力也が守備隊に突撃するとこうなる
「ゲイボルグ、躱されました!」
「どこを狙ってるんだ! さっさとチャージしてもう一発叩き込め!」
僕はゲイボルグが外れたと報告してきた騎士を怒鳴りつけると、腕を組みながら爆炎が吹き上がる森の方を睨みつけた。
おそらく、攻め込んで来ているのはあの余所者が率いるモリガンとかいう傭兵ギルドだろう。目的は間違いなくエミリアの救出だ。彼女がここにいるということを知っているということは、余所者はクガルプール要塞を脱出したということなんだろう。
まったく。クガルプール要塞の無能どもは何をやっているんだ。装備を取り上げて丸腰になっている上に拷問で重傷を負っている少年を取り逃がすとは。
だが、すぐに伝令を送って兵力を派遣させれば、奴らを挟み撃ちにする事が出来るだろう。既に伝令はクガルプール要塞に派遣してあるから、もうすぐ奴らの背後に要塞の守備隊が現れる筈だ。
「ゲイボルグ、再度チャージ開始。フルパワーまであと30秒」
「魔力、加圧開始」
魔法陣を操作している騎士たちが僕に報告する。僕は燃え上がる森ではなく、再び紅い光を纏い始めた6本の柱をちらりと見た。
あのゲイボルグは、100年前にオルトバルカ王国の魔術師が提唱した遠距離攻撃用の魔術を再現したものだ。魔力を放出するための魔法陣と、その魔力を加圧して抑え込むための6本の柱で構成される兵器で、魔法陣から放出された魔力は周囲の柱によって魔法陣の中心に束縛され、加圧され続ける。限界まで加圧したら攻撃したい方向の柱に加圧を止めさせれば、その加圧が止まった柱の方向から圧縮された魔力が放出され、遠距離の敵を破壊するという仕組みになっている。
例えるならば、小さな袋に限界まで水を入れ続け、穴をあけるようなものだ。命中精度はあまり高くないけれど、射程距離は4kmもある。弓矢や魔術よりも射程距離が長いんだ。
「ゲイボルグ、フルパワー!」
「目標、モリガン!」
「加圧停止準備、完了!」
モリガンの奴らはまだナバウレアに向かって前進している。また回避するつもりか?
僕はニヤリと笑いながら剣を掲げ、モリガンの奴らに向かって振り下ろそうとした。ゲイボルグの発射を担当する騎士たちが、発射用の魔法陣に指を近づけて僕の方を見ている。
その時だった。接近しているモリガンの奴らの兵器の先端部がいきなり煌めき、轟音が聞こえてきたんだ。
そして、いきなりゲイボルグに流し込まれていた魔力の塊を押さえつけていた柱が一気に2本も砕け散った。まるで高速で飛んできた何かに突き崩されてしまったかのように、紅い光を放っていたゲイボルグの柱が破片と土煙を吹き上げながら倒壊していく。
魔力を押さえつけていた柱が倒壊してしまったせいで、加圧されて束縛されていた魔力たちが逃げ場を得てしまった。防壁の上で魔法陣を操作していた騎士たちが慌てて魔力を何とか別の柱に抑え込ませようとするけど、既に発射する直前だった魔力たちを抑え込むことは不可能だった。倒壊した柱の上から加圧されていた魔力が流れ出し、草原を抉り始める。
その流れ出した魔力たちは外側から柱に襲い掛かり、次々にその柱を倒壊させていった。その柱が倒壊したせいで更に魔力が流れ出し、ゲイボルグがあった場所は真っ赤な光に包み込まれてから大爆発を引き起こしてしまう。
「げ、ゲイボルグ、消滅・・・・・・・・・!」
「ば、馬鹿な・・・・・・! ゲイボルグの射程距離と同じくらいの距離から撃ち返して来ただと・・・・・・!?」
「くそ・・・・・・! 守備隊、戦闘準備! 急げ!」
あの兵器はなんだ!? ゲイボルグと射程距離が同じなのか!? しかも、あんな距離から正確にゲイボルグの柱に攻撃を命中させただと!?
敵は強力な兵器を持っている上に、優秀な射手までいるらしい。
「・・・・・・エリス、来い」
「・・・・・・」
僕は後ろでゲイボルグが崩壊するのを見ていたエリスに言うと、踵を返してエミリアの所に行く事にした。そろそろ儀式を始めなければ、エミリアがモリガンの連中に連れ戻されてしまう。
エリスはここで守備隊の連中と一緒に出撃させるのではなく、僕の近くに待機させて、駐屯地に突入してきた奴らを迎撃させたほうがいいだろう。所詮守備隊の連中は計画のための捨て駒だ。もしここでエリスと僕以外の騎士が全滅したとしても、僕の権力があれば他の駐屯地や要塞からすぐに騎士たちを補充する事が出来る。
さすがにエリスのような優秀な騎士を補充することは出来ないから、彼女だけは温存しておかないとな。それに、彼女は僕の計画を知っている人物だ。
「・・・・・・なんで悲しい顔をしている?」
「・・・・・・何でもないわ」
僕は悲しい顔をしながら柱に縛り付けられているエミリアを見つめているエリスに言うと、防壁の階段を駆け下り始めた。
「ゲイボルグの柱に命中!」
「すげえ! 1発であんな柱に命中させやがった!」
カレンさんの放った徹甲弾は、3kmも先にあるゲイボルグの柱に命中したようだった。更に柱を貫通した徹甲弾は中心に浮遊していた魔力の塊の下をすり抜け、反対側の柱まで貫いて倒壊させてしまったらしい。
すると、柱たちに取り囲まれていた紅い魔力の塊が膨張を始めた。球体のような形状で浮遊していた魔力の塊が崩れ出し、倒壊した柱のあった場所から外へと流れ出し始める。そして紅い魔力の塊に飲み込まれてしまったゲイボルグは、大爆発して崩壊を始めてしまった。
「やったわ!」
(さすがカレンさん!)
僕も彼女の砲撃の技術を称賛しようと思ったけど、崩壊していくゲイボルグの向こうにあった防壁の門が開き、その向こうから騎兵や大きな盾と槍を持った騎士たちが出撃してきたのを見て、すぐに座席の近くにあるコンソールを操作する羽目になった。
アクティブ防御システムを20mm速射砲から20mmエアバースト・グレネード弾の切り替え、Sマインも準備しておく。飛竜は見当たらないから、今回は対人戦闘だけで問題ない筈だ。
「キャニスター弾、装填!」
「了解! キャニスター弾!」
先陣を切るのは間違いなく騎兵だ。榴弾で薙ぎ倒すよりも、無数の散弾をばら撒くキャニスター弾で薙ぎ払った方がいいだろう。兄さんのための突破口も開く事が出来る筈だ。
「敵、12時方向から騎兵! 数は・・・・・・30! 隊列の中央を狙ってください!」
「ヤヴォール!」
「兄さん、準備は!?」
『いつでもいいぜ』
無線機から突入準備を終えた兄さんの声が聞こえてくる。
「最初にキャニスター弾で敵を薙ぎ払うから、そしたら突入して!」
『了解だ。カレン、頼むぞ!』
「任せなさい!」
ギュンターさんが装填用のハッチにキャニスター弾を押し込む。カレンさんは照準器を覗き込むと、前方から槍を構えて接近して来る騎兵たちに照準を合わせる。
接近されてもレオパルトに搭載されているMG3やターレットで対応できるし、Sマインも装備している。それに、敵にはレオパルトの装甲を貫通させられるような武器はもうない。
「撃てッ!!」
「発射!!」
僕の号令を復唱しながら、カレンさんが砲弾の発射スイッチを押した。
砲声が轟き、強烈な火薬の臭いがレオパルトの車内を包み込む。排出された巨大な薬莢が床に落下する音を聞きながら、僕はモニターを覗き込んだ。
120mm滑腔砲から飛び出したキャニスター弾が空中分解し、突撃して来る騎兵隊の眼前に無数の小さな散弾の群れを放り込む。彼らの防具を貫通してしまうほどの威力がある無数の散弾の群れの中に飛び込む羽目になった騎兵隊は、もう蹂躙されるしかなかった。
馬たちの肉体が次々に砕け散り、乗っていた騎士たちの肉体も小さな散弾たちが簡単に食い破っていく。騎兵隊の隊列の中央で血飛沫と肉片が吹き上がり、法制の残響の中で絶叫が響き渡った。
しかも今のキャニスター弾の砲撃で騎兵隊の隊長が戦死したらしい。体勢を立て直すために引き返そうとする者やそのまま突撃を続行しようとする者のせいで、騎兵隊の隊列がバラバラになっていく。
「今だ!」
『おう! 頼んだぜ!』
そして、そのバラバラになった騎兵隊の隊列の中に、黒いオーバーコートを身に纏った兄さんが突っ込んでいった。
キャニスター弾が接近していた騎兵隊の隊列の中央に襲い掛かった。俺は腰の右側に下げていたSaritch308ARを引き抜き、ナイフ形銃剣を展開すると、突撃するために砲塔の後ろから立ち上がる。
『力也さん』
「ん?」
砲塔から飛び降りようとした瞬間、俺の後ろで戦車を護衛するためにPDWを準備していたフィオナが俺を呼び止めた。
『必ず、エミリアさんを連れ戻してくださいね』
「任せろ。絶対助けてくる」
俺はフィオナにそう言うと、今度こそ戦車の砲塔から飛び降り、草原を踏みつけながらナバウレアに向かって全力疾走を開始した。
走りながらアサルトライフルのホロサイトを覗き込み、照準を前方で出鼻を挫かれて総崩れになっている騎兵隊に照準を合わせる。トリガーを引こうとした瞬間、後方で砲声が轟いたのが聞こえた。
砲声が轟いた直後、いきなり目の前の騎兵隊の隊列が吹き飛んだ。土と肉片が舞い上がり、爆炎が草原を焼き尽くしていく。
どうやらレオパルトが榴弾で総崩れになった騎兵隊に止めを刺したらしい。フルオート射撃で薙ぎ倒そうとしていた敵をカレンに横取りされた俺は、ニヤリと笑いながら目の前の黒煙の中に突っ込んでいった。
バラバラになった死体や防具の破片を踏みつけながら黒煙を突き破り、ナバウレアの防壁に向かって突撃していく。
次に目の前に現れたのは、いきなり先陣を切る筈だった騎兵隊が全滅したのを目の当たりにして慌てふためいている騎士たちの隊列だった。
「も、モリガンの傭兵だ! 突っ込んで来るぞ!」
「落ち着け! たった1人だけだ!!」
悲鳴を上げる騎士を指揮官が叱責するけど、その指揮官も怯えているようだった。どうやらモリガンのこの黒い制服はかなり有名らしいな。
俺は今度こそホロサイトの照準を騎士たちに合わせた。狙う目標は、狼狽した騎士を叱責していた指揮官と思われる男だ。俺の目的はエミリアを救出することだから、この騎士たちを相手にしているわけにはいかない。だから、指揮官を倒してさっきの騎兵隊のように混乱させてから突破する。そうすれば、信也たちも簡単にこいつらを殲滅する事が出来る筈だ。
指揮官はまだ部下を叱責して何とか戦わせようとしているようだったけど、すぐにその怒声はアサルトライフルの銃声に砕かれることになった。俺が撃った数発の7.62mm弾に肉体を食い破られ、指揮官が血を吐きながら崩れ落ちる。
「ひぃっ!」
「く、来るぞぉっ!!」
まだ戦うつもりか。
俺は左手をグレネードランチャーのグリップへと伸ばし、照準を騎士たちの隊列へと合わせた。さっきの騎兵隊みたいにバラバラになってくれればそのまま突破するつもりだったんだが、まだ戦うつもりならば強引に突破していくわけにはいかない。
騎士たちが何人か雄叫びを上げながら俺に向かって突っ込んで来る。大型の盾を持っているようだけど、40mmグレネード弾ならば関係なく吹っ飛ばしてくれるだろう。
「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
俺は絶叫しながら、左手でグレネードランチャーのトリガーを引いた。
発射されたグレネード弾は騎士たちの盾に命中して跳弾すると、前進してくる彼らの足元に突き刺さり、爆発する。足元で吹き上がった爆風に盾を簡単に砕かれ、騎士たちが粉々にされていく。
アサルトライフルを腰の右側に下げた俺は、腰の後ろのホルスターに収まっている2丁の水平二連ソードオフ・ショットガンを引き抜いた。そのまま突っ走ってグレネード弾の爆風でバラバラにされた騎士たちの死体を踏みつけてジャンプし、まだ俺に槍を向けてくる騎士たちに空中で照準を合わせる。
そして、大口径のソードオフ・ショットガンのトリガーを引いた。
両手のショットガンの銃口から、8ゲージの散弾が飛び出していく。でっかい散弾の群れが槍の先端部を砕きながら突き進み、俺とまだ戦おうとしていた騎士の防具をあっさりと粉砕した。
大口径の散弾を叩き込まれて弾け飛んだ死体を踏みつけ、俺は更に前に進んでいく。雄叫びを上げながら剣を振り上げた騎士の腹に8ゲージの散弾を至近距離で叩き込み、大きな風穴を開けてから蹴り飛ばす。そして左側から襲い掛かってきた騎士の顔面に左手のソードオフ・ショットガンを向けてぶっ放し、兜ごと騎士の頭をもぎ取った。
水平二連ソードオフ・ショットガンが装填できる散弾の数はたったの2発だけだから、2発撃ってしまったら再装填しなければならない。
フリントロック式のピストルのような漆黒の短い銃身を折った瞬間、中から空になったでっかい薬莢が飛び出してくる。俺はポケットの中から取り出した8ゲージの散弾を放り込むと、すぐに銃身を元に戻してから撃鉄を元の位置に戻した。
片方のショットガンの再装填を終えた俺は、左手のショットガンも再装填しておこうかと思ったけど、総崩れになった筈の騎士の隊列の中から何人かが剣を引き抜いて突っ込んできたせいで中断する羽目になった。散弾が装填されていないショットガンを渋々ホルスターに戻した俺は、左腕のガントレットに装着されているグリップを展開し、パイルバンカーの準備をしながら突っ込んで来る騎士へと向かって走り出しす。
このパイルバンカーの射程距離はたったの30cmだけだ。しかもボルトアクション式だから、叩き込んだら右手でボルトハンドルを引かなければならない。でも、右手はソードオフ・ショットガンで塞がっているから、もし外す羽目になったらすぐにもう1発叩き込むのは無理だろう。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇッ!」
「邪魔なんだよッ!」
騎士が振り下ろして来た剣を躱した俺は、まるでボディブローでも叩き込もうとしているかのように、左手を騎士の腹に向かって突き出しながらグリップのトリガーを引いた。
銃声のような轟音が響き渡り、騎士の防具が砕け散る。アラクネの外殻を簡単に貫通する杭は騎士の肉体を防具もろとも貫通していた。
そして腹をパイルバンカーで貫かれた兵士の肩の上にソードオフ・ショットガンの銃身を置き、まるで依託射撃をするかのようにそのまま後続の騎士に向かってトリガーを引く。
銃声が彼らの雄叫びを粉砕し、でっかい散弾の群れが騎士たちを蹂躙していく。
俺はナバウレアの守備隊を蹂躙しながら、駐屯地へと向かって走って行った。