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拷問と金縛り


 何度も棍棒が俺の体に叩き込まれる。俺に拷問をしている騎士の罵声を無視しながら、俺はなぜ防御力のステータスがあるにもかかわらずこんなにダメージを受けているのか考察していた。


 レベルの低い転生者は普通の人間の身体能力とあまり変わらないから、このような拷問を受ければ普通に傷を負うことになるだろう。だが、俺はレベル187の転生者で、ステータスは全て20000を超えている筈だ。これほどのステータスがあるならば、このような棍棒に殴られた程度では全くダメージを受けないし、逆にあの棍棒が折れてしまうということもある筈だ。


 だが、俺の体は棍棒で殴りつけられる度に内出血を起こしていて、既に体中が痣だらけだ。肋骨も何ヵ所か折れていているだろう。


 おそらく、端末を身に着けていないせいだ。俺の端末は敵に奪われ、魔術師に調べられている最中なんだろう。端末が手元にない状態では、ステータスが大きく低下した状態に陥ってしまうのではないだろうか?


「おら、さっさと言え! あの武器はどこで手に入れた!?」


「・・・・・・」


 俺は答えない。棍棒で何度も殴られているが、絶叫するか呻き声をあげるだけだ。そのおかげで俺を拷問している男は俺に問い掛ける度に機嫌が悪くなっている。


 男は俺の顔を思い切りぶん殴ると、棍棒を床に投げ捨てて再び火鉢の中から金属の棒を引き抜いた。先ほど俺の左腕の傷口を焼いた真っ赤な金属の棒が、ゆっくりと俺の胸に近づけられる。


 だが、答えるつもりは全くない。こんな奴らに仲間の情報を教えるわけにはいかない。


「いい加減答えろ! あの武器はどこで手に入れた!? 誰が作った!?」


「やかましいんだよ・・・・・・。黙れ」


「貴様!!」


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 胸を焼かれる激痛を絶叫でなんとかせき止めながら、俺はこの男を睨みつけた。拷問している騎士団の男は更に金属の棒を押し込みながら俺を罵り続ける。


 やかましい声だ・・・・・・。


 男はそっと俺の胸から金属の棒を離し、火鉢の中へと戻す。何回あの真っ赤になった棒を押し付けて拷問しても答えないことにかなりイライラしているらしく、男はどれだけ俺を痛めつけても吐かせることのできなかった役立たずの道具を蹴りつけて唸り声を上げた。


 その時、いきなり男の体が動かなくなった。壁にぶら下がっている道具の中から次に何を使うか選んでいる最中に、いきなり男が動かなくなったんだ。どの道具を使うか悩んでいるわけではないらしい。


 何だ? 何があった?


 男もどうして自分が動けなくなったのか分からないらしい。顔中を冷や汗で湿らせながら、首すら動かせなくなった状態でずっと突っ立っている。


 金縛りにでもなったのか?


 ん? 金縛り・・・・・・?


 俺もこの異世界にやってきてから2回も金縛りを経験している。どちらも、原因はネイリンゲンの屋敷に住んでいた幽霊の幼い少女だったんだけどな。


 すると、薄暗い部屋の奥の方で、白い何かが揺らめいたのが見えた。


 初めてあの屋敷の地下室で射撃訓練をした時に見えたものと同じだ。その白い何かはゆらりと揺れながら、静かに壁に縛り付けられている俺の方に近づいて来る。


『―――力也さんっ!』


 聞こえたのは、聞き覚えのある幼い少女の声だった。


「フィオナ・・・・・・・・・?」


 俺の方に近づいて来た白い何かの正体は、真っ白なワンピースを身に纏った白髪の少女だった。彼女は背中にアサルトライフルを背負ったまま、涙目になりながら壁に縛り付けられてくる俺の目の前までやって来ると、そのまま傷だらけになっている俺に抱き付き、俺の胸に顔を押し付けた。


『力也さん・・・・・・! こんなに傷だらけに・・・・・・!!』


「フィオナ、どうして・・・・・・?」


『信也くんの指示で、騎士団を尾行していたんです』


 信也の指示か。確かに、自由に壁をすり抜ける事が出来る上に姿を消す事が出来る幽霊の彼女ならば、尾行にはうってつけだろう。今助けに来てくれたのは、俺が連れて行かれる最中に助け出しても、端末と武器が奪われている状態だから、エリスに返り討ちにされる可能性があったからかもしれない。


 フィオナは小さな手で涙を拭うと、背後で彼女が金縛りにした男のポケットの中から鍵を奪い取り、俺の両手と両足を縛り付けていた鎖を外してくれた。


 手首と足首を回しながら、俺はフィオナに「ありがとな、助かったよ」と礼を言うと、未だに金縛りになったままの男を睨みつけた。


 さて。こいつにはお返しをしないとな。


「フィオナ、耳を塞いで目を瞑ってろ。出来れば後ろを見てるんだ」


『は、はい』


 彼女が両耳を塞ぎながら後ろを見たのを確認した俺は、火鉢の中から真っ赤になった金属の棒を引っ張り出し、男の方へと歩いた。


「よう。お返しさせてもらうぜ」


 さっきまで俺を拷問していた男が、冷や汗を流しながら俺の顔を睨みつける。俺はニヤリと笑うと、右手に持っていた金属の棒を男の顔に近づけ―――右目に棒の先端部を突っ込んだ。


「・・・・・・・・・!!」


 左目を見開きながら男がもがく。でも、フィオナにまだ金縛りにされているままだから、動けない上に絶叫することも出来ない。眼球が崩れた右目から金属の棒を引き抜いた俺は、その真っ赤になった棒で男の胸元を殴りつけてから、彼の頭を掴んで火鉢の方へと連れて行く。


 燃え上がる石炭がいくつも入っている火鉢を見下ろしながらニヤリと笑う。男は残った左目で俺を見つめながら震えているようだ。


「止めてほしいか?」


「・・・・・・!」


「残念ながら止めないぞ。諦めろ」


 お返しさせてもらうって言っただろ?


 俺は男の頭を引き寄せると、燃え上がる石炭がぎっしりと入っている火鉢の中に向かって、男の頭を突っ込んだ。


 瞬く間に男の頭髪と皮膚が燃え上がり、肌が真っ黒になっていく。彼はまだ金縛りにされているままだから自力で逃げるのは不可能だろう。いつまでも頭を押さえつけていると俺の手まで燃えてしまうので、今のうちに手を離しておく。


 本来ならば聞こえる筈の絶叫が聞こえないのは気味が悪かった。


 もちろん、この男を助けるつもりはない。それに今更引っ張り出したとしても、この火傷を治療できないだろう。


 俺は手首を回しながら、俺が言った通りに両耳を塞いで後ろを向いていたフィオナの肩を優しく叩いた。


『お、終わりました?』


「おう。・・・・・・よし、端末を取り返しに行くとするか」


『あっ、待ってください』


「ん?」


 部屋の出口の方に歩いて行こうとすると、フィオナに呼び止められた。彼女は腰に下げていたハンドガン入りのホルスターを外してから俺に手渡し、背中に背負っていたアサルトライフルも取り出して俺に渡してくれた。


 どちらも見たことのある武器だった。


 ホルスターの中に入っていたのは、日本製ハンドガンの9mm拳銃。自衛隊が採用しているハンドガンで、9mm弾を使用するシングルカラム型の銃だ。サプレッサーとライトとドットサイトが既に装着されている。


 そして、フィオナが俺に渡してくれたアサルトライフルは、自衛隊が採用している89式自動小銃だった。こちらも日本製のアサルトライフルで、M16などと同じく5.56mm弾を使用する。威力は少し低めだけど命中精度が高く、しかも銃身が短いから、室内戦でも扱いやすいアサルトライフルだ。銃の上にはホロサイトとブースターが装着されている。


 フィオナから予備のマガジンとライフルグレネードを受け取りながら、俺は彼女に尋ねた。


「これは?」


『信也君が用意してくれたんです』


「信也が?」


『はい』


 ハンドガンの方にはサプレッサーが装着されているから、銃声を出さずに敵を始末する事が出来る。端末が手元に無いせいでステータスが低下している以上、敵と戦うのは危険だ。気付かれずに端末を取り戻す必要がある。


 俺は信也に感謝しながら、89式自動小銃を背中に背負った。出来るならば端末だけではなく、制服の上着も取り返したいところだ。いつまでも上半身だけ裸のままでいるわけにはいかないからな。


「よし、実体化を解除してついて来るんだ」


『はい!』


 俺は頭を火鉢の中に突っ込んだまま絶命している男の腹を蹴りつけてから、部屋の壁に掛けられているダガーを鞘ごと拝借し、フィオナと一緒に部屋の出口へと向かった。


 ボロボロになったドアを開けて地下室の悪臭とおさらばした俺は、階段を上る前に少しだけ深呼吸をした。まだこの階段も黴臭く、とても澄んだ空気とは言えないだろうが、さっきの血と膿と黴の臭いが混じった地下室の空気と比べればまだ綺麗だ。地下室の中で散々吸った空気を絞り出してから階段の上を睨みつけ、俺は9mm拳銃を構えながら階段を上った。


 後ろを振り返っても、フィオナの姿は見当たらない。彼女は既に実体化を解除し、姿を消した状態で俺の後について来ているため、霊感が強い人間でも来ない限り彼女の姿を見ることは不可能だ。


 階段を上り切り、再びボロボロの木製の扉を開ける。そして俺は、かつてエミリアと2人で潜入した防壁の内側へと足を踏み入れた。


 右側には飛竜の発着場があり、左側には見張り台もある。前回はあの発着場から飛竜を奪って逃走するのが目的だったんだが、今回は要塞の内部に侵入し、端末を奪還してからエミリアの行き先も突き止めなければならい。前回よりも難易度は高くなっていた。


 近くにあった木箱の陰に隠れ、要塞の中を警備している騎士たちの配置と人数を確認しておく。見張り台の上にはライフルくらいの大きさのボウガンを持った騎士が立っていて、その見張り台の近くにある通路には剣を持った騎士が警備しているのが見える。


 前回潜入した時よりも、警備している騎士の人数が増えているようだ。


 木箱の影から移動しようとした瞬間、背後から足音が聞こえてきた。俺は慌ててそちらを振り向きながらサプレッサーが装着された9mm拳銃を構えた。


 後ろから歩いて来たのは見張りの騎士のようだった。まだ木箱の陰に隠れている俺には気づいていないらしく、そのまま俺の隠れている木箱の近くを通過して行こうとしている。


 俺はそいつにハンドガンの照準を合わせ、トリガーを引いた。


 9mm弾が騎士のかぶっていた兜を突き破り、彼の頭を食い破る。俺は崩れ落ちた騎士の近くへと姿勢を低くしたまま近づいていくと、近くに置いてあった木箱の蓋を開けてから彼の死体を持ち上げ、その中に放り込んだ。


「そういえば、フィオナ。無線機は持ってるか?」


『はい。持ってますよ』


 再び木箱の陰に隠れてから彼女に尋ねると、俺の傍らに実体化したフィオナが小さな無線機を俺に手渡した。俺はその無線機を受け取ると、右耳に装着してから電源を入れる。


 もしかしたら、信也たちが応答してくれるかもしれない。俺は耳に装着した無線機に向かって呟いた。


「信也、聞こえるか? 応答してくれ」


『――――こちら信也。兄さん、無事だったんだね!?』


 良かった。信也が答えてくれた!


 弟の声を聴いて安心しながら、俺は彼らに指示を出すことにした。


「今どこにいる?」


『オルトバルカ王国の国境付近だよ。みんなでレオパルトに乗って、そっちに向かってる』


 レオパルトに乗ってるのか? つまり、俺とエミリアを助け出すためにこの要塞にたった1両の主力戦車(MBT)で攻撃を仕掛けようとしているということか。


「俺は今から端末を奪還し、エミリアを探す。端末を奪ったら、俺の狙撃補助観測レーダーからそっちにデータを送るから、援護砲撃を頼む」


『了解。気を付けてね』


「ああ、了解だ」


 通信を終了した俺は、ため息をついてから移動を開始した。


 木箱の影から移動し、今度は集められている樽の群れの影に隠れる。見張り台の上の奴は俺に気付いていないようだ。


 この9mm拳銃はシングルカラム型だから、マガジンの中の弾丸の数は少ない。信也も俺と同じく『所持可能弾薬UP』というスキルを装備しているためマガジンを5つ用意してもらえるようになっているけど、弾切れには注意しなければならなかった。


 そういえば、俺の端末はどこにあるんだろうか?


 もしかしたら誰かが解析しているのかもしれない。俺はまたため息をつくと、見張り台の上の敵に気付かれないように別の場所に移動を開始した。





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