一日目 砂浜にて 2
短めですみません。今回は、ほとんどキャンプネタです。
その後、黒木さんは、奥さんが途中で来たので、早めにバーベキュー隊の方へ戻っていったが、私と糸田はしばらく二人で釣り続けた。釣果はマコガレイ五匹。
「肉、焼くぞ!」
会長の声に、私と糸田は慌てて、竿をしまう。
「会長、刺身、食べます?」
私がクーラーボックスに入ったカレイを指さすと、ニヤリと会長は笑った。
「まあ、まず、肉を食え」
ジュージューと美味しそうな香りが浜に広がる。
「会長さん、こっちもそろそろいいですよ」
永沢が、大きな黒い鍋――ダッチオーブンとよばれる鉄鍋を指さした。
これは、合宿にこれなかった楠さんの一押し。カーボーイの魔法の鍋といわれる、アウトドアでごちそうを作っちゃうお鍋なのだ。
「今日は、パエリヤだ」
会長は得意げに鍋をオープンする。
「うわーっ」
思わず歓声をあげた。
先ほど拾ったアサリを中心にした、サフランごはん。
サフランごはんの前に、列が出来る。
「蒸し卵もできました!」
永沢が、ダッチオーブン用に焚いていた直火のかまどから、トゥングでアルミホイルにくるまれたものを取り出す。
「蒸し卵?」
私が首を傾げると、永沢が、バケツの水にその塊を放った。
「見て」
ジュゥッと、熱が消えていくのを確認してから、永沢はそれを取り出し、アルミホイルを剥いた。
アルミホイルの中身は、新聞紙。そして、それを向くと、卵だった。
「これ、殻を剥いたら、ゆで卵」
「えー、卵って、直接、熱を加えたら、爆発しないの?」
永沢が笑った。
「直接火に入れたら、そうなるよ。だから、濡れた新聞紙でくるんで、そのあとアルミホイルで巻いて、蒸し焼きにする」
ジワジワ熱をいれるのさ、と、永沢は説明する。
「剛、お前、本当にすげーな」
糸田が、卵の殻をむきながら感心する。
「お前が魚に詳しいのと、大差ないって」
永沢は苦笑した。
「永沢君も食べたら?」
ナギが、パエリヤの入ったお皿を永沢に手渡す。
「ありがとう 塩野さん」
にっこり王子様スマイルを無意識にナギに向ける永沢。
ナギの顔が一瞬、赤くなったように見えた。
うーん。まさかねえ。
黒木さんに言われたから、意識しすぎかもしれない。
「お兄ちゃん、トウモロコシ焼けたよー」
由紀子ちゃんが永沢を呼ぶ。醤油の香ばしいにおい。
「あ、私も食べたーい!」
餌に群がる雛よろしく、私たちは列を作る。
塩野のオジサマや、ヨウさんは、椅子に腰かけて酒盛りの延長戦。
そこから、少し離れたところで、黒木さんご夫婦。奥さんの梓さんは調子が良くなったらしく、にこやかに二人で談笑している。
料理人、我ら学生班は、ひたすら食べる。
「ハルちゃん、刺身、頼める?」
「了解です!」
会長のお言葉で、私は、簡易テーブルの上で、カレイをこなす。
「糸田、皿とって!」
「ほい」
私は、白身のオイシイお刺身を丁寧に並べる。
「へぇ、うまいもんだねえ」
「本当、お魚、捌けるってすごいわ」
黒木さんご夫婦が、私の手元を覗きこむ。
「黒木さんの釣ったやつですよ」
「悔しいけど、一番デカかったもんな」と糸田。
「よかったら、食べてみてください」
私は皿をさしだすと、梓さんが、箸をのばした。
「わあ、美味しい!」
梓さんもうれしそうだ。
「次は、ぜひ、梓さんも釣ってみてください」
梓さんは、黒木さんの顔をちょっと伺うように見て。
「そうね、ぜひ、そうしたいわ」
彼女は、にっこり微笑んだ。
「ねえ、肝試ししようか?」
パエリヤを食べながら、ナギが突然、提案する。
そろそろ、黄昏時である。
沢山あった肉はドンドン消費され、もうほとんどなくなってしまった。
「えーっ、今日は、早く寝て、明日は五時から早朝釣りの予定だよ?」
「肝試しって、何するんですか?」
私の異議申し立てを無視して、由紀子ちゃんが口をはさむ。
「あの丘を越えたところに、神社があるの。そこに行って、名前の書いた紙を置いて、別荘に帰るだけ」
ナギはニコニコ笑う。
「ただし、街灯はないし、当然、民家はあっても廃屋だから。かなり怖いと思うよ」
と、保さんが言い添える。
「やだ。反対!」
私は、強く言い切る。
「遥ちゃん、そういうの苦手?」
永沢が面白そうに笑う。「かわいいね」と言われて、急に恥ずかしくなった。
「たぶん、違うと思うぞ、剛」
糸田が首をすくめた。
「こいつ、暗いの平気だぜ? 夜釣り行きたくて仕方ないクチなんだから。遥は、単純に明日の早朝釣りに影響が出るから嫌なだけだって」
うっ。その通りです。さすがに糸田だ。
「だったら、やりましょうよ、遥先輩! 行って帰ってきても、一時間もかからない場所でしょ?」
由紀子ちゃんはノリノリである。
「そうそう。付き合い悪いよ、遥」
ナギも、私を軽く睨む。
「わかったよ」
私は諦めて頷く。
「それで、どうやってやるの?」
私が聞くと、クスクスとナギが笑った。
「チームに分かれて、十分たったら、出発するの。それで、明日の朝、みんなで神社に行って、紙が置いてあるかどうか確認するの」
「どうやってチームを決める?」
糸田が、ナギに確認する。
「まず、糸田君と遥は決定ね。ま、兄妹では不毛だから、私と由紀子ちゃんは、兄さんシャッフルしようか?」
「え?」
永沢が真っ赤になっている。
そりゃあ、ナギが、『組みたい』って言っているようなものだもん。ドキッとするだろうな。
「なんで、俺と遥が決定なんだ?」
糸田が口をはさむと、ナギがニヤリと笑った。
「だって、糸田君と組むと、後で遥が変な勘違いとかして、面倒だもん」
「俺だって、遥ちゃんと組みたいけど、亮君の嫌がらせが怖い」
保さんが首をすくめる。
「俺、嫌がらせなんてしませんが」
糸田がムッとした顔をすると、永沢がプッと噴き出した。
「機嫌最悪になって、口もきいてくれないくせに、よく言うよ」
「じゃあ、糸田先輩と遥先輩は決定ですね!」
由紀子ちゃんがにっこりと笑った。
「順番は?」
「くじ引きしよう」
保さんが、紙と鉛筆を用意する。
「なんか、ハメられている気がするのは、俺だけか?」
「どうかしら?」
ナギがいたずらっぽく笑った。
オジサマ達は、先に帰って酒盛りの続きをする、と言い、私たちは荷物を軽トラに積み込むと、順番にでかけることにした。
次回、キャンプ王道、肝試しです。
たぶん、次も釣りシーンなしかも……ごめんなさい。




