第四十一話「アルドメア鎮魂祭」
今年の最後に短いですが1話だけ。
できれば新年にも何話か上げたいです。(´・ω・`)
深夜・帝都とある広場にて。
世界の大都市、そのほとんど全てには五つの教会が設置されている。
世界を構成すると言われる五つの元素火・水・風・地・光。
それらを司る精霊を祭った教会を円形に等間隔で設置することで街を守護する結界をはるためだ。
人々の安寧を守護するモノたち
≪精霊≫
そしてその精霊を祭るこの世界でもっとも信仰している者の多い宗教の名は≪精霊教≫。
そして今帝都の町並みの中にある五つの教会の一つ≪光の教会≫に人間の世界の守護者を崇める人々が集まっていた。
祈りを捧げる星光教会の司祭が星の精霊に呼び掛ける。
広場の人々が祈る。
その祈りに答えるかのようにゆっくりと変化が訪れた。
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帝都中心部・キャッスル・オブ・ロードエルメロイ
白夜宮内部
そこではこの国の頂点に立つ皇帝が膝まずいていた。
皇帝アルバスの前におかれているのは台座に置かれた金の杯だった。
その皇帝の回りを囲うように五人の近衛騎士が膝をついている。
そうして作られた近衛騎士の輪を囲うよにこの国の貴族たちが膝をついていた。
皇帝と杯を囲う貴族たちの円。
白夜宮は静寂に満たされていた。
薄暗い蝋燭の明かりが照らす広間。
今この国にいるほとんど全ての人間が祈りを捧げている。
「≪世界を成す五つの精霊の一柱、星の光の化身アステルよ。
我らの願いを聞き届け浄化の光を彼の地のもたらしたまえ。≫」
・・・・深く・・・深く、この帝国においてもっとも権力を持った男が頭を垂れる。
心を無にし
祈ると言うこと
願うと言うこと
我欲のない純粋な願いが奇跡を起こす。
精霊に祈りを捧げることができること
多くの魔力を有すること
国を支える貴族の役割がそこにある。
その役割の体現者が皆に示す。
祈りが届き奇跡が帝都をおおっていく。
聖杯に向かって不可視の魔力が流れ込む。
今この場に魔力を目にすることができるものがいたのならば空を見上げたことだろう。
帝都の天空を星の光を象徴する魔方陣が覆ってた。
光り輝く浄化の蛍火が帝都に降り注ぐ。
帝都に光の雪が降り注ぐ幻想的な光景が広がった。
アルドメア鎮魂祭
かつての魔王との大戦で戦死した死者を慰めるための祭りだ。
戦死し弔いもできなかった者たちは未だに現世を彷徨っているのだ。
それらは長い旅路を経て帝都へとたどり着くと信じられている。
怪談のたぐいだと馬鹿にするものも少なくない。
だが大戦後から現在に至るまでこの鎮魂の儀式を行う以前は特に帝都の中での怪現象が頻発した。
もはや事実かどうかなど関係なかった。
死者を慰め浄化する神聖なる『星降りの儀』の魔術を行使する必要性を誰もが感じていた。
『星降りの儀』とは精霊魔術の奥義の一つであり対都市国家を想定した大規模な浄化の魔術だ。
発動には多くの魔力と数多の信仰心、そして『祭り』を行う必要があった。
しかしてその効果は絶大だった。だがそれ故に年に一度は必ず行わなければならないこととなった。
怪現象、幽霊騒ぎは儀式を行った一年後にまた行っていなかったときの状態に戻ってしまったのだ。
効果はある。今年も儀式は成功した。
達成感とともに儀式の成功を確信する貴族たちが今年一年の安寧を確信し頭を上げるのだった。
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「ああ、綺麗ね。」
広間の明かりが落とされ。
月明かりが貴族たちを照らすこの光景
聖なる光が雪のように天から降り注ぐその場所で
そんな幻想的な風景中にあってなお影が射していた。
雪のように儚い浄化の光が彼女を避け床に堕ち地面に染み込んでいく。
「でも、目に見える光景がすべてではないのよ人間。」
永を生きる妖魔の女性。
『ヴァンパイア』
ミナ・ハーカー。
いまの彼女はソウマの傍らに居たときのように存在感を露にしてはいなかった。
規則正しくたてられた宮殿の柱の影で儀式の行われている広場を見もせずに足元を見ていた。
その瞳は深紅の輝きを放っている。
「始まるわ。」
彼女の言葉が
誰も耳にも届くうことのない小さな呟きが異変の始まりを告げた。




