾が生えているのは、俺の遺伝子を参考にしたからなんだろうか? それとも人間とドラゴンが融合するとこうなるんだろうか?


「――――ひゃんっ!?」


「え?」


 考え事をしている最中に、いきなり右隣の座席に座っているガルゴニスがそんな声を発した。俺は慌てて考え事を中断して彼女の様子を確認する。


 俺の隣に座っていたガルゴニスは、顔を赤くしながらぷるぷると震えていた。よく見てみると、俺のうなじくらいの高さから伸びた白い手が、ガルゴニスの髪とうなじの辺りを撫で回しているのが見える。


 もちろん俺が撫で回しているわけではない。はっとした俺は左手を伸ばしてその白い手を掴み、ゆっくりと左隣に座っている少女の方を振り返る。


「おい、エリス?」


「ちょっと、なんで邪魔するのよ!?」


「いいから諦めろって! エミリア、エリスと席代わってくれ!」


「分かった。ほら、姉さん」


「ああん、エミリアちゃんまで!」


 エリスの代わりに俺の隣に腰を下ろすエミリア。彼女はちらりと俺の顔を見るとため息をついてから苦笑いする。俺も苦笑いしながらエリスが彼女の隣に腰を下ろしたのを確認すると、無線機に向かって「よし、帰ろうぜ」と言った。


 さすがにあの座席からならばガルゴニスに手を出せないだろう。


 兵員室の窓の外の景色が、少しずつ下へと下がっていく。初めてスーパーハインドに乗ったガルゴニスは「おお、本当に飛んでおる!」とはしゃぎながら窓の外を見つめていた。


「すごいのう! さすがじゃ、スーパーハインド!」


 そう言いながら兵員室の内側の壁を撫でるガルゴニス。俺は微笑みながら、幼女の姿ではしゃぐ最古の竜を見守っていた。


「・・・・・・ところで、なんでお前は幼女の姿になったんだ? 雌だったのか?」


「む? エンシェントドラゴンには性別などないぞ?」


「あれ? そうなの? じゃあ繁殖はどうするんだ?」


「ふふふ・・・・・・。エンシェントドラゴンには寿命がないから、繁殖する必要はないのじゃ」


「マジかよ・・・・・・」


 寿命がないのか。すごいな。つまり、殺されない限りは死ぬことはないということか。確かにそれならば他の生物みたいに繁殖する必要はないな。


「まあ、この姿はお主の遺伝子を参考にした姿じゃからのう。幼女になった理由は分からん」


「なるほどな」


 すごい奴を仲間にしちまったんだな、俺は。


 再び窓の外を眺めはじめたガルゴニスを眺めながらそう思った俺は、端末を取り出して武器の生産と強化を済ませておくことにした。









 岩石の槍に貫かれた戦車の残骸から何とか這い出した俺は、上昇して行くモリガンのスーパーハインドを見上げていた。


 俺以外に生存者がいるかと思ったが、どうやら生き残ったのは俺だけらしい。


 ガルゴニスを捕獲できなかった腹いせに、今すぐにスティンガーミサイルを端末で装備して叩き落としてやろうかと思ったが、フレアを使って回避され、逆にターレットの機関砲で薙ぎ払われるだろうと予想した俺は、ポケットの中に突っ込みかけていた右手を戻した。


 傭兵たちの戦いは全て見ていた。確かにあいつらは、他の傭兵ギルドよりも手強い。今の俺たちの組織の兵力ではたった8人の傭兵にあっさりと蹂躙されてしまうだろう。しかも奴らはガルゴニスまで仲間にしてしまった。


『聞こえるか?』


 耳に装着していた無線機から少年の声が聞こえる。俺にガルゴニスを捕獲しろと命令してきた組織のリーダーの声だ。


「―――ああ、聞こえるぜ」


『作戦は失敗したようだな』


「・・・・・・」


『まあ、気にするな』


「ふん」


 腹の立つ男だ。俺は舌打ちをしながら端末を取り出すと、ガルゴニスに破壊された兵器に使ったポイントの量を見てため息をつく。


 破壊された兵器や武器はもう一度生産し直すしかない。


「ところで、そっちはどうなったんだ?」


『ああ。奴隷たちを使って何とかイエローケーキの入手に成功した』


「そうか。――――手に入れたって事は、別に俺たちがガルゴニスを捕獲しなくても問題なくなったって事か?」


『そういうことだな』


 本当に腹が立つ。つまり、このガルゴニス捕獲作戦には何の意味もなかったということだ。


 何の意味もない作戦に送り込まれ、無意味な作戦の中で死んでいった部下たち。俺ももう少しで部下たちと同じく無意味な作戦で死ぬところだった。


『奴はやがて第二の魔王となるだろう。今のうちに討伐の用意をしておかなければならない』


「そうだな」


 魔王と呼ばれた男を倒したのもこの男だ。俺はもう一度ため息をつくと、無線機に向かって言った。


「――――頼むぜ、勇者さんよ」









 長い間火山にいたせいなのか、ネイリンゲンの風はいつもよりも冷たい感じがした。火山灰が付着して薄汚れたスーパーハインドの兵員室から屋敷の裏庭に降り立った俺は、深呼吸をしてから裏口のドアに向かって歩き始める。


 兵員室から飛び降りたガルゴニスは、俺たちの住んでいる屋敷や飛行場をきょろきょろと見渡しながら俺の後についてくる。彼女の見た目は俺に少しだけ顔立ちが似ている赤毛の幼女だけど、あの尻尾と角は隠さなければならないだろう。尻尾は服の中に隠せるけど、頭の角は帽子やフードをかぶらなければ隠すのは難しい。あとでフィオナに制服を作ってもらおう。


「ほう、こんなところに住んでおるのか。・・・・・・そ、それにしても寒いのう・・・・・・」


「ん? そうか?」


「うむ。・・・・・・まあ、お主が与えてくれた魔力が炎属性じゃったし、私も長い間火山に封印されておったからのう。寒いのが苦手になってしまったのかもしれん」


「なら、今日の夕飯は温かい食い物がいいな」


 俺がそう言うと、ガルゴニスは俺の隣を歩きながら胸を張った。


「ふふん。エンシェントドラゴンは貴様らと違って食事をする必要がないのじゃ。―――まあ、今は人間の身体じゃからのう。試しに人間の食べ物を口にしてみるのもよかろう」


「おう。フィオナの料理は絶品だぞ」


 そういえば、ガルちゃんの部屋はどうしよう? 今の俺の部屋にはエリスとエミリアとフィオナがいる。もしガルちゃんが来たら間違いなくエリスに襲われてしまうだろう。


 カレンとギュンターの部屋がいいだろうか? いや、カレンは女子のメンバーの中で一番まともだけど、問題はギュンターだ。あいつは変態だからな・・・・・・。


 ならば、信也とミラの部屋が一番いいだろうか? ミラは女の子に手を出すような性癖は持っていないし、信也は男子のメンバーの中で一番まともだ。やっぱりあの2人の部屋が一番いいかもしれない。


「なあ、ガルちゃん」


「何じゃ?」


「今夜から寝る部屋なんだが、信也とミラの部屋でいいか?」


「む? 何を言っておる。私はお主と同じ部屋で寝るつもりじゃぞ?」


 え? 俺と同じ部屋?


 ちょっと待て。俺と同じ部屋って事はエリスと一緒だって事だぞ? 俺はガルちゃんの貞操の事も考えて一番まともな部屋にしようと思ったんだが、こいつは俺と一緒がいいのか?


「エリスと一緒だぞ?」


「ああ、あの乳のでかい雌か。ならばお主が守ってくれ」


「そうしたら今度は俺が襲われるんだが・・・・・・」


「何じゃ。このガルゴニスを倒した男ならば打ち倒せるじゃろう?」


「いや、打ち倒す前に押し倒されるんだって」


 エミリアにも手伝ってもらおうか。彼女も女子のメンバーの中ではまともだし。それにフィオナもいるから、金縛りで援護してもらえるかもしれない。というか、一番まともじゃない女子はエリスだけなんだけどな。


 とりあえずガルちゃんを俺の部屋に連れて行くことにした俺は、彼女を連れて階段を上り、自室のドアを開けた。


 部屋の中はいつもと変わらない。前までベッド代わりにしていたソファがテーブルの奥に鎮座していて、その後ろにはベッドが置いてある。ベッドの近くにある本棚に並んでいるのは俺やエミリアが街の本屋で買ってきた小説やマンガばかりだ。


 俺は制服の上着を脱いで壁にかけると、ガルちゃんをソファに座らせてから俺もソファに腰を下ろした。


「ん?」


 誰かが廊下を走ってくる。誰だ? エリスか?


 紅茶でも飲もうかとポットを手に取ろうとした瞬間、いきなりドアが開き、黒いメイド服姿のエリスが部屋の中に入って来た!


「ひぃっ!?」


「うおっ!?」


「い、いた・・・・・・いたわ・・・・・・! よっ、幼女ぉ・・・・・・!」


 息を切らしながら部屋に入ってきたエリスは、そのまま少しずつソファの上で怯えているガルちゃんへと近付いてくる。


 こいつ、まだ諦めてなかったのかよ!?


 どうしよう・・・・・・!? このままでは、ガルちゃんがエリスに襲われちまう!


「り、リキヤぁ・・・・・・!」


 俺は怯えるガルちゃんをソファの後ろに隠れさせると、静かにソファから立ち上がってエリスの前に立ちはだかった。


「力也くん、お願いだから邪魔しないでよぉ・・・・・・」


 顔を赤くしながらそう言うエリス。唇の端からは少しだけよだれが垂れている。そんなにガルちゃんを襲いたいのかよ・・・・・・。


 俺は何も言わずに右手を伸ばして彼女の頬に触れると、変異の影響で真っ赤に変色してしまった目で彼女の翡翠色の瞳を見下ろした。


「なあ、エリス・・・・・・。お前はもう俺の女だろ?」


「えっ、力也くん・・・・・・?」


 め、滅茶苦茶辛い。確かにもうエリスとエミリアは俺の女だけど、改めて俺の女っていうと滅茶苦茶恥ずかしいぞ・・・・・・。2人っきりの時に言っていれば全く恥ずかしくないとは思うんだが、ガルちゃんがソファの後ろに隠れてるからな・・・・・・。


 でも、こうしないとガルちゃんがエリスに襲われる。ガルちゃんを守るためにもエリスを食い止めなければ。


「だからさ、あまり浮気はしないでくれよ・・・・・・?」


「あっ・・・・・・そ、そうよね。ごっ、ごめんなさい」


 顔を赤くしながら俺の右手に触れるエリス。俺はポケットから取り出したハンカチで彼女のよだれを拭き取ると、微笑んでから彼女を抱き締めた。


 もしかしたらこのまま俺が襲われるんじゃないかと思ってたんだが、エリスは何もしてこない。俺に抱き締められながら、顔を真っ赤にしてプルプルと震えているだけだ。


「も、もうっ、年下のくせにっ」


「はははっ。お前みたいなお姉さんは大好きだよ」


「ふふふっ」


 静かに彼女から手を離す。今度こそ諦めてくれただろうか?


「そ、それじゃ、お風呂に入ってくるわね。硫黄の臭いが残ってるから・・・・・・」


「おう」


 よし、諦めてくれたようだ。顔を赤くしてニヤニヤと笑いながら踵を返し、クローゼットから着替えを取って彼女が部屋を後にしたのを見つめていた俺は、再びソファに腰を下ろしてから顔を真っ赤にして胸を押さえた。


 照れてるエリスは滅茶苦茶可愛かったんだけど、滅茶苦茶恥ずかしかったぞ。あんなことを言ったのは初めてだよ。


「つ、辛い・・・・・・」


 ソファに座ってため息をつきながら、俺はそう呟いた。




 

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