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白い雷と吸血鬼


 スコープの向こうで、またアリアの腕が千切れ飛んだ。AW50のボルトハンドルを引いている間に建物の窓に設置したターレットたちが一斉にフルオート射撃で12.7mm弾を放ち始め、右腕を再生させようとしていたアリアはたちまちその弾幕の中に飲み込まれてしまった。


 その間にギュンターは肉片と鮮血を吹き上げる彼女から距離を取り、スパス12のチューブマガジンに素早く散弾を装填していく。


 ターレットには、500発の12.7mm弾が連なるベルトを用意してもらっているわ。でも、もしかするとそろそろ弾切れを起こすかもしれない。私はAW50のライフル本体の左側に装着されたモニターをタッチしてターレットたちの一斉射撃を中止させると、スコープのカーソルをズタズタになったアリアの心臓へと向け、トリガーを引いた。


 スナイパーライフル用の弾丸よりも大型の弾丸が直撃し、アリアの左側の胸が吹き飛んだ。頭を再生している途中だったアリアは血を吐き出しながら呻き声を上げると、口から血を吐き出しながら立ち上がり、スパス12に散弾を装填し終えたギュンターに襲い掛かっていく!


 ギュンターは接近して来るアリアに散弾を何発か叩き込んでから、ショットガンに搭載されたナイフ形銃剣を構えて正面から突っ込んでいく。アリアが突き出して来た左腕の爪を回避して銃床で殴りつけると、右斜め下から彼女の喉元に向かって漆黒のナイフ形銃剣を突き上げた。


 アリアは慌ててギュンターを引き剥がすために重傷で殴られた左腕を引き戻し、彼を爪で引き裂こうとする。既にボルトハンドルを引き終えていた私は素早く照準を彼女の腕に合わせると、ギュンターが彼女の爪に引き裂かれる前にトリガーを引き、12.7mm弾でアリアの左腕をもぎ取った。


 そして、銃剣を突き刺していたギュンターは、そのままスパス12のトリガーを引いたわ。


 至近距離で散弾を叩き込まれたアリアの首がへし折れる。ギュンターはズタズタになった彼女から銃剣を引き抜き、血まみれになっている彼女の腹を蹴飛ばすと、真っ赤になった芝生の上に倒れたアリアに向かって銃口を向け、もう1発散弾をお見舞いしようとしたわ。


 私も痙攣しながら再生を続けるアリアに向かってアンチマテリアルライフルの弾丸をお見舞いできるようにボルトハンドルを引こうとしたその時、アンチマテリアルライフルの銃声よりも大きな轟音が帝都に響き渡ったのが聞こえた。


「え・・・・・・!?」


 ボルトハンドルを引くためにスコープから目を離していた私は、すぐにその轟音が聞こえてきたホワイト・クロックの方を振り向いていた。


「ホワイト・クロックが・・・・・・・・・崩れる・・・・・・!?」


 宮殿の近くにある巨大な白い時計塔の壁面から、まるで肉片のように白いレンガの破片がいくつも飛び散り、ホワイト・クロックが傾いていくのが見えた。レリエル・クロフォードに世界が支配される前から建っていた巨大な時計塔が、悲鳴を上げながら倒壊していく。


 確か、ホワイト・クロックではエミリアたちが戦っている筈よ!? 彼女たちは脱出できたの!?


 無線機の電源を入れ、エミリアたちを呼ぼうとした瞬間、倒壊する時計塔の残骸が降り注ぐ夜空の中で白い光が煌めいたのが見えた。


「今の光は・・・・・・?」


 さっき見えた光は、まるで白い雷のようだったわ。私はアンチマテリアルライフルを持ち上げると、スコープを白い光が見えた場所へと向け、スコープを覗き込む。


 スコープの向こうに見えたのは、黒いコートに身を包み、背中から巨大な蝙蝠の翼を生やした男だったわ。間違いなく、あいつは路地でアリアと戦っている時にギュンターに重傷を負わせた男よ。


 黒い槍を持っている彼は、誰かが振り下ろしたバスタードソードを槍で受け止めているところだった。まだ誰かが戦っているみたいね。


「え・・・・・・!?」


 レリエルが戦っている相手をスコープで確認した瞬間、私は思わず驚きながらスコープから目を離してしまったわ。


「エミリア・・・・・・!?」


 スコープの向こう側に見えたのは、純白のドレスを身に纏いながらレリエルと戦いを続けるエミリアの姿だった。


 







 私の左腕が、千切れ飛んでいた。


 指先から生えている爪は人間よりも長い。そしてその腕を肘の部分まで包み込んでいる黒いものは、私が身に纏っている黒いコートの袖だ。


「何・・・・・・?」


 私の周囲に見えるのは、白い雷の残滓。白いスパークが糸屑のように舞い、段々と消えていく。


 今の攻撃は何だ?


 あの少年に向かってホワイト・クロックの時計から拝借した針を放り投げて叩き落とした直後の私に、何かが凄まじいスピードで襲い掛かってきたのだ。先ほど私が倒した少年も素早かったが、私の腕を切断した敵は彼よりも素早い。


「―――お前がやったのか? 小娘」


「・・・・・・・・・」


 私は左腕とコートを再生させながら、私の背後で白い雷を纏いながら浮かんでいる白髪の少女に問い掛ける。


 確か、彼女はさっきまで時計塔の部屋の中で戦っていた蒼い髪の少女だ。だが、身に纏っていた漆黒の防具とドレスは真っ白に変色し、蒼い髪も白髪に変わっている。紫色だった瞳も、蒼に変色しているようだ。


 髪と瞳の色は、あの幽霊のような少女と同じ色だった。


 間違いない。この小娘が、私の左腕を切り落したのだ。


「よくも力也を・・・・・・!」


「ふん・・・・・・」


 純白のバスタードソードの切っ先を私に向ける小娘。彼女の持つ剣も、純白の雷を纏っている。


 さっきの少年の仇を討とうとしているらしい。仲間想いの少女だな。


 私は再生を終えた左手でブラック・ファングの柄を握り、先端を彼女へと向ける。おそらく彼女は、あの白い服を着た幽霊の少女の力を借りているのだろう。彼女の体内の魔力が増幅されている。


 属性は、見ての通り雷属性。雷まで白く変色しているということは、恐らく光属性も交じっているのだろう。


 吸血鬼が最も得意とする魔術の属性が闇属性なのは、我々が日光を嫌う種族だからだ。光属性の魔術は、我々にとって日光と同じなのである。


 つまり、銀や聖水と同じく我々の弱点の1つだ。


 だが、私とアリアは日光を浴びても身体能力と再生能力が少しだけ低下する程度だ。全く問題ないだろう。


「行くぞ、レリエルッ!」


「来るがいい、小娘」


 少女は私を睨みつけると、白い雷を放ちながら私に向かって突っ込んできた。間違いなく、あの炎を使う少年よりも素早い。


 私は彼女に先端部を向けていたブラック・ファングを突き出す。吸血鬼並みの恐ろしいスピードだが、まだ彼女を察知することは出来る。


 その時、少女はバスタードソードの柄から左手を離した。そのまま左手を腰の鞘に伸ばし、鞘の中に入っていたチンクエディアを引き抜くと、純白に変色した短い刀身を私の槍に叩き付け、先端部を横へと弾き飛ばす。


「はぁぁぁぁぁぁッ!!」


「む・・・・・・」

 

 片手でバスタードソードを振り上げる少女。だが、私はすぐに弾き飛ばされたブラック・ファングを引き戻すと、柄を正面に構えて彼女が振り下ろしたバスタードソードを受け止める。


 そのまま押し返して腹を串刺しにしてやろうと思ったのだが、私が柄を前に突き出す前に少女はバスタードソードを押し込むのを止めてしまう。槍の先端部をすぐに彼女に向けようとした瞬間、少女はバスタードソードではなく、私の腹に向かって左手に持っていたチンクエディアを突き出して来たのだ。


 フェイントだと?


 攻撃する準備をしていたため、ガードは出来なかった。私の腹に純白のチンクエディアを突き立てた少女は、そのまま雄叫びを上げながら短い刃を押し込み始める。


 そのせいで体勢が崩れてしまう。槍の柄で殴りつけて反撃しようとするのだが、攻撃を繰り出す前にすぐに彼女の剣戟が私の体に叩き付けられるため、反撃が出来ない。


「喰らえッ!!」


 バスタードソードを再び振り上げる少女。振り下ろされる前に体勢を立て直すことは出来るかもしれないが、立て直した瞬間にあの剣を振り下ろされてしまうだろう。


 人間ならば、次の彼女の攻撃を喰らうしか選択肢はないかもしれない。


 だが、残念ながら私は吸血鬼なのだ。


 彼女がバスタードソードを振り下ろした瞬間、私は自分の体を無数の蝙蝠に変えた。そして私の肉体だった蝙蝠たちを散開させ、彼女の背後に回り込ませる。


 私を真っ二つにするために振り下ろした少女のバスタードソードは、飛び去っていく蝙蝠たちの群れの中を突き抜けて空振りしてしまった。


「な、何ッ!?」


「残念だったな、小娘」


 彼女の背後に蝙蝠たちを集めて肉体を再び形成しながら、私は驚愕しながら後ろを振り返る彼女にニヤリと笑う。


「人間ならば今の一撃で倒せただろう。――――だが、私は吸血鬼なのでな」


「くっ・・・・・・!」


 振り返りながら彼女は私をバスタードソードで斬りつけようとしているが、私が槍を突き出す方が先だ。


 私は振り返ろうとする彼女の腹に向かって、ブラック・ファングの刃を突き出した。良い腕の剣士だったが、この一撃は回避できないだろう。人間は我々のように再生能力を持たないから、この一撃が腹に突き刺されば死んでしまう。


 さらばだ。


 しかし、私の突き出した槍の先端部が貫いたのは、白いドレスを身に纏った少女の腹ではなく、白い雷の残滓だった。


「馬鹿な・・・・・・・・・」


 まさか、今の一撃を躱したのか? 全く見えなかったぞ。


「・・・・・・!」


 彼女の体内の魔力が、私の背後に移動している。おそらく攻撃を回避しただけではなく、私の背後に回り込んでいるのだろう。


 その時、私は思わずぞっとした。


 背後に回り込んでいるあの少女の魔力の中から、かつて大天使が私の心臓を貫き、私の血で汚れたせいで魔剣に成り果ててしまったあの剣と同じ魔力を一瞬だけ感じたのだ。


 何故、魔剣の魔力があの少女の魔力の中にあるのだ!?


「喰らえ、レリエルッ!」


「くっ!!」


 私は慌てて振り向いてガードしようとするが、柄を正面に構えるよりも先に純白のバスタードソードが白い雷を纏いながら柄の近くを通過し、私の頭に向かって振り下ろされる。


 刃が頭にめり込み、そのまま私の胴体を両断していく。左手を柄から離してバスタードソードの刀身を掴み、私の体から引き離そうとするが、少女の振り下ろした剣は胴体の下へとめり込んでいくだけだった。


「うぉぉぉぉぉぉッ!!」


「ぐうッ・・・・・・!」


 私は両断される前に再び体を無数の蝙蝠に変え、彼女から離れることにした。


 倒壊したホワイト・クロックの近くまで蝙蝠たちを移動させ、そこで再び肉体を生成する。


 肉体を素早く生成させてからブラック・ファングを握った瞬間、目の前に白い雷の輝きが見えた。その輝きを纏っているのは、先ほど私を両断しようとした、白いドレスを纏った騎士の少女だ。


「な、何だと・・・・・・!?」


「レリエル・・・・・・!」


 私は槍を突き出すが、少女はその槍をあっさりとバスタードソードで弾き飛ばすと、バスタードソードの柄から離した左手を握り、白い雷を纏った拳を私の顔面に向かって叩き付けた。


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 まるで巨大なゴーレムに殴りつけられたような威力だった。私は彼女に殴り飛ばされ、倒壊したホワイト・クロックの壁面に背中を叩き付けられると、そのまま背中から生やしている蝙蝠の翼を白い壁に擦り付けながら塔の下へと落下していった。









 レリエルを時計塔の下に向けて殴り飛ばした私は、すぐに奴を追撃した。バスタードソードを構えながらレリエルの落下していった場所に向かって急降下していく。


 奴が落下したのは、どうやら川にかかっている橋の上らしい。橋の上には倒壊したホワイト・クロックの残骸がいくつも落下していて、まだ燃え上がっている。橋の中央に突き刺さっているのは、力也を串刺しにした巨大な時計の針だ。


『エミリアさん、あそこに力也さんが!』


「ああ!」


 私はレリエルを追撃するのを止めると、すぐに橋の中央に突き刺さっている巨大な時計の針へと向かって急降下した。


 レリエルが放り投げたあの針に力也は串刺しにされてしまったのだ。


 その針が突き刺さっている場所に、黒いオーバーコートを身に纏った人影が見えた。頭には黒いフードをかぶっていて、そのフードにはハーピーの真紅の羽根がついている。


 彼がレベルを上げた時に倒したハーピーの羽根だ。


「り、力也・・・・・・!」


 橋の上に舞い降りた私は、その時計の針に串刺しにされている人影に向かって駆け寄った。


 力也は時計の針の先端部に腹を貫かれていた。時計の針は彼の腹を貫通し、橋に突き刺さっている。


 私は力也の腹を貫いている時計の針を両手で掴んで引き抜こうとすると、目の前で燃え上がる瓦礫たちの向こうで、黒いコートを身に纏った男が起き上がったのが見えた。背中に生えた蝙蝠の翼はかなり抉られていて、体中には瓦礫の破片や鉄骨が突き刺さっている。


 あの男が、力也を串刺しにしたのだ。


「・・・・・・すまない、力也」


 彼の近くでしゃがむと、口から血を流しながら目を瞑っている彼の頬を左手でそっと撫でてから、ポケットの中からヒーリング・エリクサーの瓶を取り出した。蓋を外した瓶を口に近づけて彼に少し飲ませると、彼の顔の近くに瓶を置いて立ち上がった。


 

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