第三十八話「とある侍の突撃謁見」
まず、近居報告を
十一月にお引越しで一人暮らしをすることになりました。
本文は短いです。お楽しみください。
帝都中心部「キャッスル・オブ・ロードエルメロイ」白夜宮
「ふふふ、お疲れさま。この国でも一二を争う細剣の使い手を剣も抜かずに倒しちゃうなんて流石はあの人の弟子ね。」
「何か知ってたんだったら教えてください。ただでさえ冒険者の身分でここに潜り込んでるのばれててやりづらいんですから。てか、あいつ魔法使ってませんでした?」
ソウマは決闘中に感じた疑問をミナに尋ねた。
「情報収集を怠ったわね。この国の『決闘裁判』におけるルールでは魔法の演唱を禁じているけど精霊の加護や魔法を付与した武器なんかの使用は禁止されてないのよ。」
「さすがに冒険者に物理的にケンカ売ってくる貴族がいるとは考えてませんでしたからね。その辺は調べてませんでした。」
「まあ目立ったんだし案外いい感じにコンタクトを取ってくるやつがいるかもね。
ほら、噂をすれば。」
ミナがソウマの後ろをそっと指差した。
「我が国の猛者を剣も抜かずにあしらってしまうとは見事な腕前だ。是非名前をお聞かせ願えないだろうか?」
ボソ(・・・この国の第一騎士団の団長さん)
ミナのフォローでソウマが襟をただした。
「ソウマ・ハクレイともうします閣下。この国の武門の誉れたる第一騎士団団長様にお声をかけていただけるとは光栄です。」
ソウマ営業スマイルで丁寧にお辞儀をした。
しかしソウマの内心は複雑だった。『剣も抜かずに』というのは完全な誤解だ。ミナはその辺をわかってソウマをからかっていたのだが何の事情も知らない周辺の人間から見れば一時間も自国の手練れをあしらった挙句剣も抜かずに倒してしまった謎の剣士に見えるのだ。
例え実際には相手の速さに対応しきれずに剣が抜けなかった残念な剣士だったとしても。
(ままならないもんだ。)
ため息の一つも付きたかったがそんな感情はおくびにも出さない。
「ソウマ殿、よかったらこちらで話さぬか?紹介したい御仁がいるのだ。」
雰囲気も物腰も柔らかいが相手はこの国でも上位の有力者でありある意味この国の軍部のトップだ。
ここまで言われたら実質的には招集命令とそこまで大差ない。
「ええ喜んで。」
ソウマは騎士団長アヴァロン・グウェン・メイナードの後に続いた。
鎮魂祭の開催祝賀会場を抜けて長い廊下をめぐる。後ろから続くミナはソウマの従者ポジションだ。
廊下を少し進むといかにも控室といった感じの部屋の前についた。警備と思われる騎士が二人立っている。
「警備ご苦労。客人をお連れした。取次ぎを頼む。」
「はっ!」
扉を守護する騎士が中に確認に入る。
そのまますぐに扉が内側から開いた。
「お入りください。」
といって先に入った騎士が扉を開いてくれた。
「さあ、ソウマ殿中にどうぞ。あまり儀礼などにうるさく方ではございませんのでどうかそこまで緊張なさらずに。」
そう言って中に入るように促した騎士団長アヴァロンはどうやら中に入るつもりはないようだ。
「失礼しまうす。」
ソウマは気負うことなく入室する。ミナも中に入るが止められなかった。
(・・・この国の騎士団長が迎えに来るんだ当然この中にいるのは国の重鎮。)
部屋の中は豪奢な調度品で彩られていたがそこまで華美な印象は受けなかった。
落ち着いた雰囲気がある。
「よく来たな。旅の冒険者よ。」
中いたのは護衛の騎士と思われる全身甲冑の人物と老年の執事
そして中央には置かれた美しい彫刻の入った椅子に座っているのはおそらく四十中頃の男性だった。
立派な装飾のなされた服を着ており頭には王冠を付けている。
「・・・・・。」
ソウマが部屋の主を見てとった行動は片膝をついて跪くことだった。
無言で首を垂れる。内心では冷や汗を少し垂らしている。
ミナは落ちるいたもので慣れた様子でたたずんでいた。
そう、膝をつかなかった。
「よもや≪妖の姫≫を従者として連れているとは思わなんだ。久しいなミナ・ハーカー殿。」
「ええ、アル。すっかり老け込んじゃったけどまだ元気みたいね?久しぶりに会えてうれしいわ。」
ソウマは何となく始まってしまったこの人物とミナの会話を聞いて急に帰りたい気分になってきた。
「さて、あまり私が招待した客人を待たせるのは本意ではないミナ殿には申し訳ないがあちらで少々お待ちいただけないか?」
そういって指示した先には小さいテーブルと茶菓子が置かれていた。
「あら気が利くじゃない。」
ミナはさっさとそっちに行ってしまう。
「エルダー、ミナ殿にお茶をお出ししろ。
さて、お待たせしたなソウマ殿。もう察しはついていると思うが余がアルバス・セイン・アルト・オルデンロードだ。」
「ソウマ・ハクレイと申します。ご尊顔を拝し恐悦至極に「よい。」・・・・・はい?」
「オルドクレイ殿の騎士を粗末に扱うつもりはないし何より冒険者に無理をしてかしこまった態度をとってもらうのは余の本意ではない。ゆえに最低限の護衛と側仕えを残しミナ殿の素性を知っている騎士団長すら下げさせた。普段通りでよい。」
ソウマが無礼講である!
と言われて最初にしたことは深くため息をつくことだった。




