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最古の竜と現代兵器


 レリエル・クロフォードが世界を蹂躙するよりも昔に、人間に戦いを挑んだエンシェントドラゴンがいた。


 自分たちの同胞が人間たちに利用されているのを知ったそのドラゴンは、ドラゴンたちが支配する世界を作るため、同胞たちと共に人間に戦争挑んだんだ。


 最初はドラゴンたちが優勢だった。人間たちの攻撃を強靭な外殻で弾き返し、強烈なブレスで焼き尽くしていく。人間たちを蹂躙するドラゴンたちの隊列の先頭を飛んでいたのは、エンシェントドラゴンの変異種であるガルゴニスだった。


 真紅の古代文字のような模様が浮かび上がった漆黒の外殻に覆われたそのエンシェントドラゴンは、この世界に一番最初に生まれた最古の竜だった。


「間違いない、あれがガルゴニスだ・・・・・・!!」


 火山灰が舞う薄暗い空の中で、漆黒の外殻に覆われたドラゴンが俺たちを睥睨している。漆黒の外殻に浮かび上がった真紅の古代文字のような模様を煌めかせながら俺たちを見下ろすガルゴニスに、俺はブローニングM2重機関銃の照準を合わせていた。


「対空戦闘用意!」


『は、はい! 対空戦闘用意!』


 ターレットに装填されていたベルトが20mmエアバースト・グレネード弾から20mm速射砲の砲弾に切り替わり、小さな方針が上空へと向けられる。左側で後退している10式戦車も、同じようにターレットでガルゴニスに対空戦闘を挑もうとしているようだった。


 重機関銃のグリップを握る左腕が、まるでガルゴニスを恐れているかのように先ほどから痙攣している。


 俺たちはこいつを封印しに来たんだ。怖がってる場合じゃない!


 左腕を殴りつけて強引に黙らせた俺は、上空へと向けていたブローニングM2重機関銃のトリガーを引いた。同じように、レオパルトと10式戦車のターレットも20mm速射砲で上空へと砲弾を放ち始める。


 上空を舞っているガルゴニスは全く動かなかった。巨大な翼を広げて俺たちを見下ろしたままだ。


 回避しようとしなかったガルゴニスの巨体に、容赦なく12.7mm弾のフルオート射撃と20mm速射砲の砲弾が襲いかかる。でも、ガルゴニスに襲い掛かった銃弾と砲弾が舞わせたのはガルゴニスの血肉や外殻の破片ではなく、跳弾する際に生じる火花と爆風だけだった。


「なっ・・・・・・!?」


『そんな・・・・・・! 効いてない・・・・・・!?』


 馬鹿な。普通のドラゴンの外殻でも、7.62mm弾ならば貫通できる筈だ。でも、あいつは12.7mm弾と20mm弾を弾いたんだ!


 エンシェントドラゴンの外殻は、砲弾も弾いてしまうのか・・・・・・!


 再び痙攣し始めた左手を殴りつけた俺は、ポケットから端末を取り出した。このまま重機関銃で撃ち続けていてもオーバーヒートを誘発するだけだし、あの分厚い外殻に弾かれるだけだ。


 武器の生産のメニューを素早くタッチし、ミサイルランチャーの中からスティンガーミサイルを選択した俺は、それを生産してからカスタマイズせずにすぐに装備した。


 背中に装備されたスティンガーミサイルを取り出した俺は、すぐに照準器を覗き込み、ミサイルランチャーを上空のガルゴニスへと向けた。


 相手はかなり巨大で、上空で滞空しているからロックオンする必要はないと思ったんだけど、もしかしたらこのスティンガーミサイルを回避しようとするかもしれない。でも、このスティンガーミサイルは敵をホーミングするため、回避するのは難しいだろう。


「喰らえ、怪物めッ!」


 照準器の中でカーソルがガルゴニスの巨体に合わさった直後、俺は肩に担いでいたスティンガーミサイルのトリガーを引いた。


 ランチャーの後部から猛烈なバックブラストが噴き出し、前方から対空ミサイルが飛び出す。熱風の中にブースターの炎と白煙を叩き付けながら、1発の対空ミサイルが飛翔していく。


 でも、ガルゴニスは全く動かなかった。上空で全身の紅い模様を煌めかせながら、必死に攻撃する俺たちを見下ろしているだけだ。


 ガルゴニスにロックオンされたミサイルが、ついにガルゴニスの外殻に激突する。外殻の表面で緋色の光が膨れ上がり、爆音が薄暗い空の中に響き渡った。


 ガルゴニスの巨体を吹き飛ばすには小さな爆発だった。でも、外殻は抉れているかもしれない。抉れているのならば、剥き出しになった肉や皮膚に弾丸を叩き込む事が出来る。さすがに肉に銃弾を叩き込んで弾かれるということはないだろう。


 でも、熱風で黒煙が吹き飛ばされた痕を見た瞬間、俺は絶句してしまった。


「ば、馬鹿な・・・・・・!?」


 スティンガーミサイルが直撃した場所には、傷1つついていなかった。真紅の模様が浮かび上がった外殻が爆風の向こうに鎮座しているだけだ。


 嘘だろ・・・・・・!? スティンガーミサイルには、戦闘ヘリを叩き落とせる威力があるんだぞ!?


「なんて防御力だ・・・・・・!」


『す、スティンガーミサイルが・・・・・・効かない!?』


 ランチャーを投げ捨てた俺は、再びブローニングM2重機関銃を連射しようとした。でも、ミサイルが直撃しても全く傷がつかないほどの外殻に連射したとしても、あの外殻を粉砕できる可能性はかなり低い。あの外殻が割れるよりも先にこっちがオーバーヒートを起こしてしまう。


 ターレットの咆哮を聴きながら、俺はどんな武器ならばあの外殻を破壊できるか考え始めた。回避しようとしていないのならば、ホーミングしないロケットランチャーや無反動砲でも叩き込むべきだろうか? それともこのまま距離を取り、全員で一斉にTOWを叩き込むべきだろうか?


『――――愚か者共め』


「!?」


 どんな武器ならばガルゴニスに通用するか考えていると、いきなり頭上から低い声が聞こえてきた。人間の声にしては低すぎるし、俺たちの頭上に人間がいるわけがない。


 まさか、今の言葉を発したのはガルゴニスなのか・・・・・・!?


『我が同胞を支配しようとする愚か者よ・・・・・・思い知るがいい』


 低い声でそう言ったガルゴニスが、俺たちを見下したまま巨大な口をゆっくりと開け始めた。同時に全身の古代文字のような模様が輝き始め、その輝きがガルゴニスの口腔へと集まっていく。


 やがてその光の群れは複雑な記号が描かれた半径30mほどの巨大な魔法陣を形成すると、ガルゴニスの前で広がり、緩やかに回転を始めた。


『あの魔法陣は・・・・・・!』


 車長の座席のモニターでそれを見ていたフィオナが、怯えながら呟いたのが聞こえた。


 俺たちの仲間の中で一番魔術に詳しいのは彼女だ。フィオナはあの魔法陣を知っているんだろうか?


『いけない! か、回避してくださいッ!! エミリアさん!!』


「了解だ! ミラ、そっちも回避しろ!」


『了解です!』


 全速力で後退していたレオパルトの巨体が4時方向に進路を変える。信也たちの10式戦車も、真っ直ぐに後退していた状態から8時方向へと進路を変えた。おそらくブレスのような攻撃が来るんだろう。あのまま一緒に後退していたら、まとめて吹き飛ばされていたかもしれない。


 これで回避できるように祈りながら上空の巨大なドラゴンを睨みつけていると、その真紅の魔法陣が紅い電撃を放ちながら輝き始めた。


 その直後、一瞬だけ巨大な魔法陣が膨れ上がり、その魔法陣の中から真紅の光の激流が溢れ出した。熱風を真紅の煌めきで蹂躙しながら迫ってきたその輝きは回避しながら後退していたレオパルトと10式戦車の間にあった大地に直撃すると、周囲に融解した岩石の破片と猛烈な熱気をばら撒き、紅い火柱を生み出した。


「うおッ!?」


「きゃあッ!?」


『くっ!?』


 凄まじい衝撃波に吹き飛ばされないように機関銃に掴まりながら、俺は左側で吹き上がる閃光を凝視していた。あんな魔術が直撃すれば、敵の戦車の主砲を片っ端から弾き飛ばしていた主力戦車(MBT)の複合装甲でも一瞬で融解し、そのまま乗組員もろとも消滅してしまうだろう。


 爆炎が静かに残滓へと成り果てていく向こうに、何とか今の攻撃を回避した10式戦車が走行しているのが見えた。キューポラの上で、信也がこっちに向かって帽子を振っているのが見える。


 無事だったか・・・・・・! 俺は少しだけ安心すると、戦車の被害を確認しようとした。でも、いつの間にかレオパルトと10式戦車の間に見覚えのない渓谷が出来上がっていることに気が付き、掴んでいた無線機から思わず手を離してしまう。


 ガルゴニスの先ほどの攻撃は、岩石で覆われた地面を抉っただけではなかった。そのまま硬い岩石を融解させながら抉り取り、火山の真っ只中に渓谷を作り出してしまったんだ。渓谷の底からは、マグマが発する橙色の光が見える。


「な、なんて威力だ・・・・・・!」


『に、兄さん。まさかガルゴニスがラスボスじゃないよね・・・・・・!?』


「そっ、そんなわけないだろ。レリエルもいるんだぞ?」


 転生者の攻撃力をはるかに上回るガルゴニスの攻撃を目の当たりにした俺は、レリエルと戦った時のような威圧感を感じながら少しだけ怯えていた。あんな攻撃を喰らえば、俺も一瞬で消滅してしまうに違いない。ひたすらレベルを上げ続けたことで手に入れた20000以上の数値となった防御力のステータスは、間違いなく役に立たないだろう。


 あれが、最古の竜の力なのか・・・・・・!


「レオパルトの損害状況は!?」


「キャタピラとエンジンは問題なし!」


「砲塔も問題ないわ!」


「砲弾も無事だ!」


『ターレットの装甲が少し融解しただけです!』


 よし、致命傷は無いようだ。


「信也、そっちは!?」


『損害なし!』


 向こうも損害はないらしい。


 このまま前進して反撃しようと思ったけど、相手の攻撃力は戦車を一撃で消滅させてしまうほどの威力がある。しかも防御力は、対空ミサイルが直撃したというのに傷がつかないほど高い。スピードは未知数だが、相手は最古の竜だ。動きが鈍いということはないだろう。


 このまま戦うのは愚策だ。一旦退却して作戦を考え、装備を整えてから再び戦いを挑んだ方がいいだろう。


『避けたか・・・・・・。弱小な人間にしてはやるな。だが・・・・・・』


「!」


 今度はガルゴニスの周囲に無数の真紅の結晶が出現した。先ほど敵の戦車を上空から貫いた岩石の槍を真紅の結晶にしたような形状で、出現した結晶の数は20本ほどだった。


 サイズは対艦ミサイルくらいの大きさだろう。こっちの戦車は複合装甲を装備しているけど、もしかしたら俺たちの戦車の装甲も貫通されてしまう恐れがある。


「回避ッ! ターレット、迎撃用意!」


『了解、回避ッ! ターレットに20mm弾を装填!』


 レオパルトの砲塔の上に乗っていたターレットが、ガルゴニスが召喚した真紅の槍に砲身を向ける。


『喰らえッ!』


 ガルゴニスの低い声が轟いた直後、俺たちの方を向いていた真紅の結晶の群れがぶるぶると震えたかと思うと、まるで対戦車ミサイルのように一斉に俺たちの方へと向かって突っ込んできた!


 突っ込んできた真紅の槍の数は10本ずつだ。20mm弾で撃墜できるように祈りながら、俺は無線機に向かって絶叫する!


「ターレット、撃ちーかたー始めッ!」


『撃ちーかたー始めッ!!』


 無線機の向こうから信也の号令も聞こえた。


 キューポラのハッチの向こうでフィオナが復唱したのが聞こえた直後、上空を向いていたターレットの砲口から、次々に20mm弾が発射され始めた。


 戦車の上空で、20mm弾の砲弾とガルゴニスが召喚した真紅の槍が激突する。どうやら強度では砲弾と真紅の槍は互角のようだけど、20mm弾は敵に激突するだけではない。


 砲弾と激突して亀裂の入った真紅の槍に、砲弾の生み出した爆風が追い打ちをかけた。爆風に止めを刺された真紅の槍が砕け散り、紅い破片が爆風に呑み込まれていく。


 後続の真紅の結晶も同じだった。砲弾と激突して亀裂が入り、その後の爆風で粉砕されている。


 俺はターレットから20mm弾の薬莢が排出される音を聞きながら、頭上で繰り広げられる砲弾と真紅の槍の戦いを見守っていた。10式戦車に搭載されているターレットも次々に真紅の槍を迎撃しているため、10式戦車も何とか無傷らしい。


 レオパルトのターレットが最後の真紅の槍を砕いたのを確認した俺は、無線機に向かって「よし、このまま後退して廃村へと向かう!」と指示を出した。


 俺たちの後方には、最初に目指す予定だった廃村がある。そこに隠れて体勢を立て直してからガルゴニスに攻撃を仕掛けるべきだ。


 ガルゴニスは上空に対空したまま動かない。俺は巨大なドラゴンを睨みつけてから、ブローニングM2重機関銃のグリップから手を離した。









 目を覚ました私に向かってきた人間共は、奇妙な乗り物に乗って私の攻撃を回避していた。普通の人間ならばあの一撃で殆ど消滅しているのだが、奴らは私の攻撃を躱し、見たことのない攻撃で私の魔術を迎撃しながら撤退していったのだ。


 その人間共の中に、奇妙な気配の人間が1人だけ混じっていた。


 人間の汚らわしい血の中に、私の同胞の血が混じった人間がいたのだ。おそらくあの血はサラマンダーの血だろう。


 人間とドラゴンのハーフか? だが、人間とドラゴンの血が混じったような気配ではなく、人間の血にドラゴンの血が押さえつけられているような感じだった。


 あの人間は何者なのだ? 私の同胞を取り込んでいるのか?


 許せない。人間の分際で、ドラゴンの血を取り込むなど。


 封印が解けたら再び同胞たちを呼び集め、人間共を蹂躙してやるつもりだったが、まず最初にあの人間共を血祭りにあげてやろう。


 それから同胞を呼び集め、人間共の世界を蹂躙し、ドラゴンが支配する世界を作り上げるのだ。








 火山灰をかぶった廃墟のドアを開け、持ってきたランタンに明かりをつけた俺は、火山灰まみれになっているテーブルの上から火山灰を払い落とし、かぶっていた仮面を外した。サラマンダーの頭骨で作ってもらった真っ黒な仮面を腰に下げた俺は、硫黄の臭いのする部屋の中に仲間たちを招き入れると、近くに転がっていた椅子の火山灰を払い落としてからテーブルの周りに置き、女のメンバーたちを優先的に座らせた。


 人数分の椅子がなかったため、俺とギュンターだけは立ったままだ。


「さて、作戦会議を始めるぞ」


 俺は仲間たちの顔を見渡してから言った。


 ガルゴニスの封印が解ける前に石碑に向かい、そこでもう一度封印し直す予定だったけど、俺たちが石碑に辿り着く前にガルゴニスが復活してしまった。封印するのは難しいため、倒すしかない。


 だが、ガルゴニスの全身を覆う外殻は砲弾やミサイルを弾いてしまうほど堅牢だ。ダメージを与えるには、あの外殻を粉砕する威力の武器を使うか、強力な毒ガスを使うしかないだろう。だが、有害な火山ガスがある火山地帯で長年封印されていたエンシェントドラゴンに毒が通用する可能性は低い。


 ならば、物理的にあの外殻を破壊するしかない。


「信也、何か作戦はあるか?」


「・・・・・・リスクが大きい作戦しか思いつかないな・・・・・・」


 信也の立てる作戦は、いつもリスクの低い作戦ばかりだ。こいつがリスクの高い作戦を立案するのは珍しい。


「でも、あの外殻の防御力だと、きっと戦車砲も弾いちゃうわよ?」


(どうするの? 何か兵器でも作るの?)


 おそらく、ガルゴニスの外殻ならばレオパルトと10式戦車の戦車砲も弾いてしまうだろう。俺たちの持つ銃ではあの外殻を貫通するのは不可能だ。


 その時、俺はある武器を思い出してはっとした。


 あれならば、あの外殻を粉砕できるかもしれない。


「――――パイルバンカーか?」


 そう呟くと、信也はメガネをかけ直しながら首を縦に振った。


「ぱっ、パイルバンカー!? おい、旦那! 正気かよ!?」


 確かに、あんな防御力と攻撃力を持つ怪物にパイルバンカーを叩き込もうとするのは正気の沙汰ではないだろう。第一、ガルゴニスは上空に対空している。上空からパラシュートで降下するか、地上から飛び上がらない限りパイルバンカーを叩き込むことは不可能だ。


 パイルバンカーを使うと聞いた他の仲間たちも、一斉に俺と信也を見つめ始める。


 俺の隣に座っているエミリアは、腕を組んだまま冷静な声で俺に言った。


「だが、20mm弾とミサイルまで弾いたんだぞ? 普通のパイルバンカーでは粉砕できるとは思えん」


「大丈夫だ。ヤバいパイルバンカーがある」


「なに?」


 俺と信也は端末を持っているから、銃以外にもどんな武器があるか知っている。


 パイルバンカーの項目の中でそのヤバいパイルバンカーを見つけた時、俺と信也はあまりにもリスクが大き過ぎると思って生産を断念した、リスクの大きいヤバい代物があるんだ。


 それならば、あの外殻を一撃で木端微塵にしてくれるだろう。


「でも、そんな代物を誰が使うの?」


 俺の方をじっと見つめながらカレンが問い掛けてくる。


 俺の体内にはサラマンダーの血液が入っているため、おそらくガルゴニスには探知されてしまうだろう。探知されてしまったらパイルバンカーを叩き込むのは難しくなってしまう。


 この攻撃は、接近戦に精通しているメンバーが適任だ。8人のメンバーの中で俺以外に接近戦に精通しているのは――――彼女しかいない。


「――――エリス、お前にお願いしたい」


「わ、私?」


「姉さん!?」


 エリスの目の前に、そのパイルバンカーを表示した状態で端末を置いた。俺の端末の画面には、まるで戦車砲の砲弾のように太い杭に発射装置とグリップを搭載したような巨大なパイルバンカーの画像が表示されていた。


「これは・・・・・・?」


「―――『ロンギヌスの槍』という名称の120mmパイルバンカーだ。破壊力はパイルバンカーの中で最高で、直撃すれば戦艦大和の装甲に大穴を開けて撃沈できるほどの威力がある。戦艦大和というのは、俺たちの世界に存在した巨大な軍艦だ」


 戦車に正面からぶっ放した場合、発射された際の衝撃波で戦車が消し飛ぶほどらしい。


 その威力を聞いた信也以外の仲間たちが、俺の端末の画面を凝視する。


「その代わり、射程距離はたったの10cmだ。しかも、1度発射したら再装填リロードは不可能だ」


「む、無茶だ! 旦那! ガルゴニスにこいつをぶちかますのは無理だぜ!」


「確かに無茶だ。・・・・・・信也、こいつを使うつもりだったんだろ?」


「ああ」


 信也は軍帽を取ると、もう一度メガネをかけ直した。


 端末で生産できるパイルバンカーは、基本的にボルトアクション式か、セミオートマチック式の2種類だ。再装填リロードができないパイルバンカーは、このロンギヌスの槍だけになっている。


 理由は、発射時に使用する炸薬が強烈過ぎるせいで内部のライフリングが1回で全て抉れてしまう事と、杭以外の全ての機構が発射時の衝撃に1回しか耐えられないためだ。しかも反動がかなり強烈で、発射の際は発射装置の後方からまるで打ち上げられるロケットのようなバックブラストを噴出する必要がある。


「エリスさん、お願いします」


 信也はこのパイルバンカーをあの怪物に叩き込むための作戦を考えている筈だ。


 腕を組んでいたエリスはちらりと俺の顔を見てから、テーブルの向こうの信也を見つめた。


「――――分かったわ。お姉さんが竜を打ち倒す者(ドラゴンスレイヤー)になってあげる」


 



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