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バーン・フェイス


 ゾンビと死体だらけの草原に、いきなり巨大な火柱が出現した。ネイリンゲンに押し寄せてきた無数のゾンビたちの血肉で真っ赤になった禍々しい草原を照らし出したその火柱は、草原だけでなく夜空まで貫こうとしているかのように、フレアを纏って火の粉を引き連れながら、少しずつ天空へと伸びていく。


(シン。あれは何・・・・・・?)


「兄さんだ・・・・・・・・・」


 新しい能力を使ったんだ。


 兄さんが端末で生産した新しい能力は、ナパーム・モルフォよりも遥かに強力らしいんだけど、かなりリスクが高い。だからゾンビの群れを突破する際に使うわけにはいかず、ジョシュアの目の前に到着するまで温存する必要があった。


 つまり、兄さんとエリスさんはあの男の目の前に辿り着いたということだ。


 M4A1のマガジンを交換しながら、僕は兄さんが生み出した巨大な火柱を眺めていた。


 兄さんならば、きっと魔剣を破壊してくれる。そしてエミリアさんを殺した奴に報復し、勝利して戻ってきてくれる筈だ。


 小さい頃から同じだった。僕が年上の子に虐められると、兄さんは必ず僕の代わりに仕返ししてくれた。相手が自分よりも年上でも関係なく殴りかかり、弱い僕の代わりに報復してくれたんだ。


 母さんには迷惑をかけちゃったけど、兄さんは弱かった僕にとって憧れだった。


 転生しても、あの時から変わらない。


 相手が自分より手強くても、大切な仲間のために報復する。それが僕の兄さんだ。


「無理するなよ、兄さん・・・・・・」


 兄さんが新しく生産したあの能力は、非常にリスクが大きい。兄さんは賭け事をしない主義っていつも言っているけど、あのリスクの大きさはもうギャンブルと呼ぶべきだろう。下手をすれば、相手を焼き殺す前に自分が焼き殺されてしまいかねないのだから。


 兄さんがあの能力を使おうと決めたのは、あの能力ならば魔剣に勝利できるという理由以外にも何か理由があるような気がする。転生者の端末で生産できる能力は強力なものが多いけど、中にはリスクのある能力もある。そういう能力はリスクのない能力よりも強力なんだけど、リスクのない能力をアップグレードしていけばリスクのある能力並みに強力になるんだ。


 でも、兄さんはリスクのあるあの能力を使った。


「無茶をする兄さんだ・・・・・・」


 無茶をするところも昔から全く変わっていない。


 兄さん、あまり無理をしちゃだめだよ? エミリアさんが待ってるんだから。









 力也くんが能力を発動した瞬間、彼の皮膚が赤くなったかと思うと、そのまま

急に黒ずんでいった。まるで鉄板の上で焼けていく肉のように、赤く変色した皮膚が爛れ、真っ黒に焦げていく。


 まるで、焼死体のようだったわ。


 焼けて縮んだ皮膚が裂け、その皮膚の裂け目から小さな火柱が何本も吹き上がる。高熱が生み出した陽炎とフレアの中で、力也くんは呻き声を上げて頭を押さえながら、右手で地面に突き立てていた自分の刀を引き抜いたわ。


 まるで焼け死んだ人間が、刀を持って魔剣に挑もうとしているような姿だった。


 彼が発する高熱のせいで、周囲の草原が燃え上がる。魔剣を持っているジョシュアも思わず片手で顔を庇っているわ。でも、私は彼の隣に立っていて、彼が生み出した陽炎の真っ只中に立っているというのに、全く熱さを感じなかったの。


 氷の魔術で冷却しているわけではない。まるで彼の炎と熱が、私を無視してジョシュアにだけ牙を剥いているような感じだった。


「―――いくぞ、ジョシュア」


 そして、炎に包まれた力也くんが刀の切っ先をジョシュアに向けた。


 ジョシュアは片手で顔を庇うのを止めて、魔剣を構えながら襲い掛かろうとしている力也くんを睨みつけている。


「ふん、新しい能力を身に着けたか。でも、そんな焼死体みたいな醜い姿の雑魚が僕の魔剣に勝てるわけ――――」


 あいつがそう言った瞬間、彼に切っ先を向けていた力也くんが、自分の立っていた場所に自分が生み出した陽炎とフレアを置き去りにして消滅した。残ったフレアと陽炎が、まるで突然いなくなってしまった自分たちの主人を探すかのように揺らめく。


 その高熱とフレアを生み出した主人は――――既にジョシュアの目の前に立っていた。


「!?」


「なっ・・・・・・!?」


 速過ぎる・・・・・・!


 明らかに、私と戦った時よりも動きが速くなっていたわ。自分が生み出した炎までも置き去りにした彼は、いきなり目の前に焼死体のような姿の少年が出現したことに驚くジョシュアに向かって、炎を纏った刀の柄を両手で握り、刀の軌跡を業火で埋め尽くしながら振り下ろした。


 ジョシュアは慌てて紅いオーラを纏った魔剣でガードしたけど、刀ではなく彼が纏う高熱がジョシュアに容赦なく襲いかかる。ジョシュアは呻き声を上げながら紅いオーラを放出し、火達磨になっている力也くんを突き放して冷や汗を拭ったわ。


 強引に突き放された力也くんは地面に炎を纏った刀を突き立てて立ち上がると、再び地面から刀を引き抜いて冷や汗を拭い終えながら予想以上のスピードに驚愕しているジョシュアに言ったわ。


「―――何が魔剣だよ」


「なんだと・・・・・・!?」


「――――雑魚が安物の剣を持ってるのと変わらねえなぁ」


「・・・・・・調子に乗るなよ、余所者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


「エリス!」


「ええ!」


 私も加勢しないと。


 私はハルバードを構えなおすと、炎を纏う力也くんと一緒にジョシュアに向かって走り出した。









 やっぱり、この能力はリスクが大き過ぎたな・・・・・・。だが、ジョシュアに止めを刺さなかったせいでエミリアを死なせてしまった事への戒めには丁度いい激痛だ。


 俺は呻き声を押し潰すと、魔剣の切っ先を俺たちに向けてきたジョシュアに向かって突進した。おそらくジョシュアは、俺たちが接近する前にあのオーラを放出して、ナバウレアの防壁を消滅させたように俺たちを消し飛ばすつもりなんだろう。


 ―――やってみろよ。


 ニヤニヤと笑いながら切っ先にオーラを集中させていくジョシュア。俺は刀を構えたまま、そのまま走り続ける。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇッ!!」


 ジョシュアが叫んだ瞬間、切っ先に集中していた真っ赤なオーラが膨れ上がり、地面を抉りながら俺とエリスに迫って来た。


 あのエネルギー弾はナバウレアの防壁を消滅させるほどの破壊力がある。いくら転生者でも、直撃すれば間違いなく一瞬で消滅してしまうだろう。既にその威力を目の当たりにしていたエリスは、このまま突っ込もうとする俺をちらりと見た。いくら俺の新しい能力でも、あんなエネルギー弾を喰らえば2人とも消滅してしまうと思っているんだろう。


 でも、俺はそのまま走り続けた俺が回避するのを諦めたと思ったジョシュアが、高笑いしながらエネルギー弾の向こうで何かを言っているのが聞こえる。


 その時、俺とエリスを飲み込もうとしていた目の前の巨大なエネルギー弾にいきなり亀裂が入ったかと思うと、俺が十戒殲焔ツェーンゲボーテを発動させた瞬間のように、その亀裂から小さな火柱がいくつも出現した。その火柱たちは他の火柱たちと融合すると、フレアへと変貌してエネルギー弾の表面を駆け回り、飲み込んでいく。


 最早炎の塊と化してしまったエネルギー弾の中へと、俺はエリスを連れて飛び込んだ。俺の後ろでハルバードを構えるエリスの肉体は、超高温の炎の中にいるというのに全く発火していない。


 俺が発動させた十戒殲焔ツェーンゲボーテは、超高温の炎を身に纏ってその炎を操る事が出来るようになるうえに、ステータスも強化されるという強力な能力だ。身に纏う炎は最高で2000度まで温度を上げる事が出来る。フルパワーで炎を放出すれば、俺に接近しただけで敵が発火してしまうほどの炎を操る事が出来るようになるんだ。


 でも、そんな炎を放出すれば近くにいる仲間まで焼き尽くしてしまう。だから、仲間を焼き殺さないように、この能力には安全装置セーフティが2つ用意されている。


 1つは、俺に敵意を持っている存在のみを攻撃対象にすること。こうすれば、エリスが俺に敵意を持っていない限り、俺が生み出した炎に触れてしまっても彼女が焼き尽くされることはありえない。


 そして、もう1つは俺が対象を敵だと見なし、敵意を持っていること。つまり、互いに敵だと思っている場合のみ俺の2000度の炎は牙を剥くということになる。


 ただし、この能力は非常にリスクが大きい。発動すると俺の肉体が発火して焼死体のような姿に変貌してしまうだけでなく、まるでガソリンをかけられてから火を付けられたかのような激痛が、発動している間ずっと俺を苛むんだ。


 2000度の炎に襲われる敵の苦痛からすれば小さい苦痛だ。でも、発動している間ずっと火達磨になるような苦痛に襲われれば、俺も焼け死んでしまうだろう。だからこの能力はあまり使うわけにはいかない。


 発火したエネルギー弾の中を突き抜けた向こうに、驚愕するジョシュアの顔が見えた。


「ば、馬鹿な!? 魔剣の攻撃を――――」


「やかましいッ!!」


 レバーアクションライフルのループレバーのようなハンドガードがついている柄を両手で握った俺は、トリガーを引きながら炎を纏ったアンチマテリアルソード改を振り下ろした。峰の部分にあるスリットが爆風を小さな火柱に変換して吐き出し、炎を纏った凄まじい運動エネルギーの剣戟が、ジョシュアの魔剣へと叩き込まれた。


 歯を食いしばりながら再び俺を押し返そうとするジョシュア。その隙に、俺と一緒の炎の中を突き抜けてきたエリスが、愛用のハルバードを構えながら俺の後ろから飛び出し、俺の刀を受け止めているせいでがら空きになっているジョシュアの腹に向かって得物を突き出した。


 ジョシュアは慌てて彼女のハルバードをガードしようとしたけど、ガードすれば俺の刀に真っ二つにされる羽目になる。しかも俺に刀を押し込まれているから、回避することも出来ない。


「がぁっ!!」


 そして、エリスのハルバードの先端部が、ジョシュアの脇腹を貫いた。


 最愛の妹を魔剣を復活させるために利用された上に殺されたエリスは、憎悪を込めたハルバードを更に押し込んでから引き抜く。ジョシュアの肋骨を砕いた上に内臓を貫かれたジョシュアは、口から血を吐いて絶叫する。


「く、くそぉぉぉぉぉぉッ! 余所者と出来損ないのくせにッ!」


「やかましいって言ってんだろうが」


 柄から手を離してキャリングハンドルを握り、右手でボルトハンドルを引きながら薬室の中にアンチマテリアルライフル用の12.7mm弾を叩き込む。そして、辛うじてアンチマテリアルソード改を魔剣で受け止めているジョシュアを両断するために、俺は刀のトリガーを引いた。


 ジョシュアの呻き声を、猛烈な銃声がかき消した。炎を噴出した刀が更に押し込まれ、魔剣の表面のオーラに食い込んでいく。


「お前は宇宙空間に吹っ飛ばされて死にかけたことはあるか?」


「な、なに・・・・・・!?」


 初めて転生者と戦った時のことを思い出しながら、俺はゾンビのように呻き声を上げているジョシュアに問い掛けた。


 ボルトハンドルを引いて使ったばかりの空の薬莢を排出し、再び薬室の中に12.7mm弾を再装填リロード。そしてまたしてもトリガーを引く。


 普通の刀ならば発することのない轟音が響き渡り、また炎を纏った刀身がオーラの中にめり込んだ。


「なら、巨大な時計の針に身体を貫かれて死にかけたことはあるか? ―――ないだろう? お前が死にかけたことは、おそらく俺に片腕を吹っ飛ばされただけだろ!?」


「だ、黙れ・・・・・・! 余所者の分際で、調子に乗るな!」


 俺を睨みつけながら、ジョシュアが剣を押し返そうと足掻く。だが、既に俺の刀の刀身は魔剣が纏っているオーラを両断しかけているところだった。切断されたオーラにも亀裂が入り、その亀裂から先ほどのエネルギー弾と同じように小さな火柱が吹き上がる。


「ま、魔剣が余所者と出来損ないの女に負けるわけがない・・・・・・! 僕はこの魔剣で、世界を支配するんだ! お前なんかに――――」


「てめえじゃ無理だ」


 もう1発12.7mm弾を装填し、トリガーを引く。紅いオーラを両断しかけていた刀の刀身が更にめり込み、ついにオーラを両断して魔剣の刀身と激突する。両断されたオーラは、まるで人間の断末魔のような不快な音を発しながら魔剣の表面から消滅していった。


「俺は何度も死にかけたッ!」


「うぐっ!?」


 刀を魔剣に向かって押し込んだまま、俺はジョシュアの腹に向かって右足を蹴り上げた。みぞおちにブーツを叩き込まれたジョシュアが血の混じった唾を吐き出しながら、魔剣を握ったまま炎で照らされる星空へと打ち上げられる。


 俺は刀を握ったままジャンプした。元々スピードのステータスも高いが、その高いステータスは十戒殲焔ツェーンゲボーテで更に強化されている。腹の傷口から血を噴き上げながら吹っ飛んでいくジョシュアに簡単に追いついた俺は、真っ黒に焦げた焼死体のような顔でジョシュアを睨みつけ、炎と返り血で緋色に染まった刀を思い切り薙ぎ払う。


 でも、ジョシュアは何とか魔剣で俺の剣戟をガードしていた。あいつも俺に反撃しようとするけど、紅いオーラを消滅させられて魔剣が弱体化してしまったらしい。動きはさっきよりも鈍くなってしまっていた。


 反撃する前に俺に次の剣戟を叩き込まれ、ジョシュアはガードしかできなくなっていく。まるで俺とジョシュアが初めてナバウレアで戦った時と同じだ。あの時もジョシュアは殆ど反撃できず、最終的にパイルバンカーで得物をへし折られて敗北したんだ。


 俺は今まで何度も死にかけた。そして、エミリアを泣かせてしまった。


 炎と激痛に包まれながら、俺はジョシュアを睨みつける。


「お前は、また俺に負ける」


「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」


 俺の刀を弾き飛ばしたジョシュアが、オーラの消失したがらくたのような魔剣を俺に向かって突き出してくる。俺は素早く左手を柄から離して小太刀を引き抜くと、逆手に持ったその小太刀であっさりと魔剣を弾き飛ばしてしまう。


「今まで権力ばかり使っていた蛆虫が、実戦で何度も死にかけながら戦ってきた俺たちに――――――勝てるわけがねえだろッ!!」


 俺たちと言った瞬間、ジョシュアははっとしたらしい。


 俺の剣戟を受け止めている間、段々と高度は下がっている。あと数秒で草原に落下するだろう。つまり、転生者である俺でなくてもジャンプすれば届く程度の高度まで落ちているということだ。


 黒焦げになった焼死体のような顔で、俺はニヤリと笑った。


「エリスぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」


「!?」


 慌ててジョシュアが後ろを振り向く。


 すでに、ジョシュアの背後にはハルバードを左手に持ったままジャンプしたエリスがいた。


「―――エミリアの仇よ・・・・・・・・・!!」


 翡翠色の瞳でジョシュアの顔を睨みつけながら、エリスは氷を纏ったハルバードをジョシュアの背中に向かって突き出した。


 蒼い氷に包まれた先端部がジョシュアの肩甲骨を砕きながらめり込んでいき、胸の辺りから突き出てくる。そこから吹き出したジョシュアの血飛沫は俺に降りかかると、俺が放出している炎に飲み込まれ、鉄のような臭いを残して蒸発してしまった。


 ハルバードを引き抜いたエリスが草原に着地する。俺も彼女の傍らに着地すると、十戒殲焔ツェーンゲボーテを解除した。


 焼死体のように焦げていた皮膚が少しずつ元に戻っていく。先ほどまで身体中で裂けていた皮膚が再び塞がり、元の姿に戻り始める。


「ギャッ・・・・・・!」


 エリスに背中から貫かれたジョシュアは、魔剣を持ったまま地面に叩き付けられた。叩き付けられた衝撃で骨が何本も折れてしまったらしく、傷口から血を吹き出しながら呻き声を上げている。


「滑稽だな。あれだけ俺たちを見下していたくせに・・・・・・」


「だ、黙れぇ・・・・・・・・・!!」


 再び魔剣が紅いオーラを纏い始める。そのオーラは魔剣だけでなくジョシュアの前進を包み込むと、エリスがハルバードで空けた傷口へと流れ込んでいった。


 オーラが流れ込んだジョシュアの傷口が塞がっていく。まるで、帝都で戦った吸血鬼たちのようだ。


 なるほど。魔剣はレリエルの血で汚れているから、奴らの再生能力も使う事が出来るのか。


 だが、銀を用意する必要はないだろう。魔剣を破壊してしまえばいいのだから。


 俺とエリスは立ち上がったジョシュアを睨みつけると、再び得物を奴に向けた。








 レリエル・クロフォードが加勢してくれたおかげで、信也くんたちに襲い掛かっていくゾンビたちの数は減少していた。でも、信也くんの周りに展開しているドローンやターレットたちは次々に弾切れし、空を飛び回るかオーバーヒートしかけている銃身をゾンビに向けることしかできなくなっていた。


 そして、信也くんたちも装備している武器の弾薬を使い果たし、ハンドガンを使うか、接近戦を始めている。リゼットの曲刀を持つカレンさんが風でゾンビたちを蹂躙し、ギュンターさんが液体金属ブレードの刀身を伸ばして一気にゾンビたちの頭を切り裂いているけど、このままではゾンビたちに突破されてしまう。


『どうすればいいの・・・・・・!?』


 私もみんなと一緒に戦うべきなの? 


 力也さんは、もしゾンビたちが突破して来たら昏睡状態のエミリアさんを連れて逃げろって言っていたわ。


 でも、見捨てられるわけがない。私も参戦しないと・・・・・・!


 モニターから目を離し、傍らに用意しておいたG36Cを拾い上げようとしたその時だった。私の後ろで眠っているエミリアさんの方から、起き上がるような音が聞こえてきたの。


 まさか、エミリアさんが目を覚ました・・・・・・?


「―――フィオナ、みんなは?」


『え・・・・・・エミリアさんっ!!』


 聞こえてきた声は、確かにエミリアさんの声だった。


 私の後ろには、真っ黒なドレスのような制服を身に纏った蒼い髪の凛々しい少女が立っていた。彼女はベッドの近くに立てかけてあった自分のバスタードソードを既に拾い上げていて、腰に下げている。


『目を覚ましたんですね!?』


「ああ。すまなかったな。迷惑をかけてしまった・・・・・・」


『い、いえ・・・・・・! 良かったです、エミリアさんが目を覚ましてくれて・・・・・・! 良かったですぅ・・・・・・!!』


 私は涙声になりながら、必死に両手で涙を拭い去った。エミリアさんは涙を拭っている私の頭の上に手を置くと、微笑みながら優しく撫でてくれた。


『み、みなさんはもうゾンビの群れと戦っています』


「分かった。―――私も参戦する。武器はあるか?」


『はい!』


 私は近くにあったM16A4を拾い上げた。もしエミリアさんが目を覚ましたら装備させてくれと力也さんが言っていたアサルトライフルを彼女に手渡すと、私もG36Cを背中に背負った。


『私も、エミリアさんと一緒に戦います!』


「ああ、行こう!」


『はいっ!』


 私は微笑むと、エミリアさんと一緒にモニターが設置されている医務室を飛び出した。




 

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