2分だけの切り札
柳葉刀を思い切り薙ぎ払って何体もゾンビの首を両断しているんだけど、目の前からやって来るゾンビたちの隊列はまだまだ残っている。騎士団の防具と武器を装備し、呻き声を上げながらやって来る戦死者たちの隊列。もうシンが私のために作ってくれた柳葉刀の黒い刀身は、彼らの血肉で赤黒く変色してしまっていた。
シンは隣でまだ弾薬の残っているワルサーP99とスペツナズ・ナイフで応戦している。お兄ちゃんは液体金属ブレードでまとめてゾンビの群れを両断しているし、カレンさんもリゼットの曲刀が持つ風の力で、ゾンビたちを次々に粉々にしている。
力也さんたちが魔剣を破壊してくれれば、このゾンビたちは消滅する筈。だから私たちはここでゾンビたちと戦っていたんだけど、アサルトライフルやカービンの弾薬はもう撃ち尽くしてしまったから接近戦を挑むしかない。
(くっ!)
柳葉刀で突き出されたランスの先端部を受け流した私は、ランスを持っていたゾンビが盾を持ち上げるよりも先に懐に飛び込み、柄を両手でしっかりと持ちながら赤黒く変色した刀身をゾンビの頭に叩き付ける。兜ごと傷だらけの頭を両断した私は、そのゾンビから強引に刀を引き抜きながら周囲のゾンビたちの頭に向かってサウンド・クローの爪を射出すると、魔力を音波に変換して愛用の鉤爪へと流し込む。
(シン、耳を!)
「りょ、了解! やっちゃえ!!」
(響破ッ!)
いきなり凄まじい騒音が聞こえてきたかと思うと、音を伝えやすい素材で作られている鉤爪が突き刺さっていたゾンビたちの頭が一斉に弾け飛んだ。血飛沫や頭の破片が舞い上がり、音波の嵐に頭をもぎ取られたゾンビたちの死体が一気に崩れ落ちていく。
鉤爪が刺さったゾンビの近くにいたゾンビも巻き込んだからかなりの数のゾンビを倒した筈なんだけど、すぐに後続のゾンビたちが私の倒したゾンビの死体を踏みつけ、呻き声を上げながら前進してくる。
「拙いぞ。数が多すぎる・・・・・・!」
(くっ・・・・・・!)
このままでは、突破されてしまう!
私は近くにいたゾンビを柳葉刀で斬り倒しながら、ちらりと隊列の奥を見た。
さっき向こうで火柱が見えたけど、まだその火柱の見えた辺りからは刀と剣がぶつかり合うような音と銃声が聞こえてくる。
やっぱり、まだ魔剣を破壊できていないんだ。
またゾンビの頭を切断した私は、目の前のゾンビの隊列を睨みつける。
その時だった。マズルフラッシュが見えなくなったせいで真っ暗になっていた草原が白い光でいきなり照らし出されたかと思うと、無数の白い電撃たちが槍のようにゾンビの隊列に襲い掛かり、次々に串刺しにしていった。
「なっ・・・・・・!?」
(で、電撃・・・・・・?)
私とシンは、その電撃が放たれた方向を振り向いた。
そこには、白いドレスのような制服と防具を身に纏い、白い電撃を引き連れた1人の少女が立っていた。右手には腰の鞘に収まっていたバスタードソードを持ちながら、鋭い蒼い瞳でゾンビたちを睨みつけている。
でも、彼女の背中には、明らかに騎士とは無縁な武器が背負ってあった。彼女が背負っていたのは、さっきまで私たちが使っていたアサルトライフルのM16A4。キャリングハンドルはそのままにしてあって、銃身の下にはボルトアクション式ショットガンのM26MASSが装着されている。グリップの前にマガジンが2つも装着されているから、私たちが使っていたアサルトライフルよりも変わった形状になっていた。
彼女は右手のバスタードソードから無数の白い電撃を放つと、ゾンビの隊列を一気に薙ぎ倒していく。中には発火しながら崩れ落ちていくゾンビもいるようだった。
「―――すまないな。私たちも参戦するぞ」
「え、エミリアさんっ!」
(もう目を覚ましたんですか!?)
私たちを助けに来てくれたのは、真っ白な制服と防具を身に纏ったエミリアさんだった。彼女は力也さんとエリスさんに心臓を移植してもらってからずっと昏睡状態だった筈なんだけど、目を覚ましてくれたんだ!
髪と瞳の色が変色しているのは、きっとフィオナちゃんが彼女の力を貸してるからなんだと思う。今のエミリアさんの姿は、レリエルとの戦いでも見たことがあった。
「力也と姉さんは?」
(この隊列の向こうです。・・・・・・魔剣と戦っています)
「ありがとう。・・・・・・もし良ければ、使ってくれ」
エミリアさんは私たちに微笑みながらそう言うと、背中に背負っていたショットガン付きのM16A4とマガジンを手渡してくれた。
「い、いいんですか?」
「ああ。私にはまだ銃があるからな」
よく見ると、エミリアさんの腰の後ろにもホルスターがあった。そこに収まっていた銃はロシア製SMGのPP-2000のようだったわ。長いマガジンがハンドガンのようにグリップの下に装着されていて、銃の上にはドットサイトが装着してあるみたい。
私はエミリアさんからM16を受け取ると、そのライフルをシンに渡すことにした。私が前衛で敵を倒して、後ろからシンが狙い撃ちにしてくれれば、きっと時間を稼ぐ事が出来る。
「―――死ぬなよ、2人とも」
「はい!」
(分かってます!)
エミリアさんはもう一度微笑むと、バスタードソードを構えて「行くぞ、フィオナ」と呟いてから、ゾンビの群れの中に斬り込んでいった。
「おいおい・・・・・・」
「嘘でしょ・・・・・・?」
俺たちの目の前で、いきなりジョシュアが纏っていた紅いオーラが膨れ上がった。そのオーラは無数の触手のように拡散して周囲のゾンビたちへと伸びていくと、ゾンビたちの体に突き刺さり、彼らの体内から魔力を吸い上げ始める。
オーラの触手たちが少しずつ太くなっていき、魔剣が纏っていたオーラとレリエルの血で汚染された魔力が濃くなっていく。
「ハッハッハッハッハッ!」
俺とエリスに追い詰められたジョシュアは、なんと周囲のゾンビたちから魔力を吸収し始めたんだ。そのせいで、せっかくエリスがあいつの背中に開けてくれた大穴がもう塞がってしまっている。
拙いな・・・・・・。俺は周囲を見渡しながらため息をつく。
俺たちの周囲はゾンビだらけだ。ジョシュアは魔剣を使って、そいつらから汚染された魔力を吸収する事が出来る。ゾンビたちは俺の仲間たちやレリエルが大量に倒した筈だけど、まだまだ残っている。だからジョシュアにとって、自分の傷を治しながらパワーアップするための道具はまだ残っているということだ。
「これじゃ埒が明かないぞ・・・・・・。なあエリス。魔剣ごとジョシュアを氷漬けにできないか?」
「無理よ。私の氷は魔力で生成してる氷だから、あんな汚染された魔力に触れたら私の氷まで浸食されちゃうもの。・・・・・・力也くんこそ、ジョシュアだけさっきの炎で火達磨にできないの?」
「出来るとは思うが・・・・・・」
十戒殲焔は魔力で生成された炎を操るのではなく、端末が用意してくれた能力だ。だからあの汚染された魔力の塊である赤いオーラに触れても侵食されることはないだろう。
でも、リスクが大き過ぎる。また発動する事は出来るだろうが、おそらく次に発動していられる時間は2分程度だろう。それ以上発動していたら、今度は俺が焼き尽くされてしまう。
刀を鞘に戻し、腰の後ろのホルスターから2丁の水平二連ソードオフ・ショットガンを引き抜く。8ゲージの散弾をぶっ放す強烈なショットガンたちにドラゴンブレス弾を装填した俺は、その銃口をジョシュアへと向けた。
「ふん。またその飛び道具に頼るのか」
ナバウレアでこいつが俺を挑発してきた時、そういえばこいつにレイジングブルを向けたことがあったな。あの時は威嚇のために照準をずらしてやったが、今の得物は散弾の散りやすいソードオフ・ショットガンだから照準をずらしたところで散弾の群れの外周が襲いかかるし、もうずらしてやるつもりもない。全弾叩き込んでやるつもりだ。
撃鉄を元の位置に戻しながらジョシュアを睨みつけ、トリガーを引く。轟音とマズルフラッシュが銃口から飛び出し、マズルフラッシュの輝きの中から炎に包まれた大型の散弾の群れが姿を現す。俺がぶっ放した8ゲージのドラゴンブレス弾は、炎の散弾というよりも炎の塊だ。
だがジョシュアはニヤリと笑うと、ゾンビたちから魔力を吸収したまま左手をドラゴンブレス弾に向かって突き出した。すると紅いオーラが奴の手の平の前でシールドを形成し、ドラゴンブレス弾を全て弾き飛ばしてしまう。
「くそったれ・・・・・・!」
「接近戦しかないみたいね・・・・・・」
ならば、また十戒殲焔を使って接近戦を挑むしかない。だが、次にあの能力を使っていられる時間は2分程度。その時間内にジョシュアを倒し、魔剣を破壊することは出来るだろうか?
能力を発動した状態で必殺技を使えば可能かもしれないが・・・・・・。
俺はちらりと隣でハルバードを構えるエリスを見る。彼女はあの汚染された魔力の浸食を警戒して、ハルバードには氷を纏わせていない。
相手は周囲のゾンビたちを使ってパワーアップと回復が出来る。こっちは男女が2人だけで、残っているのは2分だけの切り札くらいだ。
もし2分以内にジョシュアを倒せなかったら、俺は火達磨になった激痛で動けなくなってしまうだろう。そうなったら、エリス1人で魔剣を相手にするしかない。
不利だな・・・・・・。
ショットガンを防いで高笑いしているジョシュアにもう一発お見舞いしようと思った俺は、もう一度ショットガンのトリガーを引こうとする。でも、俺たちの後ろの方から真っ白な光が近づいてきているような気がして、トリガーを引く前に俺とエリスは後ろを振り返った。
暗くなった夜の草原を、先ほどまで照らしていた俺の炎の代わりに白い光が照らし出す。その白い光は一瞬で俺とエリスの間を駆け抜けて行くと、白い電撃を纏いながらジョシュアに突撃し、ゾンビから魔力を吸収していたオーラの触手をあっさりと両断してしまった。
「な、なにぃッ!?」
「今のは・・・・・・!?」
白い光が紅いオーラの触手たちを断ち切る。両断された触手たちが紅い塵になりながら消滅していく。
俺とエリスの間を白い光が突き抜けていった瞬間、俺は安心したような気がした。まるでその光に断ち切られた紅いオーラが霧散するように、俺の焦燥が消滅していく。
まさか、今のは・・・・・・!?
紅いオーラの触手を両断した白い光が、電撃を引き連れながら俺とエリスの間に着地する。
純白のドレスのような制服と防具を身に纏い、右手にバスタードソードを持ったその白髪の人影は、隣に立っている俺の顔をじっと見つめてから微笑んだ。
「―――ただいま、力也」
「エミリア・・・・・・・・・?」
髪の色と瞳の色が変色していたが、間違いなく俺たちの隣に降り立った少女は、エミリアだった。おそらくフィオナから力を借りている状態なんだろう。確か、レリエルと戦っていた時も使っていたような気がする。
あの状態だと、エミリアは雷を操る事が出来るようになるようだ。
俺がこの異世界で初めて出会った仲間。そしてギルドを一緒に作ってからも、ずっと一緒に激戦を経験してきた大切な少女。心臓を移植してから昏睡状態だった筈の彼女が、目を覚まして俺たちの所に来てくれたんだ!
「―――おかえり、エミリア」
「ああ」
帰ってきてくれた。
俺の一番最初の仲間が参戦してくれる!
エミリアは隣に立つエリスの方を見た。エリスも嬉しいと思っている筈なんだけど、やっぱり今まで冷たくしていたから、申し訳なさそうな顔をしている。
「―――姉さん」
「エミリア・・・・・・」
「一緒に戦おう」
「・・・・・・いいの? 私は、あなたの事・・・・・・・・・」
「全く気にしてないさ。―――それに、また姉さんが昔の優しかった姉さんに戻ってくれて嬉しいよ」
「・・・・・・ありがと、エミリア」
エリスもエミリアに向かって微笑んだ。そして目の前で魔剣を持っているジョシュアを睨みつけ、ハルバードの先端部を向ける。
「あなたは、私の妹よ!」
「ああ! いくぞ、2人とも!」
「おう! フィオナ、エミリアを頼むぜ!」
『はい、力也さん!』
どこからかフィオナの声が聞こえてきた。
俺はにやりと笑うと、持っていたショットガンをもう一度ジョシュアにぶち込むことにする。8ゲージのドラゴンブレス弾がマズルフラッシュの煌めきを突き破り、拡散しながらジョシュアを飲み込もうとした。だが、ジョシュアは再びシールドを展開して散弾を弾き飛ばすと、ニヤニヤと笑いながら言う。
「あれれ? 偽物の妹が参戦したのかぁ? まだ生きてたんだねぇ。邪魔だからさっさと死んでくれればよかっ――――」
だが、エミリアは奴の言葉を全く聞いていなかった。真っ白な電撃を俺とエリスの間に置き去りにし、一瞬でジョシュアの目の前まで急接近すると、バスタードソードを振り下ろしてドラゴンブレス弾を防ぐために突き出していたジョシュアの左腕を斬りつけた。
純白の刃がジョシュアの腕に食い込み、そのまま骨を粉砕して断ち切ってしまう。傷口から紅いオーラと共に鮮血を吹き出しながらジョシュアの左腕がどさりと草原に落下し、彼女のスピードに驚きながらジョシュアが絶叫する。
「な、何だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! い、痛いッ! 腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「は、速い・・・・・・!」
隣に立っていたエリスが驚愕した。
フィオナから力を借りた状態のエミリアのスピードは転生者以上だ。おそらくあらゆるスキルや能力を装備したとしても、俺が彼女に追いつくことは不可能だろう。
自分で生み出した電撃すら置き去りにして腕を切り落したエミリアは、鼻水と脂汗を垂らしながら自分の左腕を再生しようとしているジョシュアを見下ろし、冷たい声で言った。
「―――確かに私は人間ではない。・・・・・・だが、お前は私以下だ。ただの塵と同じだよ」
「な、何だとぉ・・・・・・!? ほ、ホムンクルスの分際でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
左腕の再生を終えたジョシュアが、激昂しながら魔剣を振るう。でもエミリアは既に白い電撃を置き去りにして後ろにジャンプしていたから、ジョシュアが切り裂いたのは彼女が残した白い電撃の残滓だった。
「エリス!」
「ええ!」
ショットガンをホルスターに戻して刀を引き抜き、十戒殲焔を発動させる。こいつを発動させて一気に攻めるのは今しかない!
再び俺の顔が焼死体のように黒焦げになり、縮んで引き裂かれた皮膚から小さな火柱が吹き上がる。俺たちの方に戻ってきたエミリアは俺の姿を見て驚いていたようだ。あとでこの能力の事を説明しておいた方がいいかもしれないな。さすがにこの姿はグロ過ぎるかもしれない。
「調子に乗るなよ、雑魚どもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
魔剣を突き出し、紅いエネルギー弾を何発も放ってくるジョシュア。だが、彼は魔剣を手にしているにもかかわらず左腕を切断されたことでかなり焦っている上に激怒しているようで、エネルギー弾は全く俺たちに命中しなかった。避ける必要はないだろう。真っ直ぐに突っ走っているだけでも回避できる。
地面に命中して紅いエネルギーの柱と化すエネルギー弾の群れの中を突っ走り、ジョシュアへと接近して行く。俺が近くを通過したエネルギー弾の柱から炎が吹き上がり、俺の背後で火柱と化している。
ジョシュアは必死に叫びながら俺たちにエネルギー弾を撃ち続けているけど、全く命中していない。しかも奴はエリスとエミリアを狙わず、俺だけを狙っているらしい。
「行くぞ、姉さん!」
「ええ、エミリア!」
バスタードソードを構えたエミリアが、エリスと共にジョシュアに向かって突っ走っていく。俺にエネルギー弾を連射していたジョシュアは白い雷を纏いながら突っ込んでいくエミリアに気付いたようだったが、2人は既に白い雷と氷を纏った武器を振り上げていた。
「―――電皇!」
白い雷を纏ったバスタードソードを振り払うエミリア。だが、ジョシュアは辛うじて紅いオーラを纏った魔剣で彼女のバスタードソードを受け止めた。フィオナから力を受けた影響で光属性を含む彼女の白い雷と、魔剣が放つ紅いオーラが互いに浸食を始める。
しかし、エミリアがさっき魔力を吸収している最中にオーラを両断したせいで十分に汚染された魔力を補給できなかったらしく、魔剣の纏う紅いオーラが、徐々にエミリアの白い雷に飲み込まれ始める。
やがて紅いオーラが全て白い雷に飲み込まれてしまい、逆に白い雷が燃え移った炎のように魔剣の刀身を侵食していく。
「―――雪花ッ!」
そして、その魔剣の刀身にエリスの氷を纏ったハルバードが直撃した。あのオーラを纏った状態ならば彼女の氷も侵食されてしまうが、今の魔剣のオーラはエミリアとフィオナの白い雷によって逆に侵食されてしまっている。
だから、魔力を最大出力で流し込んでせいせいした氷を使った攻撃ができるんだ。
エリスはすぐに魔剣からハルバードを引き戻し、今度はエミリアのバスタードソードを受け止めるために踏ん張っていたジョシュアの右足を貫く。呻き声を上げながらジョシュアががくりと体勢を崩したところでエミリアも鍔迫り合いを止め、一歩踏み込んでからジョシュアの腹に向かってバスタードソードを叩き付けた。
「ゲェッ!!」
真っ白な刀身がジョシュアの腹にめり込み、肋骨と内臓を切り裂いていく。エミリアはジョシュアの返り血を浴びながら更に剣を振り下ろして再び左腕を切断すると、攻撃を止めて右にジャンプする。
「この偽物―――――」
「――――私の妹を馬鹿にしないでくれるかしら?」
「え、エリ――――」
エミリアの後ろにいたエリスが、ジョシュアの顔面に向かって氷のハルバードを突き出していた。彼女が連続攻撃をしている間、エリスはエミリアの後ろで攻撃の準備をしていたんだ。
そして、さっき準備が終わったからエミリアは横にジャンプしてエリスの前から退いたというわけだ。
ジョシュアは腹を再生させている最中で、左腕もまだ再生が始まっていない。しかも魔剣はさっきオーラを侵食されたばかりだから何も纏っていない。そんな状態で、エリスの強烈な氷のハルバードを受け止めることは不可能だ。
「ガァァァァァァァァァァッ!!」
蒼白い氷に覆われたハルバードの先端部が、ジョシュアの左目を貫いていた。そのまま後頭部まで貫通し、ジョシュアの頭に大穴を開けてしまう。
俺も攻撃しないとな。
引き抜いていた刀を一旦鞘に戻し、右手で柄を握りながら絶叫するジョシュアへと向かって突っ走る。
エリスは俺が追撃しようとしていることを知ったらしく、すぐにジョシュアの頭から氷のハルバードを引き抜くと、エミリアと同じように横にジャンプする。
「力也!」
「力也くん!」
「―――おうッ!」
「こ、このっ・・・・・・!」
頭の大穴を再生させながら俺を睨みつけ、魔剣を振り上げるジョシュア。他の傷の再生は全く終わっていないようだ。間違いなく、俺が攻撃を叩き込む前に再生を終えるのは不可能だろう。
再生能力はかなり厄介だが、あのレリエルたちよりも遅い。再生する前に殺せるだろう。
「僕は世界を支配するんだ・・・・・・! こんな余所者に負けるわけがないだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「だから、やかましいって言ってんだろうが」
呟きながら、俺は走り続けた。
十戒殲焔もそろそろ解除しなければならない。このままでは俺が焼け死んでしまう。
だから、今から放つ一撃で終わらせる。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
絶叫しながら再び魔剣からオーラを噴出させ、俺に向かって振り下ろしてくるジョシュア。だが、紅いオーラの刃が俺の頭に振り下ろされる前に、俺はもうジョシュアに接近していた。
だが、まだ鞘から刀は抜かない。
もっと接近してから抜くべきだ。
頭上から紅いオーラを纏った魔剣が落ちてくる。おそらくガードしても刀ごと真っ二つにされてしまうだろう。転生者の防御力でも殺されてしまうに違いない。
でも、防御する必要はない。
なぜならば――――遅すぎるからだ。
俺は姿勢を低くしながらジョシュアの顔を見上げ――――ニヤリと笑った。
―――ほら。またお前の負けだぜ。
「――――皇火」
鞘の中からアンチマテリアルソード改を引き抜く。本来なら漆黒に塗装されている筈の真っ直ぐな刀身は、まるで太陽のように真っ赤に染まっていた。高熱と一緒に陽炎が噴出し、俺の周囲を歪め始める。
そして、鞘の中から刀身が全て引き抜かれた瞬間、世界が置き去りにされた。
誰も気付かないほどの速度で薙ぎ払われた真っ赤な刀身が、陽炎と高熱を纏いながら駆け抜ける。
俺は徐々に黒くなっていく刀身を鞘に戻すと、目の前にいるジョシュアに言った。
「―――もう喋るな」
俺がそう言った瞬間、ジョシュアの身体が真っ二つになった。