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エリスとエミリア


 夕食を済ませた俺は、屋敷の裏庭で刀と小太刀を装備して素振りを行っていた。義足が俺の身体に馴染んだのは昨日で、まだ馴染んでから本格的な戦闘訓練をやっていない。それに義足にはブレードも装備されているから、それも使った訓練をやって慣れておかなければならない。


 夜になって更に冷えた風をアンチマテリアルソード改で切り裂き、そのまま回転して左手に逆手に持った小太刀を突き出す。そして素早く小太刀を引き戻し、左足を蹴り上げながら一瞬でブレードを展開すると、そのブレードの切っ先を俺の目の前に広がる薄暗い空間へと突き出した。


 ブレードは一瞬で展開できるようになったから、咄嗟に展開して相手の攻撃を受け止めたり、丸腰だと思わせておいて暗殺することも出来るだろう。それに、このブレードがあれば両手で銃を使っている時にも近距離で応戦する事が出来るようになる。


 久しぶりにトリガーを引きながらアンチマテリアルソード改を振り下ろす。刀身の峰に刻まれたスリットが薄暗い裏庭で赤く煌めき、爆風の残滓を吐き出しながら轟音を発した。柄の内部に用意された薬室の中で、装填されていたアンチマテリアルライフル用の12.7mm弾が爆発したんだ。その爆風を噴射する刀身を振り下ろして足元の地面を斬りつけた俺は、左手の小太刀を鞘に戻してから刀に装着されているキャリングハンドルを握り、右手でボルトハンドルを引いて空になった薬莢を排出。刀身の付け根の部分にあるホルダーの中から次の銃弾を引っこ抜くと、薬室の中へと装填してボルトハンドルを戻した。


 改造前のアンチマテリアルブレードはマガジンを搭載していたため、普通のボルトアクションライフルのようにボルトハンドルを引くだけですぐに攻撃できるようになっていた。このアンチマテリアルブレード改は連続で薬室の弾丸を爆発させられないのが欠点だけど、ライフルのような形状から刀に近い形状になり、シンプルになったおかげで非常に軽い。接近戦では二刀流で戦う俺にとってはありがたかった。


「ふう・・・・・・。義足は問題ないみたいだな」


 刀を鞘に戻してから、ちらりと左足を見下ろす。ズボンを纏っている俺の義足は、まるで左足がなくなる前のようにしっかり動いてくれていた。もう痙攣することはないだろう。


 これならば、もう復帰しても大丈夫かもしれない。


『あっ、力也さん』


「おう、フィオナ。カレー美味しかったよ。ありがとな」


『い、いえいえ。・・・・・・ところで、剣術の訓練中ですか?』


「ああ」


 真っ白なワンピースを身に纏ったフィオナは、裏口のドアをすり抜けて裏庭へとやって来ると、訓練中だった俺を見つめながら問い掛けた。塀の上に用意されている照明用の大きめのランタンが裏庭を照らし出す中で、白髪の幼い少女が微笑む。


 彼女はいつも研究室で薬草やエリクサーの研究をしている。最近は新しいエリクサーの調合のために実験をしているらしい。


 ちなみに、今のところギルドで採用している彼女のエリクサーは、傷を瞬時に塞ぐためのヒーリング・エリクサーと、呪いや毒を治すためのホーリー・エリクサーと、出血が多い場合に服用して血液の代用にするブラッド・エリクサーの3種類だ。俺や信也はスキルを装備しておけば毒や呪いを無効化できるんだけど、他のメンバーは転生者ではないため、魔術を使って治療するかアイテムを持っておかなければ危険なんだ。


 それに、メンバーの中で一番治療魔術に精通しているのはフィオナだ。それに、フィオナは治療魔術だけでなく、他の攻撃に使う魔術も使う事が出来る。


 どうやら彼女は、手にサラマンダーの素材でレベッカが作ってくれた杖を持っているようだった。俺が彼女に作ってもらった仮面と同じデザインの角の付いた黒い頭骨が付いている真っ黒な杖で、角の先端部だけが溶鉱炉の中に放り込まれた金属のように赤くなっている。あの杖は『焔刻えんこくの杖』という名称らしい。


 サラマンダーの素材を使った影響で、炎属性の魔術と非常に相性がいいらしい。でも、サラマンダーが苦手とする水属性と氷属性とは非常に相性が悪いらしくて、無理に発動させようとすると詠唱が長くなってしまう上に威力が大きく落ちてしまうという欠点がある。


 彼女が貰った杖を眺めていると、フィオナは俺の目の前でそっと杖の柄を引っ張り始めた。あの焔刻の杖の中には細身の剣が仕込んである。しかも、その刀身の素材はサラマンダーの素材の中でも一番硬いと言われている角の部分だ。


 角を加工して作られた刀身であるため、俺の義足のブレードやエミリアのクレイモアのように、刀身の切っ先の辺りが真っ赤になっていた。俺の義足のブレードよりも細身で、まるでレイピアの刀身を少しだけ太くしたようなデザインになっている。


 魔術の詠唱にも使えるし、接近されたら仕込んである剣で応戦できるようになっているんだ。


『もしよろしければ、私に剣術を教えてください』


「いや、俺は二刀流だし、我流だぞ? エミリアの方がいいんじゃないか?」


 彼女は騎士団に所属していたから、剣術の訓練を受けている。俺のは二刀流だし我流だから、剣術を習うならばエミリアから習った方がいいだろう。


 俺は断ろうとしたけど、フィオナはにこにこと笑いながら『いえ、力也さんがいいんです』と言って、切っ先を俺の方に向けてきた。


「・・・・・・いいのか?」


『ええ。お願いします、力也さん』


 仕方がない。


 俺は腰の鞘から愛用の刀と小太刀を引き抜くと、左手の小太刀を逆手に持って構える。フィオナは左手に持っていた鞘を兼ねる杖の柄を背中に背負うと、俺に向けていた切っ先をそっと下げ――――いきなり実体化を解除した。


「!」


 フィオナは幽霊だ。いつも俺たちと一緒に行動する時は基本的に実体化している。彼女が実体化を解除するのは、眠る時か隠密行動をする時だけだ。


 彼女は12歳で病気でなくなってしまった少女の幽霊で、まだ生きていたいというかなり強烈な未練のおかげで自分の肉体を形成する事が出来るようになったらしい。その状態ならば霊感のない人間でも見たり触れる事が出来るんだけど、実体化を解除した状態では、霊感を持つ人間にしか見えない状態になってしまう。


 残念ながら俺に霊感はない。だから、フィオナが実体化を解除して攻撃してくると言う事は、姿を消した敵に攻撃されるのと同じだった。


 どこから攻撃するつもりだ? フィオナは今まで魔術や射撃で仲間をサポートしていたから、剣術はまだまだ未熟だ。でも、実体化を解除した状態では彼女の姿が見えないから、どこから攻撃されるか全く分からない。


 俺は刀を構えながら両目を瞑った。


 その時、背後から弱々しい風が吹いてきた。草原を駆け抜けてきた風ではなく、まるですぐ近くを誰かが突っ走って行った時に吹いて来るような、弱い風だ。


 その風を感じ取った瞬間、俺は咄嗟に左手の小太刀を背後に突き出していた。小太刀を突き出した直後、俺の背後から小太刀に剣が激突するような金属音が聞こえてきて、俺の左手が揺れる。


『えッ!?』


「―――さすがだな」


 奇襲をガードされたことに驚愕するフィオナ。俺はそのまま小太刀を押し込んで彼女を突き飛ばすと、後ろを振り返りながら刀を振り上げ、体勢を立て直そうとしているフィオナに向かって踏み込む。


 彼女は再び姿を消そうとしたけど、フィオナが実体化を解除する直前に接近した俺は、彼女の顔を見下ろしながら首筋に刀を突き付けた。


『ま、負けちゃった・・・・・・』


「でも、実体化を解除して襲ってきた時はびっくりしたぞ? 訓練すれば強くなれるさ」


『り、力也さんが強過ぎるんですよぉ・・・・・・』


 刀を鞘に戻してから、いつものように彼女のふわふわした頭を撫でる。俺に頭を撫でられながら剣を鞘を兼ねる柄の中に戻したフィオナは、楽しそうに笑いながら浮かび上がった。


「さて、そろそろ戻るか」


『はいっ!』


 訓練はこれくらいにしておこう。


 俺はフィオナと一緒に、部屋に戻ることにした。









「はぁ・・・・・・」


 浴槽の中で水滴に覆われた天井を見上げながら、私はため息をついた。


 エミリアの正体が私の妹ではなく、私の遺伝子を元に作られた偽物の妹だと知ってから、私はあの子の事を突き放していた。生まれて来る筈だった妹の名前と役割を奪ったあの子のことが許せなかったから、私はあの子に冷たくしていたの。


 でも、ジョシュアがあの子の心臓から魔剣の破片を取り出そうとした瞬間、私はあの子と仲良くしていた頃の思い出を思い出してしまった。確かにあの子は私の妹ではなく、私の遺伝子を元に作りだされたホムンクルス(クローン)よ。でも、あの子はいつも私の事をお姉ちゃんと呼んでくれたし、両親に冷たくされても我慢して、子供部屋で私の帰りを待ってくれていた。


 偽物だったとしても、あの子は私の妹だった。


 今ではもう、昔のように仲良くしているわ。


「力也くん・・・・・・・・・」


 浴槽の中のお湯を見下ろしながら、私は魔剣に戦いを挑み、私とエミリアを繋ぎ止めてくれた少年の名前を呼んだ。


 エミリアが死んでしまった時、私も死んでしまおうと思っていた。私があんな奴らの計画に手を貸したから、エミリアが命を落とす羽目になったの。だから、生き続けるわけにはいかない。あのまま駐屯地に残ってゾンビ共に食い殺された方がいいと思ったから、私は力也くんと一緒に脱出しようとしなかった。


 でも、彼は敵だった筈の私も連れて行こうとした。


 私は彼を拒んで死のうとしたんだけど――――年下の男の子に、ビンタされちゃった。


 浴槽の中からそっと左手を伸ばし、あの時彼に平手打ちされた頬に触れる。


 平手打ちされた後、彼に生きようと言われた私は、力也くんと一緒にナバウレアを脱出して、ネイリンゲンでジョシュア達を迎え撃った。


 そして魔剣を復活させるという計画を立てていた父上たちを消して、私はモリガンの一員となった。


「・・・・・・」


 その時、風呂場のドアが静かに開いた。ドアの向こうから体にバスタオルを巻いて入って来たのは、私にそっくりな顔つきの蒼い髪の少女だった。


「あら、エミリアちゃん」


「姉さん・・・・・・」


 彼女はお湯をかぶってから、シャンプーを出して自分の髪を洗い始めた。いつもなら彼女に飛びついているかもしれないんだけど、私は黙って髪を洗う自分の妹を見守っていた。


 エミリアは、私と力也くんに心臓を移植されて生き返った。私はエミリアと遺伝子がほぼ同じだから拒否反応は問題なかったんだけど、力也くんとは赤の他人だから、拒否反応を引き起こす可能性があったの。でも、拒否反応は起こらなかった。この子の心臓は私と力也くんの心臓の一部を取り込んで、元通りになっている。


 そして彼女は、力也くんと仲良くなった。左足を失った彼のリハビリに毎日付き添っていたし、昨日は力也くんと一緒に王都までデートに行っていた。私もカレンちゃんたちと一緒に彼女を見守っていたんだけど、とても楽しそうだったわ。


 エミリアちゃんも、自分をジョシュアから引き離し、自由にしてくれた彼の事が大好きなのね。


 なら、お姉ちゃんは引き下がった方がいいかもしれないわね。


 私はこの子に冷たくしてしまったし、エミリアちゃんの彼氏を奪うわけにはいかないもの。だから、私は引き下がって、2人を見守った方がいいのかもしれない。


「エミリアちゃん」


「ん? 何だ?」


「力也くんのことは・・・・・・好き?」


「ああ、大好きだ。彼とはずっと一緒にいたいな。・・・・・・ふふっ」


「そっか」


 幸せそうね。


 やっぱり、私は引き下がろう。


 でも――――引き下がりたくない。


 私も力也くんの事が好きだ。私に生きようって言ってくれた年下の少年に、私は惚れてしまった。


 引き下がろうと思っているんだけど、まるで思い出を引き剥がされるような痛みが襲いかかってくる。


 でも、私が冷たくしたせいでエミリアちゃんはこんな痛みにずっと襲われ続けていたんだから、我慢してエミリアちゃんを見守らないと。


「でも、姉さんとも一緒にいたいな」


「―――えっ?」


 お湯でシャンプーを流しながら、いきなりエミリアちゃんがそう言った。


 どういうこと? わ、私と一緒にいたいの?


「姉さんも大好きなんだ」


「なっ、何を言ってるのよぉ・・・・・・。女の子同士よ?」


「うん。でも、姉さんとまた離れ離れになるのは・・・・・・嫌だな」


 そう言われた瞬間、私の中の痛みが少しだけ消えた。


「そ、それに・・・・・・姉さんも力也の事が・・・・・・好きなんだろう?」


 シャンプーを流し終えたエミリアは、近くに置いてあったタオルで顔を拭いてから私の顔を見つめた。湯気の向こうで私の顔を見つめている妹の顔は、赤くなっているように見える。


 きっと私の顔も赤くなっているわね・・・・・・。目を逸らそうと思って浴槽の中のお湯をちらりと見た私は、お湯に映る自分の真っ赤な顔を見て、すぐに顔を上げた。


「う、うん・・・・・・。私も・・・・・・あの子の事が好き・・・・・・」


「ふふっ。・・・・・・可愛いなぁ、姉さん」


「え、ええっ・・・・・・!?」


「――――だから、姉さん。引き下がらなくてもいいぞ」


「え・・・・・・?」


 どういうこと?


 まさか、私が引き下がろうとしていたのがバレていたの?



「・・・・・・やっぱり、引き下がろうとしてたか」


「・・・・・・」


「――――もう気にしてないよ、姉さん。だから、姉さんも幸せになった方がいい」


 いいの・・・・・・?


 エミリアちゃんも、力也くんの事が好きなんでしょ・・・・・・?


「一緒に幸せになろう、姉さん」


「エミリアちゃん・・・・・・」


 私の顔を見つめながら、エミリアちゃんが微笑んでいる。


 彼女の笑顔を見た瞬間、私の中の痛みが全て消えてしまった。









 真っ暗な部屋の中で、俺は目を開けた。入浴も済ませて自室のソファに横になった俺は、たしかランタンの明かりの近くでマンガを読んでいて、その後に眠ってしまった筈だ。


 でも、俺の後頭部に押し付けられていたのは、いつもソファに置いてあるクッションではなく、エミリアが眠る時に使っているベッドの枕だった。よく見ると、右隣には王都の露店で手に入れた真っ白なウサギのぬいぐるみが鎮座している?


 あれ? 俺はソファで寝た筈なのに、なんでベッドで寝てるんだ?


「ん?」


 起き上がろうとしたんだけど、体を起こしかけた瞬間に両腕が引っ張られたような気がした。腕を引っ張ってみたんだけど、両腕が全く動かない。


「あ、あれ!?」


 両腕を見てみると、なんとベッドに縛り付けられているようだった。しかも両足まで縛り付けられているらしく、両足を動かそうとしても全く動かない。


 ブレードを展開すれば縄を斬ることは出来るだろう。それに、攻撃力のステータスも20000を超えているから、本気を出せば縄を引き千切ることは出来る筈だ。


 どうやらソファで眠っている間に、ベッドに縛られてしまったらしい。誰がやったんだ? エリスか?


「あら、力也くん」


 ブレードを展開して縄を切り裂こうとしていると、薄暗い部屋の向こうから聞き慣れた少女の声が聞こえてきた。


「おい、エリス。お前が――――わぁッ!?」


 おそらく彼女がやったんだろう。


 俺は縄を切り裂こうとしていたんだけど、部屋の向こうからやってきたエリスの姿を見た瞬間、思わず顔を真っ赤にしながら驚いてしまった。


 ソファの方からやってきたエリスの格好は、パジャマ姿ではなく下着姿だったんだ。エミリアよりも若干大きな胸を包んでいる真っ白なブラジャーとパンツ以外は何も身に着けていない。


 今まで俺を押し倒して頬ずりしたり匂いを嗅ぐ程度だったのに、ついに俺の事を襲おうとしているのか!?


 やっぱり速河家の男は女に襲われ易いということか・・・・・・。宿屋の部屋でも途中からエミリアに襲われたからな。


「ちょ、ちょっと待て! 何で下着姿なんだよ!? この変態ッ!!」


「ふふっ」


 問い詰めようとしたんだけど、エリスはにやりと笑いながらゆっくりと近付いてくるだけだった。


「力也」


「え、エミリア!?」


 ブレードを展開して何とか左足を縛っていた縄だけ切り裂いた直後、エリスの背後からエミリアの声が聞こえてきた。


 彼女ならきっとエリスを止めてくれるぞ!


「エミリア、エリスを止め――――うわぁッ!?」


 ソファの方から俺の方に近づいてくるエミリアを見た瞬間、俺は更に顔を真っ赤にする羽目になった。もしかしたらエリスを止めてくれるかもしれないという可能性も、彼女の姿を見た瞬間に消滅してしまう。


 なんと、エミリアも下着姿だったんだ。宿屋に宿泊した時に身に着けていた黒い下着ではなく、白と水色の縞々模様の可愛らしい下着だった。


「な、何やってんだよ!?」


「ふふっ」


 エリスが楽しそうに笑いながら、ベッドの上で縛られている俺にのしかかってくる。


「やっぱり、力也くんも可愛いなぁ・・・・・・」


「お、おい、エリス・・・・・・」


「ねえ、力也くん」


「な、何だよ・・・・・・?」


 俺に顔を近づけてきたエリスは、エミリアが後ろにいるというのに、顔を真っ赤にしている俺の唇に自分の唇を押し付けてきたんだ。


 エミリアにキスをされた時のように、甘い香りが強くなる。エミリアの匂いとそっくりだったけど、エリスの匂いはまるで花のような匂いだった。


 静かに唇を離し、顔を赤くしながら微笑むエリス。ベッドの近くまでやってきたエミリアも、顔を赤くして笑いながら俺たちを見下ろしている。


「私も、君の事が好きなの」


「あ、ああ・・・・・・」


「だから・・・・・・お、お姉さんも・・・・・・抱いて・・・・・・?」


「えっ・・・・・・?」


 まさか、エミリアが教えたのか!?


 ぞっとした俺は、目を見開きながらベッドの近くに立っている彼女を見上げた。相変わらず楽しそうに微笑んでいた彼女は静かにベッドの上に乗って来ると、顔を赤くしている俺の頭を優しく撫で始めた。


「力也、お願いがあるんだ」


「お、お願い・・・・・・?」


「ああ。力也は私を貰ってくれただろう?」


「あ、ああ」


 ナバウレアでジョシュアと最初に戦った際、俺はそう言ってエミリアを連れ去って来たんだ。


「出来れば、姉さんも貰ってくれないか?」


「え?」


 エリスも貰ってくれと言う事か?


 俺はそっと俺の上にのしかかっているエリスの顔を見上げた。いつも俺やエミリアに飛び掛かってくる1つ年上の少女は、微笑みながら俺の顔を見下ろしている。


 彼女はどうやら、俺に惚れているらしい。だから俺がエミリアだけを選んでしまえば、彼女は引き下がらなければならなくなる。


 エミリアはきっと、せっかく優しい姉に戻ってくれた自分の姉妹に、そんな仕打ちをしたくなかったんだろう。


「い、いいのか・・・・・・?」


「ああ。私は・・・・・・姉さんも大好きだから・・・・・・」


 エミリアを見下ろしながら、嬉しそうな顔をするエリス。


 俺は頷いてから、エリスの翡翠色の瞳を見つめながら小声で言った。


「――――か、かっ、かかって来い・・・・・・!」


 俺がそう言った瞬間、俺はエミリアとエリスに襲われた。




 

真面目なエリスさんを久しぶりに書いたような気がします(笑)

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