第三十三話「とある侍と賑わう難民」
帝都郊外難民キャンプ某所にて
「いいわルリちゃん!」
そこはテントにか困れた薄暗い場所だった。
「いい・・・いいわよ!」
回りに人影はない。
「そう!やさしく・・・包み込むように!」
「・・・・むずかしい。」
ルリとニコラ、体を重ねる二人の少女の姿が・・・・・・
「んん!そうそう漲ってきっ・・・・っあた!!」
「真面目にやれ。」
ルリを肩越しに抱き締めるような体勢のニコラの後頭部をソウマが手に持っていたタライではたいた。
「あたた。ソウマさんひどいですよ!せっかくルリちゃんに『自己強化』の魔法を教えてあげてたのに。」
ちなみに優しく包み込むのは自信の肉体で包み込むものは魔力だ。
「まったくこんなときに限ってバルガスさんはつかまらないしナボホホ導師には別件を手伝ってもらってるしカンツァは狩りだしで・・・・・・。」
「私じゃご不満ですか?」
「評価がほしいなら茶化すな。」
ニコラはフイっとよそを向いてしまった。
「ムム・・・・・・。」
そんな二人を尻目にルリはしっかりと『自己強化』の練習をしていた。彼女からわき出る体内の内在魔力がゆっくりと彼女の身体を覆ってゆく。
「『自己強化』。」
最後の起動言語とともにルリを覆っていた魔力が活性化した。
「ふむ。」
その様子を見たソウマはひとつ頷いた。
「あらら。もう基礎はバッチリですね。」
ニコラはどちらかというと呆れていた。
たしかに自己強化は習得しやすい魔法である。この世界に住んでいる人間なら大抵は習得することができる。
それはイメージを投射する魔法だ。
力強い自分
素早い自分
賢い自分
器用な自分
そんな自分自身を想像し自分を装う魔法
「これならある程度経験を積んで条件を満たせば三ツ星の冒険者になれますね。」
そしてこの魔法の習得は三ツ星の冒険者になるための条件のひとつでもある。
「まだ登録したばかりだしこれからさ。それより助かった。何か礼ができるといいんだが。」
「いえいえ。どちらかというとソウマさんがここで頑張ってくださっているせめてものお礼ですから。」
「もう・・・無理。」
ルリを覆っていた魔力が霧散し彼女の身体がよろめく。
「おっと、大丈夫か?覚えておくといいそれが魔力切れだ。」
「うん。」
「さてとされじゃあ今度は魔力変換の練習をしましょうか。」
そういうと手本を見せるようにニコラが地面に座り座禅を組んだ。
「ちゃんと習うんだぞ。」
「うん。」
ルリは若干ふらつきながらニコラの正面に腰を下ろした。
「お姫さん。悪いがあとを頼む。」
「ええ、お任せください。あといい加減そんなによそよそしい呼び方はやめてくださいね。貴方の方が年上なんですから『ニコラ』でけっこうです。」
「そうか・・・じゃあニコラしばらくルリを頼む。」
「ええ。ソウマさんもお仕事頑張ってくださいね。」
「ああ。行ってくる。」
「・・・・・行ってらっしゃい。」
ソウマはひらりと着ていた羽織をはためかせその場を後にした。
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帝都郊外難民キャンプ・雑貨屋アオイ付近にて
一度自身の店に戻って身支度を整え直しソウマは腰に指した刀に手をかけながら辺りを見回した。
「さて、ナボホホ導師はどこかな?」
ニコラ、ルリと別れたソウマはナボホホ導師を探してた。
彼に頼んだ仕事の進捗状況を確かめるためだ。
それ如何で今度の予定を変更する必要がある。
「ソウマの旦那!こっちです。」
「おう、ありがとう。」
ソウマを呼んだのはまだ幼さの残る少年だった年の頃はルリより少し年上の十二、三歳といったところだろうか。
彼の名前はランド。
この難民キャンプにいる孤児たちのまとめ役だ。
「どんな感じだ?」
「すごいですよ!俺ちゃんとした属性魔法って始めてみたからちょっと興奮しちゃって。」
ランドは鼻息荒く自身が見た光景を語ってくれた。
「すごいんですよ。一瞬で地面がへこんで四角くなったと思ったら壁が競りだしてきて!あれならあとは屋根をかければ立派な家ですよ。・・・あ!魔法だ!」
ドシンというした腹に響く衝撃が地面を伝ってきた。
「≪土精よ、立ち上がれ!囲い閉じよ!≫。」
初老のナボホホ導師の詠唱が響きその声に会わせてたかさ四メートルの壁が四角い囲いを作り出した。
「「「「おおおおおお!」」」」
その場に居合わせた難民たちが拍手を送った。
「導師、お疲れ様です。いかがですか?」
「ソウマか。ふむこれでようやっと百棟かの。そろそろ我輩も精霊たちも疲れてきたのである。」
額の汗をぬぐいながら導師がふる返った。
「ありがとうございます。では皆さん屋根の準備をお願いします。」
「おう!任せてくれ。」
「導師様にここまでお膳立てしてもらったんだ。俺たちも働かないとな。」
そういうと回りの男たちは手に手に道具をもって作業に取りかかった。その中には本職の大工も多少はいるが殆どは農夫などの難民だ。無経験ではないまでも専門家ではない。そんな人間たちも駆り出してまでソウマは作業を急いでいた。
ナボホホ導師が建てた他の家でも男たちが働いていた。
ナボホホ導師や男たちは何も無償で働いているわけではない。ソウマに雇われているのだ。
「ランド。子供たちの方はどうだ?」
「なかなかいい感じだと思うぜ旦那に言われた。数の下準備はすんだから後は完成するのを待つばかりだ。」
ランド少年は胸を張って自分達の成果を報告した。
「あんまり摘まみ食いするなよ。あれも売りに出して資金源にするんだからな。」
「っう!・・・・ああ。よく言っとく。」
干し柿の作成を孤児たちに依頼したのだが・・・・・まぁ結果はお察しのようだ。
ランド少年はばつの悪そうな顔をしている。
もちろん子供たちもソウマが雇った。
他にも冒険者には森で魔物を狩ってきてもらっているしその毛皮の処理を難民の女性陣に依頼ししている。
子供たちにはワラで作ることのできるワラジなどのワラ細工を担当してもらった。
「ふむ自分でやっといてなんだががこれではちょっとした村か町であるな。」
ナボホホ導師は呆れた声だ。
「まあそのつもりでお金回してますからね。
あるところにはあるのがお金です。とくに帝国貴族は溜め込む習性がありますからね。ガッポリ搾り取れたのは美味しいです。
あとは仕事ばらまいて商品つくってお金使ってもらっての繰り返しです。」
「して、このあとはどうするのだ?」
「ある程度経済が出来上がったら町ごと誰か信用のおける人間に売っぱらいます。さすがに住民たちの自治を認めてはくれないでしょうしね。」
ふむとナボホホ導師は自身のアゴヒゲをしごきながら考える。
「問題はこの場所を《認めてもらうこと》と≪誰に託すか》かの?」
「ええ。まあその件に関しても考えがあります。」
そういうと自身の腰に指している刀につけられたメダルを指で弾いた。
「≪星を持たない者≫の本領発揮かの?」
「さてどうでしょう?」
ソウマ帝都の方も視線を向ける。
アルドメア鎮魂祭の開催が間近に迫っていた。




