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氷と銃声

 エリスが俺たちの所にやって来た目的を聞いた瞬間、俺は素早くホルスターの中に納まっているプファイファー・ツェリスカのグリップを握り、大型のリボルバーをホルスターの中から引きずり出した。スピードのステータスも他のステータスと同じように20000を超えているため、彼女に銃口を向けるまでの速度は西部劇のガンマンよりも速かっただろう。


 いきなり武器を引き抜いた俺に気が付き、エリスが引き連れていた2人の騎士が驚く。だが、エリスはまだ冷笑したままだ。


 俺は左手を撃鉄ハンマーに近づけると、まず最初にエリスに向かってトリガーを引いた。マズルフラッシュが噴き出た直後、すぐに左手で撃鉄ハンマーを元の位置に戻し、銃口を今度はエリスの左右に立っている騎士に向けてトリガーを引く。3発の.600ニトロエクスプレス弾の早撃ちによる先制攻撃だ。


 もしかしたらジョシュアから既に銃の事を聞いているかもしれなかったが、この早撃ちには対応できないだろう。


 猛烈な銃声がまだ残響すら生み出さぬうちに、俺の目の前で2人の頭が砕け散った。.600ニトロエクスプレス弾に喰らい付かれ、頭蓋骨を粉砕されたのは、エリスが引き連れていた2人の騎士だけだ。


 エリスはどうした? まさか、躱したのか!?


 マズルフラッシュが消え始めた向こうに、エミリアと同じく蒼いエリスの髪が見えた。彼女が引き連れてきた2人の騎士は.600ニトロエクスプレス弾に被弾して頭を叩き割られたけど、エリスは何と俺の早撃ちを見切って右側に回避していたんだ。


 こいつ、俺の早撃ちを躱しやがった・・・・・・!!


「信也、屋敷に戻れッ!」


「りょ、了解ッ!」


 エリスはラトーニウス王国騎士団の精鋭部隊に所属していて、接近戦ではエミリアよりも強いらしい。エミリアは俺と互角だから、接近戦では俺よりも強いということになる。


 だから、信也では勝ち目がない!


「ハルバードを!」


「はっ!」


 エリスが後ろに立っていた騎士たちの隊列に叫ぶと、その隊列の中でハルバードを持っていた1人の騎士が、彼女に向かってハルバードを放り投げた。エリスはそのハルバードを後ろにジャンプしながらキャッチすると、槍の先端部を俺に向けて構える。


 なるほど、槍が一番得意なのか。


 近距離武器ではリーチが長い。しかもエミリア以上に接近戦が得意ならば、剣で挑むのは無謀だな。


 右手のプファイファー・ツェリスカをホルスターに戻しながら、耳に装着していた無線機に向かって指示を出す。


「各員、攻撃開始! 殲滅しろ! 撃て(ファイア)ッ!!」


『了解!』


 無線機から返事が聞こえてきた直後、屋敷の窓で騎士たちに銃口を向けていた仲間たちが一斉に射撃を開始した。カレンの正確なマークスマンライフルの狙撃が次々に騎士の隊列に襲い掛かり、騎士たちの頭に風穴を開けていく。セミオートマチック式のライフルによる素早い見事な狙撃だった。


 腰の後ろに下げていたSaritch308ARを取り出し、ナイフ形銃剣を展開。もし接近されて槍で攻撃されても、このナイフ形銃剣ならば受け止める事が出来るだろう。だが、そのまま接近戦をするつもりはない。彼女はエミリアよりも接近戦が得意なんだからな。


 だから、徹底的にアウトレンジ攻撃で攻める! 


 Saritch308ARのトリガーを引き、7.62mm弾のフルオート射撃を開始した。さっきの早撃ちは単発だったが、今度エリスに襲い掛かるのは7.62mm弾の群れだ。回避しきれるか!?


「ふふっ。これがモリガンの武器なのね・・・・・・?」


 マズルフラッシュの煌めきの向こうで、エリスが楽しそうに笑った。


 そして、ハルバードの柄を回転させながら、彼女に向かっている弾丸の群れに向かって突っ込んで来る!


 まさか、あの柄で弾き飛ばしながら接近してくるつもりか!? 


 さっきの早撃ちを回避したんだ。おそらく、エリスは弾丸を弾きながら接近してくるだろう。俺はフルオート射撃を3点バースト射撃に切り替えると、後ろに下がりながらトリガーを引き続けた。フルオート射撃の轟音が3点バーストの銃声に切り替わり、3発の弾丸たちが仲良くエリスに向かっていく。


 最初にフルオート射撃でばらまいた弾丸たちは、やっぱりエリスが回転させていたハルバードの柄にすべて弾かれてしまったようだ。防具を貫通する音ではなく、小さな金属が何かに弾き飛ばされるような音が何度も聞こえてくる。


 あまり後ろに下がり過ぎると、エリスを屋敷に近づけてしまう事にもなる。下がり過ぎるのは好ましくないな。


「なるほどね。確かにこの攻撃は恐ろしいわ・・・・・・!」


「そうか」


 だったら、もっと恐ろしいのをプレゼントしてやるぜ。


 左手で銃身の下に装着されている40mmグレネードランチャーのグリップを握ると、接近してくるエリスに向かって40mmグレネード弾をぶっ放す。さすがにこいつをハルバードで叩き落とすのは不可能だろう。そんなことをすれば、グレネード弾の爆発がエリスを襲うことになる。


 さっき攻撃を回避されたのは、おそらく俺が武器を引き抜こうとしていたのを見られていたからだろう。だが、この攻撃は見切れる筈がない。攻撃のモーションを見切ることは出来ても初めて見る攻撃がどのような攻撃なのかを見切るのは不可能だからだ。


 さあ、こいつも同じように叩き落とせ。


 その時、いきなりエリスはハルバードを回転させるのを止めた。ハルバードの柄を左手でしっかり握り、姿勢を低くしながら俺に向かって突っ込んで来る!


 まさか、グレネード弾が爆発するということを見抜いたのか!?


 しまった。あのグレネード弾は時限信管を搭載したタイプだから、発射されてから数秒後に爆発するようになっている。近接信管を搭載していればエリスがグレネード弾の近くを通過した瞬間に起爆するため彼女を倒す事が出来たかもしれない。


 くそったれ。今度からは近接信管型のグレネード弾に変更しておかないと。


 結局、俺がぶっ放したグレネード弾はエリスには命中せず、彼女の右肩の辺りを掠めただけだった。そのまま彼女が引き連れていた2人の騎士の死体があった近くに着弾し、無意味な戦果を上げる。


「もらったわ!」


「くっ!」


 エリスが俺に向かってハルバードの先端部についている槍を突き出してくる。俺はトリガーからすぐに人差し指を離し、銃口の右側に装着されている折り畳み式のナイフ形銃剣で彼女の槍を遮ると、押し返してから再びエリスに銃口を向ける。だが、エリスは更に姿勢を低くすると、右手の裏拳で俺のアサルトライフルを殴りつけながら俺から見て右側に回り込み、引き戻したハルバードの斧の部分を振り回してくる。


 どうやらエリスは左利きらしいな。


 体勢を低くして彼女のハルバードに喉を斬られないようにすると、俺はアサルトライフルでの射撃を続行しようとはせず、素早く胸のホルスターから水平二連ソードオフ・ショットガンを引き抜いた。レリエルとの戦いの最中に生産したこの漆黒のショットガンは、12ゲージの散弾ではなく8ゲージの散弾を使用する。だから、接近戦では恐ろしい破壊力を持っているんだ。


 だが、装填できる弾数はたった2発のみ。エリスは早撃ちを見切るほどの実力者だから、間違いなく再装填リロードを許してくれないだろう。再装填リロードを無事に終えて再び射撃できる可能性はかなり低い。


 ソードオフ・ショットガンを向けられたエリスが目を見開く。おそらく彼女は、俺が続けてアサルトライフルで攻撃してくると思っていたんだろう。


「喰らえ・・・・・・!」


 この世界に銃は存在しない。だが、彼女はもう銃が飛び道具だということを知っている。


 早撃ちと連射を躱したのならば、散弾をお見舞いするまでだ。


 俺はエリスに向かって、獰猛な破壊力を持つ漆黒のソードオフ・ショットガンのトリガーを引いた。


 まるでアンチマテリアルライフルでもぶっ放したかのような猛烈な轟音が響き渡った。右側の銃口から8ゲージの散弾たちが飛び出し、慌てて回避しようとしているエリスに向かって突き進んでいく。


 エリスは上半身を右側に傾けて回避しようとしたが――――それで散弾が回避し切れる筈がなかった。


「!?」


 散弾が、何発かエリスの左肩を抉った。


 肩に装着していた銀色の防具が弾け飛び、血飛沫が吹き上がる。エリスは呻き声をあげたけど、得物を手ば刺さずにそのまま距離を取る。


 あのまま呻き声をあげていたらもう1発叩き込むつもりだったんだが、距離を取られてしまった。さすがに距離を取られてしまったら、ソードオフ・ショットガンは真価を発揮する事が出来ない。


 俺は1発だけ散弾が装填されたままの獲物を胸のホルスターに戻すと、再びアサルトライフルを構えた。









「11時方向! 塀の近く!」


(了解!)


 窓からSaritch308PDWの銃口を突き出し、僕たちはラトーニウス王国の騎士団を狙い撃ちにしていた。庭の方では兄さんがエミリアさんにそっくりの女の騎士と戦っているのが見える。


 援護射撃をしてあげたいところだけど、2人とも動きがかなり素早いから、もしかしたらあの女の騎士じゃなくて兄さんに当たってしまうかもしれない。だから、僕たちは他の騎士を狙って攻撃することにしていた。


(シン、2時方向!)


「くっ! 弓矢を持ってる! 警戒!!」


 弓矢よりも銃の方が破壊力があるし、射程距離も長い。こっちの方が有利なんだけど、敵の方が数が多い。弓矢で一斉射撃をされるのはかなり危険だ。


「―――信也、ここを頼む」


「エミリアさん?」


 その時、僕の近くの窓からSaritch308ARで敵の騎士を攻撃していたエミリアさんが、射撃を止めていきなり立ち上がった。近くに立て掛けておいたバスタードソードの鞘を拾い上げると、後ろにある部屋の出口のドアに向かって走っていく。


「エミリアさん、待って!」


(何をするつもりですか!?)


 するとエミリアさんは、ドアの前で立ち止まって僕たちの方を見た。


「あの女の騎士は姉さんだ。・・・・・・私が行けば、攻撃を止めてくれるかもしれない」


「ダメだ! あの人たちはエミリアさんを連れ戻そうとしているんだよ!?」


 彼女を行かせるわけにはいかない。さっきに慰安と一緒に外で彼女と話をした時、彼女たちの要求を僕も聞いていたんだ。


 あの騎士たちは、エミリアさんをラトーニウス王国に連れ戻すつもりなんだ。間違いなく彼らはエミリアさんがラトーニウス王国に戻ると言わない限り、攻撃を止めないだろう。


 攻撃を止めさせるということは、エミリアさんが彼らについて行くということなんだ!


「エミリアさん、ダメだッ!」


 僕は叫びながらドアに向かって走り出したけど、エミリアさんは「・・・・・・すまない」と言ってドアを閉めてしまう。僕はPDWを背中に背負ってから大慌てで部屋のドアを開けて廊下に飛び出したんだけど、もうエミリアさんは階段を駆け下り始めていた。


「エミリアさんッ!」


 僕も階段を駆け下り始めると、必死にエミリアさんの後を追いかけた。









 アサルトライフルを腰の後ろに戻し、背中に背負っていたOSV-96を取り出した俺は、すぐにキャリングハンドルのスイッチを押してスペツナズ・バヨネットを展開した。この特殊な銃剣はスペツナズ・ナイフのように刃を飛ばす事が出来るんだけど、飛ばしてしまったら刃を装着し直さなければならないため、積極的にその機能を使うという選択肢はない。


 エリスのハルバードよりも短いが、こっちの方が彼女の攻撃を受け流しやすいだろう。それに、12.7mm弾の弾速は7.62mm弾を上回るから、至近距離で放たれれば回避することは出来ない筈だ。しかも破壊力もかなり高いため、ガードも不可能だろう。


 本来ならば狙撃に使う武器なんだけどな。


「たくさん武器を持っているのね」


「まあな」


 彼女に返事をしながらT字型のでっかいマズルブレーキをエリスに向けようとしたその時だった。


 いきなり屋敷の玄関の扉が開き――――エミリアが外に飛び出して来たんだ。


「エミリア・・・・・・!? 馬鹿、中にいるんだ!」


「姉さんッ!」


 さすがに丸腰で外に出て来たわけではないようだ。俺はエミリアに屋敷の中に戻るように言ったが、彼女は引き返さず、そのまま俺が銃口を向けていたエリスに向かって叫んだ。


「姉さん・・・・・・!!」


「・・・・・・姉さんって呼ぶなっていったでしょ・・・・・・!?」


 すると、エリスはハルバードの先端部を俺ではなくエミリアへと向け、彼女を睨みつけた。どうやら姉さんと呼ばれるのが嫌らしい。


 幼少の頃はエミリアに優しくしていたらしいんだが、彼女の言っていた通り冷たくなってしまっているようだ。目の前の自分の妹がいるというのに、まるで怨敵でも睨みつけているような目つきだった。


「姉さん、攻撃を止めてくれ! お願いだ!」


「私はあなたの姉なんかではないわ。―――攻撃をやめてほしかったら、私たちについて来ることね」


「待て、エミリア! 行くな! こいつらはなんとかできるから、気にするな! 行くんじゃない!」


 せっかく彼女をナバウレアから連れ出して一緒に傭兵ギルドを作り、仲間たちを集めたというのに。お願いだ、エミリア。行かないでくれ。


 俺は銃口をエリスに向けたまま、自分の姉を見つめるエミリアを見つめた。


「どうしてだ? ジョシュアか? あいつが私を呼んでいるのか?」


「ええ。あのお坊ちゃんがエミリアを呼んでいるのよ」


 いい加減にしてくれ、ジョシュア。お前は俺に完敗しただろうが。


 ナバウレアで俺に惨敗して醜態を晒し、クガルプール要塞ではついに俺に左腕を吹っ飛ばされたじゃないか。なのにエミリアの姉まで使って彼女を連れ戻そうとするのか?


「・・・・・・すまない、姉さん。あいつの所に戻るわけにはいかない!」


「良く言った、エミリア!」


「・・・・・・仕方ないわね」


 エリスが再び冷笑を始めた。その瞬間、まるで氷に亀裂が入っていくような音が聞こえてくる。


 彼女が左手に持っていたハルバードが、氷に覆われていたんだ。柄を覆った氷たちは更に他の部位も氷漬けにしながら進撃していき、ついに先端部の斧と槍まで氷漬けにしてしまう。


 エリスは冷気を周囲に纏いながら、氷のハルバードを回転させてから構えた。


「だったら、氷漬けにして連れ帰るまでよ」


「来るぞ、力也!」


「おう!」


 エミリアはエリスを睨みつけながら、鞘からバスタードソードを引き抜く。


 エリスはかなり手強いが、エミリアも一緒に戦ってくれる。俺はスコープの照準をエリスに合わせると、彼女に向かってトリガーを引いた。




 

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