第四十六話「とある侍の乱入」
帝都・皇城・白亜中央ホールにて
「とりあえず様子見にと思って乗り込んできたんだけどえらいことに巻き込まれたな~。」
会場は阿鼻叫喚と言った有り様だ。
兵士と入れ替わるように白亜宮にいた貴族たちは逃げ惑っている。一様兵士たちが避難誘導を行っているが焼け石に水状態だ。
そんな人の波に流されて騒動の中心から離されてしまった侍がようやく渦中にたどり着いたときにはまぁなんと言うか。
「ある意味いいタイミングかな?」
皇帝陛下の近辺で異変が生じたことを察知し先行していた騎士団長がまさに今、骸骨の戦士に串刺しにされようとして瞬間だった。
神速の槍捌きを見せた骸骨の戦士だったが留めのための一振りは
少々大振りだった。その一瞬の隙を突くかたちでソウマの腕が振り抜かれる。
「がっぐ・・・。」
くぐもった騎士団長の声が響く。
変化はそれだけだった。ソウマは腕を振り抜いた状態で静止している。
骸骨の戦士は槍を突きだした状態で固まってしまった。
その落ち窪んだ眼窩には一本の鉄針が刺さっていた。
「ご無事ですかアヴァロン殿?」
「ああ助かった。そなたの助力のおかげでどうにかかすり傷程度ですんだ。」
アヴァロンは脇の内側を槍で突かれていたが意外と軽傷なようだった。
剣の加護の影響もあるのだろう。本人もかなりに実力者なのが幸いした。
ソウマの放った鉄針で鈍った槍の狙いをどうにかそらしたのだ。
「陛下のところに行ってあげて下さい。こいつはたぶん俺と相性のいい相手です。」
「すまないが任せる。」
短くそういうとアヴァロンはアルドメと黒い霧を迂回して皇帝のもとへと向かおうとした。
その瞬間、骸骨の戦士が動いた。黒い鉄針を眼窩に刺したまま動き出そうとしたアヴァロンに向かって槍を突き出したのだ。
「よっと。」
ソウマのことを無視して。
ソウマはそんな骸骨戦士の足を軽く払った。あっさりと骸骨の戦士は体勢を崩し転ぶ。
しかし骸骨の戦士は床に這いつくばることなく体勢を立て直し即座に立ち上がった。
周囲を油断なくうかがいソウマの方に目線を何となくむけた。
まるでそこに誰かいるのだろうかと伺うような仕草だ。
「さすがに大まかな位置ぐらいは察知できるか。」
ソウマが声を発しても骸骨の戦士は反応しない。
「竜の牙を媒介にして召喚することが出来る不屈の戦士、通称≪竜牙兵≫。
竜がかつてその牙で砕いた戦士の魂をもとに組み上げる傀儡の戦士。
アンデットなどとは異なり竜の牙という優れた魔導遺物を用いて組み上げる人造魂魄をもとに行動をする。高い運動能力と対応能力そして戦闘能力を兼ね備えた恐ろしい魔導兵器だ。
しかし二つ欠点がある。
一つは感覚系。
特に視覚は絶望的でそれを補うために魔力の波動を周辺に放ちそれの反射で周辺のものを察知している。
だから魔力を持たないものへの反応を後回しにする傾向が非常に強い。」
ソウマは解説を加えながらゆっくりと近づいていく。
その動作に油断はないがかなり無造作だ。
腰に差した刀の柄をつかみ鯉口を切り優雅に刃を抜いた。
緩慢な動作だが物音は一切立てない。衣擦れの音すらしない。
この世界の生き物は魔力を持っている。
そしてその魔力を察知し対象に襲い掛かる対人兵器それが竜牙兵である。
それ故に魔力を持たないもの積極的に襲わない。
なぜなら竜牙兵にとってそれらは木や壁、岩といった障害物でしないからだ。
ソウマは竜牙兵の槍の間合いの一歩手前に立ち止まった。
「二つ目は頭部を破壊されると術式の構成が崩れてしまい機能を停止することだ。」
立ち止まったソウマは刀を上段に構えた。
竜牙兵はソウマの方を向いているが動く気配がない。
槍と刀、間合いは圧倒的に槍が有利だ。くわえて相手との出力の違いがある。稀少な魔力媒体である竜の牙で創られた兵隊なのだ、並の能力ではない。身体を魔法で強化することのできないソウマが竜牙兵の間合いに踏み込むためには例え魔力による感知を受けないソウマの身体と言えど工夫がいる。
「狭間流皆伝ハクレイ・ソウマ、推して参る。」




