第二十八話「とある皇女の暗殺日よりⅡ」
ソウマが感じ取ったのはささやかな違和感だ。いまで自分達がこの路地でさんざん騒いでいたのにも関わらず誰も来る気配がない。薄暗くはあるがそれでも昼間の通りだ。これだけ騒いでいれば野次馬や衛兵が来てもおかしくはないのにそれがない。
静かすぎる。
それがソウマの感じた違和感だった。
「・・・・・ ≪探求と探査を司る地の精霊よ、未だ見えぬ努力の痕跡をたどれ『魔導探査』≫」
ソウマの臨戦態勢を支援しようとニコラが魔力探査の呪文を唱える。ニコラを中心に魔力の波が放た。ニコラはその波に意識を集中するが反応がない。
「特に反応はありませんが・・・・確かに変ですね。この呪文なら周辺で使われている生活魔法とかもひろってくれるんですけどそれもありません。本当に誰もいないみたい。」
二人は示し会わせたように背中合わせになって互いの死角を補う。
「伏せろ!!!」
ソウマがニコラに足払いをかける。刈り取るような足蹴りがニコラの体勢を崩した。
「な!」
まさか味方に攻撃されると思っていなかったニコラは見事にスッ転ぶがその驚愕は別の驚愕で塗りつぶされてしまった。
先程までニコラの頭があった場所を矢が通りすぎたのだ。
ニコラは矢が風を切る音を一切聞き取ることができなかった。
「せい!」
呆然としていたニコラがソウマの一撃とそれにぶつかる金属音で我にかえった。
どこから現れたのかそこには先程と同じ黒いマントを羽織って覆面で顔を隠した刺客がニコラに剣を降り下ろしていたのだ。
「・・・・・・。」
「・・・どこの手の者だ?」
ソウマに剣を防がれた刺客が一太刀の間合いを保ったままソウマと対峙している。
目の前の刺客はあまり戦闘経験のないニコラが見てもわかるほどの手練れだ。
格好こそ先程のこっぱな刺客と同じだが手にした長剣を油断なく構える姿は達人のそれだ。
「油断するな!」
しかしそんな達人を前にソウマが突然背を向けニコラの方に刀を持っていない方の腕を振るった。
ニコラの顔の横を黒い棒状のものが高速で通りすぎてゆく。
「ちっ!」
ニコラが慌てて振り返ったのと地面にソウマの投げた棒状の金属手裏剣が落ちたのは同時だった。
ニコラの背後にもう一人の刺客が近づいていたのだ。
(あっちゃ~完全に足引っ張っちゃってる!)
ニコラは自身の失敗から気持ちを切り替え目の前の刺客と対峙した。
その刺客は二本の短剣を構えている。
短剣には不自然な光沢があり恐らく何か塗られている。
(たぶん毒・・・・相性はよさそうね。)「ソウマさんありがとうございました。こっちの人ならなんとかなりそうです。」
「そうか。じゃあ俺はこっちに集中させてもらうとしよう。」
ソウマはどうやったのか先程の刺客を完全に牽制しつつニコラを助けて見せた。
(私も頑張らないと!)
こうして裏路地の戦いは第二ラウンドに突入したのだった。




