カレンとギュンターが地下墓地に突入するとこうなる
「ここか・・・・・・?」
「ここみたいね・・・・・・」
飛竜に遭遇しないように注意しながら渓谷を進んでいると、目の前から古代文字が刻まれた遺跡の壁面のようなものが突き出ているのが見えた。明らかに渓谷の岩肌ではない。その岩肌から突き出ている壁を通過すると、奥には頭が欠けた騎士の石造が鎮座しているようだった。その石造の奥には、真っ白な石で作られた巨大な扉がある。
その巨大な扉に刻まれている古代文字の中には、見たことのある紋章も刻まれているのが見えた。カレンの実家であるドルレアン家の家紋だ。
俺はリュックサックの中から地図を取り出した。俺たちの現在位置は、このオルエーニュ渓谷のほぼ中心だ。地下墓地が発見された場所もほぼ中心部だったから、おそらくあの遺跡のような扉の向こうがドルレアン家の地下墓地なんだろう。
俺は「間違いない。ここだ」と呟くと、地図をリュックサックの中に戻してからウィンチェスターM1897トレンチガンを取り出した。旦那から貰ったこのポンプアクション式のショットガンの出番だ。至近距離でぶち込めば、ゴーレムの外殻も粉砕できる筈だ。
カレンも武器をマークスマンライフルからグレネードランチャー付きのAKS-74Uに持ち替え、ゆっくりと地下墓地の位置口に近づき始める。
ここに700年戦争を終結させた彼女の先祖が愛用の刀と共に埋葬されているんだ。今から俺たちは彼女の棺を見つけ、その中にあるリゼットの曲刀を探し出さなければならない。カレンを領主にするために、何としてもその曲刀を手に入れないといけなかった。
「確かに、これは私の家の家紋ね・・・・・・」
「よし、突入するか」
扉は少しだけ開いているから、その隙間から入っていけるかもしれない。開いている幅も最初に通ってきた狭い道と同じくらいだから、つるはしとスコップを擦り付けながら通ることは出来るだろう。
俺はショットガンをいつでも撃てるように準備しながら、リュックサックを背負った身体を少しだけ開いている隙間にねじ込み始めた。中に魔物がいる可能性が高いから、レディーファーストでカレンを先に行かせるわけにはいかない。彼女が死んでしまったら、彼女は当主になる事が出来ないからな。
「・・・・・・雨が降りそうね」
カレンは空を見上げながらそう言った。飛竜がまた上空から襲い掛かって来るかもしれないと思って警戒するつもりで空を見上げていたんだろう。でも、上空ではいつの間にかやって来た雨雲たちが青空を飲み込んでいて、太陽も雨雲たちに飲み込まれようとしている。
「なら、雨宿りでもするか?」
「そうね」
扉の向こうへと入り込んだ俺は、扉の隙間からカレンに向かって手を伸ばしながら言った。雨宿りするための場所は少々危険だけどな。
雨雲のに見込まれかけている太陽の光では入口の中は全く見えない。彼女を地下墓地の入口の中へと引っ張り込んだ俺は、ショットガンに装着してあるライトの電源を入れ、中を照らし出しながら見渡した。
古代文字や壁画が描かれている壁は苔やツタで覆われていている。床には防具や甲冑を身に着けた腐敗しかけている死体が転がっていた。おそらく、この地下墓地を調査しにやってきた冒険者たちだろう。ここに足を踏み入れた冒険者たちは全員返り討ちにされ、誰も戻ってきていないらしい。
「魔物の仕業なのかしら・・・・・・?」
「分からん。・・・・・・剣で斬られた傷があるぞ」
ショットガンのライトで転がっている死体を照らしながら調べてみると、その死体の胸当てには何かで切り裂かれたような痕があったのが見えた。切り裂かれたのは胸当てだけではなく、その奥にある旨の肉や胸骨まで断ち切られたらしい。錆び始めた防具の傷の向こうには、抉られた肉と粉砕された骨が見えた。
死体の周りを舞うハエを手で払いながら立ち上がった俺は、再びショットガンのライトを奥へと向けた。奥の方でも、死体が何体も転がっている。
あの傷は魔物がやったんだろうか? 魔物だったら爪や牙で攻撃してくることが多いから、あんな剣で斬られたような傷は出来ない筈だ。まさか、冒険者同士で戦ったのか?
「・・・・・・ここで死んで、ご先祖様と一緒に埋葬されるのは御免だわ」
「ああ、俺もだ」
出来れば早くこの腐臭のする場所から立ち去りたいところだ。でも、立ち去るには奥に進むか、引き返すしかない。もちろん引き返すのは論外だ。
一刻も早くこの腐臭の中から抜け出そうと思いながらライトで地下墓地の奥を照らしていると、目の前にある曲がり角の向こうから人影が歩いて来るのが見えた。防具を身に着け、剣や盾を持っている。他の冒険者たちなんだろうか?
「他の冒険者か?」
でも、なんだかふらつきながら歩いているようだ。魔物の攻撃で致命傷でも負ったのか?
その人影に向かって声をかけてみようとした瞬間、俺の後ろを歩いていたカレンがいきなりその人影に向かってAKS-74Uの銃口を向けた。俺みたいにライトで人影を照らしているわけではない。まるで敵に向かって照準を合わせているように人影を睨みつけ、トリガーの右手の人差指を近づけている。
段々と人影が近づいて来る。その人影の腹の辺りがやけに細い事に気が付いた俺は、アイアンサイトをその人影に合わせ、12ゲージの散弾をぶっ放した。
マズルフラッシュが一瞬だけ目の前からやってきている人影をライトと共に照らし出し、銃声が入口の通路で反響を繰り返す。
その人影の腰の細さは十数cmくらいしかなかったんだ。脇腹の辺りにはむき出しになった肋骨のようなものも見えた。
「あれはスケルトンだッ!」
「やっぱり!」
錆びついた金属性の兜をかぶっていたのは普通の人間ではなかった。欠けた防具の穴から見えるのは、全く肉がついていない白骨化した身体だ。顔にも全く肉がなく、眼球があった場所には穴が開いている。
俺がぶっ放した散弾をもろに喰らったスケルトンは、顔面から無数の骨の破片をまき散らしながら通路の奥に吹っ飛んで行った。でも、そのスケルトンが姿を現した曲がり角の所から、ぞろぞろと他のスケルトンやゾンビたちが姿を現し、俺たちの方に向かってきたんだ!
「おい、こいつらってここで死んだ冒険者の成れの果てじゃないよな!?」
「知らないわよ! とにかく撃って!」
「数が多過ぎる! 弾切れになっちまうぞ!」
旦那と姉御がいたら、こんな魔物の群れをすぐに殲滅してくれるだろうなぁ・・・・・・。あ、でも姉御は怖がるかもしれないな。確か初めてフィオナちゃんを見た時かなり怖がっていたらしいし、風呂場に彼女が現れた時は着替えの途中で旦那に抱き付いて来たらしいからな。
羨ましいぜ、旦那ぁ・・・・・・。俺も姉御みたいな巨乳の美少女に抱き付いて欲しいぜ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
ポンプアクションを済ませてからもう1発お見舞いしてやろうと思ったその時、俺の隣にやってきたカレンが、左手をAKS-74Uのグレネードランチャーのトリガーに近づけたのが見えた。
彼女のAKS-74Uの銃身の下に搭載されているのは、消音グレネードランチャーのBS-1だ。彼女はその30mmグレネード弾で接近して来る魔物たちを一網打尽にするつもりらしい。
ショットガンの残りの弾薬はあと35発。全弾使えば俺たちに接近して来るスケルトンやゾンビたちを全滅させる事が出来るだろうが、そんなことをしたらショットガンが使えなくなってしまう。こんな通路での戦いで強力なショットガンが使えないのはかなりの痛手だ。出来るならば弾薬はリゼットの曲刀を発見するまで温存しておきたい。
だからグレネード弾を使うんだ。彼女の消音グレネードランチャーは旦那が使っている40mmグレネードランチャーよりも砲弾が一回り小さいが、こいつらを1発で木端微塵にできる威力がある。散弾を全部注ぎ込むよりもグレネード弾1発で済ませた方が効率的なのは明らかだった。
「頼むぜ、お嬢様!」
「任せなさい!!」
呻き声を上げながら接近してきたゾンビに散弾をお見舞いしてやった俺は、ポンプアクションをしてからカレンに向かって叫んだ。
接近して来るスケルトンとゾンビの群れにもう照準を合わせていたカレンは、接近していたゾンビを俺が排除したのを確認すると、その照準を合わせていた場所へと向かってグレネード弾をぶっ放した。
サプレッサーのおかげで、グレネード弾が飛び出す音は全くしなかった。でも地面に着弾したグレネード弾が撒き散らした爆風は、轟音を引き連れて次々にスケルトンやゾンビたちを飲み込み、爆炎と吹き飛んだ破片で蹂躙していった。
ゾンビのどす黒い血を蒸発させた熱風が、入口の方に転がっていた死体たちの腐臭を吹き飛ばす。通路を支配したのはカレンが生み出した爆炎と、火薬の臭いだ。
「・・・・・・進みましょう」
「おう」
次のグレネード弾を装填しながら奥に進んでいくカレン。俺はトレンチガンのチューブマガジンに散弾を装填しながら、彼女の後について行った。