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異世界で転生者たちが空爆するとこうなる


 異世界では決して響き渡ることのない音が、ネイリンゲンの空に響き渡っていた。ドラゴンが我が物顔で舞う筈の異世界の空を舞いながらその轟音を発するのは、かつて第二次世界大戦の際に大活躍した戦闘機と急降下爆撃機だ。


 屋敷の外にある飛行場を飛び立ち、空中で飛行訓練を行っているのは、2機のF4Uコルセアと1機のユンカースJu87シュトゥーカ。コルセアに乗っているのはギュンターとカレンで、シュトゥーカに乗っているのは信也とミラらしい。


 ミラは戦車はヘリの操縦士も経験しているため、信也はシュトゥーカの操縦士を彼女に任せたんだろう。


『は、速いです・・・・・・! 力也さん、飛行機ってすごいんですね!』


「ああ。武装も強烈だぜ?」


 だが、まだ射撃訓練は早いだろう。今はシュトゥーカの後部座席に座る信也が、操縦方法を指導している状態だ。いくらドラゴンよりも優れている兵器でも、操縦方法を知らなければあっという間に撃ち落されてしまうだろう。


 その時、先ほどまで編隊を組みながら旋回を繰り返していた3機の機影の中から、真ん中を飛んでいたシュトゥーカがいきなり高度を上げ始めたんだ。両脇にいた2機のコルセアはそのシュトゥーカを追いかけようとはせず、まるで見守るかのように同じ高度を飛び続けている。


 ミラが操るシュトゥーカは高度を上げると、上昇を止めてから今度は機首を下へと向け、急降下を開始した。


 ドイツ製の急降下爆撃機が、異世界の空でエンジンの音とサイレンのような音を響かせながら急降下を開始する。隣で空を見上げていたフィオナが『つ、墜落しちゃいます!』と言いながら慌てているけど、俺は黙ってミラの急降下を見守っていた。


 そして、シュトゥーカが少しずつ高度を上げて行く。サイレンのような音の残響を纏いながら再び高度を上げたシュトゥーカの傍らに、急降下を見守っていた2機のコルセアが集まっていく。


 きっとシスコンのギュンターは心配していただろう。最愛の妹が異世界の兵器を操りながら急降下していくのを、心配しながら見守っていたに違いない。


 どうやら今日の訓練はこれで終わりらしく、3機の編隊が旋回して、飛行場の滑走路へと向かって高度を落とし始めたのが見えた。編隊飛行を止め、最初にシュトゥーカが着陸態勢に入る。


 機体の下部から伸びた固定脚が板の敷かれた滑走路に触れる。滑走路に降り立ったシュトゥーカは、そのまま減速しながら格納庫の方へと向かって移動していった。


「ん?」


 ミラが無事に着陸できたのを見守っていると、俺は彼女の迷彩模様のシュトゥーカに見慣れないエンブレムが描かれていることに気が付いた。モスグリーンとブラウンの迷彩模様の胴体と翼に、真紅の羽根が2枚ほど描かれていたんだ。


 何のエンブレムだ?


「あのエンブレムは?」


『ああ、あれですか? あれはモリガンのエンブレムですよ』


「モリガンのエンブレム?」


『はい。力也さんがいつも付けている真紅の羽根をエンブレムにしてみました』


 そういえば、他のギルドの看板には、そのギルドのエンブレムが描かれていることが多い。ネイリンゲンにある他の傭兵ギルドの看板にも描かれているし、王都のギルドの看板にも描かれていた。


 モリガンというギルドの名前はついていたんだけど、エンブレムはまだ考えていなかったな。


 どうやらあの真紅の羽根を付けた黒い制服はかなり有名らしい。


 よく見ると、シュトゥーカの後に続いて着陸してきた2機のコルセアの胴体にも、同じく真紅の羽根のエンブレムが描かれているのが見えた。


「なるほど、エンブレムか」


 有名になっている真紅の羽根のエンブレムを目の当たりにすれば、敵はかなりビビるだろう。俺はそう思いながら、格納庫の方へと向かっていく2機のコルセアを見守っていた。









 モリガンのエンブレムが車体に描かれたハンヴィーを停車させた俺は、シートベルトを外してからドアを開け、腰の右側に下げていたSaritch308ARを引き抜いた。キャリングハンドルの上にはドットサイトとブースターが装着されていて、銃身の右側には伸縮式のナイフ形銃剣が装備されている。銃を持った敵との戦いでは不要かもしれないが、銃の存在しないこの異世界では、敵の兵士は基本的に剣や槍を装備して接近戦を挑んでくる。当然ながら魔物たちも、俺たちを食い殺そうと接近してくるんだ。


 銃があれば銃弾で簡単に薙ぎ倒せるんだけど、敵の数が多すぎて接近されてしまう場合がある。そうなった場合、慌てて別の武器に持ち替えるよりも、銃剣で応戦した方が素早く反撃できるんだ。だから、俺はギルドの仲間たちには銃剣を可能な限り標準装備しておくように推奨している。


 俺はナイフ形銃剣を今のうちに展開しておくと、端末で新しく生産した銃身の下のグレネードランチャーに40mmグレネードランチャーの中にグレネード弾が装填されているか確認する。


 銃身の下に装着されているのは、アメリカ製グレネードランチャーのチャイナレイク・グレネードランチャーだ。ベトナム戦争で使用されたポンプアクション式のグレネードランチャーで、強力なグレネード弾を4発も連発できる。そのまま搭載したのではなく、装着されていた銃床を取り外した状態で銃身の下に搭載されている。グレネードランチャーのトリガーとアサルトライフルのトリガーを兼用するようにカスタマイズしたため、Saritch308ARのセレクターレバーの中には、安全装置とセミオート射撃と3点バースト射撃とフルオート射撃の他に、グレネードランチャーによる射撃も追加されている。


 かなり重いアサルトライフルになってしまったけど、ステータスで身体能力を強化されている転生者ならば問題なく使用する事が出来るだろう。


「姉さん、大丈夫か?」


「ええ。力也くんから射撃は教わってるから大丈夫よ」


 後部座席から下りたエリスも、腰の右側に下げていたSaritch308ARを引き抜き、安全装置を解除した。彼女のアサルトライフルも俺と同じSaritch308ARなんだけど、彼女のライフルは普通のグレネードランチャーではなく、ドイツ製グレネードランチャーのXM25が搭載されている。25mmエアバースト・グレネード弾を発射可能なランチャーで、装着されていた照準器はライフル本体のキャリングハンドルの上に装着されている。強力なエアバースト・グレネード弾による砲撃と7.62mm弾の射撃を併せ持つ強力なアサルトライフルだ。


 ハンヴィーの助手席に座っていたエミリアも、自分のアサルトライフルを取り出して安全装置を解除している。俺とエリスは銃身の下にグレネードランチャーを装備しているけど、エミリアは近距離での射撃や突撃用にボルトアクション式ショットガンのM26MASSを装備している。散弾以外にもスラッグ弾やドラゴンブレス弾を発射する事が可能だ。それ以外のカスタマイズは俺と同じになっている。


 そして後部座席に乗っていたフィオナも、背負っていたSaritch308PDWを取り出し、安全装置を解除して射撃準備を開始する。彼女が持っているのはSaritch308の銃身を短くしたPDWで、強烈な7.62mm弾が50発も入ったマガジンが装着されている。反動がかなり強烈なので、大型のマズルブレーキとフォアグリップが装着されている。俺たちが使用しているアサルトライフルには3点バースト射撃の機能が付いているんだけど、彼女のPDWはセミオート射撃かフルオート射撃のみとなっている。


 7.62mm弾を使用するライフルを採用した理由は、7.62mm弾ならば魔物の強固な外殻を貫通する事が出来るからだ。以前にアラクネと森で戦った事があったんだが、その時に使用していたAN-94の5.45mm弾ではアラクネの外殻に弾かれてしまった。でも、7.62mm弾ならばアラクネやドラゴンの外殻を貫通する事が出来るため、魔物との戦いの際には非常に頼りになる。


『こちら、カノーネンフォーゲル。12時方向に魔物の群れを発見』


 草原の向こうを睨みつけていると、無線機からミラの声が聞こえてきた。俺は無線機に「了解」と返事をしながら、上空を旋回する3機のレシプロ機を見上げる。


 上空を旋回しているのは、ギュンターとカレンが乗る2機のコルセアと、ミラと信也が操る2人乗りのシュトゥーカだ。シュトゥーカの主翼の下には37mm機関砲や、爆弾が搭載されている。そのシュトゥーカの左右を飛行するコルセアも、爆弾とロケット弾を装備していた。


 俺たちが引き受けたのは、ネイリンゲンに接近している魔物の群れを迎撃するという依頼だ。ネイリンゲンの周辺の草原にはあまり魔物が出没しないんだが、珍しく他の地域から魔物の群れが接近しているらしい。


 いつも通り、全員で武器を持って迎え撃つ作戦も考えたんだが、戦闘機と爆撃機も実戦で使ってみたかったため、歩兵と航空機による攻撃で迎撃することになったんだ。


 首に下げていた双眼鏡を覗き込み、向こうから接近してくる魔物の群れを確認する。


 魔物の数は40体くらいだろう。群れの先頭にはゴーレムがいて、その後ろにアラクネやゴブリンがついてくる。俺とエミリアが最初に依頼を引き受けた時よりも、魔物の群れの規模は小さいようだった。


「カノーネンフォーゲルへ。コルセア2機と共に、空爆で先制攻撃を開始せよ」


『了解』


 もしかしたら、この空爆で魔物が全滅してしまうかもしれない。


 俺はそう思いながら、異世界の空に響き渡り始めた悪魔のサイレンを聴いていた。








(いくよ、シン!)


「了解!」


 後部座席に腰を下ろしている僕は、ミラに返事をしてからコクピットの中に掴まった。後部座席には迎撃用に汎用機関銃のMG42が装着されているけど、ドラゴンは見当たらないから使うことはないだろう。


 キャノピーの外を見てみると、急降下を開始した僕とミラのシュトゥーカの後ろを、カレンさんが乗るコルセアがついてくる。戦闘機に乗って実戦に出るのは初めてだから、急降下しながら照準器を覗き込むカレンさんの顔は緊張しているように見えた。


 コクピットの中にも、シュトゥーカが奏でるサイレンのような音が入り込んでくる。急降下していく機体の後部座席で背後の景色を見ていると、まるで自分が地上に落下しているような感じがしてしまう。


 蒼空が遠ざかっていく。今からこのカノーネンフォーゲルは、地上で蠢く魔物たちを焼き尽くしに行くんだ。


(――――投下!)


 操縦席から聞き慣れた彼女の声が聞こえた直後、足元から何かが外れる音が聞こえてきた。翼の下にぶら下がっていた爆弾が切り離されたんだ。


 そして、今度は翼の下に搭載されている37mm機関砲の轟音が悪魔のサイレンの中に混じった。ミラは爆弾を投下するだけでなく、37mm機関砲で魔物の群れを掃射するつもりらしい。


 轟音が止まった直後、サイレンのような音を引き連れながら、僕とミラを乗せたカノーネンフォーゲルが上昇を開始する。目の前に広がっていた蒼空がキャノピーの上の方へと追い出されていき、代わりに目の前にミラの爆撃と掃射で蹂躙された魔物たちが見えた。


 彼女が最初に投下した爆弾は、群れの先頭を歩いていたゴーレムを一気に5体も吹き飛ばしたようだった。爆風に叩き潰され、外殻もろともズタズタにされたゴーレムの死体の傍らには、37mm機関砲に貫かれたアラクネの肉片がいくつも転がっていた。


 そして、僕たちが蹂躙した魔物の群れたちを蹂躙するのは、カレンさんが操るF4Uコルセアだ。翼の下に搭載されていた6発のロケット弾と胴体にぶら下げられていた爆弾で、慌てふためくゴブリンたちを木端微塵に粉砕してしまう。


 上昇して僕たちの後についてくる彼女のコルセアの次に攻撃を仕掛けたのは、ギュンターさんが乗るもう1機のコルセアだ。カレンさんと同じ武装を搭載していたギュンターさんのコルセアも、ロケット弾と爆弾で魔物たちを蹂躙すると、おまけに翼に搭載されていた4門の12.7mm機銃で生き残った魔物たちを掃射してから上昇してくる。


「す、すごい・・・・・・!」


 40体もいた魔物の群れは、もう壊滅してしまっていた。まだ生き残った魔物がいるみたいだけど、身体中に爆弾やロケット弾の破片が突き刺さっていたり、手足を吹っ飛ばされて弱っている魔物ばかりだ。


 あんな状態の魔物ならば、騎士団でも簡単に倒せてしまうだろう。


(や、やった!)


 ミラの声を聴きながら、僕は壊滅した魔物の群れを見下ろしていた。









「な、何だあの破壊力は・・・・・・!?」


「すごい・・・・・・!!」


『あ、あれが・・・・・・異世界の兵器・・・・・・!!』


 驚く3人の声を聴きながら、俺は上昇して行く3機の機影を見上げていた。先制攻撃の空爆で、既に魔物の群れは壊滅してしまっている。おそらく、残っている魔物は10%未満だろう。


 双眼鏡で魔物の群れを確認してみるけど、生き残っている魔物は手足を失っていたり、爆風で外殻や皮膚を焼かれた魔物ばかりだ。


「―――よし、止めを刺すぞ。攻撃開始!」


 ドラゴンのブレスの火力をはるかに超える空爆の火力に驚愕する仲間たちにそう言った俺は、アサルトライフルを構えて魔物の群れへと向かって走り出した。魔物たちを蹂躙した火柱と黒煙を見つめていた仲間たちも、すぐに武器を構えて走り出す。


 走りながらドットサイトとブースターを覗き込み、セレクターレバーを操作して3点バースト射撃に切り替えてから射撃を開始する。3発の7.62mm弾がゾンビのようにふらつきながら歩いていたゴブリンの頭に叩き込まれ、空爆で焼かれたゴブリンの頭が砕け散った。


「喰らいなさい!」


 俺の後ろを走っていたエリスが、アサルトライフルのセレクターレバーをグレネードランチャーに切り替える。銃身の下に搭載されているXM25から放たれた25mmエアバースト・グレネード弾が俺の脇を通過していき、下半身を吹っ飛ばされて這い回っていたアラクネの頭上で爆発した。


 頭上で発生した爆風に押し潰され、アラクネの体液が吹き上がる。


「うおおおおおおおッ!!」


 後ろを走っていたエミリアが、走っている俺を追い越し、銃剣を展開しながらフルオート射撃で次々に生き残った魔物たちを蹂躙していく。軽傷だったアラクネが彼女に掴みかかろうとしたけど、エミリアはすぐに銃身の下のM26MASSの散弾でアラクネの顔面を叩き潰すと、胴体に7.62mm弾を5発も叩き込んで止めを刺し、傍らで呻き声を上げながら這い回っていたゴブリンに銃剣を突き立てる。


 フィオナも宙に浮きながらエミリアの後について行き、彼女を弾数の多いPDWのフルオート射撃で援護していた。ゴブリンやアラクネに次々に風穴を開けて行き、エミリアの背後を死体だらけにしていく。


 3点バースト射撃からグレネードランチャーに切り替え、俺も壊滅した魔物の群れの中へと突っ込んだ。爆弾で吹っ飛ばされたゴーレムの死体を踏みつけ、エリスに襲い掛かろうとしていたゴブリンの後頭部にナイフ形銃剣を突き立てると、引き抜いてからすぐに生き残っていたゴーレムの顔面に、銃身の下のチャイナレイク・グレネードランチャーの40mmグレネード弾をお見舞いした。口元に突き刺さったグレネード弾が、ゴーレムの頭を粉々に吹っ飛ばしてしまう。


「力也、後ろだ!!」


「!!」


 グレネードランチャーの大きなハンドグリップを引いて空の薬莢を排出した瞬間、ナイフ形銃剣で生き残っていたゴブリンを斬りつけたエミリアが叫んだのが聞こえた。


 確か、俺の後ろにはさっき踏みつけたゴーレムの死体が転がっていた筈だ。どうやらまだ生きていたらしい。


 背後からゴーレムの咆哮が聞こえてきた瞬間、俺は義足からブレードを展開し、まるで背後のゴーレムを蹴りつけるように、ブレードを背後に突き出していた。


 俺のブレードに使われているのは、サラマンダーの外殻よりも遥かに硬いといわれている角だ。マグマでも焼き尽くす事が出来ないほどの角で作られたブレードは、岩石のようなゴーレムの顔面外殻を簡単に貫通していた。


 やっぱり、足にブレードがあると便利だな。


「じゃあな」


 ブレードを突き刺したまま、セレクターレバーをグレネードランチャーからフルオート射撃に切り替えた俺は、俺に掴みかかろうとしていたそのゴーレムの顔面にSaritch308ARの銃口を押し付けると、自分が噴き出した血で真っ赤になったゴーレムの顔面に、7.62mm弾を何発もお見舞いした。


 岩石のような外殻が砕け散り、ぐちゃぐちゃになった肉片が飛び散る。


 銃口をゴーレムの顔面から離した俺は、顔面を縦断でズタズタにされたゴーレムから足のブレードを引き抜いた。


「―――終わったか」


 アサルトライフルを肩に担ぎながら周囲を見渡す。


 俺の周囲には、空爆と銃撃で蹂躙された魔物たちの死体が転がっていた。


 


 

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