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女の子だって釣りがしたい  作者: 秋月 忍
おまけ編 その一
38/52

沢村浩二の事件簿

 発端


 2月某日の昼休み。2-Aの教室に学園のアイドル、塩野凪が突然やってきて、彼女の親友である大磯遥に「私に話すことがあるんじゃない?」と、ものすごい剣幕でつめよった。

 間近で目撃したR子嬢の証言によれば、「煮卵」と「弁当」という単語が聞き取れたらしい。


 2-Cの聞き込み情報。


 <山倉氏の証言>


 え? うちのクラスで最近合ったこと? 塩野凪さんがらみ?

 うーん。わからないなあ。

 あ、弁当? そういえば、糸田が、母親が入院中なのに、弁当持ってきてるぞ。

「どうしたんだ?」って聞いたら、「うーん、作ってもらった」と言ったので、制作者を問いただしたが、巧妙にはぐらかされたなあ。

 あ、でも、女じゃないと思う。少なくともカノジョじゃないんじゃない?

 惣菜が、いかにも和食が多いし、いや、彩とかはいいと思うけど。

 カノジョが作ったというより、むしろ店で買ったみたいな感じだ。

 あ、糸田の様子? 結構、好きな食い物が入っているみたいで、スゲー勢いで食ってたぞ。


 <遠山氏の証言>


 糸田の弁当? あー、あれ、女だと思うな。

 弁当のふた空ける時、すんげーデレーとした顔してたから。

 中身? ああ、結構、乾物の煮ものとか入ってて、和食系っぽかったかな。

 なんか高級な駅弁とか定食屋の弁当系? 料理上手なオカンって感じだった。

 ああ、そういえば、アイツと仲の良い塩野さんが弁当を覗きこんでいたな。

「煮卵美味しそうね」って、塩野さんに話しかけられて、糸田が真っ赤になってたなあ。


 <柳 梨花 女史の証言>


 糸田君のお弁当? 作っているの、あれ、うちの生徒だよ。

 朝、糸田君が、下駄箱のロッカーから、嬉々として弁当箱を出しているのを目撃しちゃったもん。

 製作者? さあ? でも可愛い系アピールしたいコじゃないと思うな。渡すにしても、もっと可愛い袋とかに入れそうじゃん?


 <糸田亮氏の証言>


 弁当? ああ、作ってもらっている。

 誰がつくった? なんでそんなこと、お前に言わなきゃならんのだ?

 くだらないこと考えてばっかいるんじゃねーよ。


<解決編>


「――ん? 何?」

 ハルこと大磯遥が無防備に俺をみた。

「ハル、お前、亮に弁当作っているんだって?」

「……糸田から聞いたの?」

 質問に質問で彼女が返すことで、欲しい答えは出た。

 本当に、ハルは単純だ。

「あ、やっぱりねー。そうなんだ」


 こうして、2-cの糸田のお弁当の謎はすべて、解決した。


 俺の推理はこうだ。


 糸田とハルの間で、お弁当の製作のやりとりがあったようだが、いわゆる「恋人」関係にはなっていない。(交際が、親友へ報告はされていない状態だった可能性もあるが、塩野と俺の双方が知らないということはまず考えられない)

 弁当の受け渡しは、下駄箱を通じて行われたらしい。


 しかし、なぜ、こそこそするのか、謎である。

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