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モリガンのメンバーで会議をするとこうなる


「よし、では会議を始めよう」


 エリスが新しくモリガンの仲間になったため、会議室に用意された席の数は8つに増えている。それらの席に腰を下ろすのは、当然ながらギルドのメンバーたちだ。


 他のギルドのメンバーの人数は20人でも少ない方だから、全員で8人しかいない俺たちのギルドはかなり規模が小さいということになる。でも、メンバーの1人1人がかなりの実力者だから、少数精鋭ということだ。


 ちなみに、モリガンのメンバー1人で騎士団の一個大隊並みの戦力があるらしい。


「えっと、今回の議題は設備の追加および拡張についてと屋敷の警備についてだ」


『け、警備ですか?』


「ああ、警備だ」


 今のところ、屋敷には全く侵入者を迎撃するようなセキュリティがない。そのため、侵入者が襲撃してきたならばメンバーたちが赴いて迎撃するしかないんだ。


「今のところ全く侵入者を迎撃するためのセキュリティがなかったからな。だから、セキュリティについて何か要望はないか?」


「はい」


「おお、信也」


 一番最初に手を上げたのは、俺の弟の信也だ。信也はこの中ではまた戦闘力は未熟で実戦を経験した回数も少ないけど、作戦を立てるのが得意で、最近では実戦も経験するようになって腕を上げてきている。一昨日はサラマンダーを瞬殺してきたらしい。


 ギルドの参謀の意見か。いきなり良い意見が出そうだ。


「門や庭には重機関銃を搭載したターレットやドローンを巡回させるべきだと思う」


 何だか物騒な感じになりそうだな。


 すると、隣に座っていたギュンターがニヤニヤと笑いながら手を上げた。


「何だ?」


「飛竜に奇襲される可能性もあるから、庭に高射砲を設置しようぜ! それとサーチライトも用意して、庭に地雷をびっしりと――――」


「ば、馬鹿かッ! 地雷をびっしり置いたらクライアントが踏んじまうだろうがッ!?」


 やり過ぎだ。しかも高射砲をぶっ放すには砲手が行かないとダメだろ? この中で砲撃が一番上手いメンバーは、いつもレオパルトの砲手をやってるカレンって事になるぞ。高射砲の砲手までカレンに任せるつもりか?


 それに、サーチライトはドローンとかターレットのセンサーがあるから必要ないような気がする。


 今のところ信也の案が一番いいと思うぜ。無人兵器に警備させるわけだから、侵入者を発見した時にそいつらが迎撃してくれるし。


「じゃあ、私も」


「おう、カレン」


 次に手を上げたのはカレンだった。


「風呂場に重点的に地雷を設置するべきかと」


「何で風呂場!? 誰か覗きにでも――――ギュンター、また覗いてんのかてめえッ!?」


「の、覗いてねえよッ!?」


 冷や汗を流しながら否定するギュンター。隣に座っているカレンは「へぇ・・・・・・?」と呟きながら、否定するギュンターを睨みつけている。


 こいつ、また覗こうとしてたのか・・・・・・。勘弁してくれよ。お前のせいで俺は温泉でカレンにヘッドショットされたんだからな?


「カレン、とりあえず風呂場に地雷はやめよう。俺たちまで吹っ飛ぶからさ」


「そうね・・・・・・。じゃあ、ギュンターにだけ反応するように調整したドローンを巡回させてちょうだい」


「か、カレン!?」


 ちなみに風呂場があるのは屋敷の3階で、壁際にあるから覗くには脱衣所から覗くか、外から壁を上って来ない限り覗くことは出来ないようになっている。脱衣所から覗けばすぐにバレてしまうので、おそらくギュンターは窓の外から壁を上って覗きに行ってたんだろう。


「他に意見はないな? ・・・・・・じゃあ、信也の案と風呂場の警備強化ということにするぞ?」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ旦那ぁ!」


「うるせえぞ馬鹿! お前のせいで俺は温泉で顔面にゴム弾叩き込まれたんだからなぁッ!?」


 俺はお前を止めようとしたのに、なんで俺がヘッドショットされたんだよ!? 

「次は設備の追加および拡張についてだな」


 この屋敷はネイリンゲンの街から離れた場所に立っている。周囲に広がっているのは広大な草原だ。特に誰かが所有している土地というわけではないので、好きに使って問題ないらしい。


 だから、その草原を使って何か新しい設備でも作ろうと思っている。


「何か案がある人は?」


「では、私が」


「おう、エミリアか」


 議題を変えてから一番最初に手を上げたのは、俺の隣に腰を下ろしているエミリアだった。


「その・・・・・・小さくても構わないから、畑を作ってみたいな」


「畑かぁ・・・・・・。いいな」


 裏庭には物置とか馬小屋があるだけだからな。ちなみに馬小屋の中では、もしも端末で生産した兵器が使えなくなった場合に備えて馬を2頭だけ飼育している。それに、裏庭はスーパーハインドのヘリポート代わりにも利用しているから、そこに畑を作るわけにはいかなかった。


 でも、草原にならば作っても問題ないだろうな。ネイリンゲンの草原には魔物はあまり出現しないから木で塀を作るだけでも問題ないだろうし。


「ちなみに何を栽培するんだ?」


「野菜だな」


『あ、エミリアさん。出来れば薬草も栽培したいのですが・・・・・・』


「ふふふっ。いいぞ」


『ありがとうございます!』


「なるほどね。じゃあ、畑を作るか」


「ありがとな、力也」


 そういえば、大分前に彼女は畑を作ってみたいって言ってたからな。遅くなっちまったが、ちゃんと作ってあげないと。


「他には?」


(はい!)


 次に手を上げたのは信也の隣に座っていたミラだった。彼女はどんな設備が欲しいって言うんだろうか? 


(えっと、戦車を整備するためのガレージが欲しいです!)


「が、ガレージ?」


 転生者の端末を使えば、戦車やヘリだけでなく戦闘機や戦艦も生産することは可能だ。でも、生産してくれるのはその兵器だけで、使うために必要な設備は自分たちで用意しなければならないから、俺たちみたいな小規模なギルドではヘリと戦車を何とか使っている。


 それらの兵器は装備を解除した際に端末が勝手にメンテナンスをしてくれるから、整備用のガレージは不要なんだが、なんでガレージが欲しいんだろうか?


「ミラ? 端末が勝手にメンテナンスをしてくれるから、整備用のガレージは不要だぞ?」


(そ、そうなんですか!?)


 残念そうに俯いてしまうミラ。ギュンターが彼女を慰めながら「旦那ぁ・・・・・・」と俺の方を見つめてくる。


 ミラは戦車とかヘリが好きだからなぁ・・・・・・。最近はレオパルトにも乗っていないから、きっと観賞用にガレージが欲しかったんだろう。


「まあ、メンテナンスは端末がやってくれてるけど、不備があるかもしれないからな。ガレージも作っておくか」


(ほ、本当ですかぁ!?)


「おう。ついでにすぐ出撃できるように塀の外に続くゲートも用意しよう」


 ガレージの建設は業者に依頼すればいいだろう。弾薬や燃料も端末が勝手に用意してくれるからコストも低くて済むし、クライアントから貰った報酬もかなり余ってるからな。おそらく赤字になることはないだろう。


 それに、出撃する前にはチェックも必要だからな。


「他には?」


 手を上げるメンバーはもういないようだ。まだエリスが意見を言っていないが、彼女は俺の左腕に抱き付いてずっと幸せそうに頬ずりしているだけで、意見を言う様子はない。


 俺は彼女をちらりと見てからため息をつくと、手を上げた。俺も作りたい設備があるのだ。


「じゃあ、俺からな。・・・・・・実は、草原に飛行場を作りたいと思っている」


「ひ、飛行場?」


『飛行場・・・・・・?』


(ねえ、シン。飛行場って何?)


 飛行場を知っているのは俺と信也だけだ。銃や飛行機が存在しないこの異世界では、空を飛ぶには飛竜に乗って移動するしかない。騎士団にも戦闘用の飛竜が配備されているし、王族やかなり裕福な貴族は自家用の飛竜も保有している。


 でも、戦闘機の方が飛竜よりも遥かに強力な戦力だ。搭載している武装は飛竜の外殻を簡単に貫通するし、機動力も飛竜より高い。防御力はおそらく飛竜と同程度だろうけど、こっちの方が更に高い高度を飛ぶ事が出来る。


 だが、仲間たちに手伝ってもらったとしても、簡単な飛行場しか作れないだろう。第二次世界大戦で使われていたようなレシプロ機ならば使えるかもしれないけど、さすがに最新のジェット機を使うのは無理だろう。


「飛行場っていうのは、飛行機っていう機械が飛び立つための設備なんだ」


(飛行機?)


「そう。ヘリよりも速く空を飛ぶ事が出来るんだ。武器を積んだ戦闘機っていう兵器もあるんだよ」


(そんな兵器があるの!? シン、私それに乗ってみたい!!)


 やっぱりミラは興味を持ったみたいだな。俺はにやりと笑いながら信也の方を見る。信也もメガネをかけ直し、楽しそうに笑いながら俺の方を見てきた。


 どうやら信也も飛行場を作るという意見に賛成らしい。


「力也、その戦闘機というのは飛竜よりも強力なのか?」


「ああ。飛竜よりも速いし、搭載する武装も強烈だぞ。飛竜の外殻なんか簡単に木端微塵にできる」


「お前たちの世界の兵器は恐ろしいな・・・・・・」


 そうだろうな。だから他の転生者たちは、強力な力でこの世界を蹂躙したがるんだろう。


 だが、俺はそんなことは絶対にしない。この転生者の力は、仲間たちと生き残るために使うつもりだ。


「それで、滑走路はどうするの?」


「簡単な滑走路しか作れないだろうから、レシプロ機が使える程度になるだろうな。ちなみに俺はF4Uコルセアに乗りたい」


「零戦じゃないの?」


「華奢な機体は性に合わないからな」


 零戦は非常に機動力が高く、強力な20mm機関砲を搭載している日本製の戦闘機なんだけど、防御力がかなり低いんだ。


 俺が乗りたいと言っているアメリカ製のコルセアは零戦よりも機動力は低いけど、頑丈だしエンジンも強力だ。


「飛行場があれば、空から襲い掛かって来る魔物や敵をすぐに戦闘機で叩き落とす事が出来るようになる。それに、遠くにある敵の拠点を空から攻撃できるようになるぞ」


「悪くないな」


「よし、では追加する設備は畑とガレージと飛行場ということでいいな?」


「ああ、いいぞ」


(問題ありません!)


「ええ、いいわ」


「飛行機かぁ・・・・・・。俺も乗ってみたいな」


 どうやらみんな賛成してくれるらしい。


「よし、では会議はこれで終了だ。―――――なあ、エリス?」


「あら、どうしたのぉ?」


 会議をやっている間、エミリアの姉のエリスはずっと俺の左腕にくっついたままだ。もう会議は終わりだから、出来るならばそろそろ離してほしいんだが・・・・・・。


「なあ、もう会議は終わりだから離してくれよ」


「やだ」


 離してくれないらしい。


 俺はエミリアと顔を見合わせてから、ため息をついた。









「ふっ・・・・・・ぐぅ・・・・・・!」


 壁に掴まりながらなんとか廊下を歩いているんだが、やっぱり左足は思った通りに動いてくれない。力を入れても痙攣するだけだ。


 リハビリって大変なんだな・・・・・・。


 俺の左足にあるサラマンダーの義足は、ハイエルフのレベッカが作ってくれたものだ。俺の世界に存在した義手や義足のように機械を使うのではなく、魔物の肉や骨や外殻を使っているから、リハビリを終わらせて体に馴染めば、自由自在に動かせるようになるらしい。しかも義足を覆っているのはかなり堅牢なサラマンダーの外殻と鱗だから、防御力もかなり高い。


 でも、まだこの義足は俺に馴染んてくれていない。今朝もサラマンダーの血液を投与したんだけど、それだけで馴染む筈がない。レベッカの話では一週間は血液を投与しながらリハビリを続ければ馴染んで来るらしいけど、本当に一週間で歩けるようになるんだろうか? まだリハビリ初日だけど、リハビリの時以外は未だに松葉杖が必需品だった。


「もう少しだぞ、力也。頑張れ!」


「おっ、おうっ・・・・・・!」


 目の前にある廊下の曲がり角の所で、エミリアが俺の松葉杖を持って待ってくれている。1人で何とかリハビリをするつもりだったんだが、エミリアも手伝ってくれるらしい。


 彼女の立っている場所へと少しずつ進んでいくけど、やっぱり左足は動かない。まるで義足の素材にされたサラマンダーが、俺に抵抗しているかのようだ。左足を踏み出そうとする度に左足から激痛が生まれ、その激痛を俺に叩き付けようとしているかのように左足が動かなくなる。


 こんな状態では、ステータスで強化されている状態でも魔物の餌食になっちまう。早く歩けるようになって復帰しないと・・・・・・!


「う、動けぇ・・・・・・! こ、このぉッ・・・・・・!」


 動かそうとする度にぶるぶると震える左足を殴りつけ、左側の廊下の壁にすがり付きながら進んでいく。


 汗を拭いながら前に進み続け、ついに手を伸ばしてくれていたエミリアの手を掴んだ。


「や、やった・・・・・・!」


 何とか松葉杖なしで10mくらい移動出来たぞ・・・・・・! 


 松葉杖を使わずに進んできた廊下を見ていると、俺の手を握ってくれていたエミリアが、顔を俺の胸に押し付けてきた。そのまま俺をぎょっと抱き締めてくれるエミリア。俺も顔を赤くしながら、彼女をぎゅっと抱きしめた。


「よく頑張ったな、力也・・・・・・」


「ああ、やったよ・・・・・・!」


 俺の胸元から聞こえてきた彼女の声は、涙声だった。


「早く歩けるようになって、必ず復帰するからさ・・・・・・。だから、また歩けるようになったら、一緒にどこかに出かけようぜ」


 彼女は待ってくれているんだ。片足を失って歩けなくなり、松葉杖を使って少しずつ進み始めた俺の事を、待ってくれている。


 だから、早く歩けるようになって彼女に追いつかなければならない。俺の事を待っている間、彼女は独りぼっちなのだから。


 するとエミリアは、涙を拭いながら言った。


「なら・・・・・・王都に買い物に行こう」


「はははっ。いいね。デートか?」


「ああ、デートだ」


 いいね。エミリアとデートか。


 早く歩けるようにならないとな。


 俺は胸元に押し付けられている彼女の頭を優しく撫でた。エミリアも俺に撫でてもらうのが好きらしい。


 涙を拭った彼女が、微笑みながら俺の顔を見上げ、目を瞑りながらそっと顔を近づけてくる。もしかしてキスをしてほしいっていう事なんだろうか。


 俺はまた顔を赤くしながら、彼女に顔を近づける。


「力也くん、リハビリお疲れさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


「!?」


「ね、姉さん!?」


 ま、またエリスに台無しにされたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!


 もう少しでエミリアとキスできたのに、廊下の向こうから突っ走ってきた黒いメイド服のような制服姿のエミリアの姉のせいで台無しになった。


 エリスは楽しそうに笑いながらジャンプすると、キスをする直前だった俺とエミリアに飛び掛かってくる。左足がまだあまり動かなかった俺は、抱き締めていたエミリアと一緒に床に押し倒されてしまった。


「うぐっ!?」


「きゃっ!?」


「ああん、リハビリ頑張ってるみたいね! エミリアちゃんも力也くんのお手伝いご苦労様!」


 前にもエミリアと2人で風呂に入っていた時に台無しにされたような気がする。


 拙いな。早く歩けるようにならないと、エリスに襲われちまうぞ。


「じゃあ、今日は2人とも可愛がってあげるっ! うふふっ!」


 エリスに押し倒された俺とエミリアは、思わず苦笑いしてからため息をついた。


 

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