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ドルレアン家の地下墓地


「すごい音だったね、木村くん」


「ああ。たった1発でゾンビたちを倒したみたいだ」


 あれは明らかに魔術ではなかった。よく見えなかったけど、あの2人は銃のようなものを持っていたような気がする。


 確かあのハーフエルフの大男と金髪の少女の2人組は、昨日同じ宿屋に宿泊していた筈だ。


 何でこの異世界で銃を持っているんだ? この世界には銃は存在しない筈だぞ? 俺と同じく転生してきた奴らなのか? もし転生者だったなら、あの金髪の少女が転生者なのかもしれない。転生者は基本的に17歳の男女だからな。


 だが、転生者がこの世界の人間に武器を渡すのは愚かなことだ。転生者が端末で生産する武器は、普通の剣でもこの世界の鍛冶屋が撃っているような剣よりも遥かに強力なんだ。しかもこの世界に存在しない銃まで生産する事が出来る。


 そんな強力な武器をこの世界の人間に与えるわけがないだろう。もしかしたら端末を手に入れるために、その武器を使って刃向かってくるかもしれない。端末を操作すればすぐに装備を解除して返り討ちにできるんだけど、装備を解除する前にやられてしまう可能性もある。だから、この世界の人間に転生者が武器を与えるのは敵に武器を与えるようなものだ。


 馬鹿らしい。こんな強力な力は転生者が独占しておくべきだろう。


 だから俺は、端末で生み出した武器は仲間の少女たちにも渡していない。彼女たちが装備しているのは、魔術師や鍛冶屋から購入した武器ばかりだ。


 あの転生者は何を考えているんだ?


「あんな魔術、見たことないよ」


「オリジナルの魔術かな? ・・・・・・なんだか変わった臭いがする」


 仲間の魔術師の少女と獣人の少女がさっきの爆発の話をしている。変わった臭いというのは、おそらく火薬の臭いだろう。


「木村くん。まさか、あの2人も地下墓地のあれを狙ってるのかな?」


「そうかもしれないね。早く追いかけないと」


 あの2人が入っていった地下墓地は、最近発見されたばかりの場所だ。大昔に活躍した英雄のリゼット・テュール・ド・レ・ドルレアンが埋葬された場所で、彼女の棺の中にはリゼットが風の精霊から与えられた伝説の刀が眠っているらしい。


 レベルの高い転生者はステータスで強化されているおかげでこの世界の人間の攻撃では倒すのは非常に難しいんだけど、その伝説の刀はレベルの高い転生者でも簡単に倒してしまうほどの力を持つらしい。信じられないけど、そんな力を持つ刀をこの世界の人間に渡すわけにはいかない。この世界の人間を簡単に蹂躙できる転生者が脅かされることになる。


 転生者を蹂躙する存在なんか必要ないんだ。あの転生者ハンターとかいう転生者も、何を考えているのか全く分からない。頭がおかしいんじゃないのか?


「行こうよ、木村くん!」


「ああ。急ごう!」


 僕は仲間たちを引き連れて、その地下墓地へと向かって走り出した。









 曲がり角で足を止め、俺はそっと曲がり角の向こうをショットガンのライトで照らしながら確認した。さっきの通路には無数のスケルトンとゾンビがいたんだが、次の通路には敵はいないみたいだ。


 でも、警戒しないわけにはいかない。いきなり天井や物陰から魔物が姿を現すかもしれないからな。俺は後ろでカービンを構えているカレンに「大丈夫みたいだ」と言うと、曲がり角に隠れるのを止めて通路に足を踏み入れた。


「やっぱり死体があるわ・・・・・・」


「ゾンビじゃねえよな?」


「そんなわけないでしょ。・・・・・・あら?」


「どうした? お、おい!」


 ライトを照らしながら警戒していると、カレンがいきなりカービンのライトを死体に向けながら、壁の近くに転がっている死体に近づいて行った。


 おい、そいつがゾンビだったらどうすんだよ!? 俺は慌てて銃口をその死体に向けながら、左手を伸ばしてカレンの肩を掴む。


「落ち着いて。―――見て。この死体は首が焼き切られてるみたいね」


「あ? ・・・・・・本当だ。剣で斬られた痕じゃねえな」


 俺はそっと死体の傷口に指を伸ばした。カレンが調べ始めた死体の傷口は真っ黒に焦げているようだ。切り落された首は近くに転がっていたんだけど、首の方の断面も真っ黒に焦げているのが見える。


 まるで、何かに焼き切られたようだ。間違いなく剣で切り落されたわけじゃないだろう。


 まだ死体は腐り始めていない。この冒険者は死んだばかりなのかもしれないな。


「ここで何があったんだ・・・・・・?」


 その時だった。通路の奥の方の壁の方から、ランタンのような橙色の光が現れたんだ。まるで染み出したように現れたその光は、通路の反対側の壁に向かって伸び始めると、反対側の壁に刻まれていた模様に絡みつき、橙色の光の線を形成した。


 何だ? あの光は何なんだ?


 その光を凝視していると、橙色の光の線が段々と移動を始めたのが見えた。壁に刻まれた模様に沿って、橙色の粒子をまき散らしながらギロチンのように俺とカレンに向かって突っ込んで来る。


 俺とカレンはすぐに死体を調べるのを止め、後ろに下がり始めた。おそらくあの光がこの通路にやってきた冒険者を焼き切ったんだろう。あの光に触れれば、ここに転がっている死体たちと同じように肉体を焼き切られ、彼らと共にこの通路に転がる羽目になるに違いない。


 ジャンプすれば飛び越えられる高さだ。飛び越えて通路の奥を目指すべきだろうか?


「地下墓地のセキュリティね・・・・・・!」


「飛び越えて進むか?」


「――――いえ、難しいわよ」


「なに?」


 あんなにゆっくり接近してきてるんだし、線が出現した高さも低いぜ? 太腿の高さくらいなんだぞ?


 そう思いながら前を見てみると、いつの間にか俺たちに接近していた線が2本に増えていた。


「はぁっ!?」


 2本目の線は俺のみぞおちくらいの高さだった。しかも、一番最初に出現した光の線とは突っ込んで来る速度が違う。片方を回避すれば、確実にもう片方の餌食になるようなタイムラグを維持しながら、その線たちは俺たちに接近を続けている。


 そして、一番下を移動していた線からまた1本の光の線が分裂し、今度は俺の脹脛くらいの高さで突っ込んで来る!


「後ろに行けば行くほど線が増える仕組みか・・・・・・!」


 初めてあの光の線を目の当たりにすれば、侵入者は警戒して逃げようとするだろう。でも、逃げれば逆に侵入者を切り刻む光の線が増えることになる。


 俺はさっき通ってきた通路に逃げ込めないかと思って左側をちらりと確認したけど、左側からも同じように光の線が増殖しながらこっちに向かって接近していた。


 に、逃げられない!


「ギュンター、あれを見て!」


「何だ!?」


「通路の奥! 石板みたいなのがあるわ!」


 冷や汗を流しながら、俺はカレンが指をさしている通路の奥に向かってショットガンのライトを向けた。緋色の光を何とか乗り越えたショットガンのライトが、暗闇の中に鎮座していた台座の上の石板を照らし出す。


 その石板の表面には、光が出現している壁と同じく複雑な模様が刻まれているようだった。


「あれを破壊できない!?」


「ロケットランチャーで破壊するんだな!?」


 カレンのグレネードランチャーでは届かないだろう。俺がロケットランチャーであの石板を狙い、爆破するしかない。そうすればきっとこの光の線たちも消える筈だ!


 俺はショットガンを背負ってからLMGを取り出すと、リアサイトとフロントサイトの間にある対空照準器を展開し、左手でロケットランチャー本体に装着されているグリップを握った。


「射撃は訓練場で教えたわよね?」


「おう。任せな」


 射撃が得意なカレンから射撃訓練場で射撃を教わったんだ。おかげでレベル8の射撃訓練をクリアする事が出来たんだから、きっと今ならば命中させる事が出来る筈だ。


 見てろ、カレン。絶対に命中させてやるぜ!


 グリップから一旦手を離し、額の冷や汗を拭い去ってから再びグリップを握る。


 この一撃を外すわけにはいかない。俺は増え続けながら俺たちに接近してきている橙色の光の向こうにある石板を睨みつけながら、左手でRPG-7のトリガーを引いた。


 バレルジャケットが装着されている銃身の下に装備されたロケットランチャーからロケット弾が射出される。発射されたロケット弾は炎と白煙を吐き出しながら接近して来る橙色の光の群れたちをすり抜けると、そのまま通路の奥にある石板に向かって突進していった。


 そして、通路の奥に真っ赤な光が生まれた。まるで赤い光が生まれた瞬間に響き渡った轟音にかき消されたように、俺たちに接近していた橙色の光たちが消滅していく。


 やっぱり、あの石板はあの光を出現させていた制御装置だったんだな。


「どうだ、カレン!」


「さすがね。腕が上がってるわ」


 腰のベルトにぶら下げていたロケット弾を取り出し、ロケットランチャーに取り付けながら彼女に言うと、カレンは俺を見上げながらニヤリと笑った。


「お前に教えてもらったからな。カレンのおかげだ」


「ありがと、ギュンター」


「どういたしまして」


 再びLMGからトレンチガンに持ち替えた俺は、カレンの顔を見下ろしてからニヤリと笑った。









 この地下墓地が発見されたのは最近のことで、ここに突入した冒険者は全員返り討ちにされてしまっているため、内部の調査は全く出来ていない状態だ。だから、地図はない。真っ暗な地下墓地の中をライトを照らしながら進むしかないんだ。


「階段があるぞ」


「分かれ道はないみたいね」


 今のところ、地下墓地の道は一本道だ。隠し通路のような道も見当たらないから、このまままっすぐ進んでいれば最深部に辿り着く事が出来るかもしれない。


 俺は目の前にある階段をライトで照らした。下に降りていくための階段の中には魔物は見当たらない。トラップが仕掛けられているかもしれないけど、さっきみたいな制御装置を破壊すれば止められる筈だ。


 階段の先をライトで照らしながら俺はゆっくり進んだ。真っ白な壁の表面は埃や蜘蛛の巣で覆われていて、足元の階段ではムカデや蜘蛛たちがいきなりやって来た俺たちに驚いて逃げ回っている。出来るだけ虫たちを踏みつけないように気を付けながら、俺はカレンを連れて黴臭い階段を下りていく。


 階段を下りた先には、また通路が広がっていた。相変わらず通路の中は黴臭いままだ。壁には古代文字と壁画が刻まれているけど、何て書いてあるのかは読めそうにない。


 カレンだったら解読できるかな? そう思いながら壁面の古代文字をみつめていると、いきなりライトを照らしていた壁の隙間から赤紫色の粘液のようなものが溢れ出し始めた。俺は慌ててカレンを呼び止めると、壁から漏れ出した粘液から距離を取りながらトレンチガンの銃口を向ける。


 壁から溢れ出した粘液は床の上で水溜りのようになってから盛り上がると、まるでゼリーの球体のような姿になり、俺たちに接近してきた。


 何なんだ? 魔物か? それともさっきの光の線みたいなトラップなのか?


「カレン、何だこいつは?」


「スライムよ。・・・・・・気を付けて、あの粘液は強酸性よ。絶対に触れないでね」


「きょ、強酸性? 触ったら溶けちまうってことか?」


「そういうことよ」


 なんてこった。下手に銃弾をぶち込んだら、その時に飛び散るあの粘液の飛沫でこっちが溶けてしまうかもしれない。接近戦は非常に危険だ。


 ここは逃げるべきだな。幸いまだスライムは俺たちの目の前の通路を塞いではいないし、移動する速度も遅い。走れば簡単に逃げ切れる。


「逃げようぜ!」


「そうしましょう!」


 俺はカレンの手を引いて走り出した。壁から溢れてきたスライムたちは俺たちを溶かすために必死に走り出した俺たちの後について来るけど、移動する速さは早足程度だ。走っていれば逃げ切れるだろう。


 蜘蛛の巣と埃だらけの通路を突っ走っていると、目の前に壁画が描かれた壁が見えてきた。左右には扉があるようだ。扉の鍵は開いているようで、両手を使えば簡単に開ける事が出来るかもしれない。


 目の前の壁画にはリゼットらしき女性と防具を身に着けた耳の長い男性の騎士が描かれているようだったけど、ゆっくり見ている時間はない。俺たちの後ろの通路からは、スライムの群れが近づいてきているんだ。


「ギュンター、扉を開けて!」


「どっちのだ!?」


「どっちでもいいわ!」


 カレンは接近して来るスライムたちにカービンを向けて警戒している。俺はその間にまず右側にある扉に向かって走り出し、扉を両手で掴むと、思い切り扉を横に引っ張ってこじ開ける。


 錆びついた金属の扉がゆっくりと動き始める。俺はその隙間から左腕を突っ込むと、左腕で扉を押しながら右手でショットガンを取り出し、ライトで通路の奥を照らし出した。


「ん・・・・・・?」


 ライトが照らし出したのは―――赤紫色の粘液の塊だった。


 しかも、さっき壁から姿を現したスライムみたいに小さな塊ではない。7mくらいの通路を塞いでしまうほどのサイズの巨大な粘液の塊が、俺がこじ開けた鉄の扉の向こうで待ち受けていたんだ。


「だぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


 俺は慌てて扉を引いて閉じると、反対側の扉に向かって猛ダッシュした。カービンで警戒を続けていたカレンが「え? どうしたの!?」と聞いて来るけど、俺は彼女に巨大なスライムが通路の向こうで待ち受けていたとは言わずにそのまま反対側の扉を両手で掴み、こっちにもスライムの塊がありませんようにと祈りながら扉をこじ開けた。


 少しだけ開いた扉の向こうには、蜘蛛の巣だらけの黴臭い真っ暗な通路が広がっていた。スライムはいないようだ。


「カレン、こっちだ!」


「分かったわ!」


 俺はカレンを先に扉の向こうに進ませると、すぐに鉄の扉を閉めてから通路の奥へと走り出した。


 


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