第三話「とある皇女の逃亡劇」
私は冒険者の証である銀のメダルをもって自身の部屋のバルコニーに続く両開きの大窓を全開にする。
広すぎる私室はこういう時に大変便利だと痛感するお姫様は部屋の窓とは反対側の壁でアップをしていた。
「絨毯が柔らかすぎるのが難点かしらね。」
そういうと彼女は姿勢を低くした。
シンと静まり返った部屋私は前かがみになり両手を絨毯につけて四つん這いになっている。
意識を集中し全身の魔力の流れを増幅し肉体に浸透させるイメージを描く。初歩的な肉体強化を行った体から力が溢れてくる。
「よーい・・・・どん!」
そして私の大腿が力を解き放った。
一歩。 もう彼女は部屋の真ん中にいる。
二歩。 彼女はバルコニーの真ん中から端に跳んだ。
三歩。 もうそこには城の中庭を見下ろすことのできる絶景以外何もない。
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コンコンと第四王女ニコルジアの私室をノックする音が響く。
部屋中から返事はない。しかしノックをした主は沈黙を無視して部屋の中に入った。
部屋の主がいないことぐらい彼女には簡単にわかったからだ。
「あーーーーーやっぱりいなくなってたか。」
片手で灰色の頭髪をかきながら深いため息をついたのは第四王女ニコルジアつきの侍女メイベル・ストウナーだった。
ある程度予想がついていたので彼女は開きっぱなしになっているバルコニーへの窓を閉め部屋のカーテンを閉めた。
「念のため皇帝陛下のお耳には入れておいたほうがいいかしらね。あの方も心労が絶えないでしょうに。」
部屋の後始末を終えた彼女は部屋を見回しているとニコルジア姫の使っている机に手紙とメモが置かれていることに気がついた。
「何かしら?」
メイベルがメモを読むと顔をしかめた。そこには
”アルベルト伯爵令嬢にこの手紙を渡しておいてください。本日のお茶会は体調不良でいけませんということでひとつ。 ニコルジア・セイン・アルト・オルデンロード
追伸 皇帝陛下に机の手紙を渡しておいてもらえますか? ”
「・・・私、職場を間違えたかしら。」
部屋にメイドさんのふかーいため息が響いた。
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中庭は城の中央にあることからとても警備が薄い。そしてその中庭にある庭園の隅に目立たない女性石像があるのだが実はその裏手には王家の者にしか使うことのできない秘密の抜け道があるのだった。
抜け穴の奥の地下道をしばらく歩くと城壁の中にある目立たない場所に出る。
「巡回はなしっと。」
ニコルジアはこの場所を見張りの兵士が通る時間をほぼ完璧に把握している。
そのまま城壁の一角にある場所に向かう。この時間は日当たりの関係で濃い陰になっている場所から
飛び降りた。
高さにしておよそ二十メートル。外敵の侵入を拒むための城壁を何のためらいもなく飛び降りた彼女はそのまま石畳に着地しクルリと衝撃の逃すために二回転して城の外側に降り立った。
魔術による肉体強化の恩恵なのだかそれでも真似できるものは少ないだろう。
「どこかの恋物語には城壁を理由に姫に合い来ない殿方がいるらしいけど鍛錬が足りないわね。」
創作物の中の話ではあるが姫の無茶振りはなかなかに厳しい。
そもこの世界では魔法と呼ばれるものは星光教会と呼ばれる宗教組織がその習得を推奨していない。しかして魔法使いというのは重要な戦力であり国家はその辺で頭を悩ませていたりいなかったり。
当然魔法使いは希少な存在でありさらに実践的に魔法を収めている人間は少ない。
さらにその中でも飛行魔法を習得している魔法使いは本当に一握りであり城壁を飛び降りたり乗り越えたりといった芸当ができる魔法使いはとても貴重な存在だったりする。
だからといってそれを生身でやろうとするのはいかがなものだろうか・・・閑話休題
「さてと。今日もギルドに行きますかね。伯爵令嬢のお茶菓子は惜しいけどあの子の用事って大概アレの練習相手なのよねこっちは素手だっていうのにあのこは・・・・・・はぁ。」
そして彼女は帝都の町並みに溶け込んでいった。伯爵令嬢のお茶会をボイコットして